遠慮を引いて、もとの用法とみるべく、出典を知り、その語の意味変化をたどる。
遠慮なければ近憂あり 論語、衛霊公からを説明とする故事成句である。
が、国語辞典には、その掲載をするものとして、
>えんりょ‐ぶか・い〔ヱンリヨ‐〕【遠慮深い】 [形]他人に対する態度や言動が非常に控えめである。たいへんつつましい。「―・い物言い」 デジタル大辞泉
という意味内容になる。
また、日本国語大辞典では、論語を引用しない。
>
*天草本伊曾保物語〔1593〕狐と野牛の事「アタマニ チエガ アル ナラバ、yenriomo (エンリョモ) ナウ イガワノ ナカエワ ハイルマイゾ」
*日葡辞書〔1603〜04〕「Yenrio (エンリョ)。 トヲキ ヲモンバカリ〈略〉Yenriouo (エンリョヲ) メグラス」
として、伝わる。その用法は、
>遠い将来まで見通して、深く考えること。→深謀遠慮。
*江吏部集〔1010〜11頃〕下・暮秋陪左相府書閣「応似謙光君子徳、延齢遠慮是為媒」
*吾妻鏡‐元暦二年〔1185〕三月一四日「是追討可廻遠慮事」
*保元物語〔1220頃か〕中・白河殿攻め落す事「はげたる矢をさしはづす、遠慮の程こそ神妙なれ」
*源平盛衰記〔14C前〕二六・行尊琴絃「誠に優なる用意にはあらねども、遠慮(エンリョ)賢くして、角(かく)用意有けるか」
と見える。
やはり、江戸時代の謹慎刑に見える用法から、その意味を用いることになったようである。
御目見遠慮 御番遠慮
その用法に、えんりょ会釈もない、遠慮会釈、という語がある。
>
えんりょえしゃく も 無(な)い
他に対して、控え目にすることも、手加減することもない。
*浄瑠璃・大経師昔暦〔1715〕上「向かいのねり物屋の灰毛猫は、にくらしいぶとうな顔で遠慮ゑしゃくもなふ〈略〉こはい声して此三毛をよび出す」
*浮世草子・国姓爺明朝太平記〔1717〕五・二「えんりょもゑしゃくもない場なれば少しもにべをあらせず」
*浮雲〔1887〜89〕〈二葉亭四迷〉二・一〇「遠慮会釈も無く文三の傍(そば)にべったり坐って、常よりは馴々敷(なれなれしく)」
>
えんりょ‐えしゃく[ヱンリョヱシャク] 【遠慮会釈】
解説・用例
〔名〕
慎みや礼儀。
*談義本・当風辻談義〔1753〕五・開帳の本尊住寺の言訳し給ふ事「邪見放逸の提婆じゃもの、遠慮会釈(ヱンリョヱシャク)もあらばこそ、只今の胴欲金よりいらひどければ」
*人情本・春色恵の花〔1836〕初・六回「『うしゃアがれ』と遠慮会釈もあらくれ男」
*慶応再版英和対訳辞書〔1867〕「Brazen 遠慮会釈ナキ」
*福翁自伝〔1899〕〈福沢諭吉〉再度米国行「それに遠慮会釈(ヱンリョヱシャク)も糸瓜(へちま)も要るものか」
世界大百科事典
遠慮
えんりょ
>
江戸幕府の下における刑罰ないし自発的謹慎。刑罰としては,武士,僧侶に科され,受刑者は屋敷に籠居して門を閉じるが,潜門(くぐりもん)は引き寄せておくだけでよく,夜間他の者が目だたぬように出入りしてもよかった。また武士は一定範囲の近親,もしくは家来が処罰されたときには,自発的に謹慎すべきであった。通常上司に差控伺(さしひかえうかがい)といういわば進退伺を出し,その指揮によって御番遠慮,御目見(おめみえ)遠慮などが命ぜられた。御番遠慮は勤務の禁止で,他行せず,月代(さかやき)もそらず籠居するもの,御目見遠慮は将軍の拝顔を遠慮するもので,御目見の儀式,および御成(おなり)の場合,勤仕から除かれるが,その他の出勤は許された。
[平松 義郎]
[索引語]
謹慎 潜門 差控伺 御番遠慮 御目見(おめみえ)遠慮
日本国語大辞典より
遠慮
>
(4)弔意を表わし、悲しみをともにするなどの理由で、祝いごとをさし控えること。
(5)江戸時代、武士や僧侶に科した軽い謹慎刑。居宅での蟄居(ちっきょ)を命ぜられるもので、門は閉じなければならないが、くぐり戸は引き寄せておけばよく、夜中の目立たない時の出入は許された。
*徳川禁令考‐別巻・棠蔭秘鑑・亨・一〇三〔1704〕「遠慮 門を立、くぐりは引寄置、夜中不目立様に 通路は不苦」
*歌舞伎・早苗鳥伊達聞書(実録先代萩)〔1876〕序幕「不義の汚名で松前めを遠慮さすれば今宵から、女中ばかりの奥御殿、先づは安堵と申すもの」
(6)江戸時代、武士で、親族に不幸があったり、伝染性の病人や罪人が出たりした場合、その出勤、または、謁見をさし控えること。
*徳川禁令考‐前集・第三・巻二一・延宝八年〔1680〕一一月二八日「疱瘡痳疹水痘遠慮之事」
*徳川禁令考‐別巻・棠蔭秘鑑・亨・七四〔1741〜45〕「一、定りたる矢場鉄炮場にて外より不慮に人参懸り、若矢玉に当り、縦令其人死候共、不及咎、三十日遠慮可申付事」
遠慮(えんりょ)無ければ近憂(きんゆう)あり
《「論語」衛霊公から》遠い将来のことを考えずにいると、必ず目前に心配事が起こる。
出典:デジタル大辞泉
遠慮なければ近憂あり - 故事ことわざ辞典
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遠慮なければ近憂ありの意味・英語表現・由来・類義語・対義語・用例・出典を解説。
遠慮なければ近憂あり 論語、衛霊公からを説明とする故事成句である。
が、国語辞典には、その掲載をするものとして、
>えんりょ‐ぶか・い〔ヱンリヨ‐〕【遠慮深い】 [形]他人に対する態度や言動が非常に控えめである。たいへんつつましい。「―・い物言い」 デジタル大辞泉
という意味内容になる。
また、日本国語大辞典では、論語を引用しない。
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*天草本伊曾保物語〔1593〕狐と野牛の事「アタマニ チエガ アル ナラバ、yenriomo (エンリョモ) ナウ イガワノ ナカエワ ハイルマイゾ」
*日葡辞書〔1603〜04〕「Yenrio (エンリョ)。 トヲキ ヲモンバカリ〈略〉Yenriouo (エンリョヲ) メグラス」
として、伝わる。その用法は、
>遠い将来まで見通して、深く考えること。→深謀遠慮。
*江吏部集〔1010〜11頃〕下・暮秋陪左相府書閣「応似謙光君子徳、延齢遠慮是為媒」
*吾妻鏡‐元暦二年〔1185〕三月一四日「是追討可廻遠慮事」
*保元物語〔1220頃か〕中・白河殿攻め落す事「はげたる矢をさしはづす、遠慮の程こそ神妙なれ」
*源平盛衰記〔14C前〕二六・行尊琴絃「誠に優なる用意にはあらねども、遠慮(エンリョ)賢くして、角(かく)用意有けるか」
と見える。
やはり、江戸時代の謹慎刑に見える用法から、その意味を用いることになったようである。
御目見遠慮 御番遠慮
その用法に、えんりょ会釈もない、遠慮会釈、という語がある。
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えんりょえしゃく も 無(な)い
他に対して、控え目にすることも、手加減することもない。
*浄瑠璃・大経師昔暦〔1715〕上「向かいのねり物屋の灰毛猫は、にくらしいぶとうな顔で遠慮ゑしゃくもなふ〈略〉こはい声して此三毛をよび出す」
*浮世草子・国姓爺明朝太平記〔1717〕五・二「えんりょもゑしゃくもない場なれば少しもにべをあらせず」
*浮雲〔1887〜89〕〈二葉亭四迷〉二・一〇「遠慮会釈も無く文三の傍(そば)にべったり坐って、常よりは馴々敷(なれなれしく)」
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えんりょ‐えしゃく[ヱンリョヱシャク] 【遠慮会釈】
解説・用例
〔名〕
慎みや礼儀。
*談義本・当風辻談義〔1753〕五・開帳の本尊住寺の言訳し給ふ事「邪見放逸の提婆じゃもの、遠慮会釈(ヱンリョヱシャク)もあらばこそ、只今の胴欲金よりいらひどければ」
*人情本・春色恵の花〔1836〕初・六回「『うしゃアがれ』と遠慮会釈もあらくれ男」
*慶応再版英和対訳辞書〔1867〕「Brazen 遠慮会釈ナキ」
*福翁自伝〔1899〕〈福沢諭吉〉再度米国行「それに遠慮会釈(ヱンリョヱシャク)も糸瓜(へちま)も要るものか」
世界大百科事典
遠慮
えんりょ
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江戸幕府の下における刑罰ないし自発的謹慎。刑罰としては,武士,僧侶に科され,受刑者は屋敷に籠居して門を閉じるが,潜門(くぐりもん)は引き寄せておくだけでよく,夜間他の者が目だたぬように出入りしてもよかった。また武士は一定範囲の近親,もしくは家来が処罰されたときには,自発的に謹慎すべきであった。通常上司に差控伺(さしひかえうかがい)といういわば進退伺を出し,その指揮によって御番遠慮,御目見(おめみえ)遠慮などが命ぜられた。御番遠慮は勤務の禁止で,他行せず,月代(さかやき)もそらず籠居するもの,御目見遠慮は将軍の拝顔を遠慮するもので,御目見の儀式,および御成(おなり)の場合,勤仕から除かれるが,その他の出勤は許された。
[平松 義郎]
[索引語]
謹慎 潜門 差控伺 御番遠慮 御目見(おめみえ)遠慮
日本国語大辞典より
遠慮
>
(4)弔意を表わし、悲しみをともにするなどの理由で、祝いごとをさし控えること。
(5)江戸時代、武士や僧侶に科した軽い謹慎刑。居宅での蟄居(ちっきょ)を命ぜられるもので、門は閉じなければならないが、くぐり戸は引き寄せておけばよく、夜中の目立たない時の出入は許された。
*徳川禁令考‐別巻・棠蔭秘鑑・亨・一〇三〔1704〕「遠慮 門を立、くぐりは引寄置、夜中不目立様に 通路は不苦」
*歌舞伎・早苗鳥伊達聞書(実録先代萩)〔1876〕序幕「不義の汚名で松前めを遠慮さすれば今宵から、女中ばかりの奥御殿、先づは安堵と申すもの」
(6)江戸時代、武士で、親族に不幸があったり、伝染性の病人や罪人が出たりした場合、その出勤、または、謁見をさし控えること。
*徳川禁令考‐前集・第三・巻二一・延宝八年〔1680〕一一月二八日「疱瘡痳疹水痘遠慮之事」
*徳川禁令考‐別巻・棠蔭秘鑑・亨・七四〔1741〜45〕「一、定りたる矢場鉄炮場にて外より不慮に人参懸り、若矢玉に当り、縦令其人死候共、不及咎、三十日遠慮可申付事」
遠慮(えんりょ)無ければ近憂(きんゆう)あり
《「論語」衛霊公から》遠い将来のことを考えずにいると、必ず目前に心配事が起こる。
出典:デジタル大辞泉
遠慮なければ近憂あり - 故事ことわざ辞典
kotowaza-allguide.com › 「え」から始まる句
遠慮なければ近憂ありの意味・英語表現・由来・類義語・対義語・用例・出典を解説。