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【映画講評】太平洋の嵐-ハワイ・ミッドウェイ大海空戦(1960)【2】いまみる戦争記憶生々しい時代の映画

2022-08-14 07:02:50 | 映画
■戦後映画史に残る大作
 終戦記念日が近い事もありますしCOVID-19の感染拡大も凄い事になっていますので映画鑑賞は中々安全ながら連休らしい愉しみとおもえます。

 太平洋の嵐。1960年の東宝映画です。そして第一回でも記しましたが副題は“ハワイ・ミッドウェイ大海空戦”というものでして、その名の通り、真珠湾攻撃とミッドウェー海戦という、太平洋戦争最初の半年間を描いた作品となっています。主人公は北見中尉、九七式艦上攻撃機の搭乗員、今でいえばF-2戦闘機、艦載機ですのでF/A-18Eにあたる。

 昭和の日本映画、とはなっていますが関心事の高い題材という事で予算は大きなものが組まれていまして、千葉県勝浦に実物大の空母飛龍が再現されています。海岸に組まれた撮影セットは、飛行甲板に多数の艦載機が並ぶもので、実物の太平洋大海原の波を背景とした撮影を可能としており、勿論動くものではありませんが作品に臨場感を与えています。

 真珠湾攻撃、冒頭には“昭和十六年十二月-日米関係は最悪の常態にあった”というナレーションから始まるとともに夜明けの北太平洋を往く空母飛龍、北見中尉が舷側通路から飛行甲板へ赴く様子が長廻しで撮影され、九六式25mm三連装機銃群と零式艦上戦闘機に九九式艦上爆撃機に九七式艦上攻撃機、このセットの巨大さを余すところなく描きました。

 戦後というよりも戦争の記憶を残している時代、北見中尉を演じる夏木陽介さんは戦前生まれですが従軍経験はありません、ただ、共演する鶴田浩二さんは特攻隊の整備員でしたし、三船敏郎さんも応召し偵察機の写真員となり終戦時は飛行第百十戦隊で特攻隊の教官、池部良さんは応召し見習士官となるも輸送船を撃沈されハルマヘラ島に漂着、死にかけた。

 ハワイ・ミッドウェイ大海空戦、いまのCG技術を駆使するならばもっと凄い映像を撮れることは確かですし、オープンセットを組まずとも空母飛龍と護衛艦ひゅうが、全通飛行甲板の規模ではほぼ同じですので、もちろん艦橋の形状もVLSなんてものも飛龍とは違うのですが、少なくとも戦時中の空母はこの大きさ、という認識は共有できるのでしょう。

 山口多聞を演じる三船敏郎、山口少将は厳しい訓練で事故よりも練度を優先するという姿勢とともに預けられた第二航空戦隊を、恐らく世界最強水準まで育て上げました。攻撃精神の塊のような指揮官で戦前に第一連合航空隊司令官を任じられた際には当時世界では異端な程の航続距離を有した九六式陸上攻撃機を駆使するも損害が多すぎた事で知られる。

 三船敏郎さんは、伝え聞く事を纏めた書籍等を俯瞰しますと真逆の職人的な俳優であるとともに、のちに三船プロダクションを設立した際の映画哲学など辿りますと、監督が意識する山口多聞像とともに、しかし何処まで行ってもヤマグチを演じるミフネの哲学が有るようにも思えます。つまり、この映画は“あの戦争は”の空気を意図せず深く描いている。

 松林宗恵監督作品。人間魚雷回天、潜水艦イ-57降伏せず、太平洋の翼、連合艦隊、戦争映画の有名な作品でもこれだけメガホンをとっている監督です。もっとも、森繁さんの社長シリーズでは社長三代記に社長太平記と社長外遊記や社長紳士録と社長千一夜と社長学ABCに社長忍法帖と、ざっと社長シリーズだけで23作も撮っている、多忙な監督さん。

 平和を今語る事は簡単だけれども、当時の空気がどのように醸成され、そもそも当時の価値観は、しかし昭和時代の価値観と大正時代の価値観は若干違い故に多彩な俳優陣が戦前に形成されていたから戦後の映画復興が在った事を理解すべきです。迫力ある映像を今の時代はCGで描く事が出来ても、何故その歴史に至ったかは、空気を知らねばなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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