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申込者激減の国家公務員試験

2022-07-31 17:35:22 | 日記
35歳で400万円台…国家公務員、夏の賞与大幅減に「やってられるか!」ブラックすぎる現状

佐藤健太2022.07.31


申込者激減の国家公務員試験

 公務員といえば、頭脳明晰な学生が就く職業とのイメージが強い。

その中でも選りすぐりの成績優秀者が集まったキャリア官僚は、国家を支える超エリートだ。

全国各地の名門高を卒業し、難関の国家公務員採用試験を突破した「学歴社会の申し子」たちは朝から夜まで国益を追い続ける。

だが、その頭脳集団の人気に陰りが見える。

自分よりも成績が下位だった同級生たちが起業や外資系企業で「億り人」「FIRE」を経験する一方で、あまりにブラックな職場環境に遭い、なり手が減少傾向にあるのだ。

政府は勤務間インターバル制度導入などの働き方改革で負のイメージを解消したい考えだが、はたして日本の中枢は守られるのか―。

 2022年度春の国家公務員採用試験(総合職)の申込者数は1万5330人で、前年度に比べ7.1%増となり、6年ぶりに増加した。

数字上は勢いがあるように見えるのだが、これにはカラクリがある。

21年度は現行試験制度で最大の減り幅(20年度比14.5%減)を記録し、1万4310人まで減少していたからだ。

10年前に導入された現行試験の申込者は12年度に2万5000人を超えており、最近は減少が目立っている。

 17年度は2万591人と2万人台を維持していたものの、18年度は1万9609人、19年度は1万7295人、20年度は1万6730人と下降を続けている。

倍率は8~10倍という超難関試験の1つだが、その人気は確実に失われつつあるのだ。

 キャリア官僚は東大出身者が多く占めるが、近年は「最高学府」から敬遠される傾向がみられる。

国家公務員合格者の東大出身者は13年度に454人だったものの、18年度に372人と300人台に落ち込み、足元の22年度は217人となった。

国公立大だけではなく、私立大も含めてバランス良く採用しているともいえるが、かつてのように名門高の成績優秀者が東大法学部を経てキャリア官僚になるという流れは細くなっている。

超過勤務が年間720時間!ありえない職場環境

 その最大の原因といえるのが「ブラックな環境」だ。19年の国家公務員給与等実態調査によると、超過勤務の年間総時間が360時間を超えた職員の割合は全府省平均で22.0%に達し、「720時間超」も7.4%に上った。

民間の約130時間と比べ過酷な長時間労働が目立つ。
 内閣人事局による20年の調査では、20代の3割、30代の2割弱で過労死ラインの目安とされる「月80時間」を超える残業を経験。

内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室では21年1月の超過勤務時間が約378時間に上る職員もいたという。

長時間労働から睡眠不足に陥り、心身の不調を抱える官僚も増加傾向にある。

メンタルヘルス不調で1カ月以上休んだ職員(長期病休者)の全職員に占める割合は1%を超える。

30歳未満の若手官僚で「辞める準備をしている」「1年以内に辞めたい」「3年程度のうちに辞めたい」と答えた男性は約15%、女性は約10%に上り、その理由は「もっと魅力的な仕事に就きたい」が男性49%、女性44%だった。

同級生たちが外資系企業や金融機関で高い報酬を獲得し、起業した友人が「FIRE」する時代の流れを見れば、「なぜ自分はこんな厳しい道を選んでしまったのだろう」と思うのも無理はない。

 国家公務員の年間給与(モデル給与例、2021年度)を見ると、25歳の係員は314万9000円、35歳係長は450万1000円、本府省課長補佐(35歳)は715万5000円、地方機関課長(50歳)は667万円となっている。

さらに本府省課長(50歳)になれば1253万4000円、本府省局長は1765万3000円、事務次官に就けば2317万5000円とかなりの高収入を獲得することはできる。

だが、年功序列型人事・賃金制度に縛られる官僚機構では若手の自由が大きく制約されているのが実情だ。

平成以降で最大のボーナス減に若手の士気下がる

 早朝に登庁し、大臣や有力議員向けのレクチャー資料を確認しながら「ご説明」に奔走。

昼間は通常業務に追われ、夕方以降は翌日の準備に取りかかる。

国会が開会中であれば、業務量は一気に急増する。

内閣人事局が2016年6月にまとめた調査結果によれば、定時(18時15分)から議員の質問通告が出そろうまでに「省内全ての局を待機させている」のは10省庁に上り、官房総務課が必要と判断した担当局のみを待機させているところも7省庁あった。

すべての質問通告が出そろう時刻は最も遅いケースで24時30分、質問表・担当局の確定は27時と異様で、もちろん若手が「お先に失礼します!」と早々に帰ることができるわけはない。

 与党議員から党本部や事務所に呼び出されることも多く、時に野党の集団ヒアリングで詰問に遭う職員も少なくない。

20代後半の若手官僚の1人は「国家のため、国益のため、と思って入省を決めたが、あまりにブラックな環境は異常でしかない。

民間にいった同級生が華々しい活躍を見せる中で、さすがにもうやっていられない」と話し、来年には退職するつもりだという。

自己都合を理由に退職した20代(総合職)は19年度に87人に上り、6年前から4倍も増えている。

 6月30日に支給された国家公務員の夏のボーナス(期末・勤勉手当)は、管理職を除く一般行政職(平均34.2歳)の平均が約58万4800円となり、前年夏に比べ約7万6300円も減少した。

マイナスは2年連続で、今夏の11.5%という減少幅は平成以降で最大だ。

民間水準に合わせることを基本に給与やボーナスは決まるのだが、民間企業のボーナスが大幅アップとなる中で若手官僚の士気は下がる一方だ。

 東大からキャリア官僚になった30代前半の男性は「コストパフォーマンス概念の欠如、時間至上主義の意識の蔓延が中央省庁には強い。

このままの職場環境ならば、とても大学の後輩に『官僚にならないか』と誘うことはできない」と漏らす。

 国は2019年4月施行の働き方改革関連法で、終業時刻から次の始業時刻までの間に一定時間以上の休息時間を確保する「勤務時間インターバル制度」の導入を事業主の努力義務としている。

しかし、国家公務員は対象外で過酷な労働環境が常態化している。人事院は有識者会議などの議論を経て、実態を踏まえた改善策を進めるとしているが、それだけで官僚希望者が増えるとは到底思えない。

国家の中枢を担う官僚にこそ、抜本的な働き方改革が求められている。

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「自国に絶望した」韓国の若者 人材不足の日本に大量流入

2022-07-31 17:03:34 | 日記
2022/02/13

「自国に絶望した」韓国の若者 人材不足の日本に大量流入
  • 著者アレン琴子


長年にわたり、就職難が社会問題となっている韓国で、海外就職を希望する若者が増加傾向にある。その大半は、韓国政府が推進する海外就職プログラムを介して日本へ斡旋されており、日本も人材不足解消策として受け入れ枠を拡大している。
将来有望な韓国の若者を海外に駆り立てているのは、自国に対する絶望感だ。
「高スペック社会」で高学歴でも3~4割が無職
韓国統計庁のデータよると、15~29歳の失業率は2012年以降上昇し続けており、2020年には日本の2倍に値する9%だった。韓国のトップ4大卒業生の就職率は過去数年60~70%と、高学歴でも3~4割が職にあぶれる過酷な現状だ。
厚生省の報告書や現地の事情に詳しい人々の証言から判断する限り、総体的に就職口が不足しているというわけではない。金融危機(2008~2009年)以後に正規職が契約職に代替されたことに加え、「高スペック社会」が、就職難の要因として指摘されている。
格差社会の韓国で、一流企業に就職するのと中小企業に就職するのでは、その先の人生が180度違う。だから皆、必死に高学歴・高スキルを目指す。2020 年の大学進学率は98.45%と、アジア圏で断トツトップだ。
しかし、サムスンやヒュンダイを含む上位10社が国内の時価総額の半分を占める韓国において、高給高待遇の大手企業や公的機関への就職は極めて狭き門である。ロイターの報道によると、従業員数250人以上の企業に就職できるのは国の労働力の13%しかいない。また、2019年は大卒者約30万人に対し、大手・公的機関の就職口はその3分の1以下だった。
結果的に多数の若者が、学歴に見合わない低賃金職で身を粉にして働かざるを得ない。「だったら働かない方がマシ」とふてくされ、無職に甘んじる若者も少なくない。
老人貧困率OECD中1位 国民年金は2055年に枯渇?
それに加えて、不平等な国民年金制度が将来への不安をさらにあおる。
同国の国民皆年金制度は設立されてから20年と歴史が浅く、高齢者(55~79歳)のうち「無年金者」が過半数を占める。受給額も職業により格差が大きい。2015年の公務員年金は約234万ウォン(約22.2万円)、軍人年金は約273万ウォン(約25.9万円)だったのに対し、国民年金の平均月額は約31万ウォン(約2.9万円)、基礎年金は約13.1万(約1.2万円)ウォンと驚くほど低かった。
追い打ちをかけるように、急激な高齢化で国民年金が2055年には完全に枯渇する可能性が高いことが、年金当局の分析で明らかになった。韓国経済研究院は、国内の老人貧困率が2020年に40%を超え、OECD37ヵ国中最も高い現状に警鐘を鳴らしている。
「一生懸命頑張って勉強しても、低賃金で一生働いて年金すらもらえない」」と、将来に絶望して自らの命を絶つ者が後を絶たない。同国の自殺率は世界4位、OECD加盟国中1位である。
8割以上が「韓国脱出したい」
絶望した若者が、残された希望として向かう先は「海外」だ。
就職サイト「ジョブコリア」が韓国の20~30代を対象に実施した調査では、84.9%が「チャンスがあれば海外で就職したい」と回答した。人気が高いのは、高齢社会化で労働人口が不足しており、かつ里帰りしやすい近隣国の日本だ。
韓国は2005年から、雇用支援サービスの向上を国家戦略課題に掲げている。2013年に導入された、若者の海外進出支援プログラム「K-move」はその一貫だ。
同国の雇用労働部の発表によると、2018年の時点でネットワークは世界70ヵ国に拡大しており、2017年には5,783人の大卒者が海外で就職した。そのうち3分の1が日本へ4分の1が米国へ、残りはシンガポール、オーストラリア、その他の国へ流出した。
新型コロナによる入国制限の影響でコロナ禍の動きは低迷しているが、規制緩和後は、さらに大量の人材が流入することが予想される。
在日韓国労働者6万人突破 「高度人材5万人」アジア圏から誘致
人材不足で頭を抱える日本企業にとっても、韓国の優秀な人材は喉から手が出るほど欲しい存在だ。
実際、日本の韓国労働者数は2020年10月の時点で、全在日外国人労働者(約172万人)の4%に値する6万8,000人を上回った。「専門的・技術的分野」の在留資格保有者は全体の44.6%と、G7/8+オーストラリア(56.9%)の国々に次いで高い。
2018年には外交部と雇用労働部が提携し、「韓日つなぎプロジェクト」を発足させた。5年間で韓国の若者1万人が日本で就職できるように、求人から育成、マッチング、就職後のケア(支援金含む)までを提供する。
さらに2021年11月には、経済産業が「アジア未来投資イニシアチブ」の設立を発表した。デジタル国家戦略の一環として、デジタル分野などに強いアジアの高度な人材5万人を対象に、今後5年間にわたり日系企業への就職を支援する。
「月収は契約した金額の3分の1」利用者から不満の声も
その一方で、一部の海外就職支援制度の利用者からは、「いざ現地に到着したら給与や雇用条件が聞いていたものと違っていた」という声も聞かれる。
2017年に「K-move」を介して、シドニーで水泳コーチの職を得た30歳の韓国女性は、「蓋を開けたら月収は600豪ドル(約4.8万円)。契約条件の3分の1もなかった」とロイターに語った。家賃を払う余裕すらなかったため、店舗の窓ふきのアルバイトと掛け持ちして何とか凌いでいたが、辛さのあまり1年もたたずに帰国を決めたという。
グローバル人材の獲得戦が展開されている現在、人材難に悩む日本企業にとっては、海外の若者が安心して日本で就労できる環境創りが重要な課題となるだろう。
将来有望な若者が大量流出
若者の海外流出は、日本側には優秀な人材の確保、韓国側には失業緩和というメリットをもたらすため一見ウィンウィンの関係に見える。しかし、長期的な視野に立つと、韓国側にとっては将来有望な若者がどんどん流出していることにほかならない。これらの若者が「いずれ自国に戻って来る」という保証は、どこにもない。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)


高学歴でも就職できない 厳しさ増す韓国就活事情

2022-07-31 15:07:08 | 日記
高学歴でも就職できない 厳しさ増す韓国就活事情

2021年3月15日 17時14分

「韓国での就職は考えませんでした。努力したわりに得られるものが少ないから」
こう話すのは、韓国の名門大学を卒業した男性です。

TOEFLのスコアは世界のトップクラスの大学にも進学できる100点を超え、京都大学に留学した経験もあります。

その彼が就職したのは韓国ではなく日本の企業でした。

その理由を取材すると、韓国社会の厳しい就活事情がありました。(国際部記者 金知英)


すべては大企業に就職するため
「名門大学に行けば、成功すると言われてきました」

こう話すのは、26歳の韓国人男性です。

韓国は「名門大学に入って大企業に入ることが成功」と言われるほどの学歴社会。男性も子どものころから、こうしたことばを周囲から聞いて育ち、受験競争を勝ち抜くために勉強漬けの生活だったといいます。中学時代は3つの塾を掛け持ちしながらほぼ毎日、塾通い。特に英語は猛勉強し、中学3年生の時には、TOEFLで世界トップレベルの大学に進学できる104点のスコアを獲得。志望校にも合格しました。

高校に入ってからも遊びや友人づきあいなどは我慢し、勉強、勉強の毎日だったといいます。そして、念願の志望大学に合格。

男性が合格したのは、韓国で「SKY(スカイ)」と呼ばれるソウル、コリョ(高麗)、ヨンセ(延世)の3つの有名大学のひとつ、コリョ大学です。

まさに子どものころから親が期待し、自身も目標にしてきた名門と呼ばれる大学でした。

卒業式での男性(右)しかし喜びもつかの間、大学に入っても猛勉強と競争は終わりませんでした。

それどころか、むしろ激しくなるばかり。

男性は、大学院への進学を考えた時期もあったといいます。

大学1年生から始まる就職活動

「韓国では死ぬ気で勉強して大学に行けたとしても、そこで終わりではないんです」

男性がこう話す理由は、韓国の過酷とも言える就職活動事情があります。

韓国では、大企業に就職するためには「高学歴」をはじめとする「スペック」と呼ばれる実績が必要だといいます。

この「スペック」を積むために、事実上、大学1年生から就職活動が始まるというのです。

就職活動で評価される「スペック」には、主に次のようなものがあるといいます。
・学歴(どの大学を卒業しているか)
・英語力(TOEICなどで高スコアを持っているか)
・成績(大学での成績は優秀か)
・企業でのインターンシップ
・海外経験(留学などの経験があるか)
・学外での活動(企業の学生向けプログラムの参加経験など)大企業に入るには、各学期の成績は、上位のA以上を維持しなければなりません。

実際、男性も試験の時期になると長い時で2週間ちかく、ほぼ寝ないで準備をしたといいます。

加えて男性は在学中、アフリカで子どもたちを支援するNGO活動、ソウル高等裁判所でのインターン、政党傘下の研究所での研究補助、日本の京都大学への留学といった「スペック」を必死に積み上げていきました。

高学歴、“ハイスペック”でも就職できない?

いったい、どれほど「スペック」を積み上げればいいのだろうかー。

高学歴でハイスペックと言われる先輩や友人たちであっても、就職活動がうまくいかず苦しむ姿を数多く目の当たりにし、疑問を感じるようになったといいます。

「優秀な成績や課外活動のためにかかる準備や費用が膨大な一方で、大企業に入るのはとても大変。それに、せっかく大企業に入れても40代、50代になると会社から出て行けという圧力があるのを知っていたので、こんな現状なら韓国での大企業の就職を目指すのは難しいと思いました」

高学歴であっても、大企業に入るのが難しいというのは、どういうことなのか。

専門家に話を聞くと、背景に「構造的な問題がある」と指摘。そこでデータを分析してみました。

韓国の2020年の現役の大学・短大への進学率は、72.5%(韓国教育省)。単純に比較はできませんが、日本の大学・短大への進学率は58.6%で、韓国は日本を大きく上回っています(文部科学省・学校基本調査)。一方で、韓国で大企業と定義される企業の数は2391社で、割合は全体の0.3%。大企業で働く人の割合は全体の20%にとどまっていました(2019年・韓国統計庁)。

たしかに韓国では大学への進学率が高い一方で大企業の数が限られているため、構造的な難しさがあるようにも思えます。さらに、韓国の大企業と中小企業の1か月の平均賃金を見てみるとー。

大企業515万ウォン(約49万円)中小企業 245万ウォン(約23万円)。※換算レートは3月10日時点(2019年・韓国統計庁)
大企業の賃金は、中小企業の倍以上となっていました。大卒者の多い韓国では日本以上に大企業指向が強い傾向があると専門家は指摘しています。

また、こうしたこともあり、2020年の韓国における15歳から29歳の失業率は9%と、全体の失業率4%を大きく上回り、慢性的な就職難が社会問題となっているようです。(韓国統計庁)
追い打ちかける「常時採用」「即戦力」
ただでさえ厳しい韓国の大学生たちの就職活動に、追い打ちをかける動きが、近年、出てきています。「高学歴」「ハイスペック」に加え、「即戦力」までも求める傾向が強まっているといいます。

「精神的にきついです。いつ就職活動が終わるのかわからず不安です」

こう話すのはソウルのチュンアン(中央)大学のユ・ヘヨンさん(25歳)です。

ユさんが不安に感じているのは「常時採用」を導入する企業が増えてきていることです。これは、日本でも主流の、まとめて採用する「定期採用」に対して、必要な時期に必要な人数だけを採用するというものです。世界の企業との激しい競争の中で、即戦力を欲しがる傾向が強まっているのです。

ユさんは大企業に就職するために卒業を1年延ばし、マーケティングを代行する会社でインターンを経験したほか、TOEICのスコアで940点を獲得するなど「スペック」を積んできました。

それでも「常時採用」が広がれば、より「即戦力」人材が求められるようになるため、新卒には不利になると感じています。

ユ・ヘヨンさん
「名門大学、大企業に入ることがよいことだという意識を植え付けられているので、今、大企業に入れないと負け組になったような気分になって、生きていけないような気がします」

韓国の雇用政策に詳しいニッセイ基礎研究所のキム・ミョンジュン主任研究員は、「常時採用」が広がれば、大企業への就職はより厳しいものになると指摘しています。

ニッセイ基礎研究所 キム・ミョンジュン主任研究員「長期で社員を育成する『定期採用』は、途中で辞める人数を見込んで多めに採用しますが、
『常時採用』では必要な『即戦力』しか採用しない。
採用人数は減ることになり、名門大学を卒業しても、大企業への就職は厳しくなっていきます」

増える日本で就職する韓国の大学生

こうした中、日本で就職先を見つけようとする、高学歴、ハイスペックな学生たちが増えてきています。

韓国政府は就活生が海外で就職しやすいよう支援を進めていて、2013年に支援を受けて日本で就職した韓国の就活生は296人。

それが2019年は2469人と8倍あまりに急増しています。

日本企業も参加した韓国就活生向け就職面接会冒頭のコリョ大学を卒業した男性も日本で就職した1人です。

男性はセミナーに参加したのをきっかけに、結局、大学院進学から日本での就職へ進路を変更。

大手メーカーに採用され、現在、日本で働いています。

今は、これまでのように勉強に追われるのではなく、精神的に余裕のある生活を送っているといいます。

「日本での就職活動は、即戦力ではなく、長い目で見て成長できる人材を見極めてもらっていると感じました。私みたいな新入社員に対する期待値が低いので、初めから結果を残さなければならないというプレッシャーもなく、気持ちが楽です。今は、韓国に帰りたいとは思いません」

「常時採用」じゃないと生き残れない

一方でキム主任研究員は、グローバル化が加速する中、「常時採用」の流れは日本の企業でも避けられず、近い将来、日本の就職活動も変化する可能性があると指摘しています。

「いま世界経済のトレンドは短いスパンで変わり、『定期採用』では対応できなくなってきています。

特に、海外の企業と競うためには『常時採用』を導入しないと生き残れません。

今の日本は『定期採用』をして会社で育成しようという考えですが、海外の企業に比べて業務の進め方が遅くなりかねません。

企業が適時、必要な人数を採用できる『常時採用』が段階的に拡大していけば、学生の能力が重視されるようになると思います」

心を病む若者も

今回の取材の中で特に印象に残ったのが、

「終わりなき競争」、「生きづらさ」ということばです。

韓国では、就職難や格差が深刻化する中、過度のストレスを背景に、若者の間で精神疾患を患う人も増加傾向にあるといいます。

日本や韓国の若者が抱える問題を引き続き取材していきたいと思います。
国際部記者

金知英

2014年入局
福岡局を経て
2019年から国際部
朝鮮半島情勢を取材
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社会課題にはどんなものがある?

2022-07-31 14:46:55 | 日記
社会課題にはどんなものがある?

社会課題とは「一般層にまで知れ渡っている、社会システムの欠陥や矛盾から生じた解決すべき課題」を指します。

環境、資源、経済、人権、文化、労働、教育、人口、医療、地域など様々な分野で課題が存在し、それらの課題は私たちの生活に大きな影響を与える恐れがあります。

具体的には大小問わず発生する犯罪や、自然災害、少子高齢化、労働不足、環境汚染、医療や福祉の未整備、インフラ老朽化、男女差別、いじめなど身近にある課題から国際的な課題まで多岐にわたります。

また、必ずしも全て顕在化しているわけではなく、水面下で進行している課題も多くあります。

世界規模で見ると各国で様々な運動が起きています。

例えばアメリカでは黒人差別の撤廃を訴える「BLM(Black Lives Matter)運動」や、性暴力に対する社会の認識の低さを変えるきっかけとなった「MeToo運動」などが挙げられます。

環境汚染・破壊も世界中で社会課題として挙げられており、大気汚染やマイクロプラスチック、森林伐採、水不足、食糧不足、絶滅危惧種の増加などが危険視されています。

そのため脱炭素のような目標が掲げられ、多くの企業は環境問題を配慮した事業モデルへと舵を切っています。

近年では新型コロナウイルスの世界的流行による医療崩壊や経済活動への打撃などが課題として連日報道されています。

人権問題や貧富の差など他の社会課題と影響し合い、それまで潜在的に隠れていた問題も顕在化するといった事態となりました。

こうした背景から、様々な社会課題に対して改善できるように取り組むことが多くの企業に求められています。


日本が抱える主な社会課題

日本が抱える社会課題も環境、資源、労働、教育などと多岐にわたりますが、その中でも代表的なのが「貧困問題」「少子高齢化」「人材不足」「後継者不足」「長時間労働」「待機児童」「介護問題」が連日話題として挙げられています。

さらに新型コロナウイルスの世界的流行による影響を日本も受けており、医療崩壊やデジタル環境の脆弱性、教育格差の拡大などが発生しています。

日本は災害大国と呼ばれるほど年間を通じて自然災害の発生が多いのも深刻な問題です。

地震や台風、大雨、洪水、土砂崩れ、豪雪など多くの災害が発生しやすい点も日本が直面する深刻な社会課題です。

少子高齢化の影響を受けて「人口減少社会」も重要な課題です。

それにより、労働環境における人材不足のみならず、後継者不足による企業の倒産や技術の消失、介護問題、空き家問題など様々な課題が同時に浮き彫りになってきています。

20〜39歳までの人口が減少することで「消滅可能性都市」と呼ばれる課題も顕在化しています。

東京などの特定の都市に人口が集中する極点社会などの課題と合わさり、将来的には特定の都市機能が停止するといった深刻な状況になる恐れがあります。

IT技術が社会課題の解決に向けてできること

企業が社会課題に取り組む場合、IT技術を活用して貢献や改善を行うのがひとつの方法です。

国内外問わず様々な企業が、人々の安全で健康的な生活を脅かす貧困や健康、情報へのアクセス、労働環境、地域コミュニティなどの課題解決に向けて取り組んでいます。

ここでは、IT技術で社会課題解決を実現する取り組みについて紹介します。

AIを活用した取り組み

AI(人工知能)を活用した社会課題解決に向けた取り組みが近年注目されています。

AIは複雑で大規模なビックデータからパターンを見つけ出し、知能的な対応(課題解決の提案や反復作業の自動化、最適な状態への適応、正確性の高い分析)を実現するプログラミングです。

AI技術には環境問題や人権問題、高齢化社会、人材不足、医療崩壊などの社会課題を解決できる可能性があり、現に多くの分野で導入が進んでいます。

例えば、GoogleとNOAA(米海洋大気庁)は共同で、絶滅を危惧されているザトウクジラの保護にAI技術を活用しています。

AIで海底マイクから録音した10万時間に及ぶオーディオデータを解析し、クジラの鳴き声を検出できるアルゴリズムを構築。

その結果、ザトウクジラの行動を調査できるようになり、保護活動へと繋がっています。

また、医療現場でもAIは活用されています。2021年5月、同じくGoogleはAIを活用した皮膚病判定支援ツールのアプリを公開しました。

これは、スマートフォンで撮影した写真をAIが解析し、いくつかの質問に回答することで自動診断が行われ、疾患の可能性を教えてくれる技術です。

医療分野でAIが普及すると、将来的に早期発見が難しいがんを見つけることができるようになるかもしれません。

世界的な医師不足の中でも、AIによって多くの医療に関する社会課題の改善が期待されています。

東京都水道局は労働人口の減少を解決するために、業務工程を見直し、無駄を削減し、省人化に役立つAIチャットボット「水滴くん相談室」による問い合わせ対応を導入しました。

これにより、従来の労働環境では実現できなかった24時間365日の対応ができるようになりました。

利用者は時間に縛られずに好きなタイミングで活用でき、利便性も向上しています。

また、各種手続きを行う際のサポートもカバーしているので従業員の負担を減らせ、労働環境の改善にも大きく貢献しています。

AI技術は導入するだけでなく、AI開発プラットフォームを使えば「顔と感情の認識」や「音声認識」「テキスト分析」「自動化」を実現するプログラミングを開発できます。

例えばMicrosoftが提供している「Microsoft AI」を使えば、AIプロジェクトを実施することも可能です。

製造業であれば、製造プロセスを最適化し、工程の自動化や教育環境の構築などを実現します。

他にも医療機関や政府などの公共機関、金融サービス、小売業、メディア&エンターテイメントなど様々な業界でMicrosoft製品がAI開発を促進させています。

また、MicrosoftはAIを組み込んだアプリケーションをいくつもリリースしているため、自社の抱える社会課題の解決にも効果的です。

働き方改革の支援

IT技術は働き方改革の分野でも効果的に機能します。

現在日本では、少子高齢化社会による労働人口の減少や長時間労働による生産性の低下、デジタル人材不足によるIT化の遅れなど、様々な課題が蓄積しています。

特に新型コロナウイルスの流行によってテレワークの導入が進む中、労働環境や管理システムの非効率性が問題視されました。そうした企業内に潜む課題もIT技術によって改善が可能です。

働き方改革の中で特に議題に上がるテーマとして、「多様で柔軟な働き方」があります。

時間や場所を有効に活用する働き方として導入が進んでいるのが「テレワーク」ですが、導入する際にインターネット環境やサイバーセキュリティ、情報管理などの問題を解決する必要があります。

それらの解決策として、様々なアプリケーションが開発されています。

例えば、Web上での会議をスムーズに行う「Web会議システム」を導入することで場所に縛られることなく、テレワークでの業務を実現できます。

また、会計・人事・在庫管理などの基幹システムを統合し、一元管理を実現する「ERP」を導入すれば、業務の効率化や標準化が実現し、新人とベテランの質を平準化することも可能です。

他にも、手動で対応していた作業を自動化する「RPA」の活用により、限られたリソースを適切な業務に割り振りやすくなり業務効率化や生産性向上が期待できます。

まとめ

日本は環境、資源、人権、教育、労働、人口、医療、地域など多くの社会課題を抱えています。

そうした社会課題を解決する方法の一つにIT技術が期待されており、多くの企業で導入が進んでいます。

開発プラットフォームを利用すれば自社での開発も可能です。
取り組む際は、まずはIT技術の活用に焦点を当て、自社にできるところから進めていきましょう。

改革はどこへ行ったのか:岸田首相の経済政策

2022-07-31 14:16:30 | 日記
改革はどこへ行ったのか:岸田首相の経済政策

竹中治堅政策研究大学院大学教授2021/11/6(土) 8:02

総選挙中「岸田ノート」を掲げる岸田文雄首相(写真:アフロ)

去年は改革に前向きだった岸田首相


 今回の選挙では与野党が共に分配政策を掲げ注目を集めた。岸田首相は成長策も訴えたがその方策として経済・社会の改革を熱心に訴えることはなかった。

 一方、国民が改革に関心を持っていることは明らかである。それは改革を正面から訴えた唯一の政党である「日本維新の会」が比例区の得票数を前回と比べ450万票以上伸ばしたことに現れている。

 首相は元々改革に前向きな姿勢を示していた。

岸田首相は昨年9月の総裁選出馬に際し『岸田ビジョン』という本を出版している(岸田文雄『岸田ビジョン』2020年、講談社)。

この本の中で特に経済・社会のデジタル化について

「オンライン教育や遠隔医療などの面でも、我が国の現状は満足できるものではありません」(『岸田ビジョン』26ページ)という認識を示している。

その上で、遠隔医療、ドローン、自動運転に対する規制をイノベーションの進展に伴って、「適宜見直していく必要」があると規制改革の必要性を明言している(『岸田ビジョン』55)。

総選挙の隠れたテーマ:菅義偉政権からの決別


 にもかかわらず、首相はなぜ改革に積極姿勢を示さないことになったのか。

これを解く鍵は総裁選の経緯と総裁選と総選挙のタイミングにある。

岸田首相と自民党が総裁選の論争をひきずりながら総選挙に突入したため、改革にそれほど積極姿勢を示さないことになったと考えられる。

 9月29日の自民党の総裁選で岸田文雄元外相が勝利を収め、現職の菅義偉総裁は出馬しなかった。

しかしながら、岸田氏が8月26日に総裁選に出馬した時には、菅総裁に挑むことを考えていたはずである。

 岸田氏は昨年9月総裁選にも出馬しており、その時に用意した政策をもとに今回の総裁選に向け、準備を重ねてきたことは間違いない。

現職の菅総裁に対抗する以上、その内容は菅政権の政策を意識したものとならざるを得ない。

 岸田氏が総裁選に際し用意した政策は党改革、コロナ対策、経済政策、外交・安全保障政策の四つの柱があった。

 外交・安全保障政策については日米同盟の強化、自由で開かれたインド太平洋構想の推進など菅政権の路線と違いはなかった。

しかし、他の三つの政策分野では違いを際立たせようとした。

 総選挙では首相は立憲民主党・共産党を中心とする野党と対決した。

このため成長を強調した。

しかしながら、総選挙の隠れたテーマは岸田政権の菅政権からの決別であった。

このため改革を全面的に掲げることが難しくなってしまった。

党改革


 まず、党改革から見ていこう。

岸田氏は「権力の集中と惰性を防ぐ」ことを理由として、役員任期を「1期1年・連続3期」に制限することを約束した。

これは2016年8月から第二次安倍政権の下で幹事長を務め、菅政権でも続投した二階俊博元幹事長を念頭に置いた公約であることは間違いない。

つまり岸田氏が総裁に就いた場合の二階氏の続投を予め否定したわけである。

コロナ対策


 コロナ対策について岸田首相は新型コロナウィルス感染症への対応の基本原則として「「多分よくなるだろう」ではなく、「有事対応」として常に最悪を想定した危機管理」を掲げた。

これは菅前首相のコロナ対策への批判である。

菅前首相はコロナ対策としてワクチン接種が最も有効と判断し、迅速な接種拡大に尽力した。

菅前首相は今年の初めにも「ワクチンさえ打てば夏には雰囲気はガラリと変わる」(『読売新聞』2021年7月23日)と周囲に語り、6月ごろ「ワクチンのおかげで重症化しやすい高齢者の感染者は減っている。

病床の逼迫(ひっぱく)は抑えられる」(『朝日新聞』2021年7月9日)、7月上旬にも「感染状況はこれから良くなる」(『朝日新聞』2021年7月20日)と考えていたという。

 実際には、10月上旬に第3波が始まり、2021年3月中旬には第4波が、7月上旬からは第5波が日本を襲う。

菅政権の行動制限の発動は遅れ、いずれの波でも大都市部で病床が不足し、自宅待機者が急増する。

また、独立行政法人国立病院機構法や独立行政法人地域医療機能推進機構法に基づいて二つの機構に病床確保のために協力を求めることも行わなかった。

 菅政権の対応を踏まえて、岸田氏は総裁選で徹底した人流制限を実施すること、検査を拡大すること、第3回接種の準備を進めること、国公立病院をコロナ重点病院化することなどの方針を打ち出した。

また、国と地方が、人流抑制や医療資源を確保するため、より強い権限を持つための法改正を行うことも約束した。

首相就任後も総裁選の公約に沿った方針を示している。

特に病床の確保のために現在の法的権限を活用することを明言し、10月18日に後藤厚労大臣が法律に基づいて国立病院機構と地域医療推進機構に第5波で確保した病床より2割多くのコロナ感染者用の病床を確保するよう求めた。

また経口治療薬の年内実用化を目指す方針を示している。

 総裁選以降示してきた方針を自民党も基本的には公約に盛り込んでいる。

経済政策


 注目したいのは岸田首相が掲げてきた経済政策である。

 岸田氏は総裁選に出馬し、経済政策を説明する際に
「小泉改革以降の新自由主義的政策これを転換する。」
「世界はすでに単純な規制改革、あるいは構造改革路線から脱却し」ていると、新自由主義政策や構造改革を批判した。

 菅前首相は官房長官時代の頃から農協改革やビザ規制の緩和など従来の政策の見直しや規制緩和に熱心に取り組んだ。

首相就任後もデジタル庁の設置、リモート診療規制緩和などの行政改革、規制緩和を進めた。

 岸田氏が、新自由主義的政策や構造改革を批判したのは菅前首相との立場の違いを明確にしようとして行ったことは間違いない。
これは昨年の総裁選に際して、岸田氏が掲げた主張や出版した『岸田ビジョン』の内容と比較するとはっきりする。昨年の総裁選では、今回の総裁選で行ったような新自由主義や構造改革についての批判を行っていない。

またデジタルトランスフォーメーションやデジタル技術など先端技術の「社会実装」も訴えている。

 岸田氏は、『岸田ビジョン』の中で「新しい資本主義」という言葉を掲げ、アベノミクスのもとで格差が広がったことに警鐘を鳴らしている。

さらに資本主義のあり方の見直しを強調している。

しかし、そこで訴えているのは「新自由主義の転換」ではなく「功利主義の転換」である(『岸田ビジョン』28ページ)。そして、冒頭紹介したように改革に前向きだった。

総裁選から総選挙へ


 衆議院議員の任期は元々10月21日に満了する予定となっていた。

このため岸田首相は就任後、そのまま総選挙を迎えなければならなかった。

首相は10月14日に衆議院を解散、10月31日に総選挙が実施されることになった。首相は総裁選の時に訴えた政策の多くをそのまま自民党の公約として掲げて総選挙に臨む。

 首相就任直後も首相は改革に積極的に取り組む姿勢を示さなかった。

10月8日の所信表明演説においては改革という言葉を一回も使っていない。

10月10日には、フジテレビ系の報道番組「日曜報道THE PRIME」に出演、この中で、改革には「市場原理主義とか」「冷たいイメージ」が付いているとまで述べている。

 自民党総裁選や総選挙は世論の一部には経済・社会の改革を求める根強い意見があることを示している。

自民党総裁選において改革論者で知られる河野太郎前ワクチン担当相が最も多くの一般党員票を獲得したこと、総選挙における維新の躍進にこれは現れている。

 そもそも、メディアが少子化、所得の伸び悩みなど日本経済、社会の問題について論じない日はない。

こうした中で政治が世直し、経済・社会改革に背を向けることは考えにくい。

指導者は改革に取り組むことで将来への期待を作ることができる。

政治学者のファン・リンスは民主的指導者は改革により「一部の社会的部門の期待を満足させることで、まだ自分の要求を満たす即効的なアウトプットを実感していない人々にも希望を抱かせる」ことができると説く(ファン・リンス、横田正顕訳『民主体制の崩壊』岩波文庫、2020年、64頁)。

デジタル化とシェアリング化


 岸田首相は「新しい資本主義」を自らの経済政策の看板として成長と分配を掲げる。ただ、世界的に見れば、資本主義の「新しい」潮流はデジタル化とシェアリング化である。

これを進めるために規制改革や政策の見直しが必要である。例えば、リモート診療の初診には規制が残る。またリモート診療の診療報酬は対面に比べ低く抑えられており、医療機関にリモート診療を導入するインセンティブを十分つけることができていない。

 現在はデジタル化に注目が集まるが、これと密接に関わっている経済のシェアリング化のあゆみも遅い。

例えば、世界の主要都市でライドシェアサービスが使えないのは日本の大都市くらいのものである。民泊にも制限が残る。ライドシェアや民泊への一連の規制の緩和を進めるべきである。

 例示した規制改革はいずれも生活者本位のもので、我々の生活を今よりも便利にするものである。

 もっとも首相は改革への姿勢を徐々に修正している。

紹介した報道番組でも「デジタルなんていうのは規制改革の集約した分野ですのでこれを思いきりやる」と経済のデジタル化を進めるために規制改革に取り組む姿勢を滲ませる。

10月14日衆議院解散後の記者会見では「新しい時代を開拓するためには、デジタル改革、規制改革、行政改革を一体的に進めていくことが重要」であると明言し、総裁選の時に公約したように改めてデジタル臨時行政調査会を立ち上げることを表明している。

参議院議員選挙と生活者本位の改革


 首相にとっての今後の課題は参議院議員選挙の乗り切りである。

このためには政策で成果を上げることが求められる。

首相が成長策の柱として打ち出す科学技術振興のための投資や経済安全保障の観点に立った重要な産業基盤の国内整備はいずれも成果を短期間に生むことは容易ではなく、我々国民が理解するのにも時間を要す。

やはり短期的に首相が国民に世の中が変わりつつあると実感させるためにデジタル化・シェアリング化を進める姿勢を鮮明にすることであろう。

 例えば、ライドシェアの解禁を目指す方針を示せば、政権が生活者本位で経済・社会を変革し、我々個人の生活をより便利にしようと志向していることは明確になる。

 首相はさらに姿勢を鮮明にし、首相に今後成長のための経済・社会の改革に取り組んでくれることを期待したい。

竹中治堅
政策研究大学院大学教授

日本政治の研究、教育をしています。関心は首相の指導力、参議院の役割、一票の格差問題など。【略歴】東京大学法学部卒。スタンフォード大学政治学部博士課程修了(Ph.D.)。大蔵省、政策研究大学院大学助教授、准教授を経て現職。【著作】『コロナ危機の政治:安倍政権vs.知事』(中公新書 2020年)、『参議院とは何か』(中央公論新社 2010年)、『首相支配』(中公新書 2006年)、『戦前日本における民主化の挫折』(木鐸社 2002年)など。