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経済大国の日本は貧困大国だった!?

2021-07-31 17:16:27 | 日記

経済大国の日本は貧困大国だった!?

2021年現在、日本はアメリカ、中国に次ぐGDP世界3位の経済大国だ。その一方で「貧困大国」と呼ばれることがある。その根拠となっているのが、主に先進国の貧困を定義する相対的貧困率だ。

途上国の貧困率は、絶対的貧困といって1日に1.9ドル以下で暮らす人々の割合で示す。その数は、おおよそ世界の10人に1人といわれている。

ただ、先進国ではこれでは食べていくことができないため、その国の国民全体の所得と照らしあわせて貧困率が算出される。それが相対的貧困率だ。相対的貧困率とは、国の等価可処分所得の中央値の半分未満で生活する人々の割合のこと。具体的には、122万円未満で暮らす人の割合となる。

現在、日本ではこの相対貧困の割合が、国民の15.4%になっている。実に7人に1人が貧困者という計算だ。日本が貧困大国とされるのは、相対貧困率が世界で14番目に高いことからだ。

そんなに多いの? と驚く人もいるかもしれない。でも、親子2人の家庭で、可処分所得が月額14万円以下であれば相対貧困層ということになる。母親1人がアルバイトで生計を立てている家庭と考えれば、決して意外な数字ではないだろう。

さて、そんな日本を賃金を得る手段にもとづいた階級で分類してみよう。『新・日本の階級社会』(橋本健二:著/講談社:刊)を参考にしてつくったのが下図だ。

▲日本を賃金を得る手段にもとづいた階級で分類した図 出典:『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』

「階級」という言葉が気になるかもしれない。

階級は社会が決めた身分を指す言葉で、階層は自然発生的にできたそれを示す言葉として使用されることが多い。著者はそれを承知のうえで、あえて階級という言葉をつかっているのだろう。図表を引用させてもらうので、ここでのみ「階級」という言葉を用いたい。

日本の平均年収は約430万円だ。一般的にそれ以上の収入のある企業の経営者や役員などの仕事をしている人を「資本家階級」、管理職・専門職・男性の上級事務職等を「新中間階級」と呼ぶ(女性の事務職は多くが一般職なので、この図では新中間階級に含んでいない)。この階級では、共働きの場合も含め、夫婦の収入が1000万円前後あれば、マイホームを所有して子どもを養うゆとりがある。割合としては、全体の4分の1ほどだ。

いまの日本で中流と呼ばれるのが「正規労働者階級」「旧中間階級」だろう。ただ、この層は人によって生活水準にかなり違いがある。中流でも上のほうであればそれなりの暮らしはできる。下のほうであれば家庭を持つことさえままならない。

未婚率が30%超になるのはそのためだ。

そして下流に位置するのが「アンダークラス(非正規労働者)」だ。アパートで自分1人が食べていくのが精一杯という状況で、生活保護の人たちも含まれる。妻子を養う余裕はなく、未婚率は非常に高い。

▲下流に位置する「アンダークラス」では食べていくので精一杯 イメージ:PIXTA

同じ階級同士になる子どもたちの交友関係

こうした社会を形づくっている原因の1つが、教育格差が生み出す経済格差だ。

資本家階級や新中間階級に位置する人々は、家庭を持って子どもに対して十分な教育を施すことができる。塾や英会話に通わせ、小中学校受験をさせて私立校で学ばせ、一流大学へ進学させる。

今は習いごとも費用に応じて質がかなり違う。授業料の高い有名進学塾は優秀な講師を集め、英会話教室は外国人講師をそろえている。スポーツだって競技によっても、所属するクラブによってもかかる費用は桁違いだ。

そうなると、子どもたちの交友関係は自然と絞られていく。私立校や習いごとで出会った同じ階級の子どもたちと付き合い、お互いに似たような影響を受けあいながら成長し、人生設計をするようになる。日本は学歴社会であるため、学歴が高い人ほど一流企業や安定した職業に就きやすい。

社会で出会うのも同じような階級の人たちだ。

親の年収が、子どもの学歴や就職にどれだけ影響を及ぼすのかはデータからも明らかだ。東京大学の学生に限った場合、親の世帯年収が年収950万円以上の家庭が60.8パーセントとなっている。

日本人の平均年収と比べれば倍の額だ。また、国公立の医学部に通う学生の親の3割は医師であり、私立の医学部では5割に及ぶ。

▲東京大学 安田講堂 出典:PIXTA

こうしたことからも、親が高所得というだけで子どもが得られるメリットの大きさがわかるだろう。

これを象徴しているのが、月刊誌『文藝春秋』の名物コーナー「同級生交歓」だ。

1956年から始まった企画で、毎回グラビアページを設けて、幼稚園・小・中・高の有名人となった同級生たちが顔をあわせて学生時代を回顧する。

たとえば、東京で「御三家」と呼ばれる名門校の1つ、私立麻布高校の回がある。

大学教授や国内最大の損害保険グループの社長、メガバンクの副頭取などが母校に集まり、握りこぶしをつくってポーズをとっている。

ほんの一部の卒業生を取り上げただけで、これだけのそうそうたるメンバーが集まるのが驚きだが、格差がより広がった現代では、この傾向はより顕著になっているはずだ。

一方、労働者階級の中でも収入が乏しい層や、下流階級の人たちは違う。

彼らは家庭を持ったところで、日々の生活で精一杯で、お金をかけて子どもに習い事をさせたり、私立校へ進学させたりすることができない。

地元の公立校へ通い、習いごとの代わりが、お金のかからない学校の部活動だ。

彼らがそこで知りあうのは、同じような階級の子どもたちだ。

なかには「塾は行かせられない」「私立への進学はダメ」「学校へ行きたいなら自分で学費を稼いで」と言われて育ち、早い段階で大学進学をあきらめてしまう子も少なくない。

学歴がなければ、条件のいい職につくのは難しい。

大卒エリート社員に使われる立場で、最初から給与格差の現実に直面する。

非正規雇用であれば福利厚生も乏しく、いつ失業するかもしれない不安のなかで生きていくことになる。

教育にお金をかけられなかった子どもたちが、大人になっても貧困に苦しんでいるデータもある。

日本の生活保護世帯で育った子どもの4人に1人が、成人したあとも仕事につけずに生活保護を受けている。

一度貧しい家庭で生まれたら、社会の構造的にそこから這い上がるのが非常に難しいことを示している。


 

※本記事は、石井光太:著『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。


教育によって生み出される経済格差は縮まらない

2021-07-31 16:58:59 | 日記

育によって生み出される経済格差は縮まらない

これを象徴しているのが、月刊誌『文藝春秋』の名物コーナー「同級生交歓」だ。

1956年から始まった企画で、毎回グラビアページを設けて、幼稚園・小・中・高の有名人となった同級生たちが顔をあわせて学生時代を回顧する。

たとえば、東京で「御三家」と呼ばれる名門校の1つ、私立麻布高校の回がある。

大学教授や国内最大の損害保険グループの社長、メガバンクの副頭取などが母校に集まり、握りこぶしをつくってポーズをとっている。ほんの一部の卒業生を取り上げただけで、これだけのそうそうたるメンバーが集まるのが驚きだが、格差がより広がった現代では、この傾向はより顕著になっているはずだ。

一方、労働者階級の中でも収入が乏しい層や、下流階級の人たちは違う。

彼らは家庭を持ったところで、日々の生活で精一杯で、お金をかけて子どもに習い事をさせたり、私立校へ進学させたりすることができない。地元の公立校へ通い、習いごとの代わりが、お金のかからない学校の部活動だ。

彼らがそこで知りあうのは、同じような階級の子どもたちだ。なかには「塾は行かせられない」「私立への進学はダメ」「学校へ行きたいなら自分で学費を稼いで」と言われて育ち、早い段階で大学進学をあきらめてしまう子も少なくない。

学歴がなければ、条件のいい職につくのは難しい。

大卒エリート社員に使われる立場で、最初から給与格差の現実に直面する。非正規雇用であれば福利厚生も乏しく、いつ失業するかもしれない不安のなかで生きていくことになる。

教育にお金をかけられなかった子どもたちが、大人になっても貧困に苦しんでいるデータもある。日本の生活保護世帯で育った子どもの4人に1人が、成人したあとも仕事につけずに生活保護を受けている。一度貧しい家庭で生まれたら、社会の構造的にそこから這い上がるのが非常に難しいことを示している。

▲教育によって生み出される経済格差は縮まらない イメージ:PIXTA

※本記事は、石井光太:著『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。


コロナ禍によって顕在化した日本社会の格差

2021-07-31 16:53:23 | 日記

コロナ禍によって顕在化した日本社会の格差

※本記事は、石井光太:著『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

日本社会には、さまざまな社会階層があるが、近年は格差の拡大によってそれぞれが大きく隔たったものになりつつある。

ここで階層と呼ぶのは、収入・職業・学歴・身分(地位や資格)によってつくられる社会集団のことだ。

社会の中ではそれらが地層のようにいくつにも分かれている。

階層と聞いて、すぐに思いつくのが「上流」「中流」「下流」という分け方じゃないだろうか。その人の所得や財産に応じて行なわれる区分だ。

▲階層の図 出典:『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』

定義は人によって違いがあるけど、一般的なイメージであれば、上流は年収1000万円以上あって、都心にマイホームを手に入れられるような人。

中流は生活には困らないくらいの安定した収入をもらえる会社員や公務員や自営業

下流は非正規雇用やフリーターで、自分の収入では生きていくだけで精一杯といった人たちだろう。

これ以外にも、身分や職業によって形成される階層もある。

身分であれば「正社員」「フリーランス」「契約社員」「ニート」となるし、職業であれば「公務員」「医者」「プログラマー」「トラック運転手」「ユーチューバー」「ホステス」となる。

ひとまず、全体像を説明するために、上流・中流・下流の区分で日本社会について考えてみたい。

景気が上昇していたり安定していたりするときは、そこまで階層が問題視されることはない。

階層によって収入の差がある程度あっても、みんなが日常生活を営める状況では社会全体の課題になりにくい。

ところが不景気になると、下流の人々の生活から順に立ち行かなくなり、税金による支援が求められる。

2020年に起きたコロナ禍は、階層によって人々の置かれている条件が大きく異なることを示した。

コロナ禍で勝ち組となった業界の1つに、アマゾンやZoomなどのIT企業がある。

彼らは現代社会では欠かせない存在になっており「巣ごもり需要」「デジタル需要」として、コロナ以前よりも大きな利益を手に入れることになった。

GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)などは株価が軒並み上がり、日本の任天堂も緊急事態宣言が発令されて以降の2020年4~6月には、同期としては12年ぶりに過去最高の営業利益を叩き出した。

一方で、スナックやパブといった飲食サービス業は、コロナ禍によって大打撃を受けた。

感染拡大が始まってすぐに「不要不急」の対象として名指しされ、営業継続が困難になり、特に非正規雇用のホステスたちは収入源を絶たれた。

そのなかには、生活保護や昼間のパートとのダブルワークでギリギリの生活をしているシングルマザーも多かった。

国が一律10万円の特別定額給付金を支給することを決定した際、人々のなかからこんな声が上がった。

「国が税金を使って水商売の人間を支援するのは間違っている。ろくに納税もしていない人間には支援をする必要はない」

人によっては、それまで夜の街の存在を黙認したり利用したりしていたはずだ。

それが手のひらを返すように、批判が沸き起こり、対立構図が生まれてしまった。

奇しくも、コロナ禍はもともとあった階層の分断を明らかにしたわけだが、ここで考えてほしいことがある。次のようなことだ。

それぞれの階層に属する人たちは、同じような道を歩んできた人たちなのだろうか。

たとえば、アマゾンの社員と、駅前のスナックでバイトをするホステスは、同じような家庭で生まれ、同じような学歴を持っているだろうか。

大抵はそうじゃない。つまり、どの階層に属するかによって、生まれや育ちが大きく異なるというのが実態なのだ。

教育現場を見てみれば、わかりやすい。

格差の最前線にいる子どもたち

少し前に、西日本にある名門私立高校から講演に招かれて行った。

中高一貫の進学校で、東京大学や京都大学といった一流大学へ多数合格者を輩出してきた。講演の前に、校長先生から次のように言われた。

▲名門私立高校では医学部への進学率が高い イメージ:PIXTA

「うちの生徒たちの多くが医学部を志望しています。親が医者という家庭も多いのですが、最近は法学部や経済学部へ行って一流企業を目指すより、医師免許を取れば一生安泰な医者を目指す子が多くなっているんですよ」

学校側がそう働きかけるのではなく、中学受験で入学してきた頃から、医学部進学を志望している人が多いという。]

その学校の2020年度の進学実績を見ると、進学数177名のうち医学部進学数は50名に上っている。大学は一流どころばかりだ。

校長先生は次のように言っていた。

「生徒たちは富裕層の子が多く、中高一貫で一流大学に進学するので、その前にボランティアなどを通して、自分たちとは違う人たちがいることを知ってもらいたいのです。今日は貧困などのリアルについて話をしてください」

この時点で同校の生徒たちの大半が、エスカレーター式に富裕層へ育っていくことが決まっているのだ。

一方、同じ西日本にある「教育困難校」とされている高校へ講演に呼ばれたこともある。

教育困難校とは偏差値40以下に多く、勉強以前に貧困や障害といった問題を抱えている子どもの率が高い学校であり「課題集中校」「底辺校」とも呼ばれている。

この学校の校長先生からは次のように言われた。

「うちの生徒は4つに分類されるんです。

1つめが中学時代に不登校だった子、

2つめが知的障害や発達障害の傾向のある子、

3つめが家庭環境の悪いヤンチャな子、

4つめが日本語がおぼつかない外国籍の子です。

7〜8割は低所得層で、1クラスに5人くらいは生活保護家庭です。

1年次には4クラスありますが、卒業までに半数近い子が中退してしまうので、第一の目標は生徒に寄り添って高校卒業資格を取れるようにすることです。

卒業後の進路のほとんどが就職ですが、なかなかいい仕事につけなかったり、本人の意志が弱かったりで、大部分が2年以内に辞めてしまいます

生徒たちの9割が、入学した時点で大学進学をあきらめているが、社会に出て働くことにも希望を感じていないという。

親や先輩が、企業に捨て駒のようにこきつかわれているのを見ているし、高卒では満足な収入は見込めないと考えている。

そのため一旦は就職してもすぐに辞めてしまい、水商売に流れる子もいるという。

この学校に私が講演会の講師として呼ばれたのは、生徒たちが夜の街で働きだしたときに、ドラッグ・詐欺・性犯罪といったリスクが格段に高まることを、今のうちに教えほしいと依頼されてのことだった。

▲教育困難校での目標は高校卒業資格を取らせること イメージ:PIXTA

さて、この2つの高校の状況を目にしたとき、階層について何を思うだろうか。

一般的に、15〜16歳といえば、いくらだってやり直しがきく年齢だとされている。

中学時代は遊んでいたものの、高校生になって猛勉強して大学に入り、一流企業に就職したり、医師や弁護士になったりした人はたくさんいる。

先生は言うだろう。

「君たちには無限の可能性が秘められている。生まれや育ちが違っても、本人の努力次第で、いくらだって素晴らしい人生を手に入れることができるんだ」

しかし、上記のような状況を目の当たりにすると、現実はそんなきれいごとだけではないのがわかる。

低所得の家庭で生まれた子どもたちのなかには、劣悪な家庭環境に加えて、本人の障害など生まれつきの特性も重なって、物心ついたときから挫折をくり返す人が一定数いる。

彼らは、15〜16歳のときには袋小路に追い込まれ、将来に希望を抱くことさえできなくなっている。それは子どもたちにとって乗り越えるのが非常に難しいハードルだ。

どうしてこうしたことが起こるのか。

それを理解するには、教育格差が生み出す「貧困の連鎖」について考える必要があるだろう。

※本記事は、石井光太:著『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。


第1回:おでん鍋の食べ方を知らない若者たち!?

2021-07-30 18:52:12 | 日記
第1回:おでん鍋の食べ方を知らない若者たち!?
 
社会問題を取り扱うノンフィクションを手がけ、いろんな現場に赴いて感じるのは、大半の人たちは自分が生きてきた世界しか知らず、それ以外は想像さえできないということ。
2021.7.13

未来を担う君たちに——日本社会にはさまざまな格差が地雷原のように広がっており、そこから多くの社会問題が発生している。

でも、いま君たちがしなければならないのは、そのことに右往左往したり、足を取られて絶望したりすることではない。

自分の中から幸せだと思えることを見出し、本気で取り組むことだ。

おでん鍋の食べ方を知らない若者たち!?

これまで僕は、社会問題を取り扱うノンフィクションを数多く手がけ、いろんな現場に赴いてきた。

日本で屈指の進学校の生徒、一流企業の創業者、国会議員に会う一方で、ひきこもり、外国人ギャング、暴力団員とひざを突きあわせて話を聞いてきた。

つくづく感じるのは、大半の人たちは自分が生きてきた世界、あるいはそれに近い世界しか知らず、それ以外は想像さえできないということだ。同じ年齢や同じ出身地なのに、たどってきた人生がまったく異なる。

僕は全国各地で行なっている講演会で、日本のリアルを質問として投げかけることがある。

たとえば先日、進学校として名高い中高一貫の私立高校で話をする機会があり、生徒たちにこんな質問をしてみた。

【質問】

十数人の子どもたちがいました。年齢は、君たちと同じくらいの10代半ばから後半。

その子たちが日常会話でつかう語彙はとても少ないです。おそらく2000語程度。

これは日本の5歳児が習得する語彙数と同じなので、絵本くらいの平易な言葉で話しているということです。

彼らに、いつも夕飯に何を食べているのかと尋ねると、返ってきた答えは「メロンパン」「チョコレート」「コーラ」。ほぼ毎日それだと言います。

家で食事をするときはたいてい素手で、使用するのはせいぜいフォークくらい。

蕎麦もウドンもフォークで食べるそうです。

おはしをちゃんと握って使用できるのは、たった2~3人でした。

ある日、子どもたちの食卓におでんの入ったお鍋を置いて「食べてください」と言ってみました。

すると、顔を見あわせて固まってしまいました。どうしたのかと尋ねたところ、子どもたちは言いました。

▼おでん鍋の食べ方を知らない若者たち イメージ:PIXTA

「おでんは知っています。でも、どうやって食べればいいのかわかりません」

鍋で出された、おでんの食べ方がわからないのです。

さて、質問です。この子どもたちは、どういう人たちでしょうか。

これを読んで、どういう状況をイメージしただろうか。

僕がこの質問をした私立高校の生徒たちの8割以上は次のような回答をした。

「外国人」

日本語のボキャブラリーが少なく、夕飯にお菓子やコーラを食して、おはしをつかいこなせず、おでんの食べ方を知らない。

そういったところから、日本の文化を知らない外国人だと考えたのだろう。

いつも素手で食事をしているというところから「日本にいるインド人」と答えた人もいた。

残念ながら、答えは違う。そこで僕はこうつけ加えた。

「外国人じゃありません。日本人です」

生徒たちはどっと笑った。日本人でこんな食生活をしている人たちがいるということを理解できなかったらしい。

僕は何も意地悪な問題を出しているわけではない。

あるところへ行けば、当たり前のようにくり広げられている光景なのだ。答えを述べよう。

「少年院」

非行を重ねた、あるいはその可能性の高い少年少女が収容される少年院だ。なぜ、こうしたことが起こるのだろうか。

▲答えは「少年院」の子どもたち  イメージ:PIXTA

少年院の子どもたちだけが特殊なわけではない

あくまで一般論だけど、彼らの親はさまざまな問題から適切な子育てをしていないことが多い。

恋人の家に入り浸って帰ってこない、酒ばかり飲んで暴力をふるう、心の病で1日中混乱状態にある……。

こうした家庭では親子の会話がほとんどなく、あっても親が一方的に怒鳴りつけて服従を求めがちだ。

子どもは言葉で物事を考え、表現する意欲を持たなくなり、十分な語彙を身につけることができなくなる。

なんでも「やばい」「えぐい」「死ね」といった極端な言葉で争おうとするので、周囲から理解してもらえない。

また、家庭で親が料理をしないので、毎日同じようなレトルトを食べさせるか、100円を渡されて「それで食い物を買ってこい」と言われる。

小さな子どもがコンビニで買うものといえば、メロンパンやチョコレートのような甘い物だ。

そんな食生活が何年もつづくことで、菓子パンやお菓子が主食になる。

ちなみに、彼らは慢性的な栄養失調になっていることもあって、少年院に入ってごく普通の食事を日に3回とるだけで、簡単に5キロ、10キロと太る。

▲少年院での食事で栄養状態が改善されるという… イメージ:PIXTA

食器についても、家になかったり、親から使い方を教わったりしていないため、幼児のときから素手で食べる習慣が改まっていない。

はしがうまくつかえず、フォークのように刺す子もザラだ。

おでんが食べられないのも家庭の影響だ。

家族で鍋を囲んだ経験があれば、他人とはしが当たらないように、好物を中心にまんべんなく適切な量を自分の皿にとって食べる習慣が身についている。

でも、それをしたことがなければ、誰から、どれを、どうやって、どのくらい取って食べればいいかわからない。

だから、おでんのような鍋料理を出されると困って固まってしまうのだ。

くり返すが、これは決して特殊な例じゃない。

有名私立校の生徒たちの大半が塾に通ったり、旅行に行ったりする経験を当たり前のように持っているのと同じように、少年院で暮らす子どもたちには同じような特徴が見られる。

こういう子どもたちは、同じようなタイプで集まり、そのまま大人になって1つの階層を形成していく。

有名私立校の生徒たちは、彼らと接点を持つ機会がないので、生活実態をまったく知らないし、逆もしかりだ。

※本記事は、石井光太:著『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。