このブログでもちょろっと紹介したが…⇒「年収の壁・支援強化パッケージ」
大きなお世話だ、的な気もするが、そんな折りに、連合が「社会保険の適用拡大に関する勉強会」を11月14日に開催。
そのときの(株)日本総合研究所 西沢和彦理事の講演「『年収の壁』にどう取り組むか」についてメモを残しておく。




1.前提としての知識
〇国民皆保険という美しい理念と矛盾。
社会保障として社会保険と福祉
社会保険は拠出原則があり財源は社会保険料⇒権利性があり(保険料を払ったのだから…)、排他的ともいえる(保険料を払わなければ受けられない)
福祉は拠出原則がなく、財源は租税(公費)
〇2階建て、国民年金に括弧して基礎年金…この説明が制度の真の理解を困難にしている。
⇒2階建てではなく3制度と基礎年金給付
基礎年金拠出金 厚生年金19.4兆円、共済組合2.3兆円、国民年金3.2兆円(合計25兆円)⇒これが基礎年金の収入25兆円⇒基礎年金拠出金 単価36,822円
〇第1~第3号の区分は1986年改正で導入
1985年以前、専業主婦は国民年金に任意加入し保険料負担(社会保険の徹底、「皆」は未実現
1986年以降、専業主婦は第3号として基礎年金拠出金として、保険料を負担せずとも基礎年金受給(払わなくてももらえるという福祉的取り扱いを混入させた)⇒社会保険の後退⇒皆年金を優先し福祉の混入
•厚生年金保険料 18.3 %は、厚生年金給付のみならず基礎年金の費用を含む
•国民年金保険料 (月額 16,520 円)は存在するが、 国民年金給付は存在しない
•第1号が国民年金の正真正銘の加入者
•基礎年金 (満額月 66,250 円) は、共通の給付の名称
第3号850万人、うち約6割は就業者、専業主婦の方が少ない
第1号の就業者994万人、うち約7割が被用者とその他の働き方
第2号となるには常用的使用関係が必要⇒被用者適用基準 正社員の労働時間の4分の3⇒被用者保険の適用拡大(現在101人以上)

2.年収の壁とは何か
〇106万と130万の相違、混乱を招く。
106万 被用者保険適用基準の一部(第2号か否か)⇒判定者は本人の勤務先(従業員101人以上)⇒法的根拠はない(8.8万円が厚生年金保険法に記載)、収入の範囲は限定的(厚年法は常用雇用を想定)
130万円は被扶養認定基準(第3号か否か)⇒判定者は配偶者の勤務先⇒法的根拠は厚生省の通知(1977年)⇒検認、収入の範囲は包括的(その時点の収入の年収換算)1993年以降据え置き。
106万円の壁について、辻元清美さんの質問主意書への答弁書R4/12/9 ⇒ 最近、社会保険適用拡大ガイドブックは修正⇒政府の広報のミスリード




130万円で2号になると可処分所得が▲15万円(取り戻すには151万円)、1号になると▲23万円(取り戻すには161万円)⇒就労調整の誘因に
8.8万円(×12≒106万円)の壁⇒3号は2号になれば可処分所得減(124万円で取り戻す)⇒就労調整の誘因に⇒1号は2号になればむしろ可処分所得増。
⇒年収の壁・支援強化パッケージは不公平
⇒壁というより給付増⇒誇大広告(老齢・障害・死亡、そんなに保証は充実しない)
〇一方で、扶養を外れて経済的に失うものは
①企業の家族手当(配偶者に家族手当が支給される従業員は55.1%)、②配偶者の健保組合の付加給付(給付4.3兆円の約2%、一部負担還元金(被扶養者は家族療養費付加金)、出産育児一時金への上乗せ)、③児童手当の所得制限(年収103万円以下の配偶者は扶養家族にカウントされ、その分、所得制限額が緩和される)
※配偶者控除は消失控除となっており、世帯可処分所得が一挙に減少する壁はない⇒妻の収入150万円までフルに控除を使える
3.制度論
〇では、壁を引き下げたら?⇒しかし第2号と第1号の公平性が損なわれる⇒第2号88,000円×18.3%=16,104円(労使折半)≒第1号16520円⇒負担面においてかろうじて公平性が保たれている
〇であれば、壁を引き上げたら?⇒パート主婦の労働供給(時間)を確かに促進⇒他方、優遇策であると批判の多い第3号のメリットは拡大、かつ、第1号となっている被用者の第2号への移行はより困難に
〇ではでは、壁の高さはそのままにして、可処分所得減少分を国が補填すれば?⇒第3号から第2号への移行者のみ補填すれば、第1号(5人未満個人事業所および複数事業所勤務者など)から第2号への移行者と不公平に。
※複数事業所勤務者は厚生年金加入に障壁(2事業所合計で8.8万円を上回っていても不可)⇒事業所ごとに被用者保険適用を判定する現行の仕組みがネック⇒本来、個人に着目し名寄せすべき

〇壁問題の根本的解決には2つの方向
①社会保険という方法の徹底⇒1985年以前の年金制度に戻す(専業主婦は国年に任意加入)⇒未納の増加が予想される⇒皆年金は後退
②皆年金という目的の重視⇒社会保険への福祉の混入を改め、福祉的部分は切り離し、その財源を租税に充てる。⇒諸外国をみれば、福祉的部分は租税、所得比例部分は社会保険料と役割分担⇒年金の理想像を語る時「カナダ」か「スウェーデン」
〇所得代替率-給付水準を表す代表的指標
世界共通の考え方。もっとも、わが国の定義は特殊であり、注意を要する
1.分母は1人分、分子は2人分*
2.分母は手取り(可処分所得)、分子は名目
61.7%=厚生年金・夫9万円+基礎年金・夫6.5万円+基礎年金・妻6.5万円/現役男性の平均的な手取り月収35.7万円
*数値は、2019 年財政検証。モデル夫婦世帯、あるいは、標準世帯と呼ばれる夫がサラリーマン、平均的収入、40 年間勤務。妻が専業主婦
1985年の2つの出来事
4月、年金改正法成立、「婦人の年金権の確立」の名のもとに第3号被保険者導入⇒6月、女子差別撤廃条約締結⇒男女共同参画⇒年金に関しては女性を庇護の対象とした⇒果たして、社会保険を標榜するもとにおいて、保険料負担のない基礎年金受給が権利の確立なのか?