読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

宮城県南三陸町から、wsj日本版

2011-03-26 20:36:17 | 新聞
【宮城県南三陸町】津波で壊滅的被害を受けたこの漁業中心の町にある志津川小学校避難所の「本部」は、体育館ステージ脇に置かれたテーブルだ。太い赤のマジックで書かれたボール紙製の看板で、そこが本部だと分かる。


宮城県南三陸町の志津川小学校避難所
 町民500人の消息を詳述したリストの脇には貸出用の老眼鏡(「使用後はご返却ください」)と、共用のつめ切り(「使い終わったらアルコールで拭いてください」)の入った箱がある。テーブルの縁には、自治会長と3名の副会長の氏名を記した手書きの看板がテープで留められている。

 日本は、常日ごろから、どんなに日常的な仕事をやるにも、細かな手続を設け、肩書や委員会をつくりたがる、ルールずくめの国だ。

 現在、数十万人の国民が避難所生活を送るなか、日本人は、3月11日の地震と津波によってずたずたにされた平常心を取り戻すべく、こうした細部へのこだわりに頼っている。

 避難者を仮設住宅に移すのは数カ月先になりそうだと当局者が見込むなか、専門家によると、避難所の秩序正しい運営は、被災者にかかる長期的な精神的・肉体的負担を軽減する上で大きな役割を果たし得るという。

 避難者が体育館と教室で暮らしている志津川小学校では、秩序が行き渡っている。約500人の避難住民は、それぞれ15名ほどの班に分けられている。

 各班は、班を代表して毎日のミーティングに出席する班長を選んでいる。ミーティングでの議題は、断水中におけるトイレの最良の流し方から、コモンスペースへのペットの持ち込みを許可するかどうか(不可と決定)にまでわたる。

 このやり方は、津波後2日目のおにぎり配給の際に、腹をすかし、いら立った避難者たちがステージに殺到して大騒動になった折りに設けられた。ほどなく、避難者一同は、避難所運営のさまざまの側面を監督する自治会長と3名の副会長を選出した。

 班長たちが5人一列で12列をなして板張りのステージに整列して座り込むなか、自治会指導陣がその日の要点を説明する。ステージ右手には壊れた時計がある。その針は、南三陸町の大部分を流し去った高さ15メートルの津波の原因になったマグニチュード9の地震が襲ってから1分後の2時47分を指したままだ。

 こうした自治会は、多数の避難所でますます大きな役割と自治を引き受けつつある。地方自治体は甚大な被害で身動きがとれず、各避難所をつぶさに管理できないためだ。

 例えば南三陸町は、依然電気がなく、水道は一から再建する必要がある。43個所の避難所には、まだ9000人以上の避難者が寝泊まりしている。南三陸町の佐藤仁町長によると、より恒久的な住宅に住民の大部分を移せるまでには数カ月かかる見込みだという。

 志津川小学校の自治会は、日常生活のさまざまの側面を監督するため、炊き出し、管理、施設・環境、配給、在庫管理、医療という6つの部門を設けている。

 俳優になる夢を断念して東京をあとにし、電気工になるため3カ月前に里帰りした後藤伸太郎さん(32)によると、日本人はルールがたくさんあったほうが安心するタイプ、という。

 後藤さんは、自宅も流されず、家族も無事だが、避難所の衛生・環境問題担当の自治会副会長として近隣の人たちの助けになれると感じる限り、避難所を出ないことにした。

 後藤さんは、毎日午前8時半と午後3時に体育館のロビーに清掃係を集める。清掃係は、各班をA、B、Cのグループに小分けする込み入った輪番制で組織される。

 後藤さんは、ゴミの分別、トイレの掃除、周辺地域の清掃、非飲料用水タンクの清掃といった作業を割り振る。

 混乱を避けるため、自治会は、清掃方法と清掃対象に関する指示書を設けた。これは、ゴミ袋の取り換え方や、リサイクル向けに紙、ペットボトル、ガラス瓶、缶を分別する際の、ペットボトルのつぶし方や、燃えるゴミ、燃えないゴミを分ける方法について事細かに詳述してある。破壊のつめあとが生々しく残るなか、果たしていつどうやってリサイクルできるかは、まだ分からない。

 班長の一人が「使用済みの電池は別にすべきではないか」と、区分の増加を求めた。自治会は電池処分用に別の容器を設けることで合意した。

 清掃とゴミ分別の監督を担当する後藤さんは、意見の相違について判断を下すよう、よく求められる。魚の骨は燃えるゴミとして捨てるべきか、燃えないゴミとして捨てるべきか。断水がまだ続くなか、トイレを流す水を入れておくのにバケツを使うべきか、ペットボトルを使うべきか。

 後者の問題についての後藤さん判断は、大でも小でもペットボトルで流すようにしよう、だった。

 オレンジ色のタオルを頭に巻いた後藤さんは、努めて辛抱強くいるようにしている。自分はかんしゃくを起こすたちだが、大変な目に遭った人たちなのだから冷静さを失わないよう自分に言い聞かせているという後藤さんを、一部の人は「環境大臣」あるいは単に「大臣」と呼ぶ。

 医師や支援関係者によると、災害後できるだけ早期に、たとえどんなに小さな仕事であれ、被災者が何らかの日常業務や責任を見つけることがきわめて大事だという。

 被災地に救援隊員を派遣した人道支援団体「ワールド・ビジョン」の広報担当者クリスティ・アレン=シャーリー氏によると、被災者に仕事を与えることは、「再建と復興のプロセスの一翼を担い、復旧の取り組みに参与しているという意識を被災者に抱かせる助けになる」という。


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