2023年12月11日、うちの社会保障研究集会で、染谷由美特定社会保険労務士(
社会保険労務士オフィス・ソメヤ)を講師に招いて「『治療と仕事の両立』とメンタル不調者の職場復帰などへの配慮や対応について」講演をいただいた。
そのときの自分メモをここに残しておく。
治療と仕事の両立をめぐる現状
両立支援の疾病の種類
がん、脳卒中、心疾患、肝疾患、難病(潰瘍性大腸炎・クローン病など)、糖尿病、その他反復・継続して治療が必要なる疾病
一生のうち国民の2人に1人が癌に罹患する時代、男性は4人に1人、女性では6人に1人が死亡する確率だが、がんは不治の病の時代ではなくなった。昔はテレビドラマでは不治の病として描かれていたが、死亡する確率は低くなっている。
癌の年齢別罹患率を見ると、若年性では女性の罹患率が高くて、乳がんや子宮癌が多く仕事と治療の両立が求められる。男性では55歳以降罹患率が急上昇。
現在では65歳までの雇用の確保義務、70歳までの就労の努力義務となっているから、その準備が必要となっている。仕事を持ちながら悪性新生物で通院している人は、44万人、データは2019年なので今ではもっと多くなっていると考えられる。
脳血管疾患では約7割の人がほぼ介助が不要で職場復帰している。
心疾患では、患者数は306万人で就労世代が19%、うち93%が復職。
肝疾患、就労世代の16%が異常を認めていて、50代が多い。飲酒や肥満による脂肪性肝疾患で治療を続けている。
治療と仕事の両立を図っていかなくてはならない。
我が国の「がん対策基本法」(2006年施行)、5年毎にがん対策推進基本計画を厚生労働省で策定、第1期、就労を含めた社会的な問題が課題とされた。⇒2016年12月改正法
第8条、癌患者の就労継続は企業の努力義務とされた。
癌罹患後の就業状況、有給休暇などで仕事を継続した人も多いが、離職した人は16.7%いる。
退職理由をみると、仕事を続ける自信がなくなった、会社や同僚などに迷惑を掛けると思った、職場から勧められた、解雇。
確定診断を受けた直後に辞められる人が多い、その後に治療計画が立てられるが、もしかしたら働けるかも知れないのに、その前に辞めている現状。
治療と仕事を両立する上で困難であったこと、「経済的な問題」「働き方の問題」「相談先の問題」「職場の理解と風土に関する問題」
メンタルヘルスの不調者⇒ストレスや強い悩み、不安⇒誰でも該当する可能性がある。
全事業所で、該当する労働者がいた10.1%、休業した労働者がいた8.8%、退職した労働者がいた4.1%⇒労働者に「強い不安、悩み、ストレスを抱えている」と回答した労働者82.2%⇒内容、仕事の量、仕事の失敗や責任の発生、仕事の質、対人関係(セクハラ・パワハラ含む)⇒私たちの世代は猛烈に残業したが、今の若い人は1分でも残業は嫌。
両立が可能な職場環境とメンヘル対策
事業者規模が大きいほど取り組んでいるが、規模が小さくなるほど、取組の割合が低い。⇒取り組んでいないから退職者が多い、補填したいが求職者が少ない、という負のサイクルに陥っている事業者も多い。⇒取り組むことで得られるメリット
カミングアウトしやすい風土の醸成、お互い様の意識の醸成による一体感が高まる、従業員満足度の向上・やりがいの創出、エンゲージメントにも効果。
健康経営やリスクマネジメントの視点から今こそ取り組む必要がある。
メンタルヘルス対策と治療の両立の気運の高まり。
治療と仕事の両立にあたり問題
「経済的な問題」「働き方の問題」「相談先の問題」「理解と風土に関する問題」⇒必要のある問題解決
社会保険関連(傷病手当・障害年金・遺族年金)、辞めた後の社会保険、転職に関すること(今の会社が両立できないので)、会社に伝えるかどうか(退職勧奨されるかも知れない、会社の対応を見ていて)、職場への理解の求め方・伝え方、社内制度の内容や利用(就業規則の内容を説明して欲しい)、解雇や退職勧奨のこと、失業給付などがあって、それらの対応を考える。
育児・介護・家庭の両立との違い
①法律では努力義務のみ(配慮)、②お互い様という意識が醸成しにくく職場の理解や協力が得られにくい(自分は病気にならないと思っている人が多い、私傷病は個人の問題であると思っている⇒好きで病気になっているわけではない)、③今後の見通しが読みにくい(個人差がある)、④中長期間の支援が必要
実際の進め方
ステップ① 会社の両立支援の基本方針の策定と従業員への周知
⇒危機管理意識を持って策定してもらいたい⇒「会社に伝えると辞めさせられる」「人事評価に影響するのではないか」⇒「病気になっても辞めなくて良い」「治療しながら働き続けられる会社である」と認識することにより、従業員の満足度向上に繋がる⇒離職の未然防止に効果的⇒定期的な周知も必要
ステップ② 社内制度の整備&運用
社内整備のポイント⇒通院
時間の確保が出来るような制度導入(年休の半日・時間単位、私傷病休職制度、失効年休の積み立て、治療目的の休業・休暇制度(有給でなくてもいいから欠勤とならない制度))⇒利用するタイミングと時期によって流動的となる、随時、状況を確認した上で制度運用してもらいたい、制度を押しつけると従業員が納得できなくて辞めてしまうこともあるので注意が必要。
メンヘル対策の4つのケア【セルフケア】【ラインケア】【事業場内産業保健スタッフ等によるケア】【事業場外資源によるケア】
ストレスチェック、50人以上1年に1回実施が義務化⇒忙しいときに受けている結果とそうでないときの結果ではずいぶん違ってくる⇒定期に年2回以上実施することをお勧め(衛生委員会等で調査審議により労使合意で1年以内に複数回実施することも可能)⇒面接指導の際には個人情報の管理に注意
ステップ③ 社内体制の整備
①相談窓口の設置、②支援者側の役割や支援方法を明確にし連携体制を整える、③管理職研修の実施(報告があったときの対応、こころの健康への影響を与える職場環境等)⇒相談や報告があった際の「初動対応が重要」⇒相談を受ける側の対応スキルを事前に学ぶ機会を作る⇒「相談受けた側がうろたえたり受け止めきれない」と相談者は不安になるから。
ステップ④ 研修会の開催及び両立支援体制の周知
研修内容(治療と仕事の両立)(メンヘル対策)+ワークショップ+両立支援体制+定期的なフォロー
正しい知識を習得⇒他人事から自分事⇒健康管理やメンヘルケアの大切さを知る⇒ヘルスリテラシー向上⇒病気予防・健康診断・癌検診の受診率向上、メンヘル不調予防
円滑な就労支援の実施の鍵 柔軟の業務制度≠円滑な就労支援
職場での理解・協力が得られるかがカギ!⇒「日頃からのコミュニケーション」「上司や同僚の変化に気づいてあげることができる職場」「病気になることは他人事ではなく自分事でもあり、お互い様の気持ちを持てる職場風土」
~治療と仕事の両立~編
お見舞いの言葉を掛け(大丈夫ですかと問いかけると「大丈夫」としか答えられない、頑張ってくださいも「もう頑張れない」となるから注意)⇒「すぐに辞める必要ない」ということを伝える
⇒具体的な支援を検討するために情報を収集する⇒どこまで聞いていいのか⇒症状・治療の状況、退院後・通院治療中の就業継続の可否、望ましい就業上の措置に関する意見、従業員の仕事に関する想いや希望
◎厚労省ガイドライン「情報収集の方法」(勤務情報を主治医に提供する際の様式例、治療状況や就業継続の可否等について主治医に意見を求める際の様式例、職場復帰の可否等について主治医に意見を求める際の様式例)
⇒収集した内容を基に、具体的な支援策を検討し運用
休業措置・就業上の措置・治療に対する配慮等⇒一方的に紙やメールで伝えるのではなく、労使で十分に話し合い、従業員から納得が得られるように努力
社内制度で対応できないケース⇒制度で対応できない場合は配慮で補う
がん治療時等による休職時の対応ポイント
休職に入るとき⇒文書での情報提供・家族の連絡先の確認
休職中⇒負担にならない程度の定期的に連絡を取る(メンヘルとは違う)・定期的に社内の情報を提供・休職中にフォローしている上司や同僚に対してもサポート
メンヘル不調に陥りやすいとき
人事異動の時、新卒入社2~3年目、業務で問題、長時間労働、人間関係のトラブル、大きなライフイベント
気付くポイント⇒勤怠の乱れ、外見の変化、ミスが多くなる、感情の変化が大きくなる、性格⇒一人で抱え込ませないように、早めにお声掛けを行う必要がある⇒ストレスチェック⇒面談に持ち込む
メンヘル不調者の休職時の対応ポイント
文書での情報提供、主治医から職場復帰の話が出たときには早めに会社に連絡することを伝える、家族の連絡先の確認、一人暮らしの場合は家族との同居を勧める
休職中⇒連絡は必要最低限(メールの最後に「体調が良いときにご返信ください」)、月1回程度社内情報を提供、連絡窓口をする従業員への教育とフォロー、フォローしている上司・同僚にもしっかりとサポート
みんなに言わなくて良いから、最低限伝えなければいけない人にだけ伝えたら、とアドバイス。
困ったことがあったら相談してもらって、必要な配慮を考える。
あくまでも治療と仕事の両立は従業員の自助努力⇒企業は自助努力支援エンパワーメント⇒危機管理⇒ネガティブな取り組みでは決してなくポジティブに捉えて欲しい⇒病気になっても働き続けられる職場