中国、「落日の経済」輸出力も低下「自信過剰」に鉄槌
(2014年3月24日)
的中したバブル崩壊予告
欧米市場への輸出頭打ち
2011年、GDPで日本を追い抜き世界2位の座をつかんで以来、中国は対外政策でも強気に転じた。
一枚看板の「平和的台頭論」を投げ捨て、強攻策に打って出ている。日本を最大の軍事標的に仕立て上げているのだ。
国内の矛盾激化をカムフラージュする。そういう専制主義独特の手法である。
日本から見ていると、「猿芝居」同然の滑稽さを感じるが、中国指導部は大真面目である。一層、哀れさとおかしさを感じるのである。
この「三文芝居」を演じている背景には、中国経済が今後とも順調に発展するとの前提が隠されている。
私は、この非現実的な前提を一貫して否定してきた。
不動産バブルは必ず破綻するものだ。「社会主義市場経済」といえども救済手段はない。
むしろ、「社会主義市場経済」ゆえに政治と経済が癒着して、バブル経済の後遺症は深刻なものになる。こう言い続けてきた。現実の中国経済は、まさにこうした傾向を強めているのである。
的中したバブル崩壊予告
私は、過去4年近くこのブログを書き続ける過程で、中国経済の衰退を予告してきた。
今回は、その中間総括である。
口幅ったい物言いで恐縮であるが、中国経済の衰退・没落は、社会思想や社会学を学んだことのある人間には、容易に予測できる事柄であろう。
中国社会には経済を安定的に発展させる。そういう基本的な精神構造が存在しないからである。
数量ベースで経済動向を論じることも必要である。
それと同時に、経済活動の担い手は人間であることに、もっと目を向けるべきなのだ。これこそ、社会学の出番である。
中国社会がいかに前近代的であるか。もはや論じる必要もない。
人権は弾圧されており、憲法は単なるお飾りに過ぎない。
GDP世界2位の国家が、未だに民意を問う選挙制度も存在せず、一党独裁の恣意的な政治が行われている。
月に人間が足跡を残す時代になった。
中国は有史以来一度もまともな選挙を行っていない。清国が崩壊した辛亥革命(1911年)直後、「選挙もどき」は行われたものの、大変な腐敗選挙で内乱の原因になった。
中国には、過去と断絶する「革命」を一度も経験しない希有の国である。
「革命」という言葉は中国で生まれた。それは、「易姓革命」であって単なる王朝の交代に過ぎない。
中国共産党革命は、「易姓革命」の域を超えていないのだ。
こうして、真の「革命」経験が存在せず、「イノヴェーション」(革新)能力はゼロ同然である。「イノヴェーション」能力の欠如は、旧套墨守を意味し超保守主義に回帰する基本的な性向を持っている。
4000年も農業社会であったこと自体、「イノヴェーション」能力の脆弱性を証明している。
「イノヴェーション」と言うと、小難しく聞こえる。
身近な言葉で言えば、「5S」(整理・整頓・清潔・整理・躾け)が苦手なのだ。
国家も個人も同じ傾向である。
中国で近代工業が発展せず現在に至っている背景は、「5S」が身につかないからである。
身辺をきれいにして清々しく生活する。そういう習慣がなかったのだ。
4000年もやりたい放題な恣意的な行動で、その日暮らしをしてきた。これが中国の歴史である。科学技術でも日本に大きく出遅れたのは、「5S」という体系的に物事を把握する習慣がなかった結果である。
訪日の中国人観光客が一様に驚くのは、日本の街が清潔であることやマナーを守っていることである。
これは「5S」が生活の基本にあるからだ。
ルールを守ることが、先進国共通の現象である。
言葉を換えれば、「市民社会」の暗黙の了解事項である。
ルールを守ることは、社会が自律的に発展する上で不可欠の基盤である。中国のように恣意的な社会では、自己利益の保身が最優先されている。
「5S」という自己に規律を課すことは、想像もできないことに違いない。中国最大の悲劇は、「市民社会」の経験が絶無であることだ。
歴史的に言えば、日本は江戸時代の「封建時代」、明治維新からの「絶対王制」。第二次世界大戦後、「市民社会」へ移行して現在にいたっている。
「市民社会」の経験は比較的短いが、江戸時代からの「5S」によって生活の規律を学んできた。
「他人に迷惑をかけない」。これは市民社会の原点である。
日本人は、子どものときからそのように「躾けられて」いる。「嘘をついてはいけない」。これも躾けである。
中国では、「嘘は方便」と子どもに教えている。これが、日中における経済発展の決定的な違いをもたらした。
市場経済のルールは、「嘘を言わない」ことが前提である。中国の「ニセ物づくり」は、市場経済のルールから逸脱しているのだ。
中国は、近代社会の経験がゼロである。
秦の始皇帝以来、2200年も専制政治の下にあるから、「嘘が方便」となってきたのだ。これが習い性になっている。
「嘘」によって自己防衛を図るから、「イノヴェーション」へのモチベーションは生まれるはずがない。
不都合なことはすべて、「賄賂」で処理する。真面目に努力をして苦況と突破する。そういう意欲が存在しなかった。これが、「イノヴェーション」能力欠如の背景である。
20世紀初頭のドイツ人社会学者マックスヴェーバーは、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』において、近代資本主義の原点は、市場における売り方と買い方が対等である。
民主主義が市場経済の大前提である。「嘘」の存在を認めず、質素に暮らし資本蓄積に努める「求道者」のような姿をイメージしていた。
こうして、プロテスタントントの英米独や北欧諸国が急速に経済発展した。精神性の高さに依存したのである。
日本が、非プロテスタントのなかで唯一、先進国社会に発展できたのはなぜか。「武士道」という自己規律精神、つまり「5S」が高い精神性となって支えた。
現在の中国は、蒋介石時代よりも腐敗が進んでいる。
土地が国有化されており、政治権力を握る共産党が自由自在に処分できる。
ここでは当然に賄賂・汚職といった腐敗が生まれる。
土地国有化制度こそ政治腐敗の原点である。
共産党政権は、中国社会の潜在的な脆弱性を最大限、顕在化させた政権と言える。
かくして、不動産バブルが発生した。バブル経済に伴う過剰債務が、中国企業を襲っている。
中国の抱える総債務は、GDPの216%に及ぶ。
負債比率が2倍以上という「倒産状態」に追い込まれているのだ。容易ならざる事態が、中国に起こっていることに気づかなければならない。
中国社会には、「イノヴェーション」能力が不在である。
それは、2200年にわたる専制政治の歴史がもたらした不可避的な負の遺産である。これが、私の「仮説」である。
これに基づいて、現状を診断しておこう。
すでに、中国の輸出競争力は頭打ちになっている。それを突破する能力が、中国にあるのか危ぶまれているのだ。
欧米市場への輸出頭打ち
『ブルームバーグ』(3月12日付け)は、次のように報じた。
① 「中国製品は2大顧客の支持を失いつつある。
中国製品の米輸入に占める割合は過去30年にわたり拡大が続いたが、今では頭打ちとなり、欧州では割合が低下している。
ブルームバーグ・ニュースがまとめたデータによれば、欧州連合(EU)の昨年1~11月の輸入 に占める中国製品の割合は16.5%と、2010年のピーク(18.5%)から低下した。米国は19%前後と過去5年ほとんど変わっていない」
中国の二大輸出市場である、米国向けが横這いになっている。
欧州向けは低下傾向にある。これは、中国の「人海戦術」経済の限界を証明している。
中国に「イノヴェーション」能力があるならば、労働力の枯渇化と賃金上昇に伴って経営戦略を変えるはずだ。
ところが、旧態依然とした製品構成であり、高付加価値分野へ移行できないのである。
中国指導部の異常な「自信過剰」とは裏腹に、経済危機突破能力はきわめて低いのが現実だ。
中国の気位の高さは世界一である。
科学的な根拠もなく、「中国は偉大」だとしている。歴史・国土・人口という「三点セット」が、他国を圧しているという子供じみた理屈である。
肝心の科学技術は模倣優先であって、レベルはきわめて低いのだ。
この気位の高さと科学技術は低レベルであるギャップが、中国に想像以上の危機をもたらしている。
日本が出来たことは、無条件で中国でも実現可能と信じている。それが、「イノヴェーション」への真面目な取り組みを阻害しているのだ。
② 「中国の低コストという利点が賃金上昇や通貨高によって損なわれており、Tシャツや靴などの製品の販売では、よりコストの安いベトナムやバングラデシュなどの国々が競争相手として台頭している。
中国の2月の輸出は予想外の減少となり、困難が増す状況が示された。
こうしたトレンドは、習近平国家主席率いる政府が、半導体チップや医療用画像機器、航空機といったより高い技術力が求められる製品分野で競争力を育成する必要があることを浮き彫りにしている」。
低付加価値製品は、中国の人件費高騰で輸出競争力を低下させている。
周辺の人件費の安い国家が、中国のライバルとして登場している。
本来ならば、人件費高騰は機械化で凌げるはずだが、機械化投資の資金が足りないのである。中国企業の過剰債務がそれを阻んでいるからだ。このように過剰債務問題は、中国経済に致命的な打撃を与えずには置かない。
この認識が中国指導部にどこまであるのか。私は疑問に思っている。
4年前から、このブログで不動産バブルの危険性を指摘し続けてきた。
当時の中国の経済担当者は、日本の二の舞にはならない。日本を十分に研究している。余計なお世話だ。こう斬り捨ててきた。
現実は、日本の歩んだ同じ道に落ち込んでいる。「大言壮語」(ほら吹き)の報いと言うべきだ。
中国は、産業構造高度化について何の準備もなく声高に言い始めた。
日本の企業を誘致すれば何とかなる。そんな軽い気持ちで中西部開発を始めた。
沿海部から低付加価値産業を移転させ、その後釜に、先進技術を持った企業誘致を狙ったのである。
肝心の日中関係は最悪状態である。日本企業は、脱中国でASEAN(東南アジア諸国連合)へシフトしている。
低付加価値産業は、中西部の辺鄙な土地に立地させられた。沿海部の港湾まで2500キロもの超遠距離である。
運送費がかかって輸出には不利である。日本の高度成長時代の「地域開発」と同じ失敗を犯すだろう。そう言ってきた。
私は、『戦後50年の日本経済』(東洋経済新報社 1995年)で、日本経済の政策的な失敗をつぶさに論じている。
バブル発生や日本政府の政策介入がもたらした問題点の分析である。
これが、そのまま中国の1978年末以来の改革・開放政策にも適用できたのだ。中国経済の危険性に対して、一貫して警鐘を打ち鳴らした背景がこれである。中国も、日本と同じ間違いをしたのである。
③ 「ゴールドマン・サックス・グループのアジア担当チーフエコノミスト、アンドルー・ティルトン氏は『大きな変化だ』と指摘。『中国が非常に強い輸出競争力を持った時代が過ぎた可能性がある』と述べた。
中国人民元は05年7月以降でドルに対して約35%上昇。
賃金は過去10年で3倍に上がり、中国の労働力も縮小し始めている。
中国政府のデータによれば、同国の労働年齢人口は12年に減少に転じた。
米国の推計によると、衣料や玩具の工場を支える15~39歳の人口は過去5年で3500万人減ったもようだ」。
中国のような「人海戦術」経済では、労働力の減少は致命的である。
過去5年で青壮年(15~39歳)が、3500万人も減ったというのだ。
これでは、中国経済が力を失って当然であろう。もはや、「世界の工場」の地位も危うくなった。
最近は、「BMVIT」(ブラジル・メキシコ・ベトナム・インドネシア・タイ)が、次の「世界の工場」という説も飛び出ている(『日本経済新聞 電子版』3月13日付け)。
気位の高い中国にとって、耐え難い事態が進行している。「奢れる者久しからず」という言葉がぴったりである。