おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

BOSSと戯れる

2018-09-05 | Weblog

BOSSが男ならば相手は秘書か、BOSSが女ならば相手は若い燕か。そんなたぐいの官能小説や背徳譚ではない。夏の盛りの午睡で見る夢物語でもない。記憶の断片を呼び起こしながら、BOSSのことを探ってみよう。

最初のひとかけらがこれ。

アルミのキャップを被った瓶? 経口補水液なのかな。

 

次のひとかけらはこちら。

緑色の容れ物かい? あっ、分かった! そんな声を上げた人がいるかもしれない。

 

その次の断片はこれかな。

なになに、シャワージェルにシャンプー。これは風呂場で使う物だね。

体を清潔に保つということは、なにをするのであれ大切なことだよ。

案外、官能小説の線も捨てきれないな。

 

次の次の次はこちらみたいだ。

なんだ、銀色仮面と鉄仮面の対面かい?

 

ここまで来たら、かけらを集めて全貌を描き出そう。

まあ、こんな落ちだとは分かってはいたんだがね。

 

夏の休日の午後、風呂場でシャワーを浴びて洗面台に立ち、バスタオルで体を拭う。鏡に映る上半身。生まれてこの方、わたしの行動を支え、実体そのものである肉体を眺めつつ、手のひらで胸元を軽く叩いてみる。パン、パンという張りのある音が洗面所に響く。目の前に緑色の小瓶がある。いつの頃から置いていたのか。香水だ。少なくとも過去1年間は使っていない。2年前も使っていない。うーん、3年前も使った記憶はない。ふと、香りを味わいたい気になった。ヒューゴボス・スポーツ・オードトワレ。黒いキャップを取り、中の銀色のスプレーボタンを押す。プシュッのプの音が無くて、シュッという勢いのある音ともに香水が胸元に小さく噴霧された。香りが広がる。鼻孔が深呼吸をするように吸い込む。香りは電気信号となって脳内に伝わり、これまで生きてきた中で蓄積された膨大な量の香りの記憶と照らし合わされる。

この香りの第1印象は、爽やかなこと。まず濃厚さは感じない。かと言って、軽くはかないものでもない。調香師ではないので、香りを的確に表現する言葉が乏しい。この爽やかさは暑い夏に打ってつけの涼やかささえ感じる。柑橘系? 透明な緑色の小瓶に相応しい香り? いつまでもまとわり付くような香りでもない。口づけなしの軽い抱擁みたいな感触? 小さい粋すなわち小粋な状態にあえてとどめ置いている香り? この香りに触れた女性はどんな印象を持つのだろうか。男性の爽やかな印象がいつまでも残り、何年、何十年経っても忘れることのない香り。いつか、どこかで、女性はかつて味わった香りに再び出逢い、香水の名を初めて知ることになる。香りの記憶から彼のことが蘇える。どこで、どうしているの。そう想いながら、あのときの香りに触れて微笑みが浮かんでくる。ああ、これだったんだ。想いは香水のように広がる。それにしても素敵な彼だったなあ。 

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