危機が迫るアジアの年金
少子高齢化の影響が端的に表れる社会インフラが「世代間の支え合い」で成り立つ社会保障、中でも公的年金制度だ。
2008年に韓国の国立年金サービス(NPS)が公表した財政見通しによれば、出生率が今後1.28程度ならば2060年に積立金が枯渇し、公的年金は破綻する。
ちなみに「年金危機」が叫ばれる日本でさえ、政府の試算では出生率が1.26なら今後100年間年金を維持できることになっている。
韓国では、政府が目標とする「出生率1.6」が実現しても、
制度の破綻をわずか4年、先送りするだけ。
これから出生率が上昇しても、年金財政の悪化に歯止めがかけられないのだ。
韓国の出生率は71年の4.54から、98年に1.5を割り込むまで27年しかかからなかった。
急激な少子化で世代ごとの人口に著しい格差が生じている。
NPSで年金財政の試算を担当する金順玉(キム・スーン・オック)も
「09年時点では現役世代9.4人で年金受給者1人を支えている勘定だが、
50年では1.1人で1人を支える水準にまで落ち込む」と話す。
保険料率の引き上げと年金水準の引き下げは避けられない。
発足時の保険料率は給与の3%(労使折半)、年金は標準ケースで現役世代の平均所得の7割を保証という「低負担・高給付型」だった。
だが、22年後の今日では保険料率は3倍の9%に引き上げられ、給付水準は将来的には4割にまで下げられる。
政府は03年、保険料率を15.9%に引き上げる提案をしたが、国民の抵抗で挫折した。
政府の年金審議会委員を務める尹錫明(ユン・スク・ミュン)は「相次ぐ改革で年金不信が高まっている上に、
韓国では現時点では現役世代の方が高齢者より圧倒的に多く、
少子化の危機が実感しづらい。
1人当たりの生産性を引き上げれば経済も年金制度も維持できる、
との意見もあるがそれにも限界がある。
長期的には移民の受け入れが避けられないのでは」と話す。
韓国は、「経済発展の果実を全国民に」と、制度発足11年後の99年には皆年金を実現。
しかし、低所得の自営業者は財政上の重荷で、保険料のごまかしや未納が大きな問題となっている。
それとは対照的な問題を抱えるのが中国の公的年金だ。
公務員や国有企業、大企業の従業員を主な対象とする都市年金は、現役時代の可処分所得をほぼカバーする手厚い内容だ。
「世代間の支え合い」を基本とする賦課方式だが、
皆年金ではなく加入対象者を収入が安定した層に限定しているため、
財政が大きな危機に陥る可能性は低いと見られる。
一方で、農村部の住民向けの年金は積み立て方式で加入は任意。
農村の就業者4億7千万人のうち加入率は10.8%に過ぎない。
05年の年平均支給額は707元(約9000円)と農民の平均所得の2割しかなく、老後の生活の柱とはなり得ない。
日本総研主任研究員の三浦有史は
「このままでは農村部と都市部の年金格差がますます拡大し、社会の安定を脅かす要因になるだろう」
と指摘する。
(太田啓之)
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