朴槿恵に「踏み絵」迫るオバマ
韓国の識者が語る韓国人の本音
2014年4月16日(水)
米国は中国より「格下」
鈴置:「北の核から身を守るには中国に頼るしかない」という韓国人の心情は分かりました。ただ、中国に傾斜するスピードがあまりに速すぎませんか。韓国の虫のよさには米国も怒り始めています。まだ、現段階では米国に守ってもらっているのですから。
A:確かに米国との関係は微妙になりました。オランダ・ハーグでの韓米日の3カ国首脳会談(現地時間3月25日)を、韓国は米国から無理やりに飲まされました。
そこで韓国は直ちに中国とも会談することにしました。中国の顔色を見たのです。米国はさぞ、不快だったでしょう。
鈴置:それも、日米韓の3カ国首脳会談を発表したのは青瓦台(大統領府)ではなく外交部でした。
半面「中韓」の発表は慣例通り、青瓦台。朴槿恵(パク・クンヘ)政権は米国を中国より格下に扱ってみせたのです。こんなことは韓国外交史上初めてです。
訪韓取りやめを知らない韓国人
一方、米国のヘーゲル国防長官は4月上旬、日本、中国、モンゴルを歴訪しました。韓国にも行くはずでしたが、やめました。
その代わりにモンゴルに行くことにしたと関係者は明かしています。
ヘーゲル長官は2013年9月の朴槿恵大統領との会談で大いに恥をかかされました。
日米韓の3国軍事協力やミサイル防衛(MD)への参加を持ちかけたのですが、朴槿恵大統領からは筋違いの「慰安婦」を理由に断られたのです。
そのうえ「米国の要求は拒否した」と世界に向け発表されてしまいました(「日米同盟強化で逆切れした韓国」参照)。これでは子供の使いです。
ヘーゲル長官の訪韓取りやめは、4月のオバマ訪韓を前に「米国は怒っている。
ウチの大統領を手ぶらで帰したら承知しないぞ」と韓国を脅すサインだったと言われています。
A:韓国でもヘーゲル長官の4月のアジア歴訪はかなり大きな記事になりました。日本との協調ぶり、中国との対決姿勢。いずれも韓国の安全保障に大きく関わるからです。
しかし「訪韓の予定もあったけれど、取りやめになった」とはほとんど報じられませんでした。
鈴置:米韓関係が根っこの部分でおかしくなっていることは、書けないということですね。
「八方」ではなく「一方美人」
A:八方美人は誰からも信頼されなくなります。皆から嫌われるものです。
鈴置:八方美人というよりも、米中だけにいい顔をしているので「二方美人」。そして、最近は米国に対しても不誠実なので「一方美人」と呼ぶべきではないでしょうか。
韓国人は米中の間で均衡外交――つまり二股外交をやっている、と表現するようになりました。
でも、これでは二股どころか中国べったりです。ミサイル防衛(MD)への参加も、日米韓の3国軍事協力も、日本の集団的自衛権に関しても、すべて中国の言いなり。
これほど中国に傾けば、ますます中国に舐められてしまいます。
中国は離米従中路線に突き進む韓国を見て「自分の言うことを聞いて当然」と考えるようになりました。
4月25日の米韓首脳会談で、韓国は中国の意向に反して動けるでしょうか。
日程は固まっていませんが、その後に中韓首脳会談を控えているのです。
米国の意向を尊重するあまり、中国を怒らせたら中韓首脳会談をキャンセルされかねない。
そうなったら韓国人は「次には中国から何をされるか」と、パニックに陥るでしょう。韓国は自由に動ける外交的な活動空間を、自分でわざわざ狭めているように見えます。
中国には行くが、米国旅行はしない
A:普通の人は中国との商売で儲けているから、あるいは中国がどんどん強くなるから中国傾斜に文句を言わないのです。
もし、経済成長にブレーキがかかるなど中国の勢いが弱まれば「米国が大事だ」と再び言い出すでしょう。
鈴置:朴槿恵大統領と世論の間に乖離があるということですね。
A:大統領就任の前に何度も中国を訪れましたが、米国に行ったという話はあまり聞きません。
朴槿恵大統領が心情的に米国よりも中国に近いのは間違いありません。
鈴置:朴槿恵大統領は本当は反米派だ、と見る人もいます。父親の暗殺犯の背後には米国がいたと当時、韓国ではささやかれました。
それが単なるうわさとしても、末期の朴正煕(パク・チョンヒ)政権は核開発や人権問題で米国との関係が極度に悪化しました。米国は小麦粉の対韓輸出を止めるなど朴正煕政権を締め上げました。
暗殺された母親の身代わりにファーストレディを務めていた朴槿恵大統領も、そうした事情はよく知っていたと思います。
A:ただ、日本と異なり米国はまだ韓国にとって重要な国です。朴槿恵大統領が反米としても、ストレートにその感情は出しにくいはずなのですが……。
中国に期待しても無駄だぞ
鈴置:4月25日の米韓首脳会談で、オバマ大統領は朴槿恵大統領に対し米国陣営に留まるよう、強く求めることと思われます。
12日に聯合ニュースが興味深い記事を配信しました。見出しは「ビクター・チャ、韓米サミットでは『中国の北への役割』を論議と予想」です(注1)。
(注1)この記事はここで読める(韓国語)。
ビクター・チャ氏はジョージタウン大学教授です。ブッシュ政権時代に国家安全保障会議(NSC)のアジア担当部長を務めた有力なアジアハンズで、今回のオバマ訪韓の仕掛け人の1人と見られています(「『自殺点』と日本を笑った韓国の自殺点」参照)。
この記事は、米戦略国際問題研究所(CSIS)が開催した「オバマ大統領のアジア太平洋訪問」という記者懇談会でのビクター・チャ教授の発言を紹介しています。そのポイントは以下です。
・(4月下旬の)米韓首脳会談では(北朝鮮の核問題と関連して)中国が何をできるかが焦点となる。
- 中国は「自分が圧力をかけても北朝鮮は核開発を放棄しない」と常に主張する。しかし、中国ほどに北に影響力を持つ国はいない。ことに最近、中朝間の交易は大きく伸びている。
中国の不誠実さを指摘したうえ、韓国に対し「北の核問題の解決を中国に期待しても無駄だぞ」と言い渡したのです。
「盧武鉉になるな」
さらにビクター・チャ教授は、韓国の離米従中に強い懸念を示しました。発言の内容は以下です。
- 朴大統領は「戦略的同伴者である韓中関係」の内容と方向をオバマ大統領に説明するであろう。
- 現在、ワシントンでは「朴大統領が中国にますます近寄っている」との見方が出ている。
- ただ、それは韓米同盟を犠牲にするという意味ではないであろう。
- 米中間でバランサーの役割を務めようとした盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代に韓国は戻らないだろう。
言い方は外交的修辞にくるんでいます
しかし要は「韓国が中国の言いなりになっていることは分かっているぞ」「いったい、どういうつもりか、朴槿恵はオバマに弁明すべきだ」「盧武鉉のような反米政権を、米国は許さないからな」との警告です。
米韓離別のきっかけに?
鈴置:オバマ大統領から、米国を取るのか中国かと「踏み絵」を迫られたら、朴槿恵大統領はどうするのでしょうか。
あの頑固な性格から逆切れし「それなら中国に行く」と言い返すかもしれません。
韓国メディアも、ソウルにそうした空気があることを伝えています(「『卑日』で前面突破?逆切れの韓国」参照)。
朴槿恵大統領は改めてプルトニウム再処理などの権利――つまり核武装のオプションを渡せとも要求するでしょう。でも、オバマ大統領は「核なき世界」でノーベル平和賞をもらった人です。簡単に「ああ、いいよ」とは言えません。
となると朴槿恵大統領は、北の核開発を阻止してくれなかったし、今後予想される北の核威嚇に関しても頼りにできない「弱腰の米国」に不満を漏らしたくなるに違いありません。
でも、それはオバマ大統領が一番言われたくないことです。シリアやクリミア問題の処理で世界中が「無能なオバマ」と見なしたからです。下手すると、この首脳会談が「米韓離別」のきっかけとなるのではないでしょうか。
「パク・シム」
A:私もこの会談が非常に重要なものになると見ています。ただ、どうなるか予測はつきません。
今、韓国では「パク・シム」という言葉が流行っています。漢字で書けば「朴心」です。「すべてのことは朴槿恵大統領の一存で決まる。しかし、その心は誰にも分からない」という意味です。
弱くなる米国と増大する北の核の脅威を前に、韓国が中国側に走るのか、あるいはこのまま踏みとどまるのか――。それはすべて「パク・シム」なのです。
(注2)Aさんは匿名を条件に話をしてくれる韓国の識者。
「『中国傾斜』が怖くなり始めた韓国」「『中国か米国か』国論が割れ始めた韓国」「安倍首相の韓国語は失敗でした」「どうせ米国から見捨てられるのだ」に登場している。
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