原発再稼働と電力不安、参院選論争で見えない具体策
2022/7/3 15:52福田 涼太郎
電力逼迫参院選2022
関西電力大飯原発の4号機(左)と3号機=福井県おおい町
記録的な暑さに見舞われた首都圏で不安定な電力供給体制が露呈するなど、電力需給に対する関心がかつてないほど高まっている。
10日投開票の参院選では、ロシアによるウクライナ侵攻にともなうエネルギー価格の高騰や、脱炭素の観点からも原発を含めた日本のエネルギー政策に関する議論は不可避な情勢だが、議論が深まっているとはいえず、各党の主張からは現状を打開するような具体策は見えてこない。
日本のエネルギー政策を考える上で、避けて通れないのが原発政策だ。
東京電力福島第1原発事故から11年以上。
これまで16原発27基が新規制基準に基づく原子力規制委員会の安全審査に申請したが、再稼働にこぎつけたのは6原発10基にとどまる。
定期検査中のものなどもあり、足元で稼働中の原発はわずか4基。国内の全発電量に占める原子力の割合は令和3年が約6%で、25%程度だった福島第1原発事故前と比べると、いまだ大きく水があいている。
理由の一つに、規制委による「世界最高水準」(田中俊一前委員長)の厳しい審査がある。
例えば地震対策で、評価対象の断層を活断層かどうか判断する際、従来通り「12万~13万年前以降」の活動の有無を基準とする一方、周囲の地層を調べても活動性が不明な場合は「40万年前以降」まで遡(さかのぼ)って検討することを新たに要求。
活断層は重要施設の直下にあれば運転が認められず、近くであっても強力な対策が求められるだけに、電力会社からは「厳しすぎる」との声も上がる。
自然災害や原子力事故だけでなく、テロ対策も審査対象で大型航空機の衝突を想定することが求められる。
審査を申請してから7月で9年となる北海道電力泊原発をはじめ、行政手続法上の標準処理期間と定められている2年を大幅に超えるケースが相次いでいる。
安全審査をパスしたとしても、新規制基準に適合させるための対策工事を終えなければならない。
日本原子力発電東海第2原発(茨城県)のように、平成30年の審査合格後も地元の不安感を払拭できず、再稼働に向けた合意を自治体から得られていない事例もある。
こうしたことを背景に、昨年は全発電量の7割以上を火力発電が占めた。
今夏の電力不足に伴い、運転停止中の火力発電所を復活させる動きも出ている。
天然ガスや原油など大量の燃料を使う火力発電は、現在のように価格が高騰している時期には発電コストが高まり、電気料金への転嫁につながる。
その上、二酸化炭素を多く排出するため、世界的な脱炭素の流れにも逆行することになる。
冬には需給がさらに逼迫(ひっぱく)するとされ、今後のことを考えれば国のベースロード(基幹)電源をどうするのかは必要な議論だが、与党関係者は「原発の議論は票が減ることはあっても、増えることはない」と前向きな議論には及び腰で、まともな代案を示せない野党からも説得力のある議論はうかがえない。
こうした状況に、経済同友会の桜田謙悟代表幹事は6月29日の記者会見で「原発の再稼働を今以上に進めていかないと、いつまた同じこと(現在のような電力不足)が起きるか分からない」と懸念を口にした。
コスト、安定性、安全性、そして時間軸の観点から、どのエネルギーをどれだけ活用していくべきなのか。選挙戦で有権者の判断に資する材料が具体的に示されることが期待される。(福田涼太郎)
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