韓国政府は「なにもしなかった」
「これ以上、先送りできない」と…
「ノー日本、ノー安倍!」と叫んだ“反日”韓国人たちが「安倍元首相の死」で見せた“意外な本音”
誰がこのような事態が起き、最期を迎えると予想していただろうか。
7月10日に投票の参議院選挙を控えていた日本で衝撃的な事件が起こった。
元首相の安倍晋三氏が遊説に訪れた奈良で銃弾に倒れ亡くなったのだ。67歳であった。
安倍氏といえば、韓国では文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が反日政策のターゲットとしていたことは強い記憶として残っている。
良くも悪くも安倍氏の存在はいまなお韓国人の中で大きかっただけに、このニュースは韓国でも速報で伝えられ、衝撃を持って受け止められている。
韓国で騒然
まさに「放心状態」という言葉がぴったりであった。
筆者は丁度、外出先で日本人の友人と会っていたものの、スマホに日本のニュースサイトから入った速報に目を疑った。
しかし、次々と入る続報に、友人とともに言葉を失ってしまい、以後の話題はこの事件一色になった。
韓国でも、聯合ニュースやYTNなどニュース専門チャンネルをはじめ、主要メディアのKBS、SBS、MBCも昼前に速報を伝えると、以降のニュースでもトップの扱いで日本にいる特派員からのリポートを交えながら時間を割いて事件の詳細を伝えている。
この他、新聞各紙の朝鮮日報、東亜日報、中央日報、さらに地方紙である釜山日報でも大きく取り上げられていた。
また、ポータルサイトのNaverでは、検索語、ニュースのアクセスランキングともに7月8日の23時時点でも安倍氏に関連したものが1位を記録するなど、韓国内でもその衝撃と反響は大きいものとなっている。
「何故、日本で?」という衝撃
ネットのコメントの反応は様々であり、中には眉をひそめたくなるような、腹立たしいコメントもあったことは事実だが、ネットは、匿名性が高いこと、また、「デッケムン」(頭が割れても文在寅氏を信じるという意味)と呼ばれる文在寅氏を強烈に支持している者たちは、安倍氏だけに限らず、文在寅氏と対峙する相手に対しては攻撃的な発言をすることでも知られているため、こうした人たちによってコメントが荒らされていた面はあった。
しかし、今回はそうした悪意のあるコメントはさすがに少ない。
韓国でも速報が伝えられた後、筆者のもとには家族や韓国人の友人たちから「安倍氏が撃たれたのは本当か?」と電話やメールが次々に来た。
いくら安倍氏のことを知っているとはいえ、海外の政治家のニュースにここまでの反応があるということに正直、驚かされた。
筆者が報道からわかっていることを伝えると、
「演説現場の警備はどうなっていたんだ」、
「何故、アメリカでもないのに凶器に銃が使われたんだ」と、今回の事件が信じられないという様子であった。
そして、彼らが口を揃えて言っていたのは、「どうして日本でこんなことが起こってしまったのか信じられない」ということであった。
「NO JAPAN」の記憶
また、「盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏が亡くなった時に受けたショックを思い出した」、「どんな人でも明日のことはわからないし、人生って儚いものだ」という声も聞かれた。
現実として韓国は北朝鮮と休戦中の状態であり、時代や背景などは異なれど、過去には朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領がやはり銃弾に倒れて命を落としている。
また、日本以上に政治闘争も激しく混乱も多い印象である。
過去にも大事には至らなかったものの、選挙運動中に候補者が危害を加えられたりする事件も起きている。
彼らから見れば、韓国のほうがこういうことはいつ起きてもおかしくないという思いがあり、日本は韓国と比較すれば政治も安定し、平和であるというイメージが強いのである。
だからこそ、日本でこのようなことが起こったことにショックを受けている様子であった。
安倍氏はこれまでの日本の首脳と異なり、韓国に屈することなく強い姿勢を見せていただけに、韓国の「反日」を唱える面々からすれば格好の相手となってきた側面がある。
また、安倍氏は政治家の名門家系であり、母方の祖父が韓国でも「A級戦犯」として知られる岸信介氏であることから、韓国では反日を推進する上ではまさにインパクトのある人物であったといえる。
2019年に文在寅前政権が「NO JAPAN」を行った際には、「NO JAPAN」のロゴの入った横断幕に安倍氏の顔写真が入ったものも登場し、「これは日本や日本人に対してではなく、安倍氏に対して行っているものだ」と主張をする者もいたことを思い出す。
安倍元総理への「恐怖」と「羨望」
安倍氏の退任の後に首相に就任した菅義偉氏、そして現在首相を務める岸田文雄氏については安倍氏と同じ自民党であり、安倍氏の政策を受け継ぐものとして、韓国側の日本に対する警戒感は変わらなかったものの、両氏に対するネガティブキャンペーンのようなものは、安倍氏の時と比較してトーンダウンしていた。
このように、文在寅前政権との因縁や反日政策のシンボルのようにされていた安倍氏であるが、今にして思えばその裏には韓国人の安倍氏への恐怖や羨望もあったのではないかと感じられるのだ。
それは、前述のように一貫してブレない姿勢を貫いていたことが、日本が韓国に毅然とする姿に危機感を持つ韓国人にとっては「今までにいないタイプ」という強烈な印象を残し、「強いリーダー像」を示したとも言える。
安倍氏の訃報を受けて、世界各国の首脳が次々とコメントを発表する中で、韓国がどのような対応をするか注目されていたものの、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「尊敬される政治家を失った遺族と日本国民に哀悼を伝える」と弔電を送ったことが大統領府によって発表された。
また、今回の事件を「容認できない犯罪行為だ」と非難するコメントも伝えられている。
存在感と影響力
尹氏は日本に対して文前政権とは対照的な姿勢を就任前より見せているものの、文在寅氏によって破壊された日韓関係を改善することは容易ではない上、早くも尹氏の支持率のダウンや、夫人が必要以上にクローズアップされていることへの批判、さらには与党「国民の力」の党首・李俊錫(イ・ジュンソク)氏が過去の接待を巡るスキャンダルで党の役職停止6ヶ月という処分を受けるなど、不穏な空気も流れている。
こうしたスキをついて現在は野党の「共に民主党」や革新系の市民団体が再び政権に攻勢をかけてくることも考えられて、要注意であると言える。
安倍氏に対する評価は日本国内でも様々であると言えるが、やはり、その存在感と影響力は大きかったと言える。
そして、いかなる理由であれ暴力で言論を封じることが現代社会であってはならない。安倍氏の冥福を祈るとともに、コロナ禍以降、不安定になっている世界情勢が一刻も早くおさまることを願いたい。