孤帆の遠影碧空に尽き
年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。
中国で拡散した「異例」の体制・習主席批判 更なる拡大は疑問 イランで続く体制批判
2022-11-28 23:17:43 | 中国
(中国上海市中心部で新型コロナウイルス対策に抗議する人たち(共同) 撮影:2022年11月27日【11月28日 ニッポン放送NEWS ONLINE】 掲げられている「白紙」は言論統制への批判で、自由を求める象徴)
【異例の共産党・習主席批判】
ここ数日で一番印象的な出来事は、中国で「ゼロコロナ」への不満から、上海や北京などで「習近平は退陣せよ」「共産党は退陣せよ」とのシュプレヒコール、白い紙を持って「私たちには今、自由がない」「PCR検査はいらない、自由が欲しい」などと叫んだ若者・・・といった、これまでの中国では表だって見られなかった共産党支配体制への抗議が表面化したことです。
これまでの抗議行動の対象は地方政府や企業などで、共産党支配体制や習近平主席への批判は見られませんでした。
****「習近平は退陣せよ」極めて異例の抗議行動、上海や北京など中国各地で相次ぐ…ゼロコロナに反発****
新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込める中国政府の「ゼロコロナ」政策に対する国民の反発が強まり、26〜27日に上海市や北京市など中国各地で抗議行動が相次いだ。
SNS上では、住民らが習近平シージンピン国家主席の退陣を要求する場面の動画が拡散している。中国の街頭で最高指導者が直接批判されるのは極めて異例で、抗議はさらに広がる可能性がある。
上海の大規模な抗議行動は、中心部の「ウルムチ中路」で起きた模様だ。新疆ウイグル自治区ウルムチ市で24日夜起きたマンション火災の犠牲者追悼のために住民らが集まったとみられる。この火災では、地元当局の封鎖措置のために住民の退避や消火活動が遅れたと指摘され、反発が広がっていた。
動画では、若者らが「習近平は退陣せよ」「共産党は退陣せよ」とシュプレヒコールを上げた。27日午前2時過ぎに現場近くにいた女性によると、周辺は車両通行止めとなり、大量に動員された警官が抗議の参加者を取り囲んでいたという。
現場の周辺には歴史的建造物やカフェが多く、普段は散策を楽しむ人々でにぎわうが、27日午後には、多くの警官が人々に目を光らせ、花を手向けようとする若者を制止していた。
首都・北京市では27日夜、市中心部に100人を超す若者らが集まった。多数の警官が警戒にあたる中、若者らは「自由が必要だ」「上海頑張れ」と気勢を上げ、行き交う車がクラクションを長く鳴らして賛意を示していた。若者らが労働歌「インターナショナル」や中国国歌を歌って抗議の意を示した。
抗議に参加した会社員の男性(25)は「人権や自由を犠牲にした『ゼロコロナ』政策には、もう我慢がならない」と憤っていた。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、北京市では26日にも、複数の地域の住民が封鎖された居住区から出てデモを行ったという。
AFP通信は27日、習氏の母校・清華大学でも多くの学生が抗議の声を上げたと報じている。SNS上では、全国各地の大学で学生らの抗議が伝えられている。
習政権はこれまで、強権手法で体制批判を抑え込んできたが、反発が表面化し始めている。
官製メディアは各地の抗議行動について報じていない。国内のSNSでは抗議に関する動画や書き込みが次々と削除されており、習政権は、不満の高まりが各地で連動することを強く警戒している。
中国本土では、26日の新規の市中感染者数が約3万9500人となり、最多を更新した。感染者は増加傾向が続いており、習政権が、住民の不満の背景にある厳しい移動制限を大幅に緩和するのは困難とみられる。【11月28日 読売】
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【「天安門事件」当時とは全く異なる政治・社会状況】
確かに「異例」の事態であり、習近平政権にとっては大きな政治的ダメージではありますが、更に抗議行動が拡大して天安門事件のような悲劇を生むのでは・・・といった危惧に関しては、個人的には「そこまでのものにはならないのでは・・・」という印象を持っています。
当局側は抗議行動を全面的に力で封じ込めることで「火に油を注ぐ」ような事態を避け、様子を見ながら事態の鎮静化を促す方針のようです。
****「自由が欲しい」北京など中国各地で一斉に反“ゼロコロナ”抗議デモ 上海のデモ現場は「一晩で交差点が塀に…」****
(中略)
抗議活動は上海市内の中心部でも連日行われ、当局は一部の市民を拘束するなどして排除に乗り出しました。
けさ、デモが行われた場所を訪れると。
記者 「一夜にして交差点が塀で囲われてしまいました」(後略)【11月28日 TBS NEWS DIG】
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****上海デモ現場で2人逮捕****
中国・上海で新型コロナウイルス感染拡大を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策に対する抗議が週末に行われたが、その現場で28日、2人が警察に逮捕された。AFP記者が目撃した。
記者がそのうちの一人の逮捕理由を警官に尋ねると、「われわれの取り決めに従わなかったためだ」と答え、地元の警察署に問い合わせるよう告げた。
27日に大規模なデモが行われたウルムチ通りでは、28日朝までに警察の封鎖が解かれ、交通が再開された。ただ、配備された警察官の人数は減ったものの、通りの両側には青いついたてがずらりと並べられている。
警察は人々を呼び止め、携帯電話で撮影した写真を削除するよう命じていた。通りの看板を撮影した男性と警察官が議論する一幕も見られた。 【11月28日 AFP】
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1989年の天安門事件の当時を知る者からすると、今回のような行動が起きたことだけでも「中国の若者は天安門事件の経緯を要らず、共産党政権の怖さを知らないからできるのだろうけど・・・」といった印象。
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天安門事件は、民主化を求めて天安門広場に集まった若者を中心とするデモ隊を中国共産党政権が戦車まで投入して、抑え込んだ事件です。武力行使により多数の死傷者を出しましたが、その人数はいまだに分かりません。
天安門事件は中国国内ではなかったことになっています。ですから、今の中国の若い人の多くは天安門事件を知らないのではないでしょうか。
今回、中国各地に広がっている抗議デモは、天安門事件を知らないからこそ起こせるのかもしれません。中国共産党政権の恐ろしさに実感がないのかもしれませんね。
天安門事件を知っている世代は、中国共産党政権に歯向かうと殺される危険があるという意識がありますから、恐ろしくて抗議デモなどできないと思いますよ。【11月28日 辛坊治郎氏 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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ただ、警察当局の抑制された「圧力」を跳ね返して、抗議行動が更に拡大・激化するというのは、考えづらいところです。
民主化・政治改革を求める天安門事件当時の学生には、自分たちの思いは政権中枢にきっと届くという「希望」があり、そのために長期にわたって抗議を続ける「熱気」もありました。
実際、趙紫陽総書記のように学生の前に姿を表し、その訴えに理解を示す政治家が権力中枢にも存在していました。
また、当時の人民解放軍は地方ごとの「軍閥」的な色彩も残っており、「改革」路線を支持する軍組織もあるのでは・・・その結果、内戦みたいなものになるのでは・・・といった危機感(体制にとっては不安定感)もありました。
しかし、今の時代にそうした「期待」や「熱気」は・・・・どうでしょうか? 不満をぶつける一夜の騒動はあり得ても、それ以上のものは・・・
軍・警察も完璧に習近平支配体制に組みこまれており、そこには微塵の揺らぎもありません。昨夜の抗議行動では「(警察は)共産党の手先になるのをやめろ!」といった声もあったようですが・・・。
SNS社会では、抗議の声が一気に拡散するのは助長しますが、やはり抵抗組織がないところでは抗議行動は長続きしません。
なお、“爆発寸前の不満をそらすため、権力者が国民の関心を外に向けるのは常道といえる。石平氏は「習政権が国内の混乱を収拾するため、予定より早く台湾統一の動きを早める危険性が出てくるだろう」と指摘した。”【11月28日 夕刊フジ】といった指摘も。
【イラン 覚悟の体制批判】
中国以上に体制批判の抗議行動が長期化し、当局側の弾圧も熾烈なものになっているのがイラン。
****デモ弾圧続けるイラン、サッカー元代表選手を逮捕…「政権へのプロパガンダ広めた」****
イランのファルス通信などによると、サッカーイラン元代表のウォリア・ガフーリ選手(35)が24日、「代表チームを侮辱し、政権に対するプロパガンダを広めた」として逮捕された。イランで続く抗議デモへの支持を示してきたことが影響したとみられる。
ガフーリ選手の逮捕は、ワールドカップ(W杯)カタール大会で、イラン代表が21日の初戦で国歌斉唱をせず、デモへの連帯を示したとの見方が広がるなかで行われた。抗議活動の拡大を警戒した政権側による警告との見方も出ている。25日のウェールズとの第2戦では、代表選手の多くが国歌を歌った。
イランでは9月中旬に女性の髪を隠すスカーフの着用が不適切だとして拘束されたクルド人女性が死亡したことをきっかけに、抗議デモが拡大した。
女性の出身地の西部クルディスタン州を含むクルド人居住地域を中心に、今も各地でデモと治安当局による厳しい弾圧が続く。クルド人居住地域では、先週だけで死者が50人を超えたとする人権団体の報告がある。
同州出身のクルド人のガフーリ選手は21日、「クルドの人々を殺すのをやめて」とツイッターに書き込んだほか、弾圧の犠牲者の遺族を見舞うなど、抗議活動に寄り添う姿勢を示していた。【11月25日 読売】
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ハメネイ最高指導者の親族からの批判も。
****イラン最高指導者の姪、体制との断交を世界に呼びかけ****
イランの最高指導者ハメネイ師の姪で著名人権活動家のファリデー・モラドハニさんが諸外国政府に向けて、女性の髪を隠すスカーフのかぶり方が不適切だとして拘束された女性が死亡したことを巡り抗議デモを弾圧するイラン政府とは一切の関係を断つよう訴えている。
ファリデーさんの兄でフランス在住の反体制派マフムードさんが25日、ファリデーさんの動画メッセージをユーチューブに投稿したのをきっかけに、動画が拡散した。
イランの人権活動家通信(HRANA)は23日、マフムードさんの話としてファリデーさんが当局に拘束・収監されたと伝えていた。ファリデーさんの拘束は今年2度目。ファリデーさんはエンジニアで、ハメネイ師のきょうだいと結婚した父親も著名な反体制派の人物。父親は最近亡くなった。
動画は「人殺しで子ども殺しのこの体制を支持するのをやめるよう、あなたがたの政府に呼びかけてほしい」と訴え、「この体制は宗教のいかなる原理にも忠実ではなく、武力と権力維持以外の統治を知らない」と主張。「今こそイランから各政府代表を引き揚げ、各国・地域からイランの体制代表を追放する時だ」と呼びかけている。
HRANAによると、イラン全土で2カ月以上続く抗議デモでは、26日時点で未成年63人を含む450人が殺害され、1万8173人が拘束されている。【11月28日 ロイター】
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クルド人サッカー元代表選手のガフーリ氏にしても、ハメネイ師の姪ファリデー氏にしても、やがて自身に当局の手が及ぶことは覚悟のうえでの抗議でしょう。
専制政治体制に抗議の声をあげるというのはそういう覚悟を必要とするものであり、そうした者が牽引する形で一般の人々の抗議も拡散継続するのでしょう。