結局、どういう法案になったのか、中身をメモしておく。

社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案の概要
【改正の趣旨】
社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図る観点から、働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成等の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、所得再分配機能の強化や私的年金制度の拡充等により高齢期における生活の安定を図るため、被用者保険の適用拡大、在職老齢年金制度の見直し、遺族年金の見直し、標準報酬月額の上限の段階的引上げ、個人型確定拠出年金の加入可能年齢の引上げ等の措置を講ずる。
【改正の概要】
Ⅰ.働き方に中立的で、ライフスタイルの多様化等を踏まえた制度を構築するとともに、高齢期における生活の安定及び所得再分配機能の強化を図るための公的年金制度の見直し
1.被用者保険の適用拡大等
①短時間労働者の適用要件のうち、賃金要件を撤廃するとともに、企業規模要件を令和9年 10月1日から令和 17年 10月1日までの間に段階的に撤廃する。
「いわゆる106万円の壁」の撤廃。
具体的には、「賃金要件(月額8.8万円以上)を撤廃」し、週20時間以上働くだけで社会保険の加入対象となる。
ただし、今でも週20時間以上働いて月額賃金を8.8万円未満にしようとすると、時給が1015円以下で働くことになるため、今後も最低賃金が引き上げられていくことを考えるとどっちにしろ、実質的に月額8.8万円以上という基準は廃止となるとも言える。
施行は、公布から3年以内の政令で定める日。
それと、現行、一定規模以上(51人以上)の企業で働く短時間労働者が社会保険の加入対象となっているが、これを10年かけて段階的に縮小・撤廃し、最終的には短時間労働者が週20時間以上働けば、勤め先の大小にかかわらず社会保険に加入することになる。
従業員36~50人の企業は2027年10月から、21~35人以上の企業は2029年10月から、11~20人以上の企業は2032年10月から、10人以下の企業は2035年10月から、それぞれ順次適用対象が拡大される。
②常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種を解消し、被用者保険の適用事業所とする。 ※ 既存事業所は、経過措置として当分の間適用しない。
③適用拡大に伴い、保険料負担割合を変更することで労働者の保険料負担を軽減できることとし、労使折半を超えて事業主が負担した保険料を制度的に支援する。
現行、常時5人以上を使用する個人事業所のうち、法律で定める17業種のみが社会保険の適用対象だが、2029年10月から、常時5人以上を使用する個人事業所は原則として全業種が適用対象となる。
ただし、2029年10月の施行時点で既に存在する事業所については、当分の間は対象外とする経過措置が設けられる。
また、労働者の保険料負担を国の定める割合に軽減できる特例的・時限的な経過措置を設ける。
2.在職老齢年金制度の見直し
一定の収入のある厚生年金受給権者が対象の在職老齢年金制度について、支給停止となる収入基準額を50万円(令和6年度価格)から 62万円に引き上げる。
現行の在職老齢年金制度は、一定の賃金を有する高齢者の年金を減額する仕組みで、働く高齢者の賃金(ボーナス含む年収の12分の1)と厚生年金の月額相当分の合計額が、50万円を超えると、超過分の2分の1、年金が支給停止(減額)される。
この支給停止となる収入基準額を、現在の50万円から62万円に引き上げる。
施行は2026年4月。
3.遺族年金の見直し
①遺族厚生年金の男女差解消のため、 18歳未満の子のない 20 50代の配偶者を原則5年の有期給付の対象とし、 60歳未満の男性を新たに支給対象とする。
これに伴う配慮措置等として、5年経過後の給付の継続、死亡分割制度及び有期給付加算の新設、収入要件の廃止、中高齢寡婦加算の段階的見直しを行う。
現行、20 代から50 代に死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金は、死別時に30 歳未満の妻には有期給付、30 歳以上の妻には期限の定めのない終身の給付、死別時に55 歳未満の夫には遺族厚生年金の受給権が発生しない。
これまで支給対象外であった子どものいない55歳未満の男性も新たに支給対象として、これを男女とも5年間の有期給付とする。
なお、すでに受給権がある人、60歳以降の高齢者、18歳未満の子のある20代から50代の人は、現行制度の給付内容が維持される。
さらに、現行、夫の死亡の当時子の40才以上の妻、または子が加算の対象でなくなり遺族基礎年金が失権した40才以上の妻には65才になるまで中高齢寡婦加算(2025年度価額623,800円)が支給されているが、時間をかけて加算措置を終了する。
これらについて、「男女差を解消する」という理由に対し、「結局は支給を減らす」との批判がある。
2028年4月から20年かけて段階的に施行。
②子に支給する遺族基礎年金について、遺族基礎年金の受給権を有さない父母と生計を同じくすることによる支給停止に係る規定を見直す。
遺族基礎年金の受給権を持つ親が再婚した場合、親の収入が基準額を超えている場合、子どもが直系血族等の養子となる場合、親の死亡後に離婚していた元配偶者が子どもを引き取る場合などでも、子どもが、遺族基礎年金を受給できるようになる。
施行は2028年4月。
4.厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ
標準報酬月額の上限について、負担能力に応じた負担を求め、将来の給付を充実す る観点から、その上限額を 65万円から 75万円に段階的に引き上げる((※)とともに、最高等級の者が被保険者全体に占める割合に基づき改定できるルールを導入する。 ※ 68万円➡71万円➡75万円に段階的に引き上げる。
現行の標準報酬月額上限額は、健康保険が50等級(139万円)、厚生年金保険は32等級(65万円)。
厚生年金の標準報酬月額の上限を段階的に、現在の65万円から、68万円(2027年9月~)、71万円(2028年9月~)、そして75万円(2029年9月~)へと引き上げる。
新たな上限に該当する労働者やその人の勤める企業の保険料は増えるが、労働者にとっては将来の年金額も増えると説明している。
Ⅱ.私的年金制度の見直し
①個人型確定拠出年金の加入可能年齢の上限を 70歳未満に引き上げる。
②企業年金の運用の見える化(情報開示)として厚生労働省が情報を集約し公表することとする。
Ⅲ.その他
①子のある年金受給者の保障を強化する観点から子に係る加算額の引上げ等を行いつつ、老齢厚生年金の配偶者加給年金の額を見直す。
現行の加算額は、2024年度の年額で計算すると、第1子・第2子が年額23万4800円、第3子以降が年額7万8300円だが、改正後は子ども1人につき一律で年額28万1700円とする。
この加算額の引き上げは、現在年金を受給している人も対象とする。
加えて、これまで子に係る加算がなかった老齢基礎年金のみを受給している人などにも、加算の対象とする。
これらの見直しは、2028年4月からの施行。
②再入国の許可を受けて出国した外国人について、当該許可の有効期間内は脱退一時金を請求できないこととする。
③令和2年改正法附則による検討を引き続き行うに際して社会経済情勢の変化を見極めるため、報酬比例部分のマクロ経済スライドによる給付調整を、配慮措置を講じた上で次期財政検証の翌年度まで継続する。
このほか、遺族年金の受給要件に係る国民年金法附則第9条第1項のほか、同法、厚生年金保険法、協定実施特例法、確定給付企業年金法及び社会保険審査会法等について、令和2年改正法等で手当する必要があった規定の修正等を行う。
この概要には記載がないが、
〇遺族厚生年金受給権者の老齢年金の繰り下げ許容
〇国民年金の納付猶予制度の延長
〇国民年金の高齢任意加入対象の追加
〇離婚時分割の請求期限の伸長
なども、法律案に記載がある。