鍛冶俊樹の軍事ジャーナル
(2023年7月11日号)
*安倍追悼、悲しみの一周忌
8日、安倍晋三元総理の一周忌は悲しみに包まれていた。一周忌が悲しみに包まれるのは当然ではないかと叱られそうだが本来、一周忌は葬式の時より、悲しみは癒されていなければならない。
追悼行事は年を重ねるごとに、残された人々が故人を失った悲しみから徐々に立ち直り、故人の思い出を前向きに語ることが出来るように行われるものなのだ。
だが安倍一周忌はそうならなかった。この1年間、我々は安倍氏を失った喪失感が一層拡大されて来るのをまざまざと感じないわけにはいかなかった。「安倍さんが生きていれば、こんなことにならなかった」と、この1年間、何回口にしたことか。
その直近の実例がLGBT法の成立である。同法については、成立直前の修正により、運用段階における現実的対応が可能になったので、保守派が懸念する最悪の事態は回避できるとのことだが(産経新聞、正論7月3日、百地章氏)、これは法律家の所論であり、安全保障の観点は、また別である。
安倍氏の最大の功績はインド太平洋構想であると、前号でも論じたが、そこでも触れた通り同構想が実現の運びとなったのは、米国がこれを採用したためだ。軍事力のない日本が提唱しただけでは、絵に描いた餅に過ぎない。
だが米国が採用したのは、安倍氏と当時の大統領トランプとの個人的信頼関係があったからなのだ。トランプはもともと政治家ではないから国際政治の認識はゼロと言っていい。だが会社経営者の特質として人を見る目は抜群だ。
「こいつは信用できる。こいつの言う通りにしよう」成功する会社経営者の要諦は常にこれに尽きる。外交音痴のトランプは安倍氏の言う通りにインド太平洋構想を推進したのである。
だが、バイデンと安倍氏との間には、もともとこうした信頼関係が存在していなかった。もちろん岸田・バイデン間にもない。LGBT法に反対していた安倍氏が死んで1年も経たない内に、バイデンの腹心エマニュエル駐日米大使は、日本にLGBT法の制定をするよう圧力を掛け、自民党政権はこの圧力に屈したのである。
日米同盟を支えてきた日本の岩盤保守層の対米信頼感は、これで100%失われた。米国はブリンケン国務長官、イエレン財務長官が相次いで訪中し、対中姿勢の変化は明白だ。マクロン仏大統領も親中に転じた。インド太平洋構想は安倍氏の死後一年を待たず事実上崩壊したのである。
(2023年7月11日号)
*安倍追悼、悲しみの一周忌
8日、安倍晋三元総理の一周忌は悲しみに包まれていた。一周忌が悲しみに包まれるのは当然ではないかと叱られそうだが本来、一周忌は葬式の時より、悲しみは癒されていなければならない。
追悼行事は年を重ねるごとに、残された人々が故人を失った悲しみから徐々に立ち直り、故人の思い出を前向きに語ることが出来るように行われるものなのだ。
だが安倍一周忌はそうならなかった。この1年間、我々は安倍氏を失った喪失感が一層拡大されて来るのをまざまざと感じないわけにはいかなかった。「安倍さんが生きていれば、こんなことにならなかった」と、この1年間、何回口にしたことか。
その直近の実例がLGBT法の成立である。同法については、成立直前の修正により、運用段階における現実的対応が可能になったので、保守派が懸念する最悪の事態は回避できるとのことだが(産経新聞、正論7月3日、百地章氏)、これは法律家の所論であり、安全保障の観点は、また別である。
安倍氏の最大の功績はインド太平洋構想であると、前号でも論じたが、そこでも触れた通り同構想が実現の運びとなったのは、米国がこれを採用したためだ。軍事力のない日本が提唱しただけでは、絵に描いた餅に過ぎない。
だが米国が採用したのは、安倍氏と当時の大統領トランプとの個人的信頼関係があったからなのだ。トランプはもともと政治家ではないから国際政治の認識はゼロと言っていい。だが会社経営者の特質として人を見る目は抜群だ。
「こいつは信用できる。こいつの言う通りにしよう」成功する会社経営者の要諦は常にこれに尽きる。外交音痴のトランプは安倍氏の言う通りにインド太平洋構想を推進したのである。
だが、バイデンと安倍氏との間には、もともとこうした信頼関係が存在していなかった。もちろん岸田・バイデン間にもない。LGBT法に反対していた安倍氏が死んで1年も経たない内に、バイデンの腹心エマニュエル駐日米大使は、日本にLGBT法の制定をするよう圧力を掛け、自民党政権はこの圧力に屈したのである。
日米同盟を支えてきた日本の岩盤保守層の対米信頼感は、これで100%失われた。米国はブリンケン国務長官、イエレン財務長官が相次いで訪中し、対中姿勢の変化は明白だ。マクロン仏大統領も親中に転じた。インド太平洋構想は安倍氏の死後一年を待たず事実上崩壊したのである。