コロナ禍で、ずいぶん長いことお目にかかれていないが、友人の(だと思っている)岡崎教行弁護士が出版され、わざわざ私にも献本してくださった「
基本がわかる!人事労務管理のチェックリスト まずは簡単な自社診断からはじめよう!」。
同封されていたお手紙には「この書籍が届きましたら、是非とも、皆様方の通勤のバッグに入れていただき、カバーをしないで電車の中で読んでいただければありがたいなと思います(笑)」と書かれていたが、ごめんなさい、私は事務所で仕事の合間に息抜きとして読ませていただきました(汗)
 | 基本がわかる!人事労務管理のチェックリスト
「労務管理、労務管理っていうけれど、何をやればいいの?」「何から手を付ければいいの?」まずは簡単な自社診断からはじめよう!
■正しい知識があれば人事労務トラブルは防げる トラブル予防・対応のコツを詳解
■労務管理に取り組みたい経営者・人事労務担当者向けに、実務対応についてわかりやすく解説
豊富な規定例・書式例付き!岡崎教行 労務行政 |
この書籍について、「今回の書籍のコンセプトは、人事労務の問題を深掘りするというものではなく、幅広く、労務リスクを洗い出すことにあります。」「注意してほしいのは、この一冊で労務管理ができるものではないという点です。この書籍はあくまで、労務管理に取り組むに当たっての導入に過ぎません。自社に何が足りていないのかをあぶり出すためのものです。」と岡崎さんが書かれている通りで、
全部を読んでみて、
自社や相談者の就業規則などの規定を、この本と突き合わせてみて、その突き合わせた就業規則などの規定に、ちゃんと書かれているか、違うことが書いてあるのか、違うならなぜ違うのか、足りていないのか、足りていないなら足したほうがいいのか、そういった使い方をすればいいなと思う。
細かくは書けないが、自分がマーカーした箇所を【メモ】しておくけど、「なんのこっちゃ?」ってなった方は、ぜひ、本書を手に取って読んでみることをお勧めします。
1. 募集・採用
〇リファラル採用 従業員に対して、賃金、給料その他これらに準ずるものを超えて、「報酬」を与えられたと評価されると違法になるので、「報酬」と評価されないために、給与明細に明示して「賃金」として扱う、賃金規定にリファラル採用が成功した場合に支払う金額を明示する方法も考えられる。
その被用者で当該労働者の募集に従事するものには該当しないと、賃金として支払う、とは評価できないことになる可能性もある。
〇入社前研修 基本的には義務とすることはできず、また、不参加であったからといって不利益を課すこともできないため、労働時間には該当しないと評価してよい場合が多いと思う。
2. 試用期間
〇募集時における試用期間の明示 平成30年1月1日の改正職安法により追加。
〇使用者が都道府県労働局長の許可を得た場合には、最低賃金の減額の特例が認められる。(最長6か月を限度に、減額率は当該労働者の職務の内容、職務の成果、労働能力、経験等を勘案して定め、上限は20%)
〇試用期間の延長 試用期間延長後の勤務状況に問題がなかった場合、試用期間延長前の事由のみをもって本採用を拒否することはできないという点に留意。
〇有期契約労働者に対して試用期間を設けることの是非 通常の解雇よりハードルが上がってしまい、試用期間を設ける意味が実質上ないということになりかねない。
3. 就業規則
〇就業規則の記載事項 使用者の守るべき規律を記載するべきものではない。
平成10年の労働基準法改正により今では、どのような事項でも別規程とすることが可能。
〇過半数代表者の適格性 ❶適式に選出されたとはいえない過半数代表者が記載した意見書は無効 ⇒ ❷就業規則の作成あるいは改定における過半数代表者からの意見聴取をしていないという取扱いになり、罰則(30万円以下の罰金」の対象となる ⇒ ❸過半数代表者が適式に選出されないと、労使協定も適式に締結されていないということになってしまい、例えば36協定では、違法に時間外労働、休日労働をさせたとして罰則の対象となる ⇒ ❹変形労働時間制や事業場外みなし労働時間制を労使協定で導入している場合には、それが否定され、未払い賃金が発生してしまう事態も想定される
〇就業規則の周知 留意が必要なのは、「事業場」ではなく、「各作業場」とされている点。例えば、一つの事業場に建物が二つあった場合には、建物ごとに就業規則の提示などをする必要がある。
就業規則の周知がなければ、当該就業規則の内容をもって従業員を拘束することはできない。
4. 賃金
〇賃金支払いの5原則 令和5年4月1日以降、一定の要件を満たした場合には、従業員の同意を得た上で、賃金移動業者の口座への賃金支払いが認められることになるが、仮想通貨での賃金支払いは認められていない。
〇給与明細 労働基準法には定めがないが、所得税法が、給与を支払う者は給与の支払いを受ける者に支払明細書を交付しなくてはならないと定めている。
〇賃金控除協定の締結 実務上、退職金からの控除を定めていない例があるので、それも規定しておく必要があるだろう。
〇固定残業代制度 ❶残業代の趣旨で支給されていること(対価性)、❷残業代部分と通常の賃金とが判別できること(明確区分性)、❸不足額を清算する合意ないし取り扱いの三つの要件とされそうだが、現在の裁判所の扱いは、❸は要件とせずに、❶および❷のみを要件としているといわれている。
固定残業代が無効と判断されると、残業代の単価が大きくなることにより、支払わなければならない金額が膨れ上がるというリスクがある。
賃金規定に固定残業代として手当を支払うと書いてあったとしても、それだけでは認められず、結局は、実態を見られる、つまり、それが本当に残業代の趣旨で支払われているか確認するということになる。
〇退職金 退職金規定には、自己都合または会社都合がどういった意味の概念なのか明記しておいたほうが無用な紛争を招かない。
5. 労働時間・休憩時間
〇事業場外労働 みなし労働時間を定めるにあたり、労働時間の全部を事業場外で勤務した場合と一部を事業場外で勤務した場合とで、明確に分けて定めておいたほうがよい。
6. 休日・休暇、時間外・休日・深夜労働
〇年次有給休暇の付与 客観的要件充足によって当然に成立する年次有給休暇の権利と、その目的物を特定するための時期指定権とは、相互に明確に区分される。
〇管理監督者 部門全体の統括的な立場にあるか否かという観点からの検討がされる傾向にある。
7. 降格、異動・出向
8. 有期労働契約
〇令和4年3月に公表された「多様化する労働契約のルールに関する検討会報告」では、有期契約労働者の無期転換権に関し、使用者に、無期転換申込権の要件を満たす従業員に対して無期転換申し込みの機会を通知するよう義務づけることが適当とされ、今後、改正により追加される可能性がある。
9. 育児・介護
10. 懲戒処分
〇懲戒事由をまとめて包括的に定め、懲戒処分の種類とは対応させないで定める方法が、実務上運用しやすく、また適切。
〇形容詞・副詞を懲戒処分の規定に用いることは、訴訟の場では、懲戒処分が有効となるためのハードルを上げてしまうほか、無用な争点を生み出してしまう。
〇まれに、懲戒事由の一つとして、「服務規律に違反したとき」が抜けていることがある。
〇まれに、犯罪行為に関する事項として、「刑罰法規に違反し有罪が確定したとき」と定めているものを見掛ける。無罪推定の原則をそのまま具現化したものと思われるが、こうした表現は避けたほうがよい。
〇懲戒処分前の自宅待機 従業員の賃金請求権が消滅するのは、例えば、自宅待機としなければ、事故の発生や不正行為の再発の可能性が高い場合等、当該従業員の就労を許容しないことについて実質的な理由が認められる場合等に限られると解されている。(京阪神急行電鉄事件 大阪地判 昭37.4.20、日通名古屋製鉄事件 名古屋地判 平3.7.22)
〇懲戒処分に当たっての手続き上の留意点 会社は、懲戒処分を行うに際して、就業規則、労働協約等で定めた手続きに拘束され、その手続きを履践しなければ、懲戒処分は無効と判断されることになる。
それでも、懲戒委員会を設置するという場合、❶懲戒処分を決定する機関なのか、懲戒処分についての意見を具申する機関(諮問機関)なのかを明らかにしておく、❷懲戒委員会の構成員、構成員が出席できない場合の対応、招集手続き、決議方法については少なくとも定めておく。
〇懲戒処分通知書の作成の留意点 適用される条項についても、記載を間違ったり、漏れがあったりすると、懲戒処分が無効ともなりかねないので、慎重に確認の上、記載しなければならない。
〇懲戒処分の公表に当たっては特段の配慮が必要。
11. ハラスメント
〇ハラスメントが発生した場合の法的リスク ❶損害賠償責任、❷労災、❸レピュテーションリスク(会社に関するネガティブな情報が世間に広まり、会社の信用やブランドが毀損されることによって生じる損失リスク)、❹進退両難の地位に陥る
12. 休職
〇私傷病休職 欠勤を休職要件とする場合、その期間をどの程度にするか、欠勤期間中の休日の取扱い、欠勤が断続的な場合の取扱いに留意。就業規則に休職期間を延長できる旨の定めを入れておくべき。
13. 定年退職・定年退職後再雇用
〇定年退職後再雇用者の処遇 X運輸事件(奈良地判 平22.3.28)、トヨタ自動車ほか事件(名古屋高判 平28.9.28)、九州総菜事件(福岡高判 平29.9.7) 高年齢雇用安定法の観点からは、無年金、無収入の期間の発生を防ぐという趣旨から、本来もらえることが想定されていた年金額を賄えるだけの賃金であれば、無効とは評価されないと解釈すべきと考える。
14. 退職・解雇
〇就業規則の退職事由の一つに、行方不明になった場合を入れておく必要がある。
〇普通解雇の手順 「やれることはやった、手を尽くした」と評価できるかどうかがポイント。
〇解雇理由証明書 解雇の理由を明示するものであり、極めて重要な書類で、解雇事件の帰趨を決めるといっても過言ではない。
15. テレワーク
16. その他
〇労災申請手続き まれに、使用者としては、労働災害ではないと考え、申請手続きには協力しないという対応を取ることがあるが、これは厳密には問題のある対応。
事業主証明でも、労働災害ではないと考え、事業主証明をしないという対応を取ることがあるが、これも厳密には問題がある。使用者は、事業主証明に当たって、証明できる事実は証明し、証明できない事実は証明しないという対応を取るべき。