日本海呼称問題
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日本海呼称問題(にほんかいこしょうもんだい、英: Sea of Japan naming dispute)とは、国際的に「日本海」ないしその同義語で呼ばれている海域の呼称を大韓民国(韓国)が独自の呼称である東海(トンヘ)に変更するように求めている呼称問題である[1]。
1992年に韓国が問題提起して以降[2]、国際水路機関 (以下、IHO) の「大洋と海の境界 (S-23)」[3][4]」の改訂に関する会議や、国際連合地名標準化会議などで、日本海の名称変更および変更に至るまでの間の併記を要求する運動を行っている[5]。
(経過は後述)
この問題に関しては、韓国と北朝鮮が強く主張し続けているが、韓国・北朝鮮両国の主張は足並みは揃っておらず、
韓国は「東海 (East Sea)」への変更および変更に至るまでの間の併記を要求し[5]、
北朝鮮は「朝鮮東海 (East Sea of Korea)」または「朝鮮海 (Sea of Korea)」への変更または併記を要求している[6]。
この問題について韓国側では東海呼称問題(동해 호칭 문제)などと呼ばれている。
日本政府は、韓国側が日本海のみを「East Sea」にするよう主張し、黄海や東シナ海については韓国国内で同様に用いている「West Sea(西海)」「South Sea(南海)」変更すべきとは主張や活動をしていないことから、これが殊更に日本海のみを標的にしたものであると分析している[7]。
日本海呼称問題
当該海域の呼称[編集]
日本海及びその周辺海域の日本語での呼称。
韓国で用いられている同海域の呼称。韓国側の主張に基づき、「동해」(東海)と「일본해」(日本海)が併記されている。
国際水路機関における呼称[編集]
国際水路機関 (IHO) は、各国の海図における海洋の名称とその境界の基準となる「大洋と海の境界」("Limits of Oceans and Seas", Special Publication No. 23、以降は「S-23」と略称)を定めている。
これによれば、この海域の呼称はS-23の初版(1928年)から第3版(1953年)まで一貫して「Japan Sea」である(「Sea of Japan」ではないことに注意)[3][4]。
これを踏襲して、日本の海上保安庁海洋情報部は「日本海 (Japan Sea)」を用いている[8]が、英語版のHPにおいては「the name Sea of Japan (Japan Sea)」と「Japan Sea」の語を括弧書きにしており、「Sea of Japan」の名称を優先させているとも解釈できる表記を採用している[9]。
これに対して、日本の外務省の英文による文書では「Sea of Japan」となっている[10]。
各国における呼称[編集]
- 日本:日本海(にほんかい)。「日本海」という呼称は、1602年のマテオ・リッチ「坤輿万国全図」に最初に出現する。
- のちに19世紀初頭にロシアの海軍提督アーダム・ヨハン・フォン・クルーゼンシュテルンがЯпонское мореを使用した。
- なお、韓国が主張する東海は日本国内においては主に東海地方の事を指す。
- 韓国:東海(동해、トンヘ)。「東海」とは日本海が朝鮮半島の東側に位置していることに由来する。朝鮮半島では伝統的に、周囲の海域を朝鮮半島を中心とした方位方角(東西南北)に由来する呼称で呼んでおり[11]、朝鮮半島東側の海(日本海)は「東海」、朝鮮半島西側の海(黄海)は「西海(ソヘ)」、朝鮮半島南側の海(対馬海峡周辺海域)は「南海(ナメ)」となる。このほか「朝鮮海」「韓国海」「蒼海 (Blue Sea)」「極東海」「緑海」等の案も学者等から出されている[12]。
- また2006年11月の日韓首脳会談の席上で盧武鉉大統領が安倍晋三首相(当時)に対し、日本海を「平和の海」に改名すべきと提案したが、日本側は即座に拒否した[13]。
- 北朝鮮:朝鮮東海(조선동해、チョソントンヘ)。
- 中国:日本海(ピンイン:Rìběnhǎi、リーベンハイ)。古称は鯨海(ピンイン:Jīnghǎi、ジンハイ)。[14]中国国内で「東海(东海)」と言えば東シナ海を指す[15]。
- ロシア:Японское море(ローマ字転記:Japónskoje mór'e、ヤポーンスコエ モーリェ)。ロシア語で「日本海」の意味である。
- アメリカ合衆国:公式に "Sea of Japan" を用いている(後述#アメリカの立場参照)。2019年に韓国の最大通信社である連合ニュースの問い合わせに「アメリカ政府は海を指す名称は1つだけ使用する」「アメリカ合衆国国地名委員会(BGN)が決定した名称を使用し、BGNがその水域に承認した名称は”日本海”である」とこれまでと同じように日本海だと公式返答している[1]。
- 国際連合:公式に"Sea of Japan"である[16]。
ほか、フランス語では"Mer du Japon"、スペイン語では"Mar del Japón"、ドイツ語では、"Japanisches Meer"、イタリア語では"Mar del Giappone"となっており、他言語においても当該海域は「日本海」として認識されている。
その他各国での「東海」(East Sea) の使用例[編集]
韓国側が主張している「東海」という名称は、他の国・言語においても海域の名称としてすでに使用されている。それぞれの自国を中心とした視点では、自国西側にある海を「西の海」、東側にある海を「東の海」、さらに北の海や南の海と呼ぶのは当然であり、アメリカ合衆国の本土の住民が太平洋を「西の海」、大西洋を「東の海」と捉え、アメリカ本土のローカル言語においてそう俗称していることは間違った行為ではない。ただしフランス人に対してアメリカ人が大西洋を「東の海」と言っても、フランスからの視点では「西の海」でありこれは通用しない。あくまで各々のローカル言語での俗称であり、ましてやアメリカ人がフランス人に「東の海」呼称を強要することはあり得ない。