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【映画講評】Battle of the Bulge: Winter War/ザ・バルジ・ソルジャーズ(2)舞台の背景

2021-10-02 14:12:20 | 映画
■ランツェラートとスタブロー
 アルデンヌ冬季攻勢にしてはこじんまりしているなあ、お教えいただいた方のお話しですが当方共にプラトーンと山猫は眠らないのトムベレンジャーというだけで期待が。

 戦争映画となりますと、実際の軍艦を実物大で再現したとか、大戦機の稼働機をどれだけ集めたとか、戦車がどのくらい集めたのか、という話題も確かに興味深いのですが、題材も重要と思う。“にっぽん歴史鑑定”や“英雄たちの選択”など歴史番組が面白いようにね。実際、そう思うからこそ似ても似つかない現用装備の写真を掻き集めて紹介しています。

 アルデンヌ冬季攻勢では、最終的にアントワープを確保するべくフランス中部のミューズ川まで一気に前進する計画である為、燃料輸送車が追い付かない事が多々あったのですね、この為に第一線部隊は米軍補給処から幾度か燃料を鹵獲し、使わざるを得ない状況に陥っています。最初から鹵獲する計画ではなく、予定通り燃料が補給されない場合なのですが。

 先鋒を往くヨアヒムパイパー親衛隊中佐が率いるパイパー戦闘団を例に挙げますと、先ず緒戦で先行する第9降下猟兵連隊に続き、戦車部隊を中心にロスハイム峠の米軍部隊を排除し緊要地形を確保すると共に後方からの燃料を補給する計画でしたが、12月16日、ロスハイム峠を確保した戦闘団に鉄道輸送と道路渋滞により燃料が届く事はありませんでした。

 ランツェラートの戦いは、この直前に発生しています。第9降下猟兵連隊が先行して展開し、戦車部隊が続行して確保するという、米英軍が先に実施したマーケットガーデン作戦のような表面上完璧な戦闘となる計画でしたが、第9降下猟兵連隊長は空軍のホフマン中佐、陸戦経験が無く部隊の掌握も難渋している状態で米軍部隊と交戦する事となりました。

 アメリカ第99歩兵師団隷下の歩兵連隊と戦闘を繰り広げた第9降下猟兵連隊は550名規模ですが、神出鬼没の歩兵部隊を相手に悪天候の視界の悪さも相まって敵を捕捉できません、盛んに銃撃を加えるものの米軍部隊の位置さえ把握できず、ここでパイパー戦闘団の増援を待つ事となりました。米軍部隊相手に苦戦していると駆け付けたパイパー戦闘団ですが。

 第99歩兵師団第394連隊の偵察小隊、第9降下猟兵連隊が苦戦していた相手はなんと20名規模の偵察小隊であり、ジープに機銃を載せ機動戦を展開していました。偵察小隊を指揮するライルブック中尉は弱冠二十歳、偵察小隊には砲兵前進観測班が加わっており、後方から砲兵射撃の支援もありましたが、小隊で連隊を食い止めていたという驚きの話です。

 パイパー中佐は、精鋭降下猟兵一個連隊が一個小隊相手に何をやっているんだと嘆息しつつ、なにしろ戦闘団にはパンター戦車等70両とティーガー2戦車20両配備、その他車輛だけで600両が配備されていますので、降下猟兵を支援し米軍偵察小隊を蹴散らします。この頃のドイツ降下猟兵はクレタ島空挺作戦の頃の練度をもう、留めていなかったという。

 ランツェラート近郊にはビューリンゲンに米軍燃料補給処があり、これを奪取し当座の燃料不足を補う事としました。パイパー戦闘団は第9降下猟兵連隊の降下猟兵を戦車に跨乗させ燃料補給処を襲撃、この際に19万リットルの燃料を鹵獲しました。作戦に参加した19個師団分の燃料が1500万リットルですので、戦闘団だけでこの鹵獲は要諦とさえいえる。

 マルメディ捕虜虐殺事件等、事件が発生しますが、パイパー戦闘団はこのまま前進します、そして戦闘団は12月18日早朝、ミューズ川に至る最後の要衝となるスタブローへの攻撃を開始しましたが、ビューリンゲンにて鹵獲した19万リットルの燃料もこの頃には心細くなっています。そしてスタブロー近郊にも、大規模な米軍燃料補給処があったのですね。

 スタブロー近郊の米軍燃料補給処には56万3700リットルの燃料が備蓄されており、戦闘団の補給線は伸びきっていると共に道路渋滞と橋梁爆破等の妨害により機能せず、これを鹵獲する事で再度攻勢を計画します。敵の補給物資に依存する、日本陸軍のインパール作戦と似た状況ですが、ビューリンゲンでの成功体験はまだ二日前、行けると思ったのか。

 第526機甲歩兵大隊のB中隊と対戦車砲小隊がスタブロー近郊に展開していましたが、危機を察知したポールソリス大隊長は更に予備の対戦車砲小隊を率いてB中隊を戦闘指揮する決断を下し、まず米軍燃料補給処へ向かいます。ポールソリス大隊長は燃料を燃やすよう命令、市街地に隣接する高台にある燃料補給処からガソリンをドイツ軍へ向け注ぎます。

 スタブロー市街地へ展開し市街戦の準備をしていた戦闘団は高台から燃える燃料が注ぎ込まれ大混乱となり、パイパー中佐は燃料鹵獲を断念し、不眠不休で前進し続けた部隊を休ませたうえで近傍のトロワボンにある橋梁を確保し、ミューズ川を渡河すると決心します。既に戦車の半数が整備不良か損傷で行動不能となっていました。再整備し戦闘に臨みたい。

 Rイーツ少佐率いるアメリカ軍第51工兵大隊C中隊がトロワボンに到着したのは、戦闘団がスタブローを進発した直後でした。工兵中隊の任務は橋梁爆破であり爆薬を携行していますが、これに加えて障害除去用に57mm無反動砲を一門装備しています。イーツ少佐は橋梁に迫る戦車に驚きつつも反撃、敵もまさか無反動砲一門とは思わず遅滞戦闘は成功へ。

 トロワボンの橋梁はパイパー戦闘団が到着する15分前に第51工兵大隊により爆破、近傍には十数km離れてアビエモンにもう一つの橋梁がありましたが、こちらも二時間後に爆破される。戦車主体のパイパー戦闘団に架橋資材等は無く、結果的に一時後退しますが、この頃、米軍の空からの反撃が本格化、延び過ぎた補給線を叩かれ、ドイツ軍は敗北した。

 トムベレンジャー、ビリーゼイン。そして若手俳優が固め、それ程多くない予算で、となりますと、この二つの戦いに焦点を充てているのではないでしょうか。監督と脚本はスティーヴンルーク、こちらも当方の知識不足もあり中々知らない名前です。しかし、知られていない史実をもとにした映画は歴史への理解の一助となります、観てみたいものですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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