「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)12月30日(土曜日)弐
通巻第8075号
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中国、ロケット軍司令官を海軍から。国防相も海軍から
軍内部に何か重大な事件が起きているのではないか?
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年の瀬も押し迫った12月29日、中国の全人代常務委員会は長らく『空席』だった国防相に董軍・前海軍司令官を充てるとした。国防相は軍のナンバー3にあたる。
董軍はただちに習近平国家主席の任命を受けて就任した。董軍・新国防相は海軍出身。海軍副参謀長、東海艦隊副司令官、南部戦区副司令官を歴任、2021~23年に海軍司令官を務めていた。
2023年3月に「習近平に近い」との観測から国防相ポストにあった李尚福・前国防相は在任五ヶ月足らずで動静不明となり、国際会議をすっぽかしていた。
10月に正式に解任された。この時期には、ロケット軍最高幹部や、秦剛前外相らが消息を絶ち、電撃的に解任された。
国防相決定と同時に、全人代常務委員会は、中国人民解放軍で核兵器やミサイルの運用を担当するロケット軍の前司令官、李玉超と元司令官、周亜寧のふたりを全人代の代表職を解いた。
ふんだんな予算を持つロケット軍には汚職がつきまとう伏魔殿と言われてきた。だが観測筋は、秦剛外相とともに彼らの失脚は機密漏洩が原因ではないかと囁かれている。
中国の戦略ミサイル部隊=「ロケット軍」の人事は既に23年8月1日、新司令官に王厚斌上将(大将)が、政治工作を担当する「政治委員」に徐西盛上将が就任していた。
ふたりはその前日に上将に昇格したばかりの俄か任命だった。前任の李玉超も2022年1月に上将に昇進したばかりだった。新しくロケット軍トップとなった王は海軍出身、徐は空軍出身。つまりロケット軍生え抜きの人脈ではない。
ロケット軍司令官が畑違いの海軍から。国防相も海軍からト不思議な人事の続発は中国軍の内部に何か重大な事件が起きているのではないのか?
起きていた。
汚職と士気の弛緩、モラル低下と人材不足(人は沢山いるが優秀な軍人が不足している)。この欠点を補うに何をすれば良いか。
▼軍事ロボットの本格化へ着手か?「ヒューマノイドロボット」って何?
中国共産党は11月の指導文書に基づき、「人型ロボットの大量生産」、そのためのAI開発計画を実行し始めた。移民労働者排斥が第一の理由だという。また少子化対策の一環でもあると軍事アナリストたちが言う。
中国はAI(人工頭脳)と人工義肢を開発する「ヒューマノイド・ロボット・イノベーション・システム」を構築し、ロボット工学で世界のリーダーになるという計画がある。
産業ロボット技術で日本をぬこうというわけだ。
しかしヒューマノイドなるロボットは兵士に転用可能だから国家安全保障に関わる重大なプロジェクトである。この観点から中国の戦略を見なければならない。
米国の有力シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)報告では、中国が労働集約型の製造業で競争力を維持するために、人間をロボットに置き換えている現実を論じ、「共産主義ロボット」の懸念を述べている。
なぜならAIによるコンテンツに、中国共産党が信奉する「社会主義の核心的価値観を反映する」よう義務付けるとある。
ロボット構想のイデオロギー的基盤は、「軍民融合」と強制的な技術移転という中国政府の戦略がある。軍民融合は、すべての民生技術を軍事的有用性に提供する政策であり、「(ロボット)企業が大学や機関と連携することを支援する」という指導文書の呼びかけがそれを裏付けている。
軍民汎用目的では水力発電所、風力発電所など電力システムのほか、消耗が少ない人型ロボットよりも、「信頼性の高い」ロボットが用いられるAI搭載のロボットは原発警備や浄水場管理を含めた「戦略的場所」で重宝される。
軍パワーをヒューマノイドロボットが代替するのだ。
なんだって中国のために利用する。すでにバイトダンス傘下のTikTokは中国礼賛で溢れ、政治宣伝の道具と化している。
米国はTIKTOKの禁止に動いているが、もはや全廃は不可能である。
ハドソン研究所のアーサー・ハーマン上級研究員は警告する。
「ロボット工学に関する国際標準やルール制定作業で中国共産党の影響力が増大し、ひょっとして中国のロボット産業が世界標準となれば、道徳基準の設定は後方へ押しやられるだろう」。
なにしろ中国軍には道徳的規律が希薄ですからね。
令和五年(2023)12月30日(土曜日)弐
通巻第8075号
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中国、ロケット軍司令官を海軍から。国防相も海軍から
軍内部に何か重大な事件が起きているのではないか?
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年の瀬も押し迫った12月29日、中国の全人代常務委員会は長らく『空席』だった国防相に董軍・前海軍司令官を充てるとした。国防相は軍のナンバー3にあたる。
董軍はただちに習近平国家主席の任命を受けて就任した。董軍・新国防相は海軍出身。海軍副参謀長、東海艦隊副司令官、南部戦区副司令官を歴任、2021~23年に海軍司令官を務めていた。
2023年3月に「習近平に近い」との観測から国防相ポストにあった李尚福・前国防相は在任五ヶ月足らずで動静不明となり、国際会議をすっぽかしていた。
10月に正式に解任された。この時期には、ロケット軍最高幹部や、秦剛前外相らが消息を絶ち、電撃的に解任された。
国防相決定と同時に、全人代常務委員会は、中国人民解放軍で核兵器やミサイルの運用を担当するロケット軍の前司令官、李玉超と元司令官、周亜寧のふたりを全人代の代表職を解いた。
ふんだんな予算を持つロケット軍には汚職がつきまとう伏魔殿と言われてきた。だが観測筋は、秦剛外相とともに彼らの失脚は機密漏洩が原因ではないかと囁かれている。
中国の戦略ミサイル部隊=「ロケット軍」の人事は既に23年8月1日、新司令官に王厚斌上将(大将)が、政治工作を担当する「政治委員」に徐西盛上将が就任していた。
ふたりはその前日に上将に昇格したばかりの俄か任命だった。前任の李玉超も2022年1月に上将に昇進したばかりだった。新しくロケット軍トップとなった王は海軍出身、徐は空軍出身。つまりロケット軍生え抜きの人脈ではない。
ロケット軍司令官が畑違いの海軍から。国防相も海軍からト不思議な人事の続発は中国軍の内部に何か重大な事件が起きているのではないのか?
起きていた。
汚職と士気の弛緩、モラル低下と人材不足(人は沢山いるが優秀な軍人が不足している)。この欠点を補うに何をすれば良いか。
▼軍事ロボットの本格化へ着手か?「ヒューマノイドロボット」って何?
中国共産党は11月の指導文書に基づき、「人型ロボットの大量生産」、そのためのAI開発計画を実行し始めた。移民労働者排斥が第一の理由だという。また少子化対策の一環でもあると軍事アナリストたちが言う。
中国はAI(人工頭脳)と人工義肢を開発する「ヒューマノイド・ロボット・イノベーション・システム」を構築し、ロボット工学で世界のリーダーになるという計画がある。
産業ロボット技術で日本をぬこうというわけだ。
しかしヒューマノイドなるロボットは兵士に転用可能だから国家安全保障に関わる重大なプロジェクトである。この観点から中国の戦略を見なければならない。
米国の有力シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)報告では、中国が労働集約型の製造業で競争力を維持するために、人間をロボットに置き換えている現実を論じ、「共産主義ロボット」の懸念を述べている。
なぜならAIによるコンテンツに、中国共産党が信奉する「社会主義の核心的価値観を反映する」よう義務付けるとある。
ロボット構想のイデオロギー的基盤は、「軍民融合」と強制的な技術移転という中国政府の戦略がある。軍民融合は、すべての民生技術を軍事的有用性に提供する政策であり、「(ロボット)企業が大学や機関と連携することを支援する」という指導文書の呼びかけがそれを裏付けている。
軍民汎用目的では水力発電所、風力発電所など電力システムのほか、消耗が少ない人型ロボットよりも、「信頼性の高い」ロボットが用いられるAI搭載のロボットは原発警備や浄水場管理を含めた「戦略的場所」で重宝される。
軍パワーをヒューマノイドロボットが代替するのだ。
なんだって中国のために利用する。すでにバイトダンス傘下のTikTokは中国礼賛で溢れ、政治宣伝の道具と化している。
米国はTIKTOKの禁止に動いているが、もはや全廃は不可能である。
ハドソン研究所のアーサー・ハーマン上級研究員は警告する。
「ロボット工学に関する国際標準やルール制定作業で中国共産党の影響力が増大し、ひょっとして中国のロボット産業が世界標準となれば、道徳基準の設定は後方へ押しやられるだろう」。
なにしろ中国軍には道徳的規律が希薄ですからね。