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韓国・台湾のCOVID-19への対応 ―コロナ禍があぶり出した諸問題、台湾抑え込みの成功要因―

2021-04-30 18:16:49 | 日記

韓国・台湾のCOVID-19への対応
―コロナ禍があぶり出した諸問題、台湾抑え込みの成功要因―

 

松田春香
2021/04/02

 2019年12月以降、中華人民共和国(中国)湖北省武漢市において、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の発生が報告された。その後、流行は中国から世界各地へと拡大し、収束への目途は未だ立っていない。ここで取り上げる大韓民国(韓国)・台湾は、COVID-19の「第1波」への対応がうまくいった優等生として、評価されることが多かった。ところが、本格的な冬を迎えた韓国では、2020年11月より「第3波」が到来し、12月末には新規感染者数が最多の1200人超を更新した。経済と両立する「K (Korea)防疫モデル」は、まさに危機に瀕している。
 オーストラリアのシンクタンクであるローウィー研究所(Lowy Institute)が21年1月末に発表した、世界98か国・地域のCOVID-19への対応力ランキングによれば、台湾は3位、韓国は20位であった1。「第1波」当初は、アジアの「優等生」と評価された両者に差が生じたのはなぜか。また、韓国・台湾の社会でどのような問題があぶりだされたのか。
なお、対象地域の COVID-19の発生状況は、8月末までの対応を主にまとめたものであることを予めお断りしておきたい。

感染拡大の2つの波
 2020年8月中旬より、韓国では患者数が急激に増加し、「第2波」が起きた。同年2~4月の「第1波」が韓国第三の都市である慶尚北道大邱(テグ)広域市を中心に起きた感染爆発であった2。一方、「第2波」は、韓国の総人口の50%が居住する、首都圏(ソウル市・京畿道・仁川市)で起きた教会関連の集団感染をきっかけに、市中感染が流行した。21年1月末現在も、韓国国内の新規感染者数のうち、首都圏が半分以上を占めている。
 「第1波」「第2波」のきっかけは、どちらも「異端」とされる教会を中心とする集団感染であった。「第1波」は、韓国の新興宗教「新天地イエス教のしの」(以下、新天地教会)の信者たちで起きたCOVID-19集団感染が契機となった。新天地教会は、慶尚北道清島チョンド)出身の李萬煕(イ・マンヒ)会長が1984年に設立したキリスト教系新興宗教である。ソウル近郊の京畿道果川(キョンギド・クァチョン)市の本部をはじめ、全国組織を12の支派に分かれており新天地側が明らかにした韓国国内の信者数は23万人であるという。新天地教会信者は中国にもおり、およそ2万人のうちのほとんどは北京・上海・大連などの大都市にいるとされる。武漢市の支部からCOVID-19を持ち込んだ信者からクラスター(感染者集団)に発展した3
 「第2波」は、1983年に全光焄(チョン・グァンフン)牧師が創設した「サラン第一教会」(ソウル市城北(ソンブク)区)の信者たち(50代以上が大半)が、20年8月15日の光復節(日本による植民地支配からの解放記念日)にソウルの中心部・光化門(クァンファムン)で政府批判を行う大規模集会を行い、集団感染が起きたことにより始まった。「サラン第一教会」は、大韓イエス教長老会に属するプロテスタント教会であり、登録信者は約3000~4000人いるとされ、極右政治団体の一面もあった。集団感染後、キリスト教主流派からは「異端」という烙印を押された。

「コロナ禍」で露呈した問題
 COVID-19発生後、韓国国内ではどのような議論が起きたのか。以下、四点を挙げる。
韓国社会の「マジョリティ」(多数派)が避けてきた「マイノリティ」(少数派)をめぐる諸問題がいっそう露呈したと言える。
 
(1)「防疫」か「信教の自由」か
 まず、「防疫」と「信教の自由」のどちらを優先するのか、という問題である。「第2波」が本格化する前の7月、小規模クラスターが発生しているという理由から、韓国の防疫当局は教会での小グループでの集まりを禁止した。それに対し、「憲法が保障する宗教の自由を侵害する」とキリスト教界は反発した。その後起きた「第2波」の発生源も教会であったことにより、キリスト教4に対する韓国社会の見方も厳しくなった。
 
(2)プライバシー保護―性的少数者(セクシャルマイノリティ)をめぐる問題―
 第二に、性的少数者(セクシャルマイノリティ)のクラスターが発生した際、 感染抑制か、それともプライバシー保護かを巡り問題になった。韓国では、2015年5月~7月に流行した中東呼吸器症候群(MERS)5の経験から、個人を特定可能な携帯電話の全地球測位システム(GPS)による位置情報6、クレジットカード7や交通カードの履歴、防犯カメラ8を用い、感染者の移動経路を正確に把握できる法制度が20年2月のCOVID-19発生以前に整備されていた。そのため、自治体のホームページなどでは、市民への注意喚起のため、感染者の年齢や性別、居住する町名、感染前後の詳細な移動経路などが分単位で公開された。これは、検査で素早くを見つけ、感染者の動きを追跡して他者への感染を予防し、患者にしっかり対応するという、「3T(Test、Trace、Treat)」に加え、市民参加(Participation)からなる、韓国政府が掲げ、世界に誇る「K防疫モデル」の重要要素でもある。
 20年5月8日、ソウル市の梨泰院(イテウォン)での「クラブ集団感染」が発生したとの報道があった。その第1号患者は、29歳男性であった。男性は高熱がありながら、「社会的距離の確保」から「生活防疫」へ移行する前の同月1日夜から翌日早朝にかけて「性的少数者向け」クラブなど五店を訪れ、6日に感染が判明。すぐに濃厚接触者から13人の陽性者が確認された。報道の翌日、男性が住むマンションの入り口には、男性を非難する張り紙が貼られ、ネット上でも批判が殺到した。伝統的な家族観を重んじる儒教、キリスト教保守派、徴兵制などの影響により、韓国はOECD加盟国の中でも同性愛者の受容度が低く9、もともと性的少数者への偏見があった上、COVID-19への感染により、いっそう非難が強まった。
 その後、アウティング(性的指向暴露)を恐れてPCR検査を受けないケースが続出したため、ソウル市は匿名でのPCR 検査を導入した。そして、中央災害安全対策本部(中対本)会議は、感染者動線公開ガイドラインを改正した。最初の患者の動線を公開する時だけ店名など特定可能な情報を公開し、それ以降は同じ店を訪問した感染者がいても、店名などは公開しないこととし、各地方自治体にも通知する方針を打ち出した。
 
(3)移住労働者・外国人へのヘイト・スピーチ、災難支援金未支給
 移民労働者・外国人へのヘイト・スピーチ(韓国では「嫌悪表現」と呼ばれる)に関する問題である。韓国に住む外国人は、2018年、200万人を突破した。出身国は、中国が最多であり(中国朝鮮族を含む)、ベトナム、アメリカ合衆国(米国)、タイの順である10。2020年初、中国の武漢地域を中心にCOVID-19が広まった際、韓国では、大統領府のホームページに国民がオンラインで希望を申し立てることができるサービスがあるが、「中国人入国禁止要請」という国民請願が約76万人の同意を得た。また、同年の旧正月(1月25日)の連休前後、中国同胞密集居住地域であるソウル市大林洞(テリムドン)と韓国で1990年代後半より増加した中国朝鮮族に対するヘイト発言が相次いだ。
 韓国政府は、「国民のセーフティーネット」として、「緊急災難(災害)支援金」(4人世帯以上の場合、1世帯あたり100万ウォン(約88,000円))を支給したが、20年3月末基準で韓国国内に長期滞在する外国人約173万人のうち、「結婚移民者(F-6)」 と「永住権者(F-5)」(約2万人の華僑など)以外の約144万人が災害支援金の支給対象から除外された。韓国で税金を払っている移住労働者も災害支援金を受けられなかった。
 同年6月11日、国家人権委員会(2001年設立された韓国国内の人権機関。司法・立法・行政から独立している。以下、人権委)は、外国人から災難支援金支給に関連した苦情を受け付けた後「外国人住民を災難支援金の対象から除外したのは合理的な理由がない差別」と判断し、ソウル市に改善を勧告した。
 そのため、ソウル市は、2020年第3回補正予算案(2兆2,390億ウォン(約2,053憶円)規模)に外国人災難緊急生活費予算(330億ウォン程度)を盛り込んだと発表した。対象となるのは、外国人登録を済ませて韓国で所得活動をしている外国人とその外国人世帯構成員であり 、ソウル市に居住し、税金を支払っている外国人労働者にも「ソウル市災害緊急生活費」が支給された。
 20年6月、人権委は、国民認識調査を公開し、回答者の88.5%は差別禁止の法制化に賛成すると答えたという。19年3月に人権委が実施した「国民認識調査」と比べ、約1年間で賛成の割合が15.6ポイント増加した。また、回答者の91.1%は、最近の「コロナ禍」で「誰かを嫌悪する視線・行為が結局は(自分自身に)ブーメランになって返ってくる」と考えたと答えた 。一部大規模プロテスタント教会などの宗教界からの抗議が根強い、差別禁止の法制化が今後進むかどうかが注目される。
 
(4)「ベーシックインカム」導入に関する議論と今後の展望
 「コロナ禍」前から存在する「経済的格差」への対応として、「ベーシックインカム」(最低所得保障、BI)11導入に関する議論がある。先に述べたように、日本の「特別定額給付金」と同じように、韓国でも支給された「緊急災難(災害)支援金」をきっかけに、議論が始まった。アジア映画初の第 92 回 アカデミー 賞作品賞受賞などの快挙を成し遂げた韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督、2019年制作)でも描かれていたように、競争が激しい韓国における社会・経済格差は深刻であるため、格差是正や福祉の充実に熱心な左派からのみならず、「小さな政府」を志向する右派からもBI導入の声が上がっている。韓国政府は、BIに慎重な立場を取っている上、韓国の福祉水準は経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の半分程度である12。低所得層にターゲットを当てた福祉を行うべきだという考えも根強いため、韓国国内での合意形成にはまだ時間が掛かりそうである。

「コロナ禍」の韓国の対外関係―経済への影響、外交上の課題―
 「コロナ禍」における韓国の対外関係として特筆すべき点は、韓国経済が貿易に依存しているため、脆弱さを露呈したことである。2019年の韓国経済の貿易依存度は63.7%であり、「最大のパートナー」である中国との貿易額は、輸出額の約25%、輸入額の約21%をそれぞれ占めた。「コロナ禍」では、中国からの部材(ワイヤーハーネス(Wire Harness))の輸入が中断し、韓国国内の工場の操業が一時停止する事態が特に問題となった13。20年10月、韓国貿易協会が発表した2020年1~9月の輸出入統計によれば、輸出は前年同期比8.6%減の3,709億6,900万ドル、輸入は9.1%減の3,433億5,600万ドルだった14。輸出入の減少は、韓国経済全体への影響も避けられず、2020年のGDP(国内総生産)は前年比1%減と、アジア通貨危機の影響を受けた1998年以来のマイナス成長となった15
 また、韓国が経済的にも依存し対北朝鮮問題での協力を求めたい中国と、軍事同盟関係にある米国との間でどのようにバランスを取るか、という「コロナ禍」以前からの外交上の課題も突きつけられている。2017年に起きた韓国と中国は在韓米軍への米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「終末高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備を巡る対立は、現在も続いている16。  
 17年以降、中国政府は、韓国への団体観光客の渡航禁止、韓国のゲーム、ドラマの流入禁止などいわゆる「限韓令」(韓流制限令)を行っており、韓国経済への深刻な打撃がこれまでも指摘されてきた。韓国政府は、これら報復制裁措置の解除への道筋を模索すべく、習近平(シージンピン)国家主席の2020年内の韓国訪問実現を目指していた。20年5月には、韓国大統領府(青瓦台)の姜珉碩(カンミンソク)報道官は、文在寅(ムンジェイン)大統領と習近平国家主席との電話会談の結果、習主席の年内訪韓を推進することで一致した、と発表した17。ところが、習主席の訪韓は韓国の「第3波」などを理由に見送られた上、悪化する日韓関係を理由に、韓国が議長国を務める予定であった日中韓首脳会談の開催も実現できず、米国のバイデン(Joe Biden)新政権誕生後に課題は持ち越された。

台湾のコロナ抑え込みの成功要因
 COVID-19への対応力ランキング3位の台湾で感染が確認された943人のうち、台湾域内で感染が確認されたのは、77人、死亡者数も9人にとどまり(2021年2月14日現在)、感染拡大を抑え込んでいる。なぜ抑え込みに成功したのか。また、防疫政策の外交・経済への影響はどうか。
 
(1)迅速な初動対応―水際対策の強化―
 台湾は、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行18など、中華人民共和国(中国)から伝播する感染症の脅威にさらされている。また、世界保健機関(WHO)に加盟しておらず、2016年以降「オブザーバー参加」も出来ないため19、独自に情報収集をし、感染者が確認される前に水際対策を強化するという迅速な初動対応を取った20
 台湾で新型コロナウイルス感染による肺炎の初めての症例が発表されたのは20年1月21日のことであったが、感染者発生前から台湾は政策を講じた。前年12月末には、台湾の衛生福利部(厚生省に相当)疾病管制署(CDC)の高官が、「武漢肺炎」の流行に警鐘を鳴らしていた、武漢の眼科医・李文亮医師(後に自らも感染して死去)によるインターネット上の投稿を目にし、検疫強化を指示する21と同時に、中国疾病管理センターに当該感染症に関する情報提供を依頼した。WHOにも武漢で呼吸器系の感染症が発生したと通報し、WHOから「受信した」との返答があったという。12月31日には、武漢からの直行便の機内立ち入り、検疫を開始するとともに、市民への啓蒙活動を始め、市中感染が広がらないようにした。
 
(2)専門知識を持つ閣僚の存在
 20年1月2日には、台湾政府は、「武漢肺炎」について対応を協議し武漢からの入国者への検疫を強化するとともに、医療機関にも情報を提供した。同月12日には、二人の専門家を武漢に派遣し、最新状況の把握にあたった。その後、すぐに台湾のCDCは「中央流行疫情指揮中心」(中央感染症指揮センター、新型肺炎対策本部に相当。)を設立。センター長には、台湾歯科医師会会長を務めた、陳時中(チェン・シーヂョン)・衛生福利部長(衛生相)が就任した。また、米ジョンズ・ホプキンス大学で公衆衛生・流行病の博士号を取得し、SARS流行時の対応にあたった専門家でもある陳建仁(チェンチエンレン)・前副総統(20年5月退任)や医師出身の前行政院副院長(副首相にあたる)22の陳其邁(チェンチーマイ)ら、医学知識を持つ閣僚の存在も大きかった。
 
(3)TOCCの把握と公開
 TOCC(渡航歴(Travel history)、職業(Occupation)、接触歴(Contact history) 、人込み(Cluster)に行ったかどうかを表すデータを携帯電話の微弱電波を利用した「電子フェンス(electronic fence)」や街の防犯カメラなどから収集し、自主隔離者を管理する。プライバシーの侵害とデマの拡散を防止しながら、一部情報を市民にも公開した。また、2003年のSARS流行の教訓などから、市民側も強制措置を取らなくても、民間での自主的な検温・マスク着用などに取り組んでいる。
 
(4)マスク不足への対応
 マスク不足対策も早かった。20年1月24日には、医療用マスクとN95マスク輸出を禁止し、同月31日には全ての医療用マスクを政府が徴収した。台湾独自でマスクを増産し、中国への輸出禁止をすると共に、プログラマー出身のオードリー・タン(唐鳳)デジタル担当政務委員(大臣)が市民エンジニアと協力し、「マスクマップ」アプリをわずか3日間で開発し、販売する薬局の場所とその在庫量などの情報を公開した。列を作らず、かつ健康保険カード(保険証)23に購入履歴をつけることにより、全住民がマスクを平等な数を平等な価格で購入できる仕組み(「マスク購入実名制」)を整えた。それにより、二重販売や販売ミスを防ぐことが出来る。
 COVID-19流行前、台湾の1日当たりのマスク生産量はわずか188万枚だったが、20年4月末までに1700万枚超まで増加し、生産量は中国に次ぐ世界2位へと躍進した24。その後も増産を続け、同年末の経済部(経済省)の発表によれば、医療用マスクの1日あたりの生産量は平均2400万枚に達し、1日最大3000万枚の生産が可能であるという25

台湾による「マスク外交」の成果と限界
 台湾は、これらの防疫政策を“Taiwan can help, and Taiwan is helping!”26と題し、増産したマスクを諸外国に配布する「マスク外交」などを展開し、外交的成果を得た。20年4月、蔡英文(ツァイインウェン)総統は、米国や欧州などの医療関係者にマスク1千万枚を贈ると表明した。米国に200万枚、イタリアやスペイン、英国など欧州の国々に700万枚、台湾と外交関係を結ぶ国々に100万枚(日本へは200万枚)を供与するなど、計5千万枚のママスクを寄付した。同年8月には、アザー(Alex Azar)米厚生長官が台湾を訪問した。1979年の米国との断交以来初めてとなる、米国の高位高官による訪台であった。米国のバイデン(Joe Biden)新政権発足後も米国が台湾を重視する姿勢に変化はない。台湾の実質的な駐米大使である蕭美琴(シャオメイチン)・台北駐米経済文化代表処代表は、今年1月、米国との断交以降初となる、米大統領の就任式へ出席した。
 中国への対決姿勢を取る2016年の蔡英文・民進党政権発足後、中国側の圧力により台湾は7カ国との外交関係断絶に追い込まれた。対中政策も大きな争点となった台湾総統選挙戦最中の2019年9月16日、中国がソロモン諸島と、同20日にはキリバス共和国とそれぞれ外交関係を結んだ27結果、台湾を承認し外交関係があるのは、15カ国まで減少したため、台湾は外交で巻き返しを図ろうとしている。
 1991年に独立を宣言し、アフリカ東部のソマリアで半独立状態を続けているソマリランド共和国28との間で相互に代表部を設立することで合意した(ソマリランドを承認している国は無い)。20年8月、台湾は「台湾駐ソマリランド共和国代表処」(Taiwan Representative Office)を設置し、翌9月にはソマリランド(Somaliland Representative Office)が台北市に代表機関を置いた。また、台湾はソマリランドに対し、マスク15万枚と白米100トンを寄贈し29、「マスク外交」が功を奏した上、孤立を強いられている特殊な国際的立場にある、という両者の共通点から相互に代表部を設置することになったが、それぞれ中国、ソマリアから反発を招いた。
 今年2月4日午前(台湾時間)、台湾の外交部(外務省)が、先月11日に締結した代表機関設置に関する協定に基づき、南米・ガイアナでの代表機構「台湾弁公室」(Taiwan Office)設置を明らかにした30直後、24時間以内にガイアナ政府は一方的に協定破棄を宣告した。ガイアナは中国と外交関係がある一方、台湾とは外交関係を結んでいない。中国メディアなどの報道によれば、1月末、ガイアナは中国から2万回分の新型コロナウイルスのワクチン提供を受けると表明したという31。ワクチン提供をめぐり中国がガイアナに圧力を掛けた可能性が高く、蔡英文総統をはじめ、台湾政府は「深い遺憾」を示した32。COVID-19のワクチンが世界的に重要な外交カードとなりつつあるなか、中国の「ワクチン外交」に屈する結果となった。

好調な台湾経済
 COVID-19のパンデミックにより世界経済が低迷するなか、台湾の行政院主計総処(統計局などに相当)の発表によれば、2020年台湾の域内総生産(GDP)が2.98%増となる可能性が高く、世界的にも珍しいプラス成長を記録した。その理由として、以下の三点が考えられる。第一に、台湾域内での感染を抑え込んだ上、自己負担額の3倍の買い物ができる金券(「復興三倍券」)33の発行などの消費刺激策が一定の効果をあげたため、消費の落ち込みが小幅にとどまったことである。第二に、米中貿易摩擦のため、半導体や電子分野を中心に多くの振替受注が発生したこと、また、「コロナ禍」での「テレワーク」「オンライン学習」の拡大もノートパソコンなどの受注拡大につながり、輸出を押し上げたことである。第三に、米中対立の影響を回避するため、企業が台湾に回帰する傾向にあることである34

「コロナ禍」で深刻化した外国人労働者をめぐる問題
 コロナ抑え込みに成功している台湾社会でも「コロナ禍」でより深刻化した問題もある。韓国同様、外国人労働者をめぐる問題が挙げられる。「コロナ禍」前から、台湾において家庭介護などに携わる、主に東南アジア出身の外国人労働者(「外籍家庭看護工」)のうち、約5万人が「失踪」状態にあった。
 20年2月に不法滞在のインドネシア人ケア労働者がCOVID-19 に感染していたことが明らかになると、労働部(雇用・労働を管轄する省庁)は外国人労働者の「不法」滞在取り締まりを厳格化した。また、台湾社会でも誹謗中傷する排外的な言説が、メディア報道やインターネット上で持ち上がった。このような動きに危機感を感じた台湾の大学教員5名は、「移住労働者の包摂こそが最良の感染症予防措置である」声明を発表した35。台湾における外国人労働者の待遇が改善されるかどうか、今後の動向を注視していきたい。

韓国・台湾の共通点
 韓国と台湾が「第1波」を抑え込んだ理由として、どちらもCOVID-19 以前の感染症流行(韓国は2015年のMERS、台湾は2003年のSARS)の教訓を生かし、感染症拡大を防止する仕組み作りを既に整えていたことである。具体的には、以下の四点である。
 過去の感染症流行後、感染症対策を強化するための法改正が既に行われていたことである。韓国の場合は、2015年のMERS感染拡大後に行われた法改正の要点は、「①感染症専門病院設置の根拠規定の新設(第8条の2)、②疫学調査において、正当な理由なくこれを拒否・妨害・回避する行為、虚偽の陳述、虚偽の資料提出、故意に事実を告げない行為及び故意に隠蔽する行為の禁止(第18条第3項)、③感染症の拡大時に長官が感染症患者の移動経路、移動手段、診療医療機関、接触者の現況等の情報を迅速に公開する条項の新設(第34条の2)、 ④ 感染症患者等の確認のための調査・診察を拒否する者に対する強制隔離規定の新設(第42条第5項)、⑤感染症の発生現場における防疫官及び疫学調査官の権限強化(第60条及び第60条の2)、⑥医療従事者、医療機関、感染症患者等に対する支援(第70条の3及び第70条の4)」36など、広範囲に及ぶ。
 台湾では、陳水扁(チェンシュイピェン)総統再選後の2004~2005年にかけて、「傳染病防治法」などの改正が行われた結果、自宅隔離制度や感染症の医療施設指定などが可能となった37。韓国・台湾ともに法改正により、IT技術を用いた徹底した感染経路追跡が可能となった。
 第二に、感染症対策を行う米国・疾病対策センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention)にあたる専門機関の設置など、行政の仕組みが強化されたことである。台湾では、「衛生署組織法」「疾病管制局組織法」が改正され、中央政府と地方政府を横断的に指揮できる国家衛生指揮センター、その傘下の「中央流行疫情指揮中心」(CECC、日本では「中央感染症指揮センター」などと呼ばれる)が開設された。中央流行疫情指揮センターは常設組織ではなく、公衆衛生上の重要事態だと判断された場合にのみ立ち上げられる(COVID-19に対応する指揮センターは、20年1月20日に設置された)。この指揮センターには、専門家会議、疫病監視チーム、国境検疫チーム、地域(社区)防疫チーム、医療応変チーム、研究開発チーム、メディア担当チームが組み込まれている38
 韓国では、MERS感染拡大の翌年の2016年、保健福祉部(日本の厚生労働省に相当)内に疾病管理本部が発足した。20年9月には、「疾病管理庁」に格上げされ、権限が強化された。これまでの疾病管理本部よりも384人増員し、人員は1,476人となった。「疾病管理庁」は、国立保健研究院、国立感染症研究所、疾病対応センター、国立結核病院、国立検疫所などを傘下に置き、感染症の監視と対応から予防研究・ワクチン開発の支援までを統括するコントロールタワーとなり、権限が強化された39。感染症の動向を24時間体制で監視する総合状況室や感染症情報を収集・分析して予測する危機対応分析官も新設された。初代疾病管理庁官として任命されたのは、予防医学を専門とする医官出身であり、疾病管理本部長だった鄭銀敬(チョンウンギョン)である。英BBCは「疾病管理本部の初の女性本部長であり、今は疾病管理庁長として、パンデミックの中、毎日、記者会見に登場し、明確で分りやすく落ち着いたブリーフィングをすることで有名だ」40と評価し、鄭銀敬を「ことしの女性100人」の1人に選んだ。
 第三に、二番目に挙げた感染症対策専門機関が、市民への情報提供を積極的に行うことにより協力を促すという、リスクコミュニケーションの機能も担っていることである。台湾・韓国ともに、過去の感染症流行から「感染症対策には国民の協力が必須であり、国民から信頼されなければ効果を上げられない」41という教訓を得た。正確な情報を迅速に提供するため、感染症専門機関の長などの専門家(台湾は陳時中・衛生福利部長ら、韓国は鄭銀敬・疾病管理庁長ら)が、毎日定時に(日によっては複数回)記者会見を行い、テレビやインターネットで同時配信される。
 先に述べたように、IT技術を駆使して感染経路の追跡を徹底的に行い、感染者の行動履歴を匿名で公開し、市民への協力を呼び掛けた。IT技術を使った感染経路の追跡方法は、韓国・台湾で若干異なる42が、当局が個人情報を収集したり、防疫措置の違反者を法律で取り締まったりする対策に対する抵抗感が少ないのは、過去の感染症流行の教訓から市民が必要性を痛感していることに加え、長い間権威主義体制下にあったことも一因として考えられる。
 韓国に至っては、規制に違反した事例を写真付きで通報すると、国から報奨金がもらえる43という北朝鮮との対立が激しかった時代の「スパイ申告」を思わせる相互監視システム「コロナ19安全申告制度」を昨年7月に導入した。ところが、「コパラッチ」〔「コロナ」「パパラッチ」を組み合わせた造語〕たちの通報が白熱し44、虚偽申告まで現れるや、大統領府のホームページにはお互いを監視する報奨金制度を廃止するようにという国民請願が起き批判が殺到したため45、今年1月7日、報奨金制度は取りやめとなった。
 最後に、韓国・台湾に共通する社会問題として、外国人など社会的に弱い立場にあるマイノリティが苦境に立たされ、差別も深刻化したことが挙げられる。

韓国と台湾の違い水際対策、中国への対応
 韓国と台湾のCOVID-19対策で大きく異なる点は、水際対策である。先に述べた通り、台湾はWHOに加盟していないため、独自のルートで情報を入手し、感染者発生前から水際対策を強化した。その結果、水際で侵入を食い止めるというレベル1から、流行が小規模のうちに感染拡大を抑えるというレベル2に入る前での抑え込みに成功した。
 一方、韓国の場合、水際対策を強化したのは20年4月1日以降のことであった。大邱市を中心に感染が広がり、レベル2に入ってしまったため、早期から広範囲にわたり官民あげて大量のPCR検査を実施し、感染者を隔離することにより、「第1波」を食い止めた。対応に当たった権泳臻(クォンヨンジン)市長は、「これほど多くの検査をしなければ感染者数は急速に増えなかったはず。病床も十分にないなかでは検査を遅らせるべきだとの声もありました。ただ、世界のどこにも治療の教科書も薬もない感染症です。一刻も早く大勢の人を検査をして隔離するしか方法はなかった」46と後述している。徹底的な検査と隔離は、文在寅大統領が「世界の標準になった。韓国の国家としての地位と誇りが高まっている」47と自賛した「K防疫モデル」の重要ポイントでもあった。
 韓国の防疫指針は、<関心><注意><警戒><深刻>の4段階に分かれているが、2月23日まで<深刻>に引き上げなかったのは誤った対応であった、とチョン・ギソク前疾病管理本部長は指摘する48。対応が遅れた一因として、中国との政治・経済関係の考慮が考えらえる。「限韓令」解除を目指す文大統領は、COVID-19流行以前から2020年の習近平国家主席訪韓を要請し続けていた49。また、訪韓観光客数が最多の中国は、同年1月24日から30日まで春節(旧正月)連休を迎え、多くの中国人観光客の韓国訪問が見込まれていた。実際、韓国観光公社の発表によれば、20年1月韓国を訪問した中国人は481,681人であり、前年比22.6%増加したという50
 20年4月1日以降は、すべての韓国に入国するすべての韓国人・外国人を対象に、自宅または国が準備した施設での14日間の隔離を義務付ける措置が実施された51。14日間、国施設で隔離する場合は、施設隔離費用(1日最大15万ウォン、約14,000円)を入国時に納付しなければならない。「自己隔離者安全保護アプリ」「モバイル自己診断アプリ」52のダウンロードし、毎日2回体温などの健康状態をアプリに入力することも義務付けられている。隔離措置に違反すれば、韓国籍の場合、3百万ウォン(約28万円)以下の罰金(4月5日からは懲役1年、罰金1千万ウォン以下)が科される。また、隔離、検査・治療など、検疫当局の指示に従わない外国籍の人には、刑事処罰の有無に関わらず、当該外国人のビザおよび滞在許可を取り消し、違反行為の重大性に応じて強制追放、入国禁止の処分が行われる53
 一方、台湾当局は、春節連休前の1月23日には武漢からの入国を禁止し、26日には湖北省在住の中国人の入国を一時禁止するとともに、台湾から中国への団体旅行を禁止し(24日)54、春節連休中の往来を食い止めた。3月18日、台湾の中央流行疫情指揮中心(中央感染症指揮センター)は、翌19日午前0時より全ての非台湾籍者の入境を制限し、非台湾籍者のうち、事前に申請・許可を得た者のみ入境を認めるが、入境後は14日間の自宅検疫とする、と発表した55
 COVID-19流行以前の2019年、2020年1月の台湾総統選をにらみ、台湾の観光業界に打撃を与えるため、中国政府は中国から台湾への個人旅行を禁止するなど56、いわば「限台令」(台湾制限令)を行っていたため、既に中国から台湾への人の流れは減少傾向にあったとはいえ、2018年時点で約40万人の台湾人が中国で働くなど、地理的にも経済的にも中国は近い。だからこそ、台湾当局による迅速な水際対策が感染拡大を小規模に抑え込んだ要因である。


慰安婦「逆転判決」で露わになった日韓の温度差 歴史問題解決へつながるとの期待も浮上するが

2021-04-30 17:42:58 | 日記

慰安婦「逆転判決」で露わになった日韓の温度差 歴史問題解決へつながるとの期待も浮上するが

 
ダニエル・スナイダー
 
© 東洋経済オンライン 4月21日にソウル地方裁判所が、元従軍慰安婦の賠償請求を退けた今判決には、文政権の意向が影響しているとの指摘も

 「厳しく冷え込んでいる」と形容される日韓関係に対するいら立ちがアメリカのバイデン政権内で高まっている。

ジョー・バイデン政権は会議に会議を重ね、日本、および韓国の三国間の協調の重要性を唱えている。

三国の協調はバイデン政権の幅広い対中戦略の要である。

同政権は北朝鮮政策の見直し作業を進めてきたが、これについても一定程度三国の強調が重要となってくる。

 アメリカは表向き、三国の協調を支持するお決まりの発言を繰り返し、北朝鮮、そして願わくは中国に対する三国の一致した対応を作り出すべく、高官らが会議を重ねている。

しかし、実際のところアメリカ高官らは、日韓が作業レベルでの関係立て直しを実質的に進め、さらに戦争中の歴史をめぐる問題に決着をつけるよう二国に迫っている。

しかし、歴史上の問題が真剣に討議されていることを証拠立てる事実は今のところ何もない。

韓国側は微妙に前向きな姿勢

 4月21日に、ソウル地方裁判所が元従軍慰安婦の請求を退ける判決を出したことにより、日韓両政府は現在の行き詰まりを打破する方策を見出すのでは、との期待が生まれた。

韓国の文在寅政権は、両国関係改善に関心のあるところを見せ、ある程度柔軟な姿勢を示してもいる。

韓国高官はアメリカ側関係者に、「関係改善の進捗を妨げているのは日本である」とわざわざ伝えている。

 事実、韓国側のサインに対する日本政府の対応はそっけないもので、韓国はまず慰安婦、および強制労働に関する提訴の受け付けを停止する措置を取るべきであると主張している。

日本の政府関係者は文政権に見切りを付け、韓国における来年の保守政権誕生に期待を寄せている。

菅義偉首相、文在寅大統領双方とも、その政権の足元は揺らいでおり、戦略行使の余地は狭まっている。

 日韓の架け橋となっている韓国の柳明桓元外相は、「韓国政府が立場を変えて日本に合意できる解決策を提案するとは思えない」と話す。

かつて駐日韓国大使を務めた柳氏は、ソウルと釜山の市長選挙で革新系与党が敗北し、文大統領の人気が急落していることから、来年3月の大統領選挙が終わるまでは打開策が見出せないだろうと予測する。

 最近の日本の補欠選挙でも、菅首相は同様に弱体化し、戦時中の歴史問題に関する譲歩に反対する自民党の強硬派の影響をさらに強く受けることになった。

日本の世論は、日本の保守系メディアによって形成された部分もあり、韓国は頼りにならないパートナーだという見方を示している。

 戦時中の歴史問題に詳しい東京大学の川島真教授は、

「自民党は今年の衆議院選挙で苦境に立たされているため、菅首相は世論に注意を払わなければならない」と指摘する。

「もし菅首相が文大統領のアプローチに前向きな反応を示せば、それは首相にとっても自民党にとってもマイナス要因となるだろう」。

日米首脳会談での菅首相の露骨な発言

 現在、日本と韓国はそれぞれ、バイデン政権に自分たちの側につくよう説得するために、未宣言ながらもワシントンにて激しい戦いを繰り広げている。

 今回の応酬は、4月に菅首相がワシントンを訪問した際に行われた。日米のメディアの関心は中国、そして台湾の話題に集中しており、菅首相がバイデン大統領との共同記者会見やCSIS(戦略国際問題研究所)で行った韓国に関するかなり露骨な発言は、ほとんどの人が見逃していた。

 菅首相は日中韓の協力関係に合意しつつも、トランプ政権が好んで使う「CVID(Complete、Verifiable、and Irreversible Denuclearization)」(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)という言葉を用いて、北朝鮮の完全な非核化に向けたコミットメントを後退させないよう、アメリカに鋭く圧力をかけている。

 菅首相の発言は、バイデン政権が政策見直し後に、短距離ミサイルと既存の核兵器を残したまま北朝鮮との軍備管理様式の協定を模索する動きを阻止しようと明確に試みるものであった。

菅首相は、北朝鮮が最近行った短距離弾道ミサイルの発射実験は「国連安全保障理事会の決議に対する明らかな違反」であり、日本とその地域の「平和と安全に対する脅威」であると述べている。

また、「北朝鮮が保有するあらゆる範囲の弾道ミサイル」の脅威を排除するための交渉が必要だとも発言している。

 5月に訪米する文大統領はニューヨークタイムズ紙のインタビューに応じ、そこで北朝鮮の金正恩委員長との首脳会談が失敗した責任をドナルド・トランプ前大統領に負わせている。

文大統領はバイデン大統領へ北朝鮮との直接協議をできるだけ早く再開するように訴えているが、これは文大統領自身の政治的課題の中心となる目標でもある。

 ワシントンでの争いにもかかわらず、先述のソウル地方裁判所が下した元慰安婦の訴えを退ける判決は、歴史戦争に大きなプラスの影響を与える可能性がある。

 この判決は、1月初旬に日本政府は12人の元慰安婦に賠償すべき、とした同レベルの裁判所の判決と事実上矛盾しており、国家主権に基づく訴訟免除の主張よりも国際人権の原則が優先されるという主張を支えるものとなっている。

 韓国の法律専門家によると、4月に行われた別の女性団体による訴訟の判決は確立された国際法に沿ったものであり、先の判決よりも支持される可能性が高いという。

ソウル大学の法学者であるホ・ソンウク氏は、「裁判所は、主権免責の問題について古典的な正統派の態度に立ち戻った。

この結論は控訴審でも維持される可能性が高いだろう」と語った。

文大統領はわずかながら「軌道修正」

 また、ミン・ソンチョル部長判事は判決の中で、日本と韓国の朴槿恵前保守政権が2015年に合意した、韓国人被害者女性への補償と謝罪の問題を解決するための合意にも大きく言及している。

この合意では日本が出資する財団が設立され、賠償を行い、生存している被害者の3分の2がこれを謝罪の意とともに受け入れた。

今回の訴訟は、この和解案を拒否した被害者を代表する団体の支援者が起こしていた。

 ミン判事は、この合意の結果は「過去に彼らが受けた苦痛に比べれば十分に満足できるものではなかった」かもしれないが、既存の合意としては有効であり、「権利侵害に対する救済策」を日本側が提示したものであると認めた。

 文政権は2015年の協定を一方的に破棄し、協定に反対する活動家を支援するために財団の運営を閉鎖していた。

だが、日本政府からの厳しい反応を引き起こした1月の判決を受けて、文大統領はわずかに軌道修正を行った。

文大統領は判決に対する失望を表明し、2015年の合意が公式な協定として有効であることを認めている。

 こうした文大統領の変化が、地裁での逆転判決のお膳立てとなったようだ。

ソウル大学の日本研究者である朴喆熙教授は、「文大統領の発言は……間接的には判決に影響を与えた。

しかし、文政権が裁判所に何らかの指針を与えたという証拠はない」と語った。

 2015年の合意を再確認したことで、韓国の法廷と文大統領は「韓日間の外交交渉の扉を開けた」と朴教授は言う。

だが、かなりの障害が残されたままだ。そもそも文大統領は、2015年に設立された慰安婦財団を再開し、そこを基礎としてまだ賠償を受けていない被害者に対処していくことには消極的だ。

 一方、日本政府は首相官邸と自民党を中心に、今回の判決に対して極めて慎重な対応をとっている。

 「今は菅さん次第だと思う」と、歴史問題の譲歩に対して声を上げてきた元外務官僚の東郷和彦氏は言う。

「もし菅さんがこの判決をチャンスと考えるなら、動く余地がある」。

そして4月の判決が控訴審で敗れた場合でも、菅首相は関係改善のため最善を尽くしたと主張することができると、東郷氏は言う。

菅首相は文政権に「深い不信感」

 この件でまだ問題が解決していない「時限爆弾」1つが、戦時中の元韓国人徴用工に賠償金を支払う必要があると申し渡された日本企業の資産について、韓国の裁判所が売却を認める判決を出す可能性である。

 この裁判の原告と被告は民間人と民間企業のため、より法的に解決しやすいとみられている。

しかし、日本政府は、これは両国間の関係を正常化させ、こうした戦時請求権を原則として解決した1965年の協定に違反していると主張し、企業に対して譲歩しないように圧力をかけている。

 日本では韓国との関係改善を支持する声があり、これは中国へのより広範な対応において戦略的に重要と見なすアメリカ当局の考えとも一致する。

しかし、菅首相は安倍晋三前首相の内閣官房長官を務めた8年間の経験に基づき、個人的にあらゆる譲歩に反対しており、文政権に対する深い不信感を共有している、と川島教授は指摘する。

 そのためバイデン政権は、それらの傷ついた関係の修復を助けるきっかけを待っている状態である。

 「バイデン大統領は韓国と日本の間のデリケートな歴史問題を完全に理解している」と、元韓国外相の柳氏は私に話す。

バイデン大統領はオバマ政権時代にこうした問題に関する調停役を務め、柳氏も重要な役割を果たした2015年の合意につながる外交的関与を開始している。

しかし、その努力をもう一度行うには、まだ状況が熟していないのかもしれない。

 「バイデン大統領は、韓国と日本の両方に新たなチームが設置され、譲歩の準備が整う来年まで待つつもりなのだと思う」と、柳氏は話す。

「譲歩は、両国の遺産のためであり、そしてアメリカを含むすべての関係当事者の向上のためでもある」。


新型コロナウイルスの感染拡大で韓国経済が苦境に立たされている

2021-04-30 17:26:27 | 日記

 

新型コロナウイルスの感染拡大で韓国経済が苦境に立たされている。

貿易依存度の高い産業構造は世界経済の低迷の余波をもろに受ける。

渡航制限をめぐって日韓対立も再燃してきた。

今後の経済動向をどうみるか。

韓国経済に詳しいニッセイ基礎研究所の金明中准主任研究員に聞いた。

◆…新型コロナの韓国経済への影響をどうみていますか。

 「米中摩擦や日韓における輸出規制に緩和の兆しがあり、2020年は前年を上回る2・3%程度の経済成長が期待されていた

新型コロナにより、冷や水を浴びせられた格好だ。

株価は大きく下がり、ウォン売りも続いている。

製造業の場合、中国からの部品が安定的に供給されず、生産計画に狂いが生じ始めた。

旅行業界への被害も甚大だ。感染拡大を恐れて外食や商店街などへの外出が減り、民間消費も大きく萎縮している。

とりわけ、韓国は就業者に占める自営業者の割合が25・1%と高い。飲食点など零細の自営業者の経営をもろに受けている格好だ」

◆…20年の経済成長予測は。

 「中国の1~2月の生産高は13%減少した。

韓国経済は中国への依存が強く、1~3月期の成長率も同様に落ち込むだろう。

4~6月期の回復を期待していたが、貿易中心型の韓国にとって足元の欧米における感染拡大、経済停滞は痛い。中小企業がこの苦境に耐えられるのはせいぜい2~3カ月。

今後は倒産する企業も増えてくるだろう。

通年でみれば、厳しい年になると予想せざるを得ない」

…中国に偏ったサプライチェーンの分散の必要性を説いています。

 「韓国は輸出が国内総生産(GDP)の7割を占め、とりわけ、中国依存度がまだ高い。

19年の輸出額の25・1%、輸入額の21・3%を中国が占め、2位のアメリカ(輸出13・5%、輸入12・3%)と大きな差がある。

経済規模のトップが半導体で、2位が石油化学だが、こうした産業も中国への依存度が強いのが現状だ。

サプライチェーンが一国に偏りすぎると、何か問題が発生した際のリスクが大きい。

今後、韓国政府はリスクを分散し、生産活動への負の影響を最小化する必要がある」

◆…文政権は東南アジア(ASEAN)諸国との関係を深める「新南方政策」を進めています。

 「日本や米国、中国との関係が冷え込むなか、6億人超の人口を抱えるASEANとの関係強化に活路を見いだそうとしてきた。

新型コロナも契機とし、徐々に中国依存が縮小し、貿易に占めるベトナムやインドなどの比率が高まっていくだろう」

◆…日本政府は水際対策を強め、韓国からの入国を大幅に制限する措置を打ち出しました。韓国も対抗措置をとりました。

 「休戦状態にあった日韓対立が再点火されることになってしまった。

やはり、首脳間で感情的な対立が残っているのだろう。

両国ともに危機的状況にあるのだから、良いところを学び合い協力し合うべきなのだ。

例えば、日本の検査体制が不十分なら韓国が検査キットを提供したり、日本の治療薬開発の知見や情報を共有するといった具合だ。

いまこそ、日本と韓国が積極的に情報交換を行い、手を携える好機とすべきだ」

(聞き手=但田洋平)


文政権4年に「ノー」 問われた失政・偽善―韓国

2021-04-29 17:43:44 | 日記

文政権4年に「ノー」 問われた失政・偽善―韓国

2021年04月08日09時15分

 

 文政権下でソウルのマンション価格は1.5倍以上に高騰したとされるが、政府が何度価格抑制策を打ち出しても効果はなかった。

恩恵を受けたのは居住用とは別に投機用の不動産を所有できる富裕層だけ。

庶民は「持ち家」に手が届かず、中流層でも「他のマンションも高騰しているので、より広い家に引っ越すこともできない」(40代会社員)状況だ。
 

文大統領は、親友の国政介入という不正が発覚した朴槿恵前大統領に対する大規模デモ、弾劾を経て就任。

1980年代に民主化を成し遂げた勢力がルーツの政権・与党は「正義」「公正」を口癖のように繰り返してきた。


 しかし、不動産価格高騰への不満が積もる中、政府高官が投機目的で複数の不動産を所有している事例が相次ぎ、国民は反発。

さらに土地住宅公社職員らが、内部情報を利用して値上がりなどを狙い不正に土地を購入した疑惑が浮上し、政権への決定的な打撃となった。


 ソウル市立大グローカル文化・共感社会研究センターが3月31日に公表した「公正性」をテーマにした世論調査で、

文政権の支持層だった革新・中道層でも「社会は不公正」との答えが60%近くに上った。

今回の選挙は、こうした支持層が政権に背を向けたことを示した。

与党関係者は「不動産問題の解決は難しく、逆風は続くだろう」と語る。
 

与党の次期大統領選レースで支持率トップの李在明・京畿道知事は政権と距離を置く非主流派。

大統領任期が残り約1年となり、与党内でも「文在寅離れ」が強まりそうだ。


75歳以上医療費2割枠新設 年収200万円以上 

2021-04-29 16:58:40 | 日記

75歳以上医療費2割枠新設 年収200万円以上 全世代社保会議が最終報告

全世代型社会保障検討会議で発言する菅義偉首相(右から2人目)=14日午前、首相官邸(春名中撮影)
全世代型社会保障検討会議で発言する菅義偉首相(右から2人目)

 同会議で首相は「現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代が安心できる社会保障制度を構築し、次の世代に引き継いでいく」と述べた。

 2割枠新設は、団塊世代が4年から後期高齢者になり始めるのをにらみ導入するもので、現役世代の負担軽減が狙い。

1割負担の仕組みを導入した平成13年以来の大幅な制度改正となる。

現行では、3割負担している年収約383万円以上の「現役並み」以外は1割負担となっている。

 ともに75歳以上の夫婦の場合は、世帯年収の合計が320万円以上が2割負担の対象となる。

経過措置として、3年間は負担増加額を最大月3千円に抑える。