後朝(きぬぎぬ)
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夜の帳(とばり)を切り開く
朝の陽射しは
とても残酷
あなたがくれた優しいキスも
あたたかい抱擁も
うれしい言葉も
そして約束も
みんな溶かしてしまうから
せめて 風よ
シャツに残った 移り香だけは
飛ばしてしまわないで
・・・
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愛を交わした翌朝の別れ
後朝(きぬぎぬ)
愛し合う男と女が
一夜を共にした翌朝の
別れをいいます
「きぬぎぬ」の由来は奈良
平安の昔にさかのぼります
男女が互いの衣を重ねて掛けて共寝をし
翌朝それぞれ自分の衣を身につけて別れたので
「衣衣」
その響きを「後朝」に重ね
風情のある言葉になったのです
一夜を共にした男女が
しらじらと夜が明けそめるころ
別れてゆく朝の余情は
通い婚ならではのことですね
後朝の別れの後には
必ず二人の間に「後朝の文」が交わされました
男は家に帰り着いたら
すぐに女のもとに歌を送ります
即座に贈るのが誠意の証でした
文を託す人を「後朝の使い」といいます
女も返歌し
本人が筆を取るのが礼儀でした
「百人一首」の名歌
「逢ひみての後の心をくらぶれば
昔をものをおもはざりけり」
(権中納言敦忠・ごんちゅうなごんあつただ)は
後朝の歌の傑作といわれます