日本語教育史(20) 魯西亞番外編
露西亜の日本語教育の歴史をたどり、番外編として、現在のロシアでの日本語教育をを見る。
ロシアの日本語教育が盛んに行われているのは、19世紀半ばまでの、日本からの漂流民によってもたらされた情報があるという、歴史の蓄積があることによる。
ロシアの日本語教育の報告があるので、それに従って10の地域にわけるところを見てみる。
ロシアは旧ソヴィエト社会主義共和国連邦から15年を経て日本語教育は変革のときを迎えていると言われる。旧ソ連時代は極めて高い水準にあった。社会主義社会で交渉がすくない中で高度な日本語を身につけて日本研究を行ってきた経緯がある。
ロシアにおける日本語教育機関調査、2003年現在で、機関数は高等教育機関72、学習者数5000名以上に上り、旧ソ連時代から大幅な伸びを示している。
日本語教育の沿革
帝政ロシアは、その東進政策の一環として日本語を含む日本関係の情報の入手に積極的であったが、19 世紀半ばまで唯一の日本語に関する情報は、難破してロシア領内に漂着した日本人船乗り・漁師・商人などからもたらされるものであった。1702 年にロシア皇帝ピョートル 1 世は、日本からの漂着民、大阪商人デンベエと接見したが、皇帝は彼にロシア語を覚えさせ、その後ロシア人の若者に日本語を教えさせてから帰国させよとシベリア政庁に指示した。これが、ロシアにおける日本語教育の始まりである。次いで、漂着民のソーザとゴンザが 1734 年にサンクトぺテルブルグに連れて来られた。このうちゴンザは、高い言語的才能のゆえに、露和辞典や日本語会話書を作成するようになり、1736 年に科学アカデミー内部に設立された日本語学校の最初の教師となった。その後、この日本語学校はイルクーツクに移され、さらにもう 1 つの学校がヤクーツクに設立されるなど、日本語教育の中心がシベリアに移された。そこでも、漂着民の教師や、彼らが教えたロシア人学生が日本語教育や辞書編纂などを行っていたが、漂着民たちの中には日本語の知識に乏しく、仮名も書けない者がいたため教育効果が上がらず、1816 年に学校は閉鎖された。
この後しばらく日本語教育は中断するが、1870 年サンクトぺテルブルグ大学に講座が開設され、初代在日ロシア領事のИ.A.ゴシュケヴィッチに協力して和露辞典を作成した日本人、橘耕斎が教師として赴任してくる。この講座は、何回かの中断を経て 1888年以降定着した。1898 年には同大学で日本語・日本文学講座が開設され、1899 年には東洋学院、続いて東洋実用アカデミーの東洋学講座でも日本語が教えられ始めた。サンクトぺテルブルグ大学では、橘に続く母語話者教授の黒野義文が、1910 年代まで 1 人で日本語講師を務め、理論を担当する学部卒業生のロシア人講師とは別に、実用的なコースを担当した。一方、東洋学院では、ラトビア出身の日本学者、E.Г.スパリヴィンが、革命後も中心となって実用的な日本語教育を展開し、多くの日本語要員の育成と日ソ文化交流に寄与した。
東シベリア地方
この地域では、中心都市イルクーツク、クラスノヤルスク、ブリヤート共和国(ウラン・ウデ)で活発な日本語教育が行われ、特にイルクーツクでは、年に 2 回の弁論大会が継続して実施されている。日本とは歴史的な交流もある地域である。
<調査実施高等教育機関>
①イルクーツク国立言語大学
②イルクーツク国立経済アカデミー
③イルクーツク工科大学
④イルクーツク国立大学
⑤私立シベリア法律・経済・経営大学
⑥クラスノヤルスク国立総合大学
⑦ブリヤート国立大学
①は、東シベリア地方の中心的存在で、高等・初中等両レベルの教育機関に教師を送り出している。他の機関も、おおむね高い口頭発表と読解・翻訳のレベルを目指しており、西シベリア地方とともにウラル以東では、有能な日本語技能者を多く輩出する地域である。
初・中等教育機関では、イルクーツクの第 25 番学校のみ調査を行った。同校は、日本に対する文化理解教育が中心である。
サンクトぺテルブルグ市
1 世紀を超える日本語教育の伝統をもつ古都であるが、アカデミズムの伝統から、どちらかというと、古典読解のような教養的な内容の授業が中心である。
<調査実施高等教育機関>
①サンクトぺテルブルグ国立総合大学
②サンクトぺテルブルグ国立文化芸術大学
③ゲルツェン名称ロシア国立教育大学
④東洋大学
すでに 100 年を超える伝統をもつ①は、東洋学部日本文学科と同学部極東諸国歴史学科に日本語講座があり、②は、図書館学部の学生が翻訳を中心に学び、③は、初・中等教育教師養成機関、④は、私立の夜間大学で、日本語講座は最も登録学生が多い。
初・中等教育機関(4 機関実施)の第 83 番学校では、200 名を超える学習者がいるなど、活発な日本語教育が行われている。
ロシア主要部
この地域は、日本語教育実施機関数も多く、内容も多様な講座が運営されている。ロシア連邦全体における日本語教育の中心地である。モスクワ大学をはじめとする高等教育機関で本格的な講座が運営され、優秀な人材を輩出している。
<調査実施高等教育機関>
①モスクワ大学
②モスクワ国立言語大学
③モスクワ国立国際関係大学
④ロシア科学アカデミー東洋研究所付属東洋大学
⑤ロシア国立人文大学
⑥モスクワ(ガウデアムス)外国語大学
⑦モスクワビジネス大学
⑧国際スラブ大学(私立)
⑨実用東洋学大学(私立)
⑩リャザン国立教育大学
①は、「イサ(ИСАА)」の略称で知られる「アジア・アフリカ諸国大学」の高度な日本語教育の伝統と実績があり、連邦最高の日本語教育機関であるが、最近は実用日本語力の養成を目指し新しい教授法も取り入れている。②の「翻訳・通訳学部」や⑥は、コミュニケーション能力重視の高い教育を行っている。
初・中等教育機関(9 機関実施)も多く、選択科目や選択必修科目で日本語を教えているところが大半である。①の設立による高校(第 1535 番リセ)や、②への入学希望者の進学校(第 1555 番学校)など、大学レベルの教材を使用し教える機関もあるというのは、特徴的である。
ヴォルガ中下流域
ウラル山脈以西のヨーロッパ・ロシアでは、日本語教育がモスクワとサンクトぺテルブルグに集中し、各地に点在するシベリア・極東とは対照的である。その意味で、ニジニノブゴロドとカザンという地方都市に起きた日本語教育は、貴重な存在である。
<調査実施高等教育機関>
①ニジニノブゴロド言語学大学
②カザン国立教育大学
初・中等教育機関としては 2 機関がある。
コーカサス地方
日本本土からの物理的距離もさることながら、日本国大使館・総領事館もなく、教育環境としては、日本からは最も「遠い」地域といえる。
<調査実施高等教育機関>
①経済法律実科大学(クラスノダール)
②ピャチゴルスク国立言語大学
③エセントゥキ経営ビジネス法律大学
①、③は、私立大学である。
初・中等教育機関としては、私立学校IBCリセ(ピャチゴルスク)がある。
ウラル地方
日本語教育が、ウラル国立大学という高等教育機関と、「日露協会」という民間文化交流団体での日本文化紹介活動につながって行われているという珍しい特徴がある。
<調査実施高等教育機関>
①ウラル国立大学(エカテリンブルグ)
②チェリャビンスク国立大学
①の歴史学部の講座は、1994 年からの開始となり、毎年 10 名ほどの日本語専門の学生がいる。同哲学部の教師には、「日露協会」の会長がおり、そのため学生は日本文化活動の運営にも参加し、また、地域の初・中等教育機関へも教師として派遣されている。
初・中等教育機関(5 機関実施)では、第 211 ギムナジア(エカテリンブルグ)が、特に活発な日本語教育、日本文化理解のための活動を行っている。
学外機関「日露協会」は、日本語講座と「生け花」「折り紙」「アニメ」などの日本文化クラブを展開し、民間団体ながら、この地域の日本語教育に重要な役割を果たしている。
西シベリア地方
この地域の中心ノボシビルスクは、ロシア第 3 の都市であり、その郊外に科学技術学園都市「アカデムゴロドク」を擁し、同地域の日本語教育の中心となっている。
日本と接することの少ない地域ながら、日本への関心が高く、日本語教育のレベルは決して低くはない。
<調査実施高等教育機関>
①ノボシビルスク国立総合大学
②ノボシビルスク国立教育大学
③シベリア国際関係大学
④シベリア独立大学
⑤シベリア国立測地学アカデミー
⑥トムスク工科大学
⑦トムスク国立大学
①~⑤は、ノボシビルスクにある。特に、①は、1970 年からの日本語教育の伝統があり、卒業生は、シベリアばかりでなくモスクワ、海外でも活躍している。②は、初・中等教育教員養成機関、③は、日露交流要員養成機関、⑤は、測地用の日本語マニュアルの翻訳と、実務志向の日本語教育が目立つ。
初・中等教育機関(4 機関実施)では、総じて日本語教育については、多文化理解教育の色彩が濃い。
東シベリア地方
この地域では、中心都市イルクーツク、クラスノヤルスク、ブリヤート共和国(ウラン・ウデ)で活発な日本語教育が行われ、特にイルクーツクでは、年に 2 回の弁論大会が継続して実施されている。日本とは歴史的な交流もある地域である。
<調査実施高等教育機関>
①イルクーツク国立言語大学
②イルクーツク国立経済アカデミー
③イルクーツク工科大学
④イルクーツク国立大学
⑤私立シベリア法律・経済・経営大学
⑥クラスノヤルスク国立総合大学
⑦ブリヤート国立大学
①は、東シベリア地方の中心的存在で、高等・初中等両レベルの教育機関に教師を送り出している。他の機関も、おおむね高い口頭発表と読解・翻訳のレベルを目指しており、西シベリア地方とともにウラル以東では、有能な日本語技能者を多く輩出する地域である。
初・中等教育機関では、イルクーツクの第 25 番学校のみ調査を行った。同校は、日本に対する文化理解教育が中心である。
ハバロフスク地方
<調査実施高等教育機関>
①ハバロフスク国立教育大学
②極東外国語大学
③モスクワ消費者協同組合大学極東分校
①は、日本語が専攻できる専門的な教育を行う。教員養成大学だが、教員になる卒業生が少なく、将来は、通訳養成・多文化間交流要員養成を含む 6 年制総合大学にする予定である。②は、新しい大学で、地域研究者や観光ガイド養成を目指している。
初・中等教育機関として、第 3 ギムナジア(ハバロフスク)のみ調査を行ったが、第 2 外国語として約 300 名の生徒が日本語を必修として学び、州教育委員会のカリキュラムで日本事情教育も行われるという、興味深い学校である。
カムチャツカ州
軍事的理由から閉鎖されていたペトロパブロフスク・カムチャツキーが開放されたのは、1992 年。水産業・観光業などの産業的な要因から、日本語教育が起こってきた。町の規模からすると、日本語学習者の数が非常に多いのが、この地域の特徴である。
<調査実施高等教育機関>
①カムチャツカ国立教育大学
②カムチャツカ技術大学
③カムチャツカ人文カレッジ
日本語を第 1 外国語として学べるのは①だけである。②は、現地産業に合わせた通訳・翻訳家を養成する。
初・中等教育では、上記③付属リツェーにて日本語教育が行われている。
サハリン州
地理的・歴史的な理由で、学習者のほとんどが日本関連のビジネス志向のこの地域は、社会人学習者も多く、北海道庁の支援で弁論大会が開催されたり、地元の日本語教師と日本人会が協力して「日本語会話クラブ」を運営するなど、日本語学習
ブームが続いている。
<調査実施高等教育機関>
①サハリン国立総合大学
②三育大学
③ユジノサハリンスク経済法律情報大学
日本語教育の中心は、①である。同学は、言語学科・東洋学科・経済学科で日本語が教えられ、前 2 学科は日本語が必修である。②は、韓国系ロシア人の韓国語教育のために作られた大学で、英語学科・日本語学科も設置している。③は、教材不足が深刻で、中級以上は教師が新聞などから自主教材を作成している。
初・中等教育機関(3 機関実施)では、教材として北海道・北見市などの寄贈教
材(小学校の国語教科書)を使っている。
ロシア沿海地方
ウラジオストク市が 1992 年に対外開放されて以来、さまざまな機関で日本語教育が行われるようになり、学習者は社会人から児童にまで拡張しつつある。地理的に日本に近く、日本語に直接触れる機会の多さという意味での学習環境は、連邦内でも良好な方である。
<調査実施高等教育機関>
①極東国立総合大学
②極東国立工科大学
③ウラジオストク国立経済サービス大学
④海洋国立大学
①は、1962 年に日本語教育が開始され、「東洋学大学日本学部」がその中心であるが、ここは修了時に「日本語能力 1 級」合格を目指し、総授業時間 2000 時間に及ぶ日本語の精鋭学部で、各分野に優秀な人材を送り出している。②、③は、ナホトカに分校をもっている。
初・中等教育機関(7 機関実施)にはカレッジも含まれるが、週 2~3 コマの選択科目として学習する機関が多く、学習者は増えている。
サハ共和国・マガダン州等
<調査実施高等教育機関>
①ヤクート国立大学(サハ共和国)
②北方国際大学(マガダン州/旧マガダン大学)
①、②ともに、それぞれの地域で唯一の日本語講座をもつ大学で、日本語専科は①の「東洋言語学科」と、②の「言語学部日本語科」である。
出典
第 3 章 ロシア・NIS諸国における日本語教育事情概観 - 国際交流基金
www.jpf.go.jp/j/publish/japanese/russia_nis/pdf/03.pdf
が教えたロシア人学生が日本語教育や辞書編纂などを行っていたが、漂着民たちの中に. は日本語の知識に乏しく、仮名も書けない者 ... 日本の文部科学省に相当するロシア連邦教育部によると、連邦内における外国語教育. は、連邦レベルのスタンダード(教育 ...
露西亜の日本語教育の歴史をたどり、番外編として、現在のロシアでの日本語教育をを見る。
ロシアの日本語教育が盛んに行われているのは、19世紀半ばまでの、日本からの漂流民によってもたらされた情報があるという、歴史の蓄積があることによる。
ロシアの日本語教育の報告があるので、それに従って10の地域にわけるところを見てみる。
ロシアは旧ソヴィエト社会主義共和国連邦から15年を経て日本語教育は変革のときを迎えていると言われる。旧ソ連時代は極めて高い水準にあった。社会主義社会で交渉がすくない中で高度な日本語を身につけて日本研究を行ってきた経緯がある。
ロシアにおける日本語教育機関調査、2003年現在で、機関数は高等教育機関72、学習者数5000名以上に上り、旧ソ連時代から大幅な伸びを示している。
日本語教育の沿革
帝政ロシアは、その東進政策の一環として日本語を含む日本関係の情報の入手に積極的であったが、19 世紀半ばまで唯一の日本語に関する情報は、難破してロシア領内に漂着した日本人船乗り・漁師・商人などからもたらされるものであった。1702 年にロシア皇帝ピョートル 1 世は、日本からの漂着民、大阪商人デンベエと接見したが、皇帝は彼にロシア語を覚えさせ、その後ロシア人の若者に日本語を教えさせてから帰国させよとシベリア政庁に指示した。これが、ロシアにおける日本語教育の始まりである。次いで、漂着民のソーザとゴンザが 1734 年にサンクトぺテルブルグに連れて来られた。このうちゴンザは、高い言語的才能のゆえに、露和辞典や日本語会話書を作成するようになり、1736 年に科学アカデミー内部に設立された日本語学校の最初の教師となった。その後、この日本語学校はイルクーツクに移され、さらにもう 1 つの学校がヤクーツクに設立されるなど、日本語教育の中心がシベリアに移された。そこでも、漂着民の教師や、彼らが教えたロシア人学生が日本語教育や辞書編纂などを行っていたが、漂着民たちの中には日本語の知識に乏しく、仮名も書けない者がいたため教育効果が上がらず、1816 年に学校は閉鎖された。
この後しばらく日本語教育は中断するが、1870 年サンクトぺテルブルグ大学に講座が開設され、初代在日ロシア領事のИ.A.ゴシュケヴィッチに協力して和露辞典を作成した日本人、橘耕斎が教師として赴任してくる。この講座は、何回かの中断を経て 1888年以降定着した。1898 年には同大学で日本語・日本文学講座が開設され、1899 年には東洋学院、続いて東洋実用アカデミーの東洋学講座でも日本語が教えられ始めた。サンクトぺテルブルグ大学では、橘に続く母語話者教授の黒野義文が、1910 年代まで 1 人で日本語講師を務め、理論を担当する学部卒業生のロシア人講師とは別に、実用的なコースを担当した。一方、東洋学院では、ラトビア出身の日本学者、E.Г.スパリヴィンが、革命後も中心となって実用的な日本語教育を展開し、多くの日本語要員の育成と日ソ文化交流に寄与した。
東シベリア地方
この地域では、中心都市イルクーツク、クラスノヤルスク、ブリヤート共和国(ウラン・ウデ)で活発な日本語教育が行われ、特にイルクーツクでは、年に 2 回の弁論大会が継続して実施されている。日本とは歴史的な交流もある地域である。
<調査実施高等教育機関>
①イルクーツク国立言語大学
②イルクーツク国立経済アカデミー
③イルクーツク工科大学
④イルクーツク国立大学
⑤私立シベリア法律・経済・経営大学
⑥クラスノヤルスク国立総合大学
⑦ブリヤート国立大学
①は、東シベリア地方の中心的存在で、高等・初中等両レベルの教育機関に教師を送り出している。他の機関も、おおむね高い口頭発表と読解・翻訳のレベルを目指しており、西シベリア地方とともにウラル以東では、有能な日本語技能者を多く輩出する地域である。
初・中等教育機関では、イルクーツクの第 25 番学校のみ調査を行った。同校は、日本に対する文化理解教育が中心である。
サンクトぺテルブルグ市
1 世紀を超える日本語教育の伝統をもつ古都であるが、アカデミズムの伝統から、どちらかというと、古典読解のような教養的な内容の授業が中心である。
<調査実施高等教育機関>
①サンクトぺテルブルグ国立総合大学
②サンクトぺテルブルグ国立文化芸術大学
③ゲルツェン名称ロシア国立教育大学
④東洋大学
すでに 100 年を超える伝統をもつ①は、東洋学部日本文学科と同学部極東諸国歴史学科に日本語講座があり、②は、図書館学部の学生が翻訳を中心に学び、③は、初・中等教育教師養成機関、④は、私立の夜間大学で、日本語講座は最も登録学生が多い。
初・中等教育機関(4 機関実施)の第 83 番学校では、200 名を超える学習者がいるなど、活発な日本語教育が行われている。
ロシア主要部
この地域は、日本語教育実施機関数も多く、内容も多様な講座が運営されている。ロシア連邦全体における日本語教育の中心地である。モスクワ大学をはじめとする高等教育機関で本格的な講座が運営され、優秀な人材を輩出している。
<調査実施高等教育機関>
①モスクワ大学
②モスクワ国立言語大学
③モスクワ国立国際関係大学
④ロシア科学アカデミー東洋研究所付属東洋大学
⑤ロシア国立人文大学
⑥モスクワ(ガウデアムス)外国語大学
⑦モスクワビジネス大学
⑧国際スラブ大学(私立)
⑨実用東洋学大学(私立)
⑩リャザン国立教育大学
①は、「イサ(ИСАА)」の略称で知られる「アジア・アフリカ諸国大学」の高度な日本語教育の伝統と実績があり、連邦最高の日本語教育機関であるが、最近は実用日本語力の養成を目指し新しい教授法も取り入れている。②の「翻訳・通訳学部」や⑥は、コミュニケーション能力重視の高い教育を行っている。
初・中等教育機関(9 機関実施)も多く、選択科目や選択必修科目で日本語を教えているところが大半である。①の設立による高校(第 1535 番リセ)や、②への入学希望者の進学校(第 1555 番学校)など、大学レベルの教材を使用し教える機関もあるというのは、特徴的である。
ヴォルガ中下流域
ウラル山脈以西のヨーロッパ・ロシアでは、日本語教育がモスクワとサンクトぺテルブルグに集中し、各地に点在するシベリア・極東とは対照的である。その意味で、ニジニノブゴロドとカザンという地方都市に起きた日本語教育は、貴重な存在である。
<調査実施高等教育機関>
①ニジニノブゴロド言語学大学
②カザン国立教育大学
初・中等教育機関としては 2 機関がある。
コーカサス地方
日本本土からの物理的距離もさることながら、日本国大使館・総領事館もなく、教育環境としては、日本からは最も「遠い」地域といえる。
<調査実施高等教育機関>
①経済法律実科大学(クラスノダール)
②ピャチゴルスク国立言語大学
③エセントゥキ経営ビジネス法律大学
①、③は、私立大学である。
初・中等教育機関としては、私立学校IBCリセ(ピャチゴルスク)がある。
ウラル地方
日本語教育が、ウラル国立大学という高等教育機関と、「日露協会」という民間文化交流団体での日本文化紹介活動につながって行われているという珍しい特徴がある。
<調査実施高等教育機関>
①ウラル国立大学(エカテリンブルグ)
②チェリャビンスク国立大学
①の歴史学部の講座は、1994 年からの開始となり、毎年 10 名ほどの日本語専門の学生がいる。同哲学部の教師には、「日露協会」の会長がおり、そのため学生は日本文化活動の運営にも参加し、また、地域の初・中等教育機関へも教師として派遣されている。
初・中等教育機関(5 機関実施)では、第 211 ギムナジア(エカテリンブルグ)が、特に活発な日本語教育、日本文化理解のための活動を行っている。
学外機関「日露協会」は、日本語講座と「生け花」「折り紙」「アニメ」などの日本文化クラブを展開し、民間団体ながら、この地域の日本語教育に重要な役割を果たしている。
西シベリア地方
この地域の中心ノボシビルスクは、ロシア第 3 の都市であり、その郊外に科学技術学園都市「アカデムゴロドク」を擁し、同地域の日本語教育の中心となっている。
日本と接することの少ない地域ながら、日本への関心が高く、日本語教育のレベルは決して低くはない。
<調査実施高等教育機関>
①ノボシビルスク国立総合大学
②ノボシビルスク国立教育大学
③シベリア国際関係大学
④シベリア独立大学
⑤シベリア国立測地学アカデミー
⑥トムスク工科大学
⑦トムスク国立大学
①~⑤は、ノボシビルスクにある。特に、①は、1970 年からの日本語教育の伝統があり、卒業生は、シベリアばかりでなくモスクワ、海外でも活躍している。②は、初・中等教育教員養成機関、③は、日露交流要員養成機関、⑤は、測地用の日本語マニュアルの翻訳と、実務志向の日本語教育が目立つ。
初・中等教育機関(4 機関実施)では、総じて日本語教育については、多文化理解教育の色彩が濃い。
東シベリア地方
この地域では、中心都市イルクーツク、クラスノヤルスク、ブリヤート共和国(ウラン・ウデ)で活発な日本語教育が行われ、特にイルクーツクでは、年に 2 回の弁論大会が継続して実施されている。日本とは歴史的な交流もある地域である。
<調査実施高等教育機関>
①イルクーツク国立言語大学
②イルクーツク国立経済アカデミー
③イルクーツク工科大学
④イルクーツク国立大学
⑤私立シベリア法律・経済・経営大学
⑥クラスノヤルスク国立総合大学
⑦ブリヤート国立大学
①は、東シベリア地方の中心的存在で、高等・初中等両レベルの教育機関に教師を送り出している。他の機関も、おおむね高い口頭発表と読解・翻訳のレベルを目指しており、西シベリア地方とともにウラル以東では、有能な日本語技能者を多く輩出する地域である。
初・中等教育機関では、イルクーツクの第 25 番学校のみ調査を行った。同校は、日本に対する文化理解教育が中心である。
ハバロフスク地方
<調査実施高等教育機関>
①ハバロフスク国立教育大学
②極東外国語大学
③モスクワ消費者協同組合大学極東分校
①は、日本語が専攻できる専門的な教育を行う。教員養成大学だが、教員になる卒業生が少なく、将来は、通訳養成・多文化間交流要員養成を含む 6 年制総合大学にする予定である。②は、新しい大学で、地域研究者や観光ガイド養成を目指している。
初・中等教育機関として、第 3 ギムナジア(ハバロフスク)のみ調査を行ったが、第 2 外国語として約 300 名の生徒が日本語を必修として学び、州教育委員会のカリキュラムで日本事情教育も行われるという、興味深い学校である。
カムチャツカ州
軍事的理由から閉鎖されていたペトロパブロフスク・カムチャツキーが開放されたのは、1992 年。水産業・観光業などの産業的な要因から、日本語教育が起こってきた。町の規模からすると、日本語学習者の数が非常に多いのが、この地域の特徴である。
<調査実施高等教育機関>
①カムチャツカ国立教育大学
②カムチャツカ技術大学
③カムチャツカ人文カレッジ
日本語を第 1 外国語として学べるのは①だけである。②は、現地産業に合わせた通訳・翻訳家を養成する。
初・中等教育では、上記③付属リツェーにて日本語教育が行われている。
サハリン州
地理的・歴史的な理由で、学習者のほとんどが日本関連のビジネス志向のこの地域は、社会人学習者も多く、北海道庁の支援で弁論大会が開催されたり、地元の日本語教師と日本人会が協力して「日本語会話クラブ」を運営するなど、日本語学習
ブームが続いている。
<調査実施高等教育機関>
①サハリン国立総合大学
②三育大学
③ユジノサハリンスク経済法律情報大学
日本語教育の中心は、①である。同学は、言語学科・東洋学科・経済学科で日本語が教えられ、前 2 学科は日本語が必修である。②は、韓国系ロシア人の韓国語教育のために作られた大学で、英語学科・日本語学科も設置している。③は、教材不足が深刻で、中級以上は教師が新聞などから自主教材を作成している。
初・中等教育機関(3 機関実施)では、教材として北海道・北見市などの寄贈教
材(小学校の国語教科書)を使っている。
ロシア沿海地方
ウラジオストク市が 1992 年に対外開放されて以来、さまざまな機関で日本語教育が行われるようになり、学習者は社会人から児童にまで拡張しつつある。地理的に日本に近く、日本語に直接触れる機会の多さという意味での学習環境は、連邦内でも良好な方である。
<調査実施高等教育機関>
①極東国立総合大学
②極東国立工科大学
③ウラジオストク国立経済サービス大学
④海洋国立大学
①は、1962 年に日本語教育が開始され、「東洋学大学日本学部」がその中心であるが、ここは修了時に「日本語能力 1 級」合格を目指し、総授業時間 2000 時間に及ぶ日本語の精鋭学部で、各分野に優秀な人材を送り出している。②、③は、ナホトカに分校をもっている。
初・中等教育機関(7 機関実施)にはカレッジも含まれるが、週 2~3 コマの選択科目として学習する機関が多く、学習者は増えている。
サハ共和国・マガダン州等
<調査実施高等教育機関>
①ヤクート国立大学(サハ共和国)
②北方国際大学(マガダン州/旧マガダン大学)
①、②ともに、それぞれの地域で唯一の日本語講座をもつ大学で、日本語専科は①の「東洋言語学科」と、②の「言語学部日本語科」である。
出典
第 3 章 ロシア・NIS諸国における日本語教育事情概観 - 国際交流基金
www.jpf.go.jp/j/publish/japanese/russia_nis/pdf/03.pdf
が教えたロシア人学生が日本語教育や辞書編纂などを行っていたが、漂着民たちの中に. は日本語の知識に乏しく、仮名も書けない者 ... 日本の文部科学省に相当するロシア連邦教育部によると、連邦内における外国語教育. は、連邦レベルのスタンダード(教育 ...