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出来高払いの割増賃金 中島ゼミで「トールエクスプレスジャパン事件」について学ぶ

2021-09-13 | 書記長社労士 お勉強の記録
【13 💪部屋1-41 DBenchPress22.5kg DFly17.5kg WidePushUp SitUp Crunch】 先日(2021年8月27日)、労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会の第2回ハイヤー・タクシー作業部会で、第1回の時の使用者側委員の発言について、以下の通り、事務局に質問をした。

「タクシーは、みなし残業で賃率を労使で協定している」

 タクシーは「みなし」で時間外労働、深夜労働の割増手当を支給していいのか?
歩合給賃金であっても、以下の判例もあり、「通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である」と認識しているがいかがか?

高知県観光事件 最高裁平成6年6月13日第二小法廷判決では、
タクシー乗務員の歩合給について,当該歩合給が時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものでもなく,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことを理由として,当該歩合給が労働基準法37条所定の割増賃金として支払われたものとは認められないと判断

国際自動車事件 最高裁判所令和2年3月30日第一小法廷判決では、
歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがある賃金規則に基づいてされた残業手当等の支払により労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえないと判断


 そのことはさておき、歩合給(出来高払い)の割増賃金については、2021年2月19日の中島ゼミ(中島光孝弁護士を囲んでの社労士有志による判例勉強回)で 「オンラインになったおかげで参加出来るようになった「中島ゼミ」、今回は国際自動車(第二次上告審)事件「割増賃金相当額を控除する賃金規定の有効性」について学んだ。」)で、深掘りの学習をした。
その時の自分の感想としては、「なんで高知県観光事件【最小判平成6・6・13】でけりが付いている歩合給の時間外労働の問題が、こんなにも長引いてしまったのか、それが疑問だったが、今回のゼミで、以下の通り、すっきり理解出来た。」ということだった。


 が、しかし、今回の中島ゼミ(2021年8月27日)で学んだ「トールエクスプレスジャパン事件大阪高裁判決」では、「本件賃金規則においては、能率手当を含む基準内賃金が通常の労働時間に当たる部分、時間外手当A、B及びCが労基法37条の定める割増賃金であり、当該割増賃金は他の賃金と明確に区別して支給されていると認めることができる」として、対価性を検討する前に、きわめて形式的な判断で「判別可能性」を肯定した。

 この判決の特徴は、国際自動車第2次最判が基準とした、時間外労働を抑制し、労働者への補償を行うという労基法37条の趣旨に従って、対価性及び判別可能性を判断していないこと。
労基法37条の趣旨は、判断の基準として形式的に述べられているだけで、実際の判断の中では顧みられておらず、実際の判断は労基法27条や労働基準規則に明確に違反していなければ、雇用契約と労使合意で自由に賃金規則を制定することができると考えていることだ。
強行法規である労基法37条よりも雇用契約や労使合意を上位に置いているとしか思えない契約自由の原則の一面的な強調が本判決を支える思想であると感じる。

 この裁判における清水響裁判長は、かつて国際自動車事件第2次訴訟一審において労働者敗訴の判決を書いた裁判官で、「契約自由の原則と労使合意を労基法37条の上に置き、労基法27条などの明文の規定に反しない限り、どのような賃金規則を作ることも自由である」ということを前提に判決した。
この判決は控訴審で維持されたが、上告審である国際自動車第2次最高裁判決で明確に否定され、破棄差戻されたのだ。
しかしながら、そのことを反省もせずに、またぞろ、こんな判決をしたということだ。
この裁判官の思想なのかも知れないが、「労働時間規制」よりも労働の効率化を優先する規制する制度としては、労働基準法では2種類の裁量労働制が法定されている。
そこを、法の番人である裁判官が、ごっちゃにされたら、たまらんわ。

 以下は、先日の中島ゼミで学習した部分の抜粋。 

第3 二審判決の問題点
1 国際自動車(第1 事件)第二次上告審判決・最一小判令2.3.30(労判1220 号5 頁)(以下「令和2年判決」とする)との関係

(1)令和2年判決の,当該手当が,時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているかどうかの判断。
⇒通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37 条の定める割増賃金に当たる部分の判別をすることができるというためには,当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることを要するところ,当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきである。
⇒その判断に際しては,当該手当の名称や算定方法だけでなく,労基法37 条の趣旨を踏まえ,当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならない。
⇒トールエクスプレスジャパン事件大阪高裁判決はこの点について同じ判断をしている。

(2)令和2年判決の事案における「歩合給(1)」及び残業手当とトールエクスプレスジャパン事件大阪高裁判決の事案における「能率手当」と残業手当は,以下の算式で算出される。

■令和2年判決
歩合給(1)=対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当および公出手当の合計)+交通費}
対象額A=(所定内税抜揚高-所定内基礎控除額)× 0.53
+(公出税抜揚高-公出基礎控除額)× 0.62
残業手当=①+②
①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数罰15.5 時間)}× 1.25 ×残業時間
②(対象額A÷総労働時間)× 0.25 ×残業時間

■本判決
能率手当=賃金対象額-時間外手当A
賃金対象額=配達重量部分等の欠く計算対象要素を所定の計算をしたうえで合算し支店係数を乗じたものに,その他の計算対象要素を加算した
時間外手当A=(能率手当を除く基準内賃金/年間平均所定時間)×(1.25 ×時間外労働時間+ 0.25 ×深夜労働時間+ 1.35 ×法定休日労働時間)

ア 対象額Aは,割増賃金(残業手当)の算出の基礎とされている。

イ 賃金対象額は,割増賃金(時間外手当A)の算出の基礎とされていない。

ウ 本判決(トールエクスプレスジャパン事件大阪高裁判決)は,上記違いを令和2年判決と異なり,時間外手手当Aは時間外労働の対価として支払われていると判断した。

(3)労基法37 条の趣旨について
ア 令和2 年判決は,労基法37 条の趣旨は「時間外労働の抑制,労働時間に関する規定の遵守,労働者への補償」であると判示した。

イ 令和2 年判決において,割増金の額がそのまま歩合給(1)の減額につながるという仕組みにおける「割増金」は,出来高払制賃金において,「当該揚高を得るに当たり生ずる割増賃金をその経費とみた上で,その全額をタクシー乗務員に負担させているに等しいもの」と見ることができるとした。

ウ 令和2 年判決において,上記仕組みは労基法37 条の趣旨(時間外労働の抑制等)に沿っているといえないとした。

エ 令和2 年判決において,歩合給(1)が0 円となる場合は,すべてが割増賃金となるという結果について「割増金の額が大きくなり歩合給(1)が0 円となる場合には,出来高払制の賃金部分について,割増金のみが支払われることとなるところ,この場合における割増金を時間外労働等に対する対価とみるとすれば,出来高払制の賃金部分につき通常の労働時間の賃金に当たる部分はなく,全てが割増賃金であることとなるが,これは,法定の労働時間を超えた労働に対する割増分として支払われるという労基法37 条の定める割増賃金の本質から逸脱したものである。」と判断した。

オ 本判決(トールエクスプレスジャパン事件大阪高裁判決)は,労基法37 条の趣旨に言及していない。

カ 本判決において,能率手当が0 円となる場合は,すべてが時間外労働Aとなるが,時間外手当Aが賃金対象額を超えるまでは,能率手当+時間外手当A=賃金対象額であるから,使用者の負担は増大することなく,したがって,時間外労働の抑制効果はない。

2 本判決の特徴はなにか
労基法37 条の趣旨による規制よりも,労働の効率化を優先する思想に基づくもの。


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