2016-07-12
勝又壽良の経済時評
週刊東洋経済元編集長の勝又壽良
韓国、「財閥非情」民間企業は首切り先行「公務員試験に殺到」
若者の半分が公務員試験
韓国学生が日本へ就職
韓国経済は、確実に地盤沈下している。
これまでは、重厚長大産業に支えられて成長してきたが、新興産業が芽を出さずに後退を続けている。
韓国は財閥支配の経済構造である。
その財閥は、リスクを取ろうとしないから、その日暮らしの状態を余儀なくされている。
財閥がなぜ、新興産業に手を出そうとしないのか。
それは、財閥制度そのものが極めて保守的な性格を持っているからだ。
財閥という家族が経営権を握っているから、「伸(の)るか反(そ)るか」といったリスキーな事業を敬遠するのは当然である。
韓国は独立後、雨後の竹の子のように財閥が登場した。
戦後の日本経済が、重厚長大産業で発展してきたから、それと同種の事業を興せば確実に利益を上げられた。
まさに、日本がお手本になっていただけなのだ。
ここで、注目すべき一つのデータを紹介したい。
韓国大企業が、リスクを取った新規事業に取り組まず、既存の国内産業に地歩を移して、中小企業を競争相手にする零細ビジネスへ進出したい。
そういう「時代錯誤」意識の企業が多数、存在しているのだ。これは、「大企業」の沽券に関わる話しだと思う。
「韓国経済研究院は昨年の売上高上位300社を対象にアンケートを実施。
141社から回答を得た。
それによると、最近3年(2013~15年)に差別的規制によって生じた障害に関する質問で、『新規事業機会、企業成長に制約がある』との回答が29.3%と最も多かった。
同院の調査によれば、5月末時点で韓国の民間企業には307件の差別的規制が適用されている。
大企業グループに対する株の持ち合い禁止、金産分離(銀行と産業の分離)、中小企業適合業種への進出規制などだ」(『朝鮮日報』7月6日付)。
韓国大企業(財閥が主体)は独占禁止法によって、株の持ち合い禁止、金産分離(銀行と産業の分離)、中小企業適合業種への進出規制を受けている。
これが、不満であると言うのだ。
とりわけ注目すべきは、中小企業適合業種への進出規制が、大企業の活動範囲を狭めているとしている。
パン屋やクリーニング店など零細資本が営む分野へ、大企業が進出するのは「アンフェアー」であろう。
これが、不満であるとする韓国財閥とはいかなる存在なのか。
国内の零細ビジネスに目を向けるより、もっと大きな分野でリスクを賭けたビジネスをしたいとは思っていないのだ。
これこそ、韓国財閥が「イノベーション」を忘れた、ただの「家産増殖」のみを願う経済集団に堕している証拠であろう。
こうした、後ろ向きの韓国財閥を法的に擁護する理由は、もはや存在しないと言うべきだろう。
韓国経済は、財閥が主導権を握ってきたが、前述の特性を持っているため、新興産業の育成に消極的である。
この結果、内需は冷えっぱなしである。
設備投資に火がつかないのだ。
現在、韓国企業売上高トップ500社のなかで「ゾンビ企業」に該当する企業は33社を数える。
このうち10社が建設業である。設備投資の下火が、建設業不振を招いた原因であることは疑いない。
サムスン電子が7月3日に発表した「2016サステナビリティ(持続可能性)報告書」によると、
韓国本社では、約2500人の従業員が減ったことが判明した。
08年の世界金融危機以降、昨年初めて本社の人員を削減したことになる。
実は、サムスン電子水原キャンパス(京畿道水原市)にあるデジタル研究所のビルでは、15年末から、空室が目立っていた。
地上37階建て、8000人を収容できるこのビルに入っていた同社のDMC研究所が事実上、解体されたためだ。
人員整理の影響で、2000人余りの研究員のうち1500人がほかの事業部に異動または退職。
残りの500人もソウル市瑞草区のR&Dキャンパスなどに移った。
韓国を代表するサムスンが、前述のように昨年、本社従業員を約2500人も削減していた背景には、日本経済の味わわされた「失われた20年」が、韓国にも早晩襲ってくるという悲観論が広がっている結果だ。
韓国は過去2回の通貨危機に襲われている。
1998年と2008年である。そのたびに、苦しい対応を迫られた。
今回は、過去2回を上回る経済危機の「失われた20年」へ神経過敏になっている。
日本並みの「失われた20年」に警戒を強めているのは、少子高齢化の進行である。
合計特殊出生率は、OECD加盟国中で最悪状態である。
日本よりもさらに低く、将来の人口動態悪化は不可避となっている。
日本政府と違って、韓国政府には具体的な出生率維持の目標もない。
それゆえ、韓国企業としては早手回しに人員整理をして、嵐に備えるという極めて消極的な対策に出ているのだ。
若者の半分が公務員試験
『韓国経済新聞』(7月4日付)は、「就職活動生の半分が公試族というこの悲劇」と題する社説を掲げた。
驚くなかれ、韓国の青年層の50%前後が、公務員試験に殺到しているのだ。
民間企業が首切りをしているために就職口が少なく、その反動で公務員試験を最後の頼りにしているのだ。
すでに指摘したように、韓国経済の屋台骨は財閥である。
その財閥は臆病で、新規事業に慎重である。
先ず、首切りを先行させているほどだから、新規採用などあるはずがない。
韓国の若者は、本当に気の毒な状況に追い込まれている。
(1)「 若い就職活動生が急増している中で、このうち半分が各種の公務員試験を準備する『公試族』だという。
韓国雇用情報部院の分析報告書(『青年層就職準備者現況と特性』)によれば、2014年に41万人だった青年就職活動学生が昨年は54万2000人に急増した。
今年2月に歴代最悪を記録した青年失業率(12.5%)など各種の失業統計と同じ脈絡だ。
注目する点は、公試族が大きく増えたという部分だ。
20~24歳の就職準備者のうち47.9%、25~29歳では53.9%が公試族だ。
これらの半分ほどにあたる45.5%が9級公務員の準備生だ」。
公務員試験を受ける若者は、「公試族」と言われるそうだ。
その「公試族」が、20~24歳の就職準備者のうち47.9%、25~29歳では53.9%も占めているという。
この数字を見たとき一瞬、間違った数字でないかと疑ったほどである。
何度、見直しても納得できないほどの高い比率である。
韓国経済の底の浅さを改めて印象づけるデータである。
(2)「不景気の時に公共部門が主要な雇用市場になるのはそれほどおかしな現象ではない。
ただ、その程度が問題だ。
『鷺梁津(ノリャンジン)塾街』、『新林洞(シルリムドン)考試(受験生)村』だけが不況と関係ないというほど公試族が急増したことは示唆点が大きい。
憂慮も少なくない。
一次的には職級に関係なく公務員は青年たちにとっても良い職だという意味であろう。
昨年、年金制度に手を加えたとしても良い年金と定年保障、安定した報酬、労働の強度において民間よりも確かに良いという話になる」。
公務員志望が多いと言うのは確かに、経済が不況に落ち込んでいる証拠であろう。
韓国政府の16年度経済見通しは3%弱と高いが、私は2%前後を予想してきた。
過剰な製品在庫が企業段階で積み上がっており、早期の整理が迫られている。
当然、鉱工業生産は落ち込むから稼働率は低下する。
よって、新規設備投資の必要性も薄らぐ。それは、従業員の新規採用を不要にするから、就職戦線は厳しくならざるをえない。
(3)「公試族の集中のより大きな原因は、民間でしっかりした職が十分に生まれていないからだ。
創意的で躍動的な、賃金も魅力的な『立派な職』が出てくるには市場が生きて動かなければならず、企業が投資に出なければならない。
前回の大統領選挙時の『経済民主化』スローガンと『企業締めつけ』政策が第20代国会のスタートとともに最近になってよみがえっている雰囲気だ。
そうでなくても国際経済も停滞期である渦中で、企業がさっさと投資や雇用に出られない条件が長期化している。
雇用市場の革新を図る政府の労働改革措置もまた国会で道が行き詰ってしまった」。
韓国経済が停滞色を強めている最大の原因は、財閥が守りの経営に走っていることだ。
財閥とは、出資と経営が未分化状態にあって。
オーナー家族が経営支配権を持つことである。
これは、近代経営の原則である出資と経営の分離に著しく反することである。
サムスンですら、オーナーが経営権を握っている社会である。
この矛盾に気づかねばならないが、そういう論調は一切見られないことが不思議なのだ。
韓国メディアで一紙ぐらい、こういう原則論に則った主張があっても良い。
は世の中、原則論から外れた話しほど、危なっかしいものはないのだ。
私、韓国の財閥解体論者である。
具体的には「循環出資」の禁止と、「コーポーレートガバナンス」の樹立であるから、それほど過激な主張でもあるまい。
日本で言えば普通の温厚な主張の部類に属する。
株主の権利を擁護して初めて、資本主義経済と言える。
現在の韓国財閥制度は、オーナー擁護の前近代的な遺物である。
財閥家族が、才能も経験もないままに、若くして役員に就くことほど株主の利益に反する行為はないと思う。
(4)「正規職・非正規職で差別化される雇用市場の二重構造の固定化も問題だ。
雇用情報部院の分析を見れば最初の職場からの退社比率が大企業の正規職は12%にとどまるが、大企業の非正規職は29%、中小企業の非正規職は41%に達する。
創意的な挑戦をしないと青年層を促すには、雇用と労働市場の問題があまりにも多い。
20代が公試族に集まる現実では、経済の活力も社会の躍動性も期待するのは難しい」。
民間企業における正規雇用と非正規雇用の問題は、日本でも深刻である。
同一労働・同一賃金は本来あるべき姿である。
その実現を拒んでいる理由は、企業における総人件費圧縮という便宜性に基づく話である。
総人件費を一定と仮定すれば、正規と非正規間での分配問題になるはずだ。
正規が、非正規よりも分配を多くすることは、それを正当化する根拠がなければならないのだ。
欧州では、正規職と非正規職の賃金格差を2割程度としているのは妥当な線であろう。
この問題が解決できずにいる背景は、正規職が非正規職よりも「偉い」という誤解と錯覚に基づく妄念と思う。
日本も韓国も、「人権」という立場に立ち返って考えれば、すぐに妥当な解決案が浮かぶに違いない。
繰り返すと、正規職が非正規職よりも偉いというエリート意識を持っていると、解決は不能であろう。
政府が、その間違った正規職のエリート意識をなくさせ、人権という立場で議論することに尽きる。
韓国学生が日本へ就職
韓国の学生が日本企業への就職問題の斡旋がクローズアップされている。
『朝鮮日報』(7月3日付)は、次のように伝えた。
(5)「韓国の求職者に日本企業への就職の機会を提供する『コリア・キャリア・イン・ジャパン日本企業採用博覧会』が7月2、3の両日、ソウルの総合展示場・COEXで開催された。
韓国貿易協会によると、博覧会には三井住友銀行、全日本空輸など日本企業35社が参加した。
2000人を超える求職者の申し込みがあったが、貿易協会の書類審査で選ばれた最終面接対象者300人が博覧会に出席した。
易協会は、博覧会を通じ約60人が日本企業に就職すると予想した」。
日本の来春の大卒就職内定率は、すでに50%を超えている。
人手不足状況が続いているから、韓国の大卒者が日本企業へ就職すること自体、なんら不思議はない。
日本の大企業では、グローバルな人材採用戦術を実行しているから、その一貫として捉えれば、ごく普通の大卒採用の行事と言えるのだ。
韓国学生が、日本企業へ就職するようになれば、
これまでの「反日」の無益さが、徐々に韓国社会へ浸透して行くであろう。
そういう副次効果も期待できる。
(2016年7月12日)
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