https://style.nikkei.com/article/DGXMZO23308840Z01C17A1000000?channel=DF130120166011&n_cid=LMNST002
マネー研究所
もうかる家計のつくり方
老後資金3000万円でも70歳で破綻 50代夫婦の誤算
家計再生コンサルタント 横山光昭
2017/11/15
>
専業主婦のKさん(53)がショックを受けた様子で相談に来ました。老後も含めたライフプラン表を自分で作ってみたものの、大企業に勤める夫(54)が70歳になった時点で貯蓄が底をつくことが分かったそうです。これまで2人の子どもの教育費を払いながら約800万円を貯蓄しました。夫の退職金も約2200万円もらえる予定なので、老後資金は3000万円ほどが見込まれています。それなのになぜ老後破綻してしまうのでしょう?
Kさんは2人の子どもがすでに独立していることもあり「老後の生活は悠々自適だろう」と思っていました。夫の定年退職後、公的年金がもらえる65歳になるまでの5年間は蓄えで暮らすとしても、年金が受給できるようになれば、また安定した生活に戻れると考えていたのです。「夫と老後を楽しもう」との思いで作成したライフプラン表ですが、「計算の仕方が間違っているのか」とKさんは不安でなりません。
夫の収入増につられ、支出も増加
Kさんの夫の収入は手取りで月約46万円、夫婦の支出は月約43万円です。収支は赤字ではありません。ただ貯蓄が800万円あるとはいえ、収入の割には貯蓄できていません。夫のボーナスも夏冬それぞれ手取りで約90万円支給されるそうですが、気が付いたらほとんど残っていないそうです。子どもたちが学校に通っている間は「節約し、何とか貯蓄しなくては」と家計をやりくりしていましたが、子どもたちが働き始めて手がかからなくなったころ、夫の収入がぐんぐん上がり始め、それにつられるかのように支出も多くなっていきました。このため、ここ数年は貯蓄を増やせませんでした。
この膨らんでしまった支出を減らしていかないと、老後の生活は早々に破綻します。今の月43万円の支出だと、夫が無年金の60~65歳までの5年間は年間516万円の生活費が必要です。65歳以降は、夫の公的年金の受給額は概算で月額約22万円。妻の分の約6万円を加えても約28万円にしかなりません。月々約7万円の住宅ローンの返済は夫が65歳のときに終わるので、単純に考えると月の支出は43万円から7万円を差し引いた約36万円になりますが、公的年金は夫婦合わせて月約28万円なので、毎月約8万円を蓄えから補填することが必要です。1年間だと約96万円にもなります。そのほか、生活費以外でお金がかかることもあるでしょう。
夫が退職した時点では退職金も含めて貯蓄が3000万円に達するとしても、65歳の年金受給開始までの5年間に少なくとも516万円×5=2580万円を貯蓄から取り崩すことになるので、65歳時点の貯蓄額は多くても約420万円。65歳以降の貯蓄からの補填額は年約96万円ですので、この420万円は4年余りで底をつく計算です。夫が70歳になった時点で家計が破綻するというKさんの試算は間違っていなかったのです。
まず家計をダウンサイジング
老後の資金が不足している場合の対応は、家計の改善と同様に収入を増やすか支出を減らすかの2つしかありません。夫が定年後も再雇用などで仕事を続けたり、妻が働きに出たりして収入を増やす一方、生活費を減らして余剰金を捻出し、貯蓄を増やすことが今、Kさん夫婦にできることなのです。家計をダウンサイジングできれば、老後資金から支出する生活費を少なくすることができ、蓄えが長持ちします。
Kさん夫婦の家計は夫の収入増に伴って、外食中心となった食費のほか、Kさん自身の交際費が膨らんでいます。子どもが独立するまでは我慢していた洋服なども頻繁に買うようになりました。エアコンを24時間つけっ放しにすることも多く、水道光熱費も高くなっています。一度味わった楽、ぜいたくを手放したくない、つまり「支出を減らしたくない」とKさん夫婦は当初、家計改善に抵抗していましたが、それ以外に老後資金を増やす効果的な方法はありません。
一方、支出が増えたのは自由になるお金や時間が増えたことによる気のゆるみが原因でしたので、子育てをしていた時のように節約に神経質になる必要はないものの、当時のつつましい暮らしに近づけることを目標にしました。といっても、外食を減らして自炊を増やしたり、洋服を買う頻度を減らしたり、エアコンは必要な時だけつけたりといった基本的なことです。さらにスマートフォンを格安スマホに替え、しばらく見直していなかった生命保険も夫婦2人で暮らしていくのに最低限必要な保障内容の商品に入り直しました。
こうした取り組みで支出は月に8万8000円ほど減り、月に11万8000円を貯蓄することができるようになりました。今の生活を継続できると、ライフプラン表では夫が90歳になるまでは貯蓄を取り崩しても破綻しない見通しが立ちました。もし、夫が60歳以降も働くようになれば家計はさらに改善しますし、生活費をより圧縮できればKさんの不安も少なくなりそうです。
今できることにしっかり取り組む
収入が増えたとき、それに合わせて支出も増やしてしまうのは人間の心理として自然なことでしょう。しかし、生活のペースは崩さないよう気をつけなければなりません。公的年金は今後、減るかもしれませんし、日本人の平均寿命は延びています。今後、増税などで手取りの収入が減る可能性もあるなど、何が起きるか分からず、老後の暮らしは計画通りにいかないことも多いのです。だから可能な限り老後資金を蓄えておくことが必要です。今できることにしっかり取り組んで老後に備えていきたいものです。
横山光昭
マイエフピー代表取締役、家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。お金の使い方そのものを改善する独自のプログラムで、これまで1万人以上の赤字家計を再生。書籍・雑誌の執筆や講演も多く手掛け、「はじめての人のための3000円投資生活」(アスコム)は47万部を超え、著書累計は218万部。