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韓国、「文政権」稚拙な保守叩きでブーメラン「国会空転」も

2017-07-29 15:44:13 | 日記
勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。


2017-07-28 05:00:00

韓国、「文政権」稚拙な保守叩きでブーメラン「国会空転」も

文氏は派閥主義を激化させる

米韓FTA反対から守護者へ

文在寅政権は、朴前大統領の批判を楽しんでいるようだ。

文氏は大統領就任に当たって「協治」なる言葉を使った。

与野党が協力して、大統領弾劾という異常事態後の政局安定を目指す意向とみられたのだ。

現実は全く逆。勝者としての奢りから、敗者の保守派に対して、朴前大統領を含め、あからさまに侮辱しているようである。

これでは、文政権が公約を実行するに当たり「少数与党」という弱点を乗り越えて、野党の協力を得るのは困難であろう。

韓国国会には「国会先進法」という制度がある。

5分の3の賛成がなければ法案決定とならないのだ。

憲法改正という重要法案であれば別として、一般の法案でもこの縛りがある。

これでは、ほとんどの法案が野党の反対で決定しない泥沼に入るリスクを抱える。


少数与党の文在寅政権としては、頭を低くして協力を求めるのが筋であろう。

それが、大統領選での勝利感に今なお酔っているとしか思えない所作を繰り返している。

文大統領の一枚看板と言っても良い「南北融和構想」は、北側の無視と米国の反発を受けて早速、軌道修正を求められている。

余りにも学生運動家上がりの「青臭さ」が鼻につく未熟外交に映るのだ。

外交は本来、老練でなければならない。

四囲の状況をつぶさに分析して慎重にやるべき話だ。

それがどうだろう、思いついたらすぐに行動するタイプだ。

そこには、韓国の置かれた客観的な状況など考慮することなく飛び出す、突貫型外交を始めている。

米国が強い危惧の念を抱くのは当然である。

米国議会は、韓国へのTHAAD(超高高度ミサイル網)設置費用を上程した。

さらに、南北朝鮮の共同事業「開城工業団地」の操業再開反対を表明している。

北朝鮮問題は、韓国が勝手に動いて解決できる段階を超えているのだ。

文大統領は、その認識が希薄ゆえに米国から強い縛りを受けている。

この程度のことが、事前に察知できない大統領では困るのだ。

私ですら、米韓が一体にならなければ、北朝鮮問題は解決不能と、言い続けてきたほどだ。

これは、常識であろう。

これも分からない韓国の「86世代」が、韓国政治をリードすることは極めて危険である。

私が、今後5年間の文政権に期待できない最大の理由は、世間知らずの「学生政権」という点にある。

正義心は強い。

それが、「原理主義」と「独善」という衣装をまとっているだけに、「現実」を悟るまでに相当の時間がかかるであろう。

あっという間に、任期の5年間は過ぎるのだ

実は、海外メディアが文政権の脆弱性をすでに取り上げていた。

文氏は派閥主義を激化させる

『中央日報』(6月15日付け)は「文大統領 派閥主義・偶像崇拝の中心」と題して、米ニューヨークタイムズのコラムを紹介していた。

6月13日(現地時間)の『ニューヨークタイムズ電子版』には、「韓国の左派混乱」というコラムが掲載された。

このコラムは、オンラインメディア「コリアエクスポゼ」のク・セウン代表が寄稿したもの。

ク代表は寄稿で80%に達する文大統領の高い支持率(当時)に言及しながらも、「しかし国家のためのバラ色は少ないようだ」と書いたのだ。

(1)「ク代表は、文大統領の支持者の行為について、

『彼らの強力な運動は、有力左派系メディアと新大統領を批判する自由主義者に対抗している』とし、

『分派主義と政治的偶像崇拝の中心にある文大統領は、前向きな変化の代理人のようには見えず、政治的派閥に対する国家の脆弱性はこの国の民主主義が依然としてどれほど脆弱かを見せている』と指摘した」

韓国の民主主義の未成熟さは、反対陣営への感情的までの批判に現れている。

冷静に議論する習慣がなく、民主主義は妥協であるとの認識が欠如している。

妥協は、敗北としか捉えない狭量さがある。

政治は、勝ち負けという勝負になっている。

だから、勝った側は何でも好き勝手が許されると錯覚する。

現在の文在寅政権は、勝者として朴前政権へ復讐している。

過去、この繰り返しできた。韓国政治の不完全さの原因は、全てここにある。

前政権の問題点をこれでもか、これでもかと穿り返す。非生産的な繰り返しだ。

(2)「ク代表はコラムで、

『左側に立つ熱心なファンは、新しいアイコンになった文大統領を非難しそうな人たちを相手にいつでも戦う準備ができている』とし、

『彼らは時々、自分たちを“文ファン”“タリ(月=moon)バン”とからかう人たちを処罰することに強い決意を抱いている』という見方を示した。

『その醜い争いは、自由主義メディアと政治家を苦しめることを含む』とし『無数に多くの文字メッセージ伝送は彼らが好む戦略の一つ』と説明したりもした」

文在寅政権を支えるメディアは、『ハンギョレ』である。

文在寅氏が創刊委員として関わっているほどだから、現政権へは熱烈なラブコールを送っている。

文政権の広報紙のような役割を果たしているが、発行部数は朝鮮日報や中央日報の二大紙からみれば取るに足らないほど少ない。

労働組合や市民団体が主要な購読層であろうか。

発行部数に大差がついているから、これらの革新派メディアの声は限られた層にしか届いていない。

反市場主義や反企業主義が前面に出ているので、一般的には馴染まないのかも知れない。

『朝鮮日報』(7月23日付)は、「文在寅政権の稚拙な保守たたき」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のチェ・ボシク上級記者である。

この記事では、具体例を挙げて現政権が前政権を「なぶり者」にしている様子がよく分かる。

あたかも、占領軍が乗り込んできたような高揚感に包まれて、次々と「愚行」を重ねている。

これは、次の政権交代で徹底的に痛めつけられても文句を言えない立場に自らを追い込んでいる。

今少し、スマートな政権交代ができないだろうか。米国トランプ政権でも、ここまでは酷くないのだ。

(3)「2カ月前に、『朴槿恵(パク・クンヘ)前大統領は四方を鏡に囲まれた部屋で過ごしていた』といった報道が広がった時のことだ。

大統領府(青瓦台)は担当記者の確認取材に対し、『ノーコメント』と答えた。

一言説明すれば済む事柄にもかかわらずだ。

朴前大統領が『積弊勢力』に見えるように放置しているようにも、風説が事実として固まるのを楽しんでいるようにも見えた。

筆者が、『朴槿恵の鏡の部屋に対する青瓦台の怪しい沈黙』と題するコラムを書いた際、青瓦台はこう説明した。『青瓦台の官邸や生活空間については、保安上の規定に抵触するため言えない』と」

朴前大統領の居間は、四方が鏡で囲まれているから、文大統領がすぐに引っ越しできないという噂が蒔かれた。

それ故、その鏡の取り外しで3日も要した、と。

これがウソだったのだ。

真相は、部屋の模様替えに3日かかっただけのこと。

この噂を否定せずにいた大統領府は悪意に満ちている。はっきり言えば、人倫に反する振る舞いだ。

(4)「そんな青瓦台が今度は、『朴槿恵のベッド』を持ち出した。

あるメディアの記者に

『国家予算でベッドを買ったのだから、定められた使用年限まで使わなければならないが、前職の大統領が自ら使ったベッドなので、他人が使うことも売却することも不適切だ』と語ったという。

そして、細かいことにまで言及してみせた。保安上の理由で『鏡の部屋』については事実確認を拒みながら、官邸のベッドは規定には抵触しないようだ」

大統領府は、「朴槿恵のベッド」の写真と購入価格を発表した。

前記の「鏡の間」では、保安上の規定に抵触するため、噂についてコメントできないと言いながら、「大統領のベッド」については積極的にPRしている。

このベッドも、「保安上の規定に抵触するはず」だが、なぜか公表している。

要するに、朴前大統領を徹底的に叩き潰せという汚らしい動機が見え隠れしている。

上品とは言えないこの手法で、「暴露戦術」に出ているのだ。これが、韓国社会特有の隠微な点である。

(5)「最近、進んでいる朴槿恵政権時代の文書公開もそうだ。

最初の発表の30分前に『放送各社は生放送の準備を』と記者室に通知したという。

青瓦台の報道官は、まるで特ダネを明らかにするかのように『青瓦台のキャビネットで前政権の文書が発見された』と細かく説明した。

文書内容をカメラの前で示す場面もあった。今の青瓦台は以前とは異なり、国民には透明でオープンだという点をアピールした格好だ」

ここまで、朴槿恵政権時代を全否定する動きの背後に何があるのか。

それは、現在の朴裁判で賄賂問題が無罪になるケースに備えている。

決定的な証拠がない事件であり、証拠不足で無罪になった場合、市民団体や労働組合をたきつけて、再び「ロウソク・デモ」をやらせる準備とみられる。

万一、無罪になれば、国内の保守系が一斉にデモへ立ち上がるだろう。

それに備え、あらゆる悪材料を探し出しているに違いない。

(6)「人が本能的に嫌うのは、現在の権力が死んだ権力を乱暴に踏みにじるように見えることだ。

保守勢力が朴前大統領を擁護しなくなったとしても、青瓦台が面白がって流す『鏡の部屋』『朴槿恵ベッド』の話には憤慨する。

積弊を清算する裁判官にでもなったように

『青瓦台文書』を公開したり、朴正熙元大統領誕生100年の記念切手発行を中止したりするやり方は、保守を内心憤らせるものだ。

選挙に勝ち政権を握ったことは最後の勝利ではない。真の勝負は国家運営で決まる。

大統領は自分に投票した支持者だけで国政を率いることはできない。

自分を一時警戒した人、自分に反対した人との同意、協調も必要だ。

文大統領の共感能力ならば、彼らの心を推し量ることは難しくない」

朴正熙元大統領誕生100年の記念切手は、文在寅政権になって急遽、発行を取りやめた。

一方、盧武鉉・元大統領の記念館建設は承認している。これほど偏った決定があるだろうか。

朴正熙元大統領については、軍事独裁政権を敷いた批判を浴びている。

しかし、歴史として否定できない事実である。

ちょうど、日韓併合は韓国にとって不名誉だから認めないという論理と同じである。

こんなご都合主義があるだろうか。歴史に対してきちんと向き合わないのが韓国人である。

不都合なことは避ける。慰安婦問題も、韓国人にとっては不都合な事実である。

強制連行でなく自由意志で参加しているからだ。

それを、強制連行説にすり替えて、日本批判に持ち込み、不都合な部分を回避しているに過ぎない。

要するに、事実を事実として認めないのだ。

慰安婦に自由意志でなったのは、朝鮮人だけでなく日本人もいるのだ。

当時は、公娼制度が存在した。これが、歴史の事実である。何も、恥ずかしがることはない。

文在寅氏は、米韓FTA(自由貿易協定)を巡って過去、主張を二転三転させてきた。

まさに無節操を絵に描いたような政治家である。

米韓FTA反対から守護者へ

『朝鮮日報』(7月22日付)は、

「韓米FTA、一貫性がない文在寅大統領」と題するコラムが掲載された。筆者は、同紙の朴正薫(パク・チョンフン)論説委員である。

この記事では、韓国新政権の座にある「共に民主党」が、野党時代に米韓FTAに対して、どのような反対姿勢を取ってきたかを明らかにしている。

韓米FTAは、もともと盧武鉉政権時代に提案されたものだ。

いわば、自らが音頭を取った法案を、野党に転落したからといって普通は、真逆の反対に回れるはずがない。

それをあえて反対派に回って政権を揺さぶってきた。

文在寅氏もこの一人として反対派に鞍替えした。

それが、皮肉にも政権を取って、途端に米韓FTAを守らざるを得ない立場になった。この変節漢が文氏である。口では立派なことを言うが、本質は「風見鶏」である。大衆迎合政治家と言って良い。

(7)「民主党は野党時代の9年間、しつこく韓米FTAに反対した。

FTAを『乙巳勒約』(いっしろくやく=第2次日韓協約)になぞらえ、李明博(イ・ミョンバク)・朴槿恵(パク・クンへ)政権を売国奴だと追及した。

批准案が国会を通過すると、議会クーデターだとして街頭にも飛び出した。

当時、民主党の院内代表は『米国の利益だけを保障するあしきFTA』だと言い、政策委の議長は『FTA廃棄』を掲げた。

この二人は現在、文在寅(ムン・ジェイン)政権の国政企画委員長と雇用委員長を務めている」

米韓FTAの批准の際、当時、民主党の院内代表は「米国の利益だけを保障するあしきFTA」だと味噌糞に言って反対したのが、現在の政権与党である。

文氏は今、大統領として米韓FTAが、米韓両国に利益とまで発言している。

歯の浮くような話だ。

韓国政治を信用できないのは、こういうウソで固める行動を平気で取ることにある。

(8)「実は韓米FTAの種は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代にまかれたものだ。

文在寅大統領は、盧武鉉政権の民政首席・秘書室長として交渉の全ての過程を見守っていた。

『FTAのISD(投資家対国家の紛争解決制度)に反対するのはグローバル化しないということ』という資料を、民政首席室名義で出したこともあった。

しかし政権が変わると、政治家・文在寅の態度は『断じて反対』に変わった。

12年の韓国大統領選挙で、文大統領は『FTA再交渉』を公約に掲げた。秘書室長時代に擁護していたISDを『毒素条項』と決めつけもした」

文氏も相当の「二枚舌」政治家である。

盧武鉉政権下で民政首席・秘書室長として枢要ポストにいながら、野党に転落すると米韓FTAに猛反対する。

政治的な節操などあるはずがない。

日韓慰安婦問題もこの類いの感覚で対応しているのだろう。

前政権が結んだ日韓慰安婦合意だから反対する。

国家としての対面を守るという認識はゼロである。これが韓国政治の本質と言える。

(9)「文大統領は、先の韓国大統領選挙で、韓米FTAに対する立場をまたも変えた。

『盧武鉉政権のFTA推進に自負を持っている』として、9年を経て『縁故権』を主張した。

大統領就任後は、FTAを守ろうと総力戦を展開している。

先ごろ訪米した際、文大統領は『韓米間の利益のバランスが取れている』としてFTAを擁護した。

米国は再交渉しようと言うが、文大統領はこのまま守りたいと言っている」

文大統領の韓米FTA発言には、韓国人の狡さが表れている。

文氏は、「縁故権」なる言葉を持ち出している。

日本語に、これに相当する言葉はない。

強いて言えば、相続制度での「特別縁故者制度」を連想させる。

この場合は、「法定相続人」がいないケースのみで成立するもの。

したがって、文氏が言う「縁故権」なる意味は、「米韓FTA」は盧武鉉政権時代に発議したから成立したという屁理屈である。

だから、文政権もその一翼に連なり得るというのだ。これまでの反対論など忘れたような振りをしているから驚く。

政治家して醜い限りである。日本であれば、非難の矢面に立たされる政治家に違いない。

(10)「FTA推進から反対・再交渉要求へ、そこから再びFTA支持へと行ったり来たりだ。

自由韓国党の洪準杓(ホン・ジュンピョ)代表が文大統領に『一言謝罪でもなさるべき』と言った。

かつて、ハンナラ党代表だった自分を『売国奴』と呼んだことを意識しているのだ。

確かに何の説明もなく突然、『FTAの守護者』に急変するのは不自然、という声は多い。

『当時は考えが足りなかった』とひと言いえば済む話だ」

米韓FTAを巡って、文氏は当時の与党責任者を「売国奴」と呼んで侮辱した。

その当人が今度は、「FTAの守護者」に急変している。

余りにも節操のなさに呆れるのだ。

これが韓国政治の本質と見れば、日本は良い勉強をさせて貰ったと感謝すべきであろう。


(2017年7月28日)

韓国、「5カ年計画」市民運動家に顔向けた「大衆迎合政治」

2017-07-26 17:24:34 | 日記
勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。


2017-07-26 05:00:00

韓国、「5カ年計画」市民運動家に顔向けた「大衆迎合政治」

バラマキ政策で人気取り

市場と戦争すれば負ける

率直に言って、文在寅(ムン・ジェイン)氏は大統領の「器」だろうか、という疑問が湧く。

そうかと言って、前大統領の朴槿恵(パク・クンヘ)氏が立派だったとも言えない。

文氏は、一国の大統領として余りにも軽率に物事を決めているのだ。

原発建設中止の議論は内閣で20分で済ませてしまったほどだ。

THAAD(超高高度ミサイル網)の環境影響評価では、市民運動家の影響調査拒否で取りやめるという事態である。

原発建設中止やTHAADの影響調査は、いずれも市民運動家の主張通りにしている。警察が妨害行動を排除する訳でもなく、ただひたすら市民運動家のご機嫌取りに終始している感じだ。

文大統領が、このように市民運動家の動きを重視するには理由がある。

それは、朴前大統領を弾劾に追い込んだ原動力が、「100万人デモ」(別称:ロウソク・デモ)であると認識しているからだ。

朴氏があのような退陣の仕方をしなければ、後継大統領は保守系から出たに違いない。

そういう政治状況を考えると、文氏はロウソク・デモを組織した市民運動家へ最大の感謝をする立場になっている。

これまでの保守党系大統領は経済界と密着してきた。

文大統領は、それと同様に市民運動家の利害と密接に絡む政権運営をすることが明らかだ。

民意の尊重は政治の原点である。だが、大局的な問題まで矮小化されて、国家の将来に関わる問題に影響を与える事態になれば、「大衆迎合政治」として批判されるに違いない。

韓国官憲は、デモ隊の実力によるTHAADの環境影響評価作業を阻止するのを見て見ぬ振りする始末だ。

韓国政府からそういう指令が出ている結果であろう。

『ハンギョレ』(7月19日付)は、「文在寅政府、5カ年国政計画発表、国民の暮らしを変える実践が始まった」と題して、次のように報じた。

『ハンギョレ』は、革新派政党の利害を代弁するメディアである。

それだけに、文政権の本音を読み取るには格好の媒体だ。


1)「文在寅大統領は、『政策コンサート』の挨拶で『国政運営5カ年計画は新しい大韓民国に向かう設計図となり、羅針盤となるだろう』とし、『新しい政府はろうそく革命の精神を継いでいく。

国民が主人としてもてなされる国、すべての特権・反則・不公正を一掃し、差別と格差を解消する正義の大韓民国を作る』と話した。

文大統領は、『既に変化は始まった』とし、『あなたのための行進曲』斉唱、大統領主宰の『反腐敗関係機関協議会』の再稼動に言及し、『国民の暮らしを変える具体的実践も始まった』とし、

最低賃金の引き上げ▽保育・教育・環境・安全分野の国家責任強化

▽雇用委員会の設置など民生対策の実践を紹介した。文大統領は『毎年末、大統領の国政課題報告会を開き、一つ一つ点検し、国民に報告したい』と国政課題の実践を約束した」

この記事を読んで正直、アジ演説に聞こえるのだ。この演説で明かな点は、「ロウソク・デモ」を引き継いでいることである。

文大統領は、密かに恐れていることがある。

朴前大統領とサムスンとの間で取り交わされた、とされる「贈賄」の決定的な証拠が出ていないことだ。

大統領府は、この点でかなり焦っている。

そのため、朴氏がいかに「悪人」であったかを印象づける動きが目立つ。

既知の事実についてまで、新発見のように装ってテレビの生中継まで行ない、「朴大統領悪人説」を強調している。

朴氏の大統領府で使っていたベッドの価格と写真まで公表する始末で、常軌を逸している。

私は、この事件が持ち上がって以来、サムスン・崔被告・朴前大統領を結ぶ贈賄事件は、立証が極めて困難とされる見解に同調している。

同種の事件では、最高裁まだ争われて無罪になっているのだ。

サムスンから40億円もの資金が朴氏に渡ったとすれば、その資金がどこかに存在するはずである。

朴氏の質素な生活から見て、そのような巨額な資金を懐に入れる動機が乏しい。動機がなければ犯罪は成立しないであろう。

文大統領は、自らの政権の正統性を市民運動家の支持でつなぎ止めようとしているのでないか。

一審で、朴氏の賄賂事件が無罪になれば文政権への打撃は極めて大きい。

その際は再び、「ロウソク・デモ」を組織させ、裁判の不当性を訴えて裁判所に圧力を掛ける意図が隠されているとみられる。

そうでなければ、ここまで市民活動家の意向を汲んだ政策を打ち出すはずがない。

もう少し、専門家の意見を入れて政策を決定しているであろう。

バラマキ政策で人気取り

『朝鮮日報』(7月20日付)は、「丼勘定のバラマキ政策を国政課題にした文在寅政権」と題する社説を掲載した。

文氏の政治目的は、保守党の積弊一掃を掲げていることから分かるように、保守党大統領の出現を阻むことにある。

だから、必要以上に「大衆迎合政治」を強化しようと狙っている。

それには、「バラマキ政策」によって人気を上げることだ。

前政権の増税路線によって5年間で6兆円の財源が文政権に転がり込んでくる。

それを使ってバラマキの「善政」を敷こうという戦略に違いない。

文氏後の大統領候補は3代にわたって用意されていると報じられた。

「第一走者」の文氏の責任は重大な訳である。

(2)「韓国政府は7月19日、大統領と政権の任期となる今後5年間に解決すべき国政上の100の課題を発表し、それを実行するために178兆ウォン(約18兆円)を投入すると発表した。

大統領選挙当時の公約と比べれば一部修正はされているものの、巨額の予算を要する目玉政策はほぼそのままだ。

ただしこれらの費用は完全な丼勘定で、本当に178兆ウォンで可能なのか気になるところだ」

文大統領は、「大きい政府」を目指すと明言している。

つまり、大型財政によって、政府が経済をけん引するという意思表示である。

この考えは、一昔前の経済政策である。

現代では、経済の活性化=グローバル化によって経済成長を実現する方向へ変わっている。

この点からも、文氏は古いタイプの政治家と言える。

(3)「例えば公務員17万4000人の増員計画もそうだ。大統領選挙公約が発表された時点では、7級7号棒を基準に計算した場合、今後5年で16兆7000億ウォン(約1兆7000億円)が必要とされていた。

ところが昨日の発表ではこれが何の説明もなしに8兆2000億ウォン(約8200億円)に減っていた。

一方で国会予算政策処によると、公務員の増員に伴うさまざまな手当や法律で定められた負担金を合わせると、今後5年で28兆5499億ウォン(約2兆8000億円)が必要だという」

文氏の公務員増員計画は、雇用政策の一環であることが問題になっている。

世界の潮流は、官の縮小・民の拡大である。

政府が雇用拡大の受け皿になることは、将来の財政硬直化の要因として各国ともに慎重である。

ところが、文氏はそういうことには無頓着で、自分の政権時代に失業者を減らせばそれでよし。

後の財政硬直化など知ったことでない、という無責任な態度である。

民の活動を活発化させるにはどうするか、だ。規制を撤廃して自由に仕事をさせることにつきる。

だが、文政権は市民運動家という「反企業グループ」依存である。

企業に自由な活動させたら利益を搾取すると思い込んでいる。

だから、規制を厳しくしても緩和させることは思いもよらないであろう。

これでは、企業の利益は伸び悩むから雇用も低調で、税収も増えないという最悪事態に落ち込む懸念が大きい。

ともかく、市場経済の原則に反することが主義主張の政権であるから、その結果が読めるのだ。

(4)「基礎年金や障害者年金は10万ウォン(約1万円)引き上げられるが、その費用は23兆1000億ウォン(約2兆3000億円)が見込まれている。

まず来年から基礎年金が今よりも5万ウォン(約5000円)高い25万ウォン(約2万5000円)に引き上げられ、2021年には30万ウォン(約3万円)となる予定だ。

この基礎年金の支給にかかる費用も見通しが甘い。

現在65歳以上人口はおよそ700万人だが、20年には813万人、33年には1400万人へと一気に増加する。

支給額が月10万ウォン増えるだけで、基礎年金の支給に必要な予算は21年の段階で18兆-20兆ウォン(約1兆8000億-2兆円)、30年には80兆ウォン(約8兆円)が必要になる」

韓国の基礎年金は、2021年からようやく月額3万円になるという。

日本の基礎年金は月額6万5000円(満額)である。

韓国の基礎年金は日本の半額以下である。

今後は、日本並みの高齢化率で進行するから、バラマキ財政で国民の人気を得たいといったゆとりはなくなるはずだ。

バラマキ型財政でなく、民間経済の活性化による雇用拡大こそ選択すべき道であろう。

(5)「これらの費用はどれも一度引き上げると下げることはできないため、今の次の政権、さらにはその次の政権や将来の世代に大きな負担を強いる結果となってしまう。

現政権は得意顔でばらまこうとしているが、政権の任期が終われば全て解決するような問題ではない。

朴槿恵(パク・クンヘ)前政権が非課税の縮小など事実上の増税を行った結果、現政権は今後5年で60兆ウォン(約6兆円)の追加税収が見込まれるという。

つまり裏返せば国民の負担が60兆ウォン以上増えるということだ。


これだけでも多くの国民が苦痛を甘受しただろうが、政府はこれによってバラマキを行おうとしている。国民の税金を『湯水のように使う』という言葉も決して大げさには聞こえない」

文政権は現在、朴政権批判が主な仕事になっている。

だが、前政権の残してくれた財源によって、5年間で6兆円(年間1兆2000億円)のゆとりを貰った計算である。

その貴重な財源を有効に使うべきで、バラマキに用いると自らの首を絞める結果になろう。


(6)「想定外の支出もさまざまな方面から出始めている。

『今後3年で最低賃金を1万ウォン(約1000円)に引き上げる』との方針決定を受け、国民の税金から来年だけで3兆ウォン(約3000億円)以上が新たに支出される。

最低賃金が突然16.4%も引き上げられ、それに必要な費用が国民の税金で賄われるからだ。

このような形で最低賃金の引き上げ分が埋め合わせられると、2020年には国民の税金から16兆ウォン(約1兆6000億円)支出せねばならない。

これも財源をどうするか全く説明がない。

今の政府はおそらく今後も同じようなバラマキを続け、それを国民の税金で埋め合わせるパターンを繰り返していくのだろう」

文政権は、韓国経済の潜在成長率と生産年齢人口比率が、これから低下するという認識がゼロである。

次のデータを見て頂きたい。7月12日の私のブログに掲載したものだ。

韓銀推計の成長率      生産年齢人口比率(韓国統計庁)

2000~15年 3.9%  2015年 73.0%

16~25年 1.9%    20年 71.1% 

26~35年 0.4%    30年 63.1%  

36~45年    0%    40年 56.5%

46~55年-0.1%    50年 52.7% 

韓国経済の潜在成長率が低下する一方、生産年齢人口比率の低下は社会保障費の増大を示唆している。

つまり、歳出は増加するが歳入は低下するという構造になっている。

これを乗り切るにはどうするかが問われているのだ。バラマキ型財政では破綻を招くであろう。

市場と戦争すれば負ける

『韓国経済新聞』(7月20日付)は、社説で「文在寅政権の100大国政課題、市場との戦争は控えるべき」と題して次のように伝えた。

文政権は、雇用改善を大きな柱にしている。

だが、解雇規制を厳しくして失業者を出さないというのでは、何らの発展もない。

労働規制を緩和するなかで、「労働市場」という市場メカニズムを利用しながら雇用を増やす発想法に転換しなければダメである。

だが、この発想を受け入れる頭の柔軟性がない。

ゆえに、文政権は労働問題で行き詰まるに違いない。

今時、これほど後ろ向きの政策を行なう政権は珍しい存在だ。これも労働組合と市民運動家に支えられた政権ゆえの限界であろう。

(7)「文在寅(ムン・ジェイン)政権が今後5年間に推進する「国政運営5カ年計画」を昨日発表した。

「国民の国、正義の大韓民国」という国家ビジョンのもと、

5大国政目標および20大戦略、100大国政課題、4大複合・革新課題などで構成された国民主権、経済民主主義、福祉国家、均衡発展、韓半島(朝鮮半島)平和繁栄など5つの分野に分け、具体的な課題を盛り込んだ。

公約である積弊清算、公職者不正捜査処の新設、軍兵力50万人維持などから脱原発、雇用拡充、財閥改革などまですべて網羅した。

100大課題のうち法律の制定・改正が必要なものが91件(実践課題では279件)にのぼる。

少数与党の国会で補正予算案の通過も難しい中、事案ごとに論争が予想される法案が順調に通過するかも疑問だ。

財源178兆ウォン(約17兆8000億円)確保計画があまりにも安易だという指摘もある」

野党を閣僚に取り込まない文政権は、法律の制定・改正の必要な政策を91件も掲げているものの実現は不可能であろう。

文大統領は、野党に配分すべき閣僚ポストを市民運動家や大学教授に与えてしまった。

惜しいことをしたものだ。せっかくの「協治」の機会をみすみす捨ててしまった。

朴氏の賄賂無罪のリスクに備えた動きがもたらしたものだろう。

(8)「 いくら良い政策であっても市場の原理に逆行する場合は必然的に副作用を招く。

今でも厳しい解雇要件をさらに強化すれば、経済活力のための構造改革と青年の新規雇用はさらに遠ざかる。

最近の脱原発論争で見られるように、政府が合理的な批判にも背を向けて市場と戦うような姿勢で一貫すれば、100大国政課題は光より影の部分が増える。

『雇用政府』として成功するには、『市場との戦争』を控えなければいけない。世界でも市場に勝った政府はない」フォームの終わり

市場に勝った政府はないと指摘している。名言である。

あの独裁政権の中国が結局、市場原理には勝てず、過剰債務の処理に本腰を入れざるを得なくなった。

「デレバレッジ」処理を市場原理で行なえないほどの規模に膨張したので、担当者の責任を生涯、追求するというおぞましい決定になった。

市場原理に従った調整を怠ると、こういう結果になる良い見本である。

韓国も、解雇規制を強化するという間違いは避けて、労働需給に見合った雇用調整が不可欠である。

雇用調整は労働市場で小刻みに行なっておかないと、「第二の中国」に陥るであろう。


(2017年7月26日)




韓国の文在寅大統領 野党やメディアの反発でハネムーン終了

2017-07-23 14:03:02 | 日記
世界のニュース トトメス5世



2017年07月16日09:30

韓国の文在寅大統領 野党やメディアの反発でハネムーン終了

文在寅の2つの敵

韓国の文在寅大統領は2017年5月9日に当選し、翌10日に就任、通常韓国では就任100日間はハネムーン期間で新大統領に甘いといわれている。

だが最近のいくつかの出来事は、わずか2ヶ月で、ハネムーンが終了しつつあるかも知れないと連想させる。

第一のポイントは組閣で、各方面からの反対に遭って未だに閣僚人事が決定していない。

韓国では閣僚を任命するにあたって国会聴聞会を経て、国会承認が必要になるが大統領の「共に民主党」は300中の120議席しか持っていない。

朴前大統領の醜聞と退陣のせいで、与党だった自由韓国党(セヌリ党)が大敗し、2大政党のどちらも3分の1程度の議席数しかなくなった。

どの政党も過半数は取れないが、足を引っ張るのは簡単なので、典型的な少数乱立政党の混乱が生じている。

閣僚の国会承認も足の引っ張り合いになって進まず、承認を強行しては新たな反発が起きています。

国会聴聞会は閣僚候補のスキャンダル探しの場になっていて、文在寅の売りだったクリーンなイメージも損なっている。

人事をめぐるもう一つの混乱原因は大統領と官僚の対立で、伝統的に閣僚の3分の1程度は官僚出身者を当てていた。

だが現在まで17人の閣僚のなかで任命された元官僚は3人で、官僚たちは早くも文在寅降ろしを始めている。

日本で民主党が失脚した原因は管直人の「官邸主導」に官僚が反発したからだったし、安倍政権(は続いているが)内閣人事局で官僚人事に干渉したのが反発を買っている。

このように官僚の反発を買うと大統領や総理大臣でも失脚させられる事があり、たとえば官僚がボイコットしてわざと政府を失敗させるなどの手段を取る。

韓国が置かれている経済苦境

国民の支持率は80%を維持しているが、大統領選で文在寅の得票率は僅か41%で、有権者全体の得票率では約31%に過ぎなかった。

文在寅の本当の支持者は国民の3分の1以下であり、残りは「とりあえず失敗するまでは支持する」人達だと考えられる。

文在寅新大統領への不満が突如噴出したのは6月19日に釜山で行った、脱原発宣言からだった。

文在寅は原発政策を全面的に見直し新規建設を廃止し、老朽化した原発は廃炉にするという方針を発表した。

問題はそこからで、文在寅は「福島原発事故で1368人がなくなり復旧に22兆円かかる」と発言しました。

さらに「放射能による健康被害は計測が不可能なほど酷い状況だ」と原発事故の被害を強調した。


韓国メディアは暫くして、大統領が挙げたこれらの数字に根拠がないと気づき、一斉に反発し始めた。


因みに福島原発事故の放射能による住民の被害はゼロで、作業員数名がガンなどになったが因果関係は分かっていない。

そして放射能の健康被害については、甲状腺がんも含めて、1人も被害報告はない。

日本の某漫画家が「福島県に行くと鼻血が出る」というマンガを書いて批判されたが、そうしたレベルの情報を元にしたのかも知れない。

朝鮮日報は「大統領のでたらめ演説」という記事で間違いを指摘し、独断で原発廃止を決めようとしていると批判した。

韓国は日本と同じで国土の大半が山間地なので、欧米のように太陽パネルや風車を設置する空き地がない。

そして経済も問題で、失業率が上昇し特に若者の失業率は深刻化している。

少子高齢化は日本より深刻で、出生率は1.20なので今後急速に老人比率が上昇し、介護や医療保険の問題が発生する。

少子化などによって韓国の潜在成長率は年2%になったが、これは最近の日本とあまり変わらない。
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韓国、「現代自」スト権確立で経済の「屋台骨」揺るがす事態へ

2017-07-20 14:31:20 | 日記
勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。


2017-07-20 05:00:00

韓国、「現代自」スト権確立で経済の「屋台骨」揺るがす事態へ

現代自労組6年連続のスト権

R&Dを食い込む大幅賃上げ

韓国経済「二枚看板」の一つ、現代自動車労組がスト権を確立した。

韓国新政権が労組寄り姿勢であるから、例年よりもさらに強力なストライキを構え賃金闘争に臨む姿勢だ。韓国経済にマイナス作用を及ぼす懸念が強まっている。

現代自 労組は今年の賃金団体交渉で、

①賃金15万4883ウォン(約1万5400円、号俸昇級分除く)引き上げ、

②純利益30%(自社株含む)の成果給支給などを要求した。しかし合意にいたらず、労組は7月6日、賃金団体交渉の決裂を宣言した。

この労組要求内容を見て仰天するのは、「純利益30%(自社株含む)の成果給支給」要求である。

労組側は、「純利益」の概念を知っているのだろうか。

会計上は、経常利益に特別損益を加えたものだ。

この純利益は、株主配当金や準備金として内部留保に回すなど経営側の判断に基づく。

この純利益の30%を労組へ配分するとなると、労組は株主同様のリスクを引き受けるという意思表示のはずだ。

賃上げは目一杯やって、純利益の30%を組合に配分せよ、では筋が通らないのだ。

賃上げを控えるから純利益の30%の分配を要求するのか。その立場を明らかにする必要がある。

もう一点、株主配当金の総額と労組要求の純利益分配金のバランス問題が発生する。

株主と同様にリスクを負う覚悟があれば、賃上げを廃止することだ。

「あれもこれも全て」という欲深な要求であれば、受け入れられるはずがない。もし、会社側が受け入れる状況になれば、現代自は遠からず倒産の憂き目に遭うだろう。まさに、「第2のGM」になる。

現代自がストライキに入れば、今年で連続6年となる。

現代自のほかに現代自系列の起亜自動車、また韓国GMもストライキへ突入する姿勢だ。

韓国車の市場シェアは、米国や中国という世界三大自動車市場で低下している。

こういう中でのストライキ突入が、どのようなマイナスを及ぼすか、今から懸念されるのだ。

もちろん、ストは会社側に損害を与えることで譲歩を勝ち取る正統な手段である。

労働権として法律で保護されているが、それは企業経営を傾けさせるほど過激であれば、労組もいずれはその影響を受けて「共倒れ」の共同リスクを負う。

ただ、韓国文在寅政権が労組寄りであることから、仮に会社側がストで経営が傾いても救済してくれるだろう、という甘えがあるのは事実だ。何しろ、韓国与党「共に民主党」における労組の立場は強いものがある。

現代自労組は6年連続のスト権

『韓国経済新聞』(7月10日付)は、社説で「自動車産業危機を深める労組の選択」と題して、次のように論じた。

韓国自動車産業は、競争力が減退している。

中国市場での凋落は目を覆うほどだが、これまでは、韓国政府が「THAAD」(超高高度ミサイル網)設置を決めたことへの中国政府の報復説が強かった。

この見方は最近、変わりつつある。

現代自の製品自体の魅力低下との説が浮上している。

中国の国内自動車が競争力を付けており、現代自の顧客に食い込んでいる、というもの。

一方、日系車は品質の良さが買われて、ドイツ系、米系を上回る販売増加率を見せており、「一人勝ち」と言える状況だ。

この日本車と韓国車を比べて分かることは、それぞれの労組の姿勢である。

現代自の賃金レベルは、すでにトヨタを上回っている。このしわ寄せはどこへ行くのか。

研究開発費の違いとなっている。

かつて世界一の座にあった米国GMが、なぜ倒産に追い込まれたのか。

余りに強すぎる労組による大幅賃上げが、GMの収益力を低下させ、研究開発費まで食い込んだ結果である。

現代自も米国GMの二の舞にならぬ保障はない。

現代自労組は、自らの職場を守るという意識に立って、賃上げも生産性に見合った範囲に収める大人の対応が求められている。

だが、文在寅政権の成立は、労組を一段と強気にさせた。不幸な巡り合わせである。

(1)「韓国自動車産業の危機を心配する声があちこちから出ている。国内生産が数年間減少している中、今年に入って中国・米国など海外での販売が明確に減っていることに対する警告だ。

この渦中にも現代・起亜自動車、韓国GMの正規職員労組は無理な賃上げなどを要求しながらストライキの動きを見せている。

落ちる生産性を引き上げ、より多くの仕事を確保しようという考えはどの労組にも見られない」

韓国の労働組織率は10%強である。その中で、自動車労組は重要な位置を占めている。

単なる経済闘争を超えた政治闘争の役割をも担っているのだ。

これが、現代自や起亜自にとっては負担である。

自らの体力を超えた賃金引き上げ闘争を挑まされているのだ。

日本で言えば。自動車労連が、連合の賃金相場を左右することもなく自然体で臨んでいる。これが、本当の姿であろう。

韓国では、「先鋭労組」としての役割が期待されている。

(2)「今年上半期の国内自動車生産台数は216万2548台と、2010年上半期以来の最低水準となった。

韓国の新車生産は昨年インドに抜かれて世界6位に落ちたのに続き、今年はメキシコにも追い越されるという危機感が強まっている。

現代・起亜車は中国の『THAAD報復』で3月以降、現地販売が50%以上も急減し、非常事態を迎えた。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)妥結も大きな負担だ」

韓国自動車産業を巡る輸出環境は厳しくなっている。

世界三大市場の欧州では、19年から日欧EPAが発効の見込みとなった。

完成車の関税は8年後に撤廃されるが、自動車部品は即時である。

現地での生産比率の高い日本車にとっては、自動車部品関税の即時撤廃効果は大きい。

日本車の現地販売価格が下がれば、韓国車は不利になる。韓国車にとって有利な条件は消えるのだ。

(3) 「自動車労組は会社の危機にもかかわらず自分たちの取り分の確保に没頭している。
7月7日にストライキを可決した韓国GM労組をはじめ、起亜車と現代車の労組もストライキの手続きを踏んでいる(注:7月14日スト権確立)。

しかも韓国GMはこの3年間、損失を出している。累積損失は2兆ウォン(約2000億円)にのぼり、『韓国撤収説』まで出ている。

現代車労組も純利益30%成果給支給、総雇用保証合意書締結などの無理な要求が受け入れられなかったことで交渉決裂を宣言した。

同社の労組は約2000台のバスの注文を抱えているが、会社の増産要求を受け入れていない」

韓国GMが、現代自・起亜車と並んでスト権を確立したことは「自殺行為」に映る。

それは、親会社の米国GMが経営戦略を大きく変える動きを見せているのだ。この動きは、次の報道が明らかにしている。

「GMは今年に入り欧州やインドからの撤退を次々に決断。

トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)などと『1000万台クラブ』を形成するGMがあえて規模縮小の道を進む。

GMの世界販売台数は中国と米国が4分の3を占める。

いびつな構造にもかかわらず、バーラCEOはさらに地域を絞る戦略を進める。

インドだけではない。GMは3月には独オペルなどを売却し欧州から撤退すると発表した。

オペルは赤字続きとはいえ、16年の販売台数は約100万台。

このほか、インドネシアやロシア、南アフリカなどからも撤退する一方で、利益が期待できる中国やブラジルなどへの投資は拡大する。

バーラCEOは『地域ごとの事業の最適化をこれからも続ける』と宣言する」(『日本経済新聞』7月15日付)情勢だ。

米国GMは、欧州・インド・インドネシア・ロシア・南アフリカからの撤退を表明した。

この伝で言えば、3年連続で赤字を続ける韓国GMを保有する意味がなくなっている。

となれば、いつ韓国からの撤退を表明されるか分からないのだ。その微妙な時期に、あえて強力な賃金闘争宣言である。撤退論に火を付ける可能性が強い、と見えるのだ。

(4)「破産直前になった過去の双龍車の事例を取り上げるまでもない。

販売が減り仕事がなく危機を迎えた会社から労組がストライキで得るものはない。

仕事の減少に危機を感じることができなければ会社と労組が共に滅びる道しかない。

労組は韓国自動車産業の未来に対する心配を決して軽視してはいけない。

仕事がなくなれば雇用もなくなるというのは平凡な真理だ。このような状況で上級労組の『政治ストライキ』に熱心なら、労組が自動車産業の危機を招くという批判に何と話すのか」

文在寅大統領は、大統領選挙中に「積弊を一掃する」と称して、保守勢力を根絶やしにする宣言をした。

労働組合はこれを真に受けて、進歩派政権が永続すると誤解していないだろうか。

無理な賃上げをして会社経営が傾いても、政府が支えてくれると見ているならば大間違いである。

自分で自分の首を絞める結果になろう。革新派政権は、この5年間で終わりという事態もありうるのだ。

R&Dを食い込む大幅賃上げ

『朝鮮日報』(7月15日付)は、「販売不振にストの予兆、韓国自動車業界の不透明感」と題して、次のように報じた。

この記事は、韓国自動車産業の抱える問題点を余すところなく指摘した好個のものだ。

韓国経済に占める自動車産業のウエイトから見て、韓国経済の今後は容易ならざるものを感じるはずだ。

韓国自動産業は、三菱自動車の技術を基盤に発展したものだ。既存技術で発展しただけに、新技術の面では遅れている。

日本の乗用車ではトヨタ・ホンダ・日産・マツダ・富士重工・スズキ・ダイハツなどがひしめき合っている。

とりわけ、上位3社による技術面での競争が、日本車全体のレベルアップを促進している。

韓国では、「現代自・起亜車グループ」が1強であり、ライバル同士での競い合うという刺激がないのだ。

(5)「7月10日、『現代自動車役員能力向上プログラム』が開講された。

講演を行った証券会社のアナリストは、

下落曲線を描く国内の自動車販売台数、輸出台数などの指標を示しながら、『変わらなければ、現代自グループも一瞬で崩壊しかねない』と警告し、役員らは厳しい表情を浮かべた。

韓国自動車業界は輸出・内需の低迷に加え、強硬な労組による夏の闘争も重なり、まさに『三重苦』に陥った。今年上半期の自動車輸出は過去8年で最低となり、生産台数も7年ぶりの低水準にとどまっている」

現代自の営業利益率は5%台にまで低下している。

このラインを割り込めば、研究開発費もままならなくなるとされている。

その意味では「レッドライン」と言える。現代自はここまで追い込まれている。

今年もストが予想される。それが、販売面に与える影響は大きく、また大幅賃上げは、さらに営業利益率を引き下げるに違いない。

現代自は、危機の瀬戸際に立たされた。

(6)「韓国自動車産業協会がまとめた今年上半期の国産車輸出台数は132万4710台で、2010年以降では最低だった。

特に現代・起亜自は中国市場で40%を超える販売減となった。

韓国自動車業界の今年上半期の国内販売台数は前年同期比4%減の78万5297台だった。

2014年以降の伸びが止まり、減少に転じた。

輸出と内需が不振になると、自然と生産量も減少した。

今年上半期の国内での自動車生産台数は216万2548台で、上半期としては11年以降で最も少なかった」

韓国では、自動車の内外需が不振である。

現代自の「殿様スト」への反感が大きく、昨年は大手メディア(朝鮮日報や中央日報)が、揃って現代自の「不買運動」を煽る記事まで登場した。

それほど、高額賃上げへの感情的な批判が強いのだ。「労働貴族」と揶揄される理由はここにある。

(7)「自動車産業が危機を迎えたのは、現代・起亜自を中心とする韓国の自動車産業の競争力が劣るためだとの分析が聞かれる。

これまで量的成長に執着するあまり、質的競争力を高めることをおろそかにしたとの指摘だ。

産業研究院のイ・ハング上級研究委員は『現代自に代表される韓国の自動車産業は、世界的な金融危機による直撃を受けた米国車、欧州車、大規模なリコール(回収・無償修理)問題で危機を迎えたトヨタなどの日本車がいずれも低迷していた2010~14年に急成長した』と指摘した上で、

『韓国が量的成長に集中する間、世界の自動車メーカーは構造調整後に生産性を高め、韓国は押され始めた』と分析した」

韓国の自動車産業が飛躍した時期は、2010~14年とされる。

ちょうどこの時期は、欧米の大手自動車が08年のリーマンショックによる需要減退。

それに、日本ではトヨタが大量の世界的なリコール問題に巻き込まれて二進も三進も動けぬ状態にあった。

韓国自動車は、この日米欧自動車の停滞という間隙を縫って急成長遂げた事情がある。

この「天佑」で韓国車は飛躍できたのだ。ただ、この間に日米欧は体制を整えて従来のポジションに返り咲きを図っていると言えよう。


(8)「現代・起亜自は最近、中国市場での不振をTHAAD問題による影響と説明してきたが、産業研究院は最近のリポートで、

『単純なTHAAD問題というよりも、競争力の低下が原因だ』とし、『中国の消費者による冷遇は、ブランドイメージで日本車に押されたことに加え、中国の国産車の品質と安全性が急速に向上したためだ』と分析した」

世界の3大自動車市場(中国・米国・欧州)で、日本車のシェアップが目を引いている。

この背景には品質の向上による「費用対効果」の向上がプラスしている。

燃費のよさ、故障の少なさ、中古価格の高値維持など、好条件がいくつか指摘されている。

私はこの問題に産業論として多大の興味を持っている。

残念ながら、私には自動車免許がない。若いときに、免許を取る機会を回避した結果である。

ハンドルを握ったことがないだけに、自動車への関心が高いのかも知れない。

(9)「研究開発(R&D)も積極的とは言えない。昨年の日本の自動車メーカー7社による研究開発投資は約29兆ウォン(約2兆8700億円)に達したが、現代・起亜自は4兆ウォンにすぎない。

大林大のキム・ピルス教授は『韓国の自動車メーカーは市場を開拓したり、トレンドをつくり出したりする研究開発には集中投資せず、SUV(スポーツ多目的車)に再編される市場の流れも読み損ねた』と分析した。

ある専門家は、『現代自がソウル市三成洞の韓国電力公社の土地を10兆ウォンという高価で購入する代わりに研究開発や新車開発に取り組んでいれば、今よりも競争力が向上していたはずだ』と指摘した」

昨年、日本の自動車7社による研究開発投資は、約2兆8700億円(円・ウォン換算しなければ実額2兆6600億円)に達した。

韓国は現代・起亜自で約4040億円である。

トヨタ1社の研究開発費は、昨年で1兆400億円弱(為替換算しない実額)であるから、トヨタは現代自・起亜に比べて2.6倍になっている。

こうした積み重ねがトヨタをはじめとする日本車の競争力を培っているのだ。

現代自は、異業種だがサムスンと張り合っており、新本社ビル建設用地購入で約1兆円も投下した。

2010~14年の韓国車絶頂期の話である。

韓国では当時、この話題で持ちきりであった。土地買収資金が研究開発費へ回っていたら、競争力は現在と違った形になっていただろう。


(10)「問題は電気自動車、自動走行車などへと向かう未来の自動車市場でも韓国車の競争力が低い点だ。

カトリック大のキム・ギチャン教授は

『今後自動車産業は、自動化されたモジュール化による生産性向上、IT業界と自動車業界の水平的な協力関係に代表される。自動車メーカーは全て自社でやるという考えを捨て、オープンな協力姿勢を取るべきだ』と呼びかけた」

前のパラグラフで指摘したが、サムスンと現代自はライバル意識が強すぎる。

競合分野はなく、今後の全自動運転や電気自動車では協力関係になるべきだが、メンツの張り合いで、別々の道を歩いている。

サムスンは有り余る資金を使って、海外メーカーを買収しており、現代自に歩み寄るインセンティブがないのだろう。

結局、最後は民族性の問題に帰着して、無駄な競争で体力を消耗するのだ。

異業種が、協力する雰囲気はなさそうだ。「俺が、俺が」のスタイルで、お山の大将で満足している姿は滑稽である。

グローバル経済の現在、韓国経済は自動車産業を筆頭にして、大きな試練にさらされている。

労組の頭には、グローバル経済という認識はゼロの「物盗り集団」と化している。

その延長線上に文在寅政権が存在する。

どう見ても今後、韓国経済が発展できそうな雰囲気を持っていると言い難い。ますます、凋落の度合いを深めるであろう。

(2017年7月20日)

これからの韓国が心配 武藤正敏・元駐韓大使

2017-07-19 09:56:31 | 日記
2017.7.19 05:30更新

産経

【武藤正敏氏講演】

日韓関係はがらりと変わる 「韓国人に生まれなくてよかった」の著者が全てを語る

 「韓国人に生まれなくてよかった」という“挑発的”なタイトルの著書で話題の武藤正敏・元駐韓大使が7月初め、松江市内で講演した。

島根県日韓親善協会の創立50周年を記念した特別講演に招かれた武藤氏は、「文在寅政権誕生後の朝鮮半島情勢と日韓関係」と題し、文政権の危うさを指摘しつつも韓国民に温かいまなざしを注ぎ、さまざまな角度から両国の関係について語った。

講演の主な内容は次の通り。

これからの韓国が心配

 韓国は1960年代、アジア最貧国の一つだった。

今や先進国入りし、これだけの国を作り上げたが、これからどうなるのか、非常に心配。

それは、文在寅(ムンジェイン)大統領の考え方、やろうとしていることと、私が「韓国はこうあるべきだ」と考えていることに、ずいぶん大きな違いがあるからだ。

 韓国大統領選で、文氏を支持したのは、北朝鮮の問題についてあまり関心のない若い人たち。

だから、文氏は北朝鮮問題について、決して白紙委任されたわけではなかった。だが、当選後は今までの保守政党の政権とは全く違うことをやっている。

 北朝鮮は弾道ミサイルの発射を繰り返している。

北朝鮮が「大陸間弾道弾だ」と主張したミサイルについては米国務省も同様の認識を示したようだ。

核弾頭を小型化してミサイルに搭載できるようになり、それを実戦配備すればもう後戻りはできなくなる。そうなると、韓国は北朝鮮からどのような言いがかりをつけられるか。

日本も難しい局面を迎えるかもしれない。そういう状況が、文政権時に起きるのではないかと、心配している。

力落ちると徹底的に叩かれる韓国大統領

 文大統領は、選挙公約で格差の解消や雇用対策、政経癒着の改革を訴えたが、政権の支持率が高い間は、誰も反対しない。

財閥企業も協力するようなことを言う。

 しかし、韓国の大統領は、力が落ちてきたら徹底的に叩かれる。朴槿恵(パククネ)氏も力のあるうちは、崔順実(チェスンシル)事件など表に出てこなかった。昨年の総選挙で負けると、こうしたあら探しをされる。

 文政権を取り巻く国際環境も非常に難しい。米国は北朝鮮の問題で韓国の頭越しに中国と手を組もうとしている。

日本とは慰安婦の問題、中国とはTHAAD配備をめぐる問題でいろいろガタガタとしている。

慰安婦合意を振り出しに戻そうとする文政権

 日韓関係について、文大統領は慰安婦問題と日韓関係全体を分け、「前向きの関係を作ろう」と言っている。

これは正しく、そうあるべきだと思うが、そういうふうにいくかどうかは疑問だ。

 慰安婦問題について、日韓首脳が電話会談した際、文大統領は「韓国の大多数の人々は情緒的に受け入れられない」と言い、さらに訪米前の米報道機関とのインタビューでは「日本は法的な責任を認めて謝罪すべきだ」と言った。

 これまで互いに折り合わなかったのを、“ふんわり”とした形で折り合ったのが(安倍首相と朴大統領による)「慰安婦合意」だったのに、これをまた振り出しに戻そうとしている。

 今までは、韓国の国民感情が「日本はけしからん」と盛り上がると、日本側がなんとか抑えて日韓関係をうまく収めようと日本が譲る場面が多かった。

だが、今の日本は嫌韓感情が高まっており、日本から譲って日韓関係をまとめようと主張する人は、ほとんどいない。

 ちなみに、過去の韓国大統領は慰安婦が騒ぐと「ごもっともです」と言っていたが、朴氏は先頭に立って慰安婦を説得した。

それで慰安婦関係者の約9割が納得していたのだが、文氏は「慰安婦の方々が合意を受け入れない」と言う。

竹島問題、日本がどうしようと「けしからん」

 島根県に来て、竹島問題に触れないわけにはいかない。

これは、歴史問題にしてしまったところがいけない。

盧武鉉(ノムヒョン)大統領が「日本の朝鮮半島侵略の第一歩が竹島だ」という位置づけにしたことによって、日本がどうしようと、「けしからん」という感情になってしまった。

 「歴史的にも法的にも日本固有の領土だ」という日本の主張には、地図などが存在し、きちっとした根拠がある。

戦後のサンフランシスコ講和条約締結交渉の際、韓国は「カイロ宣言によって竹島は日本の領土から離れた」と訴えたが、米国はこの主張を否定した。

 安保の面でもそうだ。朝鮮半島有事の際は、在日米軍の主要基地を国連軍に使用させ、兵站(へいたん)調達の便宜を図るなど、朝鮮半島の平和と安全に日本が直接関わっている。

 こうしたことを、韓国人は理解しようとしない。

「対話」重視の北朝鮮政策、大丈夫か

 文政権の北朝鮮政策は、「対話重視」で、人事をみてもすべて「対話」にシフトしている。

秘書室長は、主体思想(北朝鮮の国家指針)に共感しているし、国家情報院長は「北朝鮮の金正日・元最高指導者が唯一、名前と顔を一致できていた韓国の行政官」といわれている。

 経済の問題では、「漢江の奇跡」を果たした朴正煕(パク・チョンヒ)大統領に対し、文氏自身は「『大同江の奇跡』を」と言っている。

大同江は平壌(ピョンヤン)を流れる北朝鮮の河川。

南北の経済一体化で、世界に影響を及ぼす朝鮮半島全体の経済圏を作ろうということだが、(文氏の中心的な支持層である)若者たちは「統一問題」をどう考えているか。

 建前上は、統一を支持するが、本音は「あの貧しい国を助けるために、自分たちがどれだけ負担しなければいけないのか」だ。

 南北の経済を一体化させるという、理念は素晴らしいが、文氏が強く支持されている今、若者たちの本音は誰も言わない。それだけに、「本当に大丈夫か」と心配になる。

平昌五輪でも現実離れした提言する文政権

 平昌五輪について。文大統領は「南北合同チーム」に言及した。

五輪担当大臣に当たる韓国の文化体育観光部長官も、北朝鮮でもスキー競技の一部種目を一部開催し、南北共催にしようと言っていた。

 これによって、南北の和解も進むし、北朝鮮が世界に開かれる。理念としては素晴らしいが、現実的に可能か。

北朝鮮に、各国がトップアスリートを送り込めるか。IOCとして責任を持てるか。

選手だけでなく、各国の応援団や観光客も入ってくる。

北朝鮮にとっても、体制維持に大きな問題が生じるが、こういうことを平気で言うのが、文政権。現実離れしていて、心配だ。

意識の違い表面化した米韓首脳会談

 文大統領は、北朝鮮の問題について「朝鮮半島の問題だから、自分たちが主導権を握って対話を通じて解決する」と強く主張している。

 大統領直属の文正任(ムン・ジョンイン)・統一外交安保特別補佐官は、米国で「北朝鮮への挑発を止めれば、軍事演習や戦略兵器配備の縮減ができる」と発言し、米国で非常に強い反発が起こった。

補佐官は、北朝鮮の主張を言っているわけで、文大統領は慌てて「これは個人的な意見で、政府の公式見解ではない」と打ち消した。

 だが、「軍事演習の縮小」などは文大統領自身が選挙中に主張していたことで、決して補佐官の個人的意見ではない。それだけに文政権は危なっかしい。

 今回の米韓首脳会談で、こうした対立点は表に出なかったが、米国のマクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官は

「北朝鮮の脅威によって、韓国が人質に取られている」と言うなど、米側が北朝鮮に対する圧力を緩めるという意思はまったくなく、韓国との意識の違いがかなり表われている。

 一般国民の間では、日韓関係は非常に良い。

一部には確信的な反日活動家がおり、大使館の前で毎日デモがある。

私は、この人たちのことを「それによって生計を立てている人たち」だと言ったことがあるが、メディア関係者から「大使がそんなことを言ってはいけない」とたしなめられた。

しかし、私はこれが一部に過ぎず、大多数の人たちはいい感情を持っていることを知ってもらいたくて、そう発言した。

 しかし、マスコミや政治家はかなり異なる。

マスコミは、互いに横並びで見ていて、自分たちだけが突出して親日的な報道をして叩かれるのが嫌だから、日本を叩いている。

だから、日本に対して国民全体がいい感情を抱いている、となると、報道も変わってくる。

 政治家は、政治が対立と抗争の歴史だから、大統領が日韓関係を進めようとすると、それに対する反対が必ず出てきて、日本を叩く。

だから政治家の反日はなかなか治らない。

 日本人の嫌韓感情には、2つのタイプがある。

1つは「韓国人が反日だからけしからん」というタイプ。

もう1つは「自分たちは、日韓関係をよくしようとずいぶん一生懸命頑張ってきたのに、韓国人はいつまでたっても日本の歴史問題を批判する。いい加減にしろ」というもの。

日韓関係進むか否かは大統領次第

 私は日韓関係について、「中長期的には改善している」と認識している。日韓関係は、良くなる時も悪くなる時も速く、浮き沈みも激しい。

悪くなる時は、常に「歴史」と「政治」の問題が原因。良くなるのは、人的、文化的な交流によって親近感が増す時。

昔は、日韓の関係が悪くなると、両国の議員連盟が間に入って仲介したこともずいぶんあったが、今はだんだんそれが難しくなり、首脳同士の関係が左右するようになっている。

 一般的に、韓国の大統領が「日韓関係を前に進めよう」という信念を持っている時は、うまくいっている。

例えば、朴正煕大統領は国交正常化を実現し、全斗煥(チョンドファン)大統領は初めて国賓として来日した。

金大中(キム・デジュン)大統領は日本文化を開放した。彼は、日本について「血と涙を流しながら民主主義国家になった」と評価していた。

 李明博(イ・ミョンバク)大統領の前半期はよかったが、竹島問題が日本の教科書でより強く扱われるようになることを知ったとたんにがらりと変わり、一気に日本に対して厳しくなった。

 それから朴槿恵大統領。

最初はあちこちで“告げ口外交”を展開していたが、日韓関係はちゃんとしないといけないと思うようになり、慰安婦問題では合意に至った。


韓国の大統領が日本との歴史問題にこだわっている時には、日韓関係はなかなかうまくいかない。

だが、日韓関係をなんとかしなけえればいけないと考えたとたんに、がらりと変わる。

だから、日韓関係については、短期的によくなった、悪くなったと一喜一憂するのではなく、中長期的に見て、よくしていこうと考えるのが、より現実的だ。