北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

軽装甲機動車後継研究【2】機動運用に関する1990年代と2020年代の変容が及ぼす後継装備への影響

2023-06-03 20:12:00 | 先端軍事テクノロジー
■小型装甲車としての設計
 軽装甲機動車は当初小型装甲車という名称で研究されていました。

 軽装甲機動車について。ここまで後継車両というものを中心に考えてきましたが、装備そのものの運用が当初の想定通りであったのか、という視点も必要なのかもしれません。もともと軽装甲機動車は、一個小銃班を3両に、現状は2両ですが開発当時は3両、分散させ機銃などの機動運用に充て、基本的に下車戦闘しない装甲車両として設計されました。

 下車戦闘せず、一個小隊を従来の装甲車では3両乃至4両で運用したのに対し、一個小隊を3個小銃班に小隊長と合わせ10両を配備し、下車戦闘により装甲車から普通科隊員が散開せずとも、車両ごと散開している状態、という想定で設計されていたのです。しかし実際の運用では下車運用を執っています、この為に不規則な運用の装甲車となっている。

 施錠する。小銃班に2両配備するということは運転手と車長だけで4名必要となりますので車両に操縦要員を残しますと下車戦闘のための人員が足らなくなる、その為に運転手は軽装甲機動車に施錠して相手に奪われないようにしたうえで全員突撃する、という運用が基本です。路上駐車された放置軽装甲機動車は、後続の部隊が後に回収するという。

 機械化部隊は下車戦闘を可能な限り行わず実施する場合は短時間とする、2010年代以降の各国機械化部隊、特に装甲戦闘車を装備する部隊の基本はこのようになっています。つまり敵陣地、対戦車ミサイルや重機関銃で武装している、陣地の目の前まで接近できる重装甲と、そして制圧できる大口径機関砲を備え、故に装甲戦闘車は35t台まで重量化します。

 CV-90装甲戦闘車などがまさにそうなのですが、スウェーデン軍の演習映像や訓練展示映像を見ますと、40mm機関砲で陣地からの反撃を封じ、なにせ3P弾という散弾を撃てる、機動力で近寄るとともに下車戦闘は敵陣地の20m前後で実施している、もちろんこの距離ならば掃討を終えて装甲戦闘車に戻るまで数十秒しか要さない実に短いものでした。

 M-2ブラッドレイ装甲戦闘車が大量配備された時代には、下車歩兵についてはかなり柔軟な運用が想定されていましたし、米軍教範などを見ますと機動防御に際しても装甲戦闘車から下車して陣地構築など、ちょっと現代の装甲戦闘車の運用からはかけ離れた視点も記されていて、設計当時の軽装甲機動車運用はある意味画期的ですが、現実は違った。

 機動防御、機動打撃、機甲部隊の運用には様々な要素が挙げられますが、実態としては単純な地点にこもることでの主導権の奪い合い、というものではなく機甲部隊の運用は現在、常に戦線を流動的に動くことで能動的に主導権を確保する、相手に新しい選択肢を突き付け続ける、と理解されています。つまり、運用の方式は進化しているといえるでしょう。

 下車戦闘を避けることで機動力を発揮しようとした軽装甲機動車ですが、設計時点の構想に対して実際には下車したらば施錠し、結果動かすことのできない装甲車、結果的に機動力は徒歩の水準に落ちたままです。すると、自衛隊が軽装甲機動車を導入した当時に思い描いた運用を実現するには、CV-90の様な重厚な装甲戦闘車が必要なのかもしれません。

 軽装甲機動車は、設計時点の運用と実際の運用の相違点を示しましたが、逆に第一線部隊では、まあ、重心が高いために横転しやすい難点や高機動車ほど軽快にうごく事ができない装甲車ゆえの重さなどが指摘されますが、安いという事はさておき、現場の部隊には“数が揃っている装甲車”、装備数でも稼働数でも、という点が評価されている点も重要です。

 軽装甲機動車の後継装備に難しいところは、下車戦闘せずに機動運用する、という運用体系そのものは現実の運用で為されなかったのだから最早配慮する必要はなく、例えば小型無人先頭車両などとの連携を考えた方が部隊当たりの車両数を増やすという目的にはかなっています、他方で、これにより車体はある程度大型化する余地があるのですが、さて。

 取得費用の面はどこまで妥協するのか、つまり高性能で大きくなったことによる費用の増大で、数が揃っているという点から軽装甲機動車の後継足り得るかという視点が必要ですし、また安易に新型装備や海外製装備に飛びついた場合、稼働率という視点で軽装甲機動車の利点の一つであった、必要な時に必要な数が動くか、に影響が及ぶのも避けたい。

 機動防御にしても機動打撃にしても、軽装甲機動車の後継車両を陸上自衛隊が導入する場合、もちろん斥候や指揮官連絡と観測点や警戒車両としての運用も含めて、陸上自衛隊として機械化部隊をどのような運用で実戦に対応させるのか、そしてほかの装備体系との連接性の確保、またどういう戦闘を想定しているか明確にしなければならないでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【京都幕間旅情】榛名さんの総監部グルメ日誌-京都駅,いまクリームソーダを敢えて京都珈琲界の老舗で愉しむ

2023-06-03 14:11:41 | グルメ
榛名さんの総監部グルメ日誌
 舞鶴地方総監部の置かれる京都、その京都府の府庁所在地である京都市には数多くの喫茶店が並び日常に充実感を与えてくれます。

 京都のほかに東京にも広島にもあると聞きましたので日本中にあると思っていたならば、実は京都に本店があって、長らく京都ならではの味わいであった、と後付でお教えいただきまして、なるほどそれならばなあ、と味わいが深まったように単純におもってみた。

 イノダコーヒ、イノダコーヒーではなくイノダコーヒという名前が正式ということですが1958年に創業しまして、谷崎潤一郎や池波正太郎が愛飲した喫茶店というおはなしです。この京都を代表する喫茶店で、敢えて甘くて美味しいクリームソーダを注文してみました。

 クリームソーダ、クリームソーダーではない。こんなものを頂こうとおもいましたのはNHK番組の再放送でとある二条城近くのお店でクリームソーダを嗜む描写が妙に美味しそうで、しかしそのお店は行列ができる人気店なので、それならば老舗で頂く事に。

 ソーダ水はメロンソーダ風の色合いで、人工甘味料っぽい味わいが逆にそれらしくて、甘ったるい、けれどもこの味わいを探してやってきたので、おいしいね、と溜息のように漏れてしまう、けれどもアイスクリームが徐々にソーダ水の中に沈んでゆく儚さもある。

 コントラストを愉しむのもクリームソーダの嗜みなのかな。考えればNHKで美味しそうな映像がでた、という様な何か理由が無ければ現代人は、というよりある一定の年齢を超えてしまうとクリームソーダを愉しめないような、そんな不条理があることにきづいた。

 京都の名店イノダコーヒ、堺町の本店に三条や四条と大丸京都に京都駅やポルタ地下、市内に支店は幾つかありますが、たまには子供の頃にみていたような視線でアイスクリームを掬ってソーダとともに一口二口とたのしむような時間帯は面白いのかもしれませんね。

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ウクライナとF-16戦闘機,アメリカとNATOの常識である”航空優勢の概念”と厳しいウクライナの制空戦闘

2023-06-03 07:00:07 | 防衛・安全保障
■臨時情報-ウクライナ情勢
 F-16ではなくF-2の写真で代用している故に恐縮ですが。

 ウクライナ空軍へF-16戦闘機が供与される意味について。日本を含めたアメリカの友好国と同盟国の多くは、基本的に有事の際には航空優勢が有る程度確保される、若しくは航空優勢をどのように確保するか等、戦域航空優勢は基本的な条件要素として認識することでしょう。しかしそれ以上に、平時の空気や電力と同じ様な理解がある可能性を指摘したい。

 義勇兵基地の航空攻撃による壊滅。アメリカの友好国について、航空優勢の認識で一つの象徴的な事件となったのは2022年、ロシアウクライナ戦争開戦間もない頃、ウクライナを支援するべく大挙して募った義勇兵、多くがアフガニスタンなどで実戦を経験した貴重な人材が、ロシア軍の航空攻撃を受け宿営地ごと甚大な損耗を被った一つの悲劇でした。

 バグラム空軍基地のような、こう表現されるのですが彼らは開けた地形にアフガニスタンやイラクで設営されたような整然とした基地を構築、一方、フィンランドからの義勇兵など一部だけが遮蔽された森林地帯に半地下の宿営地を造成され嘲笑されていたものの、一旦航空攻撃を受けた際に開けた地形にならぶ仮設施設は格好の標的となってしまいます。

 航空優勢が有る程度確保されている状況での戦闘、これが常識であり大規模な拠点が航空攻撃を受けるという認識が無かった為の悲劇といえます。さて。現在ウクライナを支援する諸国には、こうした、航空優勢在りきのドクトリン以外を持たない国はないでしょうか、まったく航空優勢を期待できない状況で積極攻勢に出る具体的な施策はあるのでしょうか。

 MiG-29戦闘機は一定数ある、けれどもウクライナ空軍はポーランドなどからのMiG-29増強を受けたものの、ほぼ無傷のロシア空軍を相手とするにはまったく楽観できる状況ではありません、そして一定数とはいえもともとMiG-29は最高稼働率が低く最低稼働率が高い、つまり一つの戦線に百機単位で準備して初めて能力を発揮できる設計思想の戦闘機です。

 F-16は、現用戦闘機としては確かに最高性能ではありません、第四世代戦闘機でもっとも抑えられた性能、F-15やラファールやF-35やF/A-18Eやタイフーンよりも格下とされています、が、冷戦時代の設計で量産された機体ですので配備数は多く、そして格下とされても大半の現用ミサイルの運用能力を持ちます、これが有って初めて成り立つ作戦が、あるのです。

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