J-POWER(電源開発)
2017年1月20日
エネルギーの次代を拓く「地熱発電」の現場から
火山大国 日本の“純国産”再生可能エネルギー
安定的かつ長期にわたって供給できる再生可能エネルギー「地熱」。
エネルギー自給率6%の日本において、火山大国ならではの“純国産エネルギー”として期待が高まっている。
白雪が舞い降りた宮城と秋田の山中で、地球と向き合い、対話しながら、その恵みを得ようと奮闘する男たちに出会った。
文◎東嶋和子(科学ジャーナリスト)
次代のベースロード電源として世界の注目を集める「地熱」
「ここだ! たしかに見つけたぞ。前進だ、友よ。地球の内部に向かって進むのだ」
1864年、ジュール・ヴェルヌは小説『地底旅行』で、地球内部への空想の旅をした。
16世紀の錬金術師が残した暗号をたよりに、鉱物学者のリンデンブロック教授らがアイスランドの火山の噴火口から地球の中心を目指して下降する。
それから約150年。
地球観は大きく変わった。
私たちは、地球内部についての新たな知識を手に入れた。
地球の恩恵を計画的に利用できるようにすらなった。
地熱発電である。
地球の中心へ、6000kmのトンネルを掘って降りていくとすると(実際は、太陽の表面ほどの高温や、地表の350万倍もの高圧に耐えねばならないので不可能だが)、地殻、マントル、液体鉄(外核)を通過する。
やがて、約6000℃の鉄の固まり(内核)に到達する。
この熱で溶けたマントルの岩石がマグマとなってのたうちまわり、地表に噴き出したのが、火山である。
火山の下には「マグマ溜まり」があり、約1000℃の高温で岩石や水を熱して、高温の蒸気と熱水を閉じこめた「地熱貯留層」をつくることがある。
現代の“リンデンブロック教授”は、この貯留層を見つけて発電に利用する。
地下1kmから数kmのところに広がる地熱貯留層に向かって井戸(生産井)を掘り、高温・高圧の蒸気と熱水を得る。
蒸気は勢いよくタービンを回して発電し、熱水は別の井戸(還元井)から地下の貯留層へ返す。
要するに、火力発電所のボイラーの役目を、地球にやってもらうのだ。
1904年、イタリアで世界初の地熱発電実験が成功して以来、地熱発電は、安定供給できる再生可能エネルギーとして注目されてきた。
とくに近年、二酸化炭素を出さず、天候にも左右されず、供給をコントロールできるベースロード電源として、世界の熱い視線が注がれている。
もちろん、110もの活火山を擁する日本列島に眠る膨大な資源にも。
設備更新でさらなる安定供給へ J-POWER鬼首地熱発電所
宮城県大崎市鳴子温泉郷。江戸時代から湯治客に親しまれた「鳴子の湯」に、愛らしい「鳴子こけし」がたたずむ。紅葉の盛りを迎えた鳴子峡には、帷子雪が点描を添えていた。
鳴子温泉から鳴子ダムを左手に、北へ約20 km。J-POWER(電源開発株式会社)の「鬼首地熱発電所」(出力1万5000kW)を目指す。
一帯は直径9kmのカルデラの中に位置し、近くには国民保養温泉地の鬼首温泉がある。高さ15mもの熱湯を噴き上げる間欠泉は、地下に潜むエネルギーの威力を垣間見せる。
「片山地獄」と呼ばれる標高530mの小盆地に、発電所はあった。冬空に白い蒸気が間断なく立ち上がる。
「1975年の運転開始から安定的に発電して41年。日本では4番目に古い地熱発電所です」
大柄な浅川直宏所長が、胸を張る。
浅川さんは、火力発電所の設計から現場管理、保守・運用まで火力ひと筋のエンジニア。
鬼首に単身赴任する前は、バイオマス燃料製造やごみ発電にも携わった。
いま、35年の経験のすべてを鬼首に注ぎこんでいる。
「鬼首は約40年にわたりほぼ毎年、設備稼働率80%以上を維持してきた優等生ですが、設備の経年化が進んでいます。
そこで、2017年度に発電所をいったん廃止し、環境アセスメントの手続きを経て、最新鋭の設備に更新することで、さらなる効率向上を目指すことにしました」
2023年度から運転開始予定という。
環境・地域との共生で活きる地熱発電のポテンシャル
日本には、世界3位の2300万kWという地熱資源量があるにもかかわらず、未だその2%しか開発されていない。
8割が国立・国定公園内にあるうえ、探査や環境影響調査、源泉所有者との調整などに10年以上かかるので、腰をすえて取り組まねばならないからだ。
とはいえ、全国で約52万kWの設備容量を2030年までに150万kWにする、つまり100万kW分、原子力発電所1基程度の開発余地は十分ある。
実は鬼首は、1962年にJ-POWERが調査を始めた後、68年に一帯が栗駒国定公園に指定されたため、例外的に国定公園内の発電所になった。
その分、環境保全には最も心を砕き、地域との共生に努めてきたという。
「ここの地熱貯留層は地下1~3km、温泉帯水層は地下数十mにあるので、温泉に影響を与えた例はありません。
源泉の温度や流量、成分などを継続して調べ、年に一度の説明会で安心していただいています。
設備更新についてもこれまで同様、環境に配慮した計画であることを説明し、地域の理解を得ています」
環境省は2012年、国立・国定公園内での地熱開発について、第二種、第三種特別地域内でも条件を満たせば開発できるとした。
再生可能エネルギーの固定価格買取制度も、地熱を後押しする。
そんななか、鬼首の実績は、あとに続く“リンデンブロック教授”たちの模範となるはずだ。
山葵沢で大規模地熱発電を日本の先端技術で未来を拓く
長いトンネルの続く道を北西へ。県境を越えると、秋田県湯沢市に着く。
うれしいことに湯沢市は、市を挙げて地熱開発を応援している。
「ゆざわジオパークで見えない火山を感じよう!」というジオサイトマップには、「地熱で未来を切り拓く」とある。
発電以外にも、乳製品や乾燥野菜の製造に地熱を利用しているそうだ。
山葵沢地熱発電所の建設工事は2015年5月にスタート。
3カ所ある生産基地のうち2カ所で掘削作業を終えた。
この地で、J-POWER、三菱マテリアル、三菱ガス化学が出資する「湯沢地熱株式会社」が、2019年5月の運転開始を目指して着工したのが、「山葵沢地熱発電所」である。
出力は4万2000kW。熱水を減圧してさらに蒸気を取り出し、高圧・低圧双方の蒸気でタービンを回す「ダブルフラッシュ」方式で、従来方式にくらべ15~20%の出力増を見込む。
1万kW級の大規模地熱発電は、国内では23年ぶり。
実は、1993年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)がここで事前調査に着手してからやはり23年が経っており、地元は再びの「地熱」熱に沸いているという。
新雪の積もった建設現場を、湯沢地熱の佐藤敏之社長が白い息を吐きつつ案内してくださった。
「物理探査で地熱貯留層に特徴的な割れ目が見つかっても、実際に掘ってみなければ、期待した蒸気量があるかどうかわからないのが地熱開発の難しいところ。今のところは、順調です」
山葵沢では、生産井(9本)と還元井(7本)の基地が山の斜面に沿って約2.5km離れており、還元熱水を運ぶ配管の設置も慎重に進めている。
「工事中の水環境の監視や土砂などの廃棄物の再利用、工事車両の騒音防止、希少動植物への配慮を第一に取り組んでいます」と、佐藤さん。「ハチクマという渡り鳥が巣を作っている可能性があったので、飛び去ったあとに工事にかかりました」
さすがは、J-POWERで長年、発電所の計画から運転開始までやりぬいてきた「土木屋」である。
地球と対話しながら、資源のおすそ分けをいただき、きちんとお返しする。そんな謙虚な探求心こそが、地熱発電を支えている。
佐藤社長の出迎えで建設現場へ。11月初旬、明日から早くも周辺道路が冬季閉鎖に入るというその日にも精力的に工事が行われていた。
参考文献(冒頭引用文出典):『地底』デイビッド・ホワイトハウス著、江口あとか訳、築地書館
東嶋和子(とうじま・わこ)
科学ジャーナリスト。筑波大学、青山学院大学非常勤講師。元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『人体再生に挑む』(講談社)、『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』『名医が答える「55歳からの健康力」』(いずれも文藝春秋)など。
電気の安定供給を支えるJ-POWERグループ
J-POWER(電源開発株式会社)は1952年9月、全国的な電力不足を解消するため「電源開発促進法」に基づき設立された。
その目的を達するため、まず大規模水力発電設備の開発に着手。
次いで70年代の石油危機を経てエネルギー源の多様化が求められるなか、海外炭を使用した大規模石炭火力発電所の建設を推進。
現在、J-POWERグループでは地熱発電や風力発電など再生可能エネルギーの開発にも力を入れ、全国90カ所以上の発電所(総出力約1800万kW)や送電・変電設備の運用により、エネルギーの安定供給に努めている。
J-POWERグループの主な発電設備
水力発電所 61カ所 857万kW 火力発電所 12カ所 886万kW
地熱発電所 1カ所 1.5万kW 風力発電所 21カ所 41.6万kW
(2016年12月1日現在 持分出力ベース)