2015.4.18 08:30更新
【緯度経度】
韓国の中堅財閥会長「なぜ自分だけ?」自殺直前の咆哮…政界に義理と信頼なし
中堅財閥の成完鍾(ソン・ワンジョン)・京南企業前会長が暴露した政界金銭スキャンダルが韓国政治を揺るがせている。
朴槿恵(パク・クネ)政権の要人多数に疑惑が出ている。
政権にとっては命取りになりかねない。
成・前会長は経営不正を理由に検察当局に追及され自殺してしまったが、
直前の遺書的な京郷新聞とのインタビュー全文が公開され話題になっている。
内容は「みんなにあれだけ金銭支援をしてやったのに自分の頼みは誰も聞いてくれない」といった嘆きで、
とくに政治家には「義理」も「信頼」もないと怒りをぶちまけている。
彼は検察捜査から逃れるため、
過去、面倒を見たり親しかったりした大統領側近の秘書室長や首相など多くの有力政治家に
「命ごい」して回ったがほとんど断られてしまったのだ。
そこでインタビューでは「どこの国でも政治集団というのは義理と信頼の中で時には命をかけて政権を誕生させる。
信頼を守るのが正道ではないのか」
「家族も信頼、職場も信頼関係なのに人を利用してばかりでいいのか」
「自分も加わって政権を誕生させたことはすべての人が知っている。
検察捜査は大統領の裁可なしにはありえない。
朴槿恵政府が成功するためには大統領がちゃんとしなければならない。
信頼と義理を守り、悔しい思いをする者が出ないようにしてほしい」
…と大統領への不満も語っている。
小学校中退ながら裸一貫で中堅財閥にのし上がった人物で、
出身地の忠清道を基盤に資金バラまきなどによる人脈作りは有名。
国会議員に一度なったが、この時は選挙違反で議席を失っている。
たたき上げのいわば“政商”だった。
彼の次の大いなる目標は
やはり同郷人脈集団の「忠清フォーラム」の有力メンバーだった潘基文(パン・ギムン)・国連事務総長を
大統領にすることだったといわれる。
彼が死に追いやられ悔しがっているのは、検察捜査に対する「なぜ自分だけが?」という思いだ。
検察捜査は朴槿恵政権が「クリーン政治」の一環として追及する李明博(イ・ミョンバク)・前政権下の資源開発疑惑にかかわる。
民間の企業を巻き込んだ官民共同の巨額プロジェクトに不正資金の流れがあったというわけだ。
その疑惑捜査が大きな有名財閥には向かわず、
たたき上げの京南企業を見せしめにしたと不満なのだ。
今回の事件は韓国社会の変わらぬ姿を浮き彫りにしている。
まず裏で金が飛び交う裏金社会。
朴槿恵大統領自身は「クリーンとストイック(清潔と禁欲)」が看板で“汚れ”が大嫌いだが、
彼女を大統領にした選挙をはじめ現実は依然、金がなければ動かない。
こうした「政治文化」を排除しようとした彼女だが、逆にブーメランとなって足元を揺さぶられている。
もう一つは出身地域という“地縁”の重要性。
成・前会長は学歴がなく“学縁”を活用できなかった代わり“地縁”に過剰に依存し政財界に乗り出した。
韓国政治は近年、
従来の慶尚道VS全羅道という東西対立に対し、
中部の忠清道がキャスチングボート(決定権)を握る傾向がある。
今回の“成スキャンダル”はその象徴ともいえる。
韓国のマスコミは「義理」や「信頼」を話題に政治疑惑の追及に余念がないが、
京郷新聞の大スクープとなった成・前会長との電話インタビューの録音を、
中央日報系のJTBCテレビが関係者から盗んで無断放映し問題になっている。
マスコミでも義理や信頼はないようだ。
(ソウル・黒田勝弘)