北大路機関

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【映画講評】復活の日(1980)【3】アラスカ沖巨大地震と世界を包む誤作動ICBM暴発-核の焔

2020-03-09 20:01:32 | 映画
■戦中派からの明日への遺言
 新型コロナウィルス肺炎感染拡大と共に本作へ注目が集まっているようですが、この作品はより深い。作中では前半に南極以外の全世界へMM-88が蔓延、全滅します。

 MM-88,作中ではウィルスにとりつく核酸兵器であり、宇宙から採取したものを兵器化したものですので世界の防疫陣や医学者は全く想定できません、そして体内にインフルエンザウィルスと共に侵入しますとそのまま分離、核酸として増殖し人体の神経伝達物質を破壊、神経ガスのサリンに冒されたような症状、つまり急性心筋梗塞や呼吸停止で100%亡くなる。

 南極、しかし打つ手はなく、僅かに米ソの生き残った潜水艦、ネーレイドとT-232号だけが南極から世界の観測任務へ定期的に出航するものの、大気中に大量のMM-88ウィルスが蔓延している状況を遠隔監視したのみで戻る単調な日々が続くのですが、日本の昭和基地から原潜ネーレイドに乗艦した地質学者がアラスカの地質学上の異常事態を報告するのです。

 アラスカでマグニチュード9以上の巨大地震が起こりつつある前兆を捉える、この情報を南極の生存者で構成した南極会議に報告しますと、大騒ぎとなる、地質学者は既にアラスカはMM-88により無人地帯となっており、南極へ及ぶ影響は津波を含めても僅かであり、津波と共にMM-88が党あっ津する心配はない、と制しますが、もう一つの脅威があった。

 核戦力。何故ならばアラスカには全米に張り巡らされたソ連核攻撃に備えた自動報復装置の観測点があり、巨大地震を核攻撃と誤認した場合はソ連の主要核施設に大陸間弾道弾ICBMが発射される事が必至である点、ソ連にも同様の装置がありソ連が自動反撃を行う事で全面核戦争が無人の五大陸で始まり、そして最後に南極も標的である可能性、という。

 南極条約に守られている南極大陸へ、ソ連側がアメリカのアフリカ地域のソ連軍を標的とした核兵器展開検討を受け、アメリカのマクマード基地など幾つかの南極の拠点へ核攻撃が行われる可能性がある、つまり人類はMM-88に続いて戦略核により二度殺される可能性がある、こう展開して行くのですね。そしてアラスカ巨大地震は前駆地震と共に刻々迫る。

 ネーレイドをホワイトハウスへ、T-232をモスクワの防空司令部へ、巨大地震発生前に決死隊、いや必死隊を突入させ自動報復装置の電源を遮断するために、自動報復装置に設置に反対したことで南極に左遷され命を長らえた米ソ軍関係者が送られることとなり、その支援要員として多数の志願者の中から地質学者も選ばれ、無人のワシントンDCへと向かう。

 巨大地震。しかし自動報復装置の遮断は間に合わずアラスカ巨大地震が発生、ホワイトハウス地下でも揺れが感じられるとともに核ミサイルの発射が地下指揮所に表示され、世界は核の焔に。ただ、ここで転機がありまして、実は大陸間弾道弾の大半が水爆弾頭を用いた中性子爆弾であり、熱線や爆風を最小限として中性子線を放出する、実在の兵器です。

 中性子爆弾は人間だけを殺すという非人道兵器ではあるのですが、米ソが大量に使用した中性子爆弾が、宇宙空間に元々あったMM-88に宇宙線が届いたような、通常地球上ではあり得ない中性子線にさらされ、もともとが無毒で増殖力の大きな宇宙ウィルスへ変化しつつ、有毒なMM-88を一斉に駆逐し始めるのですね。そして南極でも転機があったのですね。

 ソ連はそもそも非常識な国ではなかった、南極条約を無視して南極を核攻撃するような準備はもともと無く、決死隊を送る必要は無かったという。原作では明示されていませんが、T-232は内陸のモスクワから脱出できない前提であり、ネーレイドも帰還後廃棄されたのか帰還できなかったのか、その後出てきません。ただ、南極ではもう一つ、僥倖が描かれる。

 ソ連のウィルス学者が地震発生前、MM-88に原潜原子炉の高速中性子を当てる実験を行い、疑似的にMM-88へのワクチンというべき物質を開発していましたが、なにより臨床試験をおこなえていません、南極へはMM-88の持ち込み厳禁が決定しており、敢えて必死隊であるネーレイド号の上陸員に、MM-88の渦中へ向かう際に一縷の望みをたくして投与する。

 MM-88への治療方法が見通しがついた、として世界が核攻撃で二度目の終焉を迎えて更に数年後、南極から手製の動力船により、破滅から久々に南米へ調査員を派遣した際に、既に中性子爆弾によりMM-88は無害な宇宙ウィルスに駆逐されていることを知り、陸上両生類などが南米では生き残っていたことを知り、そこには地質学者が、帰ってきていました。

 ワシントンDCでは中性子爆弾の直撃を地下指揮所にて偶然生き残り、しかし中性子線で脳障害を負ったまま南に行けば仲間に会えるという僅かな記憶だけで無人の北米大陸と南米大陸を徒歩で踏破し、再会を果たすところで、ソ連ウィルス学者の回想とともに、皮肉なものだ、と作品は大団円を迎えるのですね。そう、作品の視点はここだったのですね。

 医学は人類を救うはずのものですが、結果的に医学が応用されたことで核酸兵器が開発され、その漏洩により人類は南極の一万名を残して絶滅寸前まで追い込まれてしまった、人類を救うはずのものが一歩違いで人類を絶滅まで、文明を完全に崩壊させたことは皮肉なもの。科学が核を生んだように医学も用い方一つでこうした脅威となる、その警鐘です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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