空気の中に、清々しい香りを嗅ぐ。この時期の最もたる匂いには、吸い蔓がある。野茨も少しはあるかもしれないが、通草は、薄紫の小さな花弁を畳むように咲いている。この花が、とても好い香りをさせていることに気づく者は少ない。
道端の脇に、川の前に、山の際に栴檀の樹が起つ。車を走らせると、至る所で咲いているのに眼が行く。山に天女の羽衣が掛かっているよう。太陽の光に煌めく様は、薄衣が風に揺れているようにも視える。能舞台を観ている錯覚だ。
栴檀の樹の下に佇む。清々しい香りにびっくり。檀というからには、香木類を指すのだろうが、何とも心地の佳い薫りであることよ。風は山河よりを書かれた宮城谷昌光氏も、この樹の傍に居たのか、と想いを馳せる。風景描写が際立。
行き交う車は、一台も停まることもない。観客は一人だが、自然が拵えた特設舞台に堪能する想いだ。物語は何時も、突然には始まらないが、偶然の邂逅から、ふたたび廻り始める。宮部みゆき氏の、過ぎ去りし王国の城を読み出す。
リンパ線の痛みは消えたものの、食欲が出ないので、気力が持たない。明日の勤務が気がかりだが、自分の体の方が大事だ。連絡を入れ、歯科をキャンセルして、日程を変えておく。勤務先は、体調不良の者が続出しているそうだが・・・
受診せよ!とのことに、掛かりつけの診療所に行くことになる。今晩は、枇杷葉温圧療法を施行して寝よう。この二日間は、何もする気力もなかった。歳を重ねると無理はできない。変調を感じたら、早目の休養も、勤務人数にも因るのだ。
自分の体も大事だが、庭の花木の水遣りも欠かせない。それだけはやっと終え、咽喉が異様に渇き、買い貯めのジュースを口にする。日中の気温の上昇は、30℃近い筈。体温は、35℃台にはなったが、だるさが引かない。夕方に検温。
初冬の日中の宇宙。澄んだ宇宙の色に、心はあてどなく彷徨う。空中遊泳しているようでいて、実体が伴わない。