ひろきち劇場NEO

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大地の咆哮

2008年06月10日 | ◆書籍の紹介
「大地の咆哮」は「元上海総領事が見た中国」という副題のとおり、上海総領事まで務めた外交官が現代中国について書いた本です。著者の杉本信行氏は1973年外務省入省以来30数年間中国との外交を担当してきた中国の専門家ですが、残念ながら2006年に癌で亡くなっています。この本は癌が発覚してから執筆された、まさに杉本氏の遺作です。

大地の咆哮 元上海総領事が見た中国杉本 信行PHP研究所このアイテムの詳細を見る


まえがきは次の書き出しで始まります。

二〇〇四年春、上海の日本総領事館で、一人の館員が、このままでは国を売らない限り出国できなくなるとの遺書を残して死んだ。私は、そのときの総領事であった。

上司として、館長として、彼を守れなかったことへの無念さはいまも変わることがない。


そして、館員が自殺したこの年の秋、自らの体が病に冒されていることを知る。

癌に関する本を読み漁ったが、なんら楽観できる情報はない。家族の将来がひたすら案じられた。限られた命をどう有効に使うか、時間との勝負となった。


部下の死と自らの病を受けて、書かなければいけない、伝えなければいけないという使命感によって本書は書き上げられました。まさに執念の一冊です。そういう意味で本書は「中国研究」であるとともに、一外交官の「伝記」でもあります。

本書からは杉本氏の信念と日本への熱い想いが伝わってきます。「日本国の外交官として、日本の国益を第一に、地域の平和と安全、繁栄のため、行動してきたと自負している。」とは杉本氏の言葉ですが、本書を読み進めるとそれが偽りでないことがよく分かります。現在で言えば北朝鮮へ日本国の代表として赴くようなもので、外交官としての誇りと国を想う強い気持ちがなければ乗り越えられない障害に囲まれてきた30数年間だったであろうと思う。

本書の解説では杉本氏を「愛国者」と呼んでいます。何かと軍国主義的な響きを伴う「愛国者」という言葉ですが、本書を読み終わった後、この言葉が尊く聞こえます。中国との外交について考えるだけでなく、一人の人間の生き方についても訴えかけるものがある良著だと思います。