極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

続・引き寄せられる混沌Ⅲ

2019年07月09日 | 省エネ実践記

  

                                                                                                                                                                                                                             
5.公冶長  こうやちょう
ことば
-------------------------------------------------------------------------------
全28章のほとんどすべてが人物批評である。  
人に禦る(あたる)に口給をもってすれば、しばしば人に憎まる」(5)
「道行なわれず、俘 (いかだ)に乗りて海に浮かばん」(7)
「回や一を聞きてもって十を知る。賜や一を聞きてもって二を知る」(9)
「われいまだその過ちを見て、内にみずから訟むる者を見ず」(27)
-----------------------------------------------------------------------------------  
25 そらぞらしいお世辞、顔だけの愛想よさ、バカ丁寧なもの腰、そういう卑屈さ
を左丘明は恥とした。わたしも同感である。また、腹の底では相手を軽蔑しながら、
うわべだけ友人としてつきあうことを、左丘明は恥とした。これにもわたしは同感で
ある。(孔子)     

〈左丘明〉『春秋左氏伝』の作者といわれるが、異論多く、伝も未詳。

子曰、巧言令色足恭、左丘明恥之、丘亦恥之、匿怨而友其人、左丘明恥之、丘亦恥之。

Confucius said,
"Zuo Qiu Ming regarded being a flatterer as disgrace.
I agree with him. And he regarded keeping surface relations with people whom
he hated as disgrace. I agree with him."

  July 7,  2019 


泳ぐ一細胞の代謝を経時測定


同一場所での細胞単離・培養・経時観察が可能に

7月9日、理化学研究所(理研)生命機能科学研究センタらの研究グループは、ガラ
ス製マイクロ流体チップ]に「ダム構造」を持たせることで、泳ぐ微生物の単離と培
養をマイクロ流路中で行い、複数の細胞の代謝物を一細胞ごとに経時測定することに
成功したことを公表。究成果は、動きが多く継続的な観察の難しい微生物の追跡を可
能とし、特定の代謝を行う微生物細胞の選別に応用できるため、バイオ燃料や栄養源
の高効率作製や医薬品などの有用物質を産生する微生物のスクリーニングに貢献でき
る。同種の細胞集団の中から、有用物質を多く産生する株を単離するためには、一つ
一つの細胞を捕捉し、生かしたままで、その代謝物を分析するが、特に動きの速い微
生物の場合は、測定中に細胞を見失わないようにする必要がある。同研究グループは、
厚さ0.9mmのガラス製マイクロ流体チップを作製し チップ中のマイクロ流路をダムの
ような構造によってせき止め、細胞培養液を常に流すことで、速く泳ぐ微生物である
ユーグレナを一つずつダムの縁に留めて培養することに成功。さらに、非侵襲的に代
謝物を計測できるラマン分光法]と組み合わせて、バイオ燃料成分の原料であるパラミ
ロン
がユーグレナ細胞内で産生される様子を経時測定できた。


MEMSですね。実用化/商用化できる時代に突入。抗ガン最終戦争/新弥生時代/ネオコ
ンバー^テック/エネルギー革命にそして再生医療革命のデジタル革命銀河系でしたか。い
ろいろあって、倫理課題が山積する面白い時代である。

 



【ポストエネルギー革命序論15】  

 
 Oct. 5, 2018

「ターボチャージ」シリコン太陽電池篇:

一重項励起子核分裂シリコンを微小表面加工し原理実証に成功

典型的な太陽電池では、吸収されるおのおのの光子に対して、多くても一対の電子–
正孔対(励起子)しか生成できない。高エネルギー光子によって生成された「一重項
」励起子を、2個の「三重項」励起子へと変換できる、一重項励起子分裂という分子過
程が存在する。この過程を太陽電池に利用できれば、太陽電池のエネルギー変換効率
を大幅に向上できる可能性がある。今回M EinzingerとM Baldoたちが、この方向での
重要な一歩となる成果を報告している。彼らは、分子発色団の層において一重項励起
子分裂によって生成される三重項励起子が効率よくシリコンプラットフォームへ移動
するように、適切に不動態化したシリコン基板と分子層を結合させることで、典型的
な太陽電池構成を使って三重項励起子を利用できる方法を示した。

7月3日、マサチューセッツ工科大学の研究グループは、単接合シリコン太陽電池セ
ルを「ターボチャージ装置」を開発し、その技術を理論限界を超えて35%以上の効
率に押し上げることに成功したことを公表。

Nature誌に先週発表された論文は、どのように一重項励起子分裂として知られる効果
がシリコン太陽電池に適用され、35%もの高いセル効率をもたらすことができるか
を実証。一重項励起子核分裂は特定の材料に見られる効果であり、それにより単一光
子(光の粒子)が通常のものではなく太陽電池に吸収されるときに2つの電子 - 正
孔対を生成ができる。その効果は1970年代にまで遡るが、ここ10年間で世界の主要な
研究所の重要な研究分野となっていたが、その効果を実行可能な太陽電池に変換する
のは困難とされていた。

尚、昨年7月5日に、九州大学らの研究グループは有機ELで励起子生成効率百%超を
実現する原理実証に成功している(下図参照)。




とまれ、テトラセン中の一重項励起子分裂によるシリコンの増感において、それを示
す「励起子」材料の1つであるテトラセン - 炭化水素有機半導体からシリコン結晶
へ一重項励起子分裂によるシリコンの増感効果を架橋させる原理実証に成功する。シ
リコン太陽電池と励起子テトラセン層との間にわずか数原子の厚さの酸窒化ハフニウ
ム層を配置することで、この原理実証を実現した。MIT大のエキサイトセンタの研究
グループの主任著者は、「このプロセスを機能させることに成功したこにある」と話
す。

 July 3, 2019

架橋効果

酸窒化ハフニウム層は「nice bridge:素敵な橋」として作用し、テトラセン層で生成
された高エネルギー光子がシリコンセル内で2つの電子の放出生成を可能にする。こ
の発見で、光スペクトルの緑色部分と青色部分からのエネルギー出力が2倍になるこ
とをする。しかし、シリコン太陽電池の効率を単接合シリコン太陽電池の理論的限界
を超えて最大で約35%まで高めることができるだろう考えているが、実験で実際に
達成されたものではなかった。新しく発表された研究は2つの材料を効率的に結合す
る「決定的なステップ」を提供するが、残件事項は多く、 Marc Baldo教授MIT大コン
ピュータ科学は、「全体的に見て、商用アプリケーションはおそらくまだ数年先にな
る」と話す。

効率はさらに高くなる

同研究グループは、「turbocharging(過給)シリコン太陽電池」の研究
に熱心で、
太陽電池変換効率向上の最もアプローチとは異なる。材料を使って作業を継続するが、
これは理論上の35%を超える単一接合シリコン効率達成する可能性があり、酸窒化ハ
フニウムが界面に過給電荷を生成し、電界不動態化処理工程により損失を減らせる方
法を獲得。この現象をより最適御できれば、効率がさらに向上する可能性があると、
結んでいる。


 
数年後にはハイブリッド決勝シリコン太陽電池で変換効率35%超が実用化され、中
東で地獄絵図解消に向かっているだろうか(希望を込め)?

 

  

 



【続・引き寄せられる混沌Ⅲ:7040問題を考える】

今回は、前半はイデオロギーとしての「小さな政府」の認識形成の確認を、後半は、
「過小需要財」と「大きな政府」の役割について確認を行った。「過小需要財」とい
う考え方は教育・厚生・医療・環境。サービス(代替労働)などの無形価値投資によ
る生活(品質)水準の引き上げ政策を考える基礎となった。


第2章 「小さな政府」イデオロギーの誤り

2-1 小さな政府イデオロギーを表す「国民負担率」という言葉  

2-1-1 国民負担率とは何か  

序章で述べたように、財務省は2014年2月7日、「国民負担率」についての時系
列推移と国際比較とを発表しました。グラフにすると、図表 2‐Iのようになります,

これを見ると、国民負担率は長期的に上昇カーブを描いており、とくに この数年は年
々着実に増大してきていることが分かります。なかでも、社 会保障費負担の増加は着
実に進行しています。租税負担の方は、バブル崩 壊前後の1990年前後がピークで、
今はそれよりもやや低下しています。この図でも分かるように、「国民負担率」は租
税負担の割合と社会保障経 費負担の割合を合わせたものですが、もう少し正暗にいう
と、「国と地方が徴収する租税の総額」と「個人や企業が納める社会保険料の総額」
を、「国民所得」で割ったものです。租税というのは、所得税、法人税、消費税など
ですが、ほかに、住民税、固定資産税等々も急まれています。社会保険料というのは、
年金保険料、健康保険料、介護保険料などのほか、雇用保険料と労災保険料が含まれ
ます。個人や企業は経済活動を通じて所得を得ますが、所得のすべてを自分で好きな
ように使えるわけではありません。所得に対しては、さまざまな形で税が課せられま
す。税のほかに、社会保険料もまた法律によって強制的に徴収されます。税も保険料
も政府に集められ、政府によってある意味 「公的」な形で支出されることになります。
いわば、そうした「公的」な支 出を支えるために、個人や企業の所得から差し引か
れているものが「国民 負担」というわけです。

そしてその額を、個人所得と企業所得との合計額 に近い指標である国民所得で割った
ものが「国民負担率」ということになります。こう書けば、「なるほどそうか」と納
得する人も多いでしょう,誰しも、自分の所得から政府によって強制的に徴収される
税金などが多いことは好みません。町内会費や組合費なども同じようなところがあり
ます。加入している組織が組織として活動するための経費を、参加している個人が「
負担」している、という感じです。この意味での「負担」は、文字通り負担です。 



(*I)「図説所得」というのは、具体的には(国民所得=GDP-(固定資本減 耗
十間接税)十補助金)として計算されるものです(この式の意味は、正確に理解 しな
くても構いません)..

2-1-2  「国民負担率」は日本独自の官庁用語  

ただし、「国民負担率」の概念には、もう一つ別の意味での「負担」が含 意されてい
ます。それは、「マクロ経済にとっての負担」という意味合いです。じつは、あまり
知られていませんが(財務省などは巧妙に伏せています)、「国民負担率」という指
標は日本独自のもので、諸外国では使われていませんし、経済学の専門用語でもあり
ません。端的にいって、日本独自の「官庁用語」なのです。国民負担率という概念は、
1980年代の初め頃、当時の第二次臨時行政調査会における議論の中で、大蔵省か
厚生省かははっきりしませんが、いずれにしても社会保障費の増加を問題視する官僚
の立場から使われ始めました。そのきっかけは、大平内閣(1978~80)のときの
1979年の衆議院選挙で、大型間接税の導入を掲げた大平首相率いる自民党が大敗し
てしまったことでした。これを見て、当時の大蔵省を中心とする官僚たちは、大型間
接税の導入によって財政の赤字を縮小ないし解消するという方策は、当面不可能だと
判断せざるをえなくなったわけです(消費税が導入されるのは、それから10年ののち
竹下内閣のときの1989年でした)。そうすると、何とかして歳出の削減を図らな
ければなりません。その方向に国民世論を導いていくための道具として考え出された
のが、「国民負担率」という言葉にほかなりませんでした。このことは、成瀬龍夫氏
の論文「人口高齢化と『国民負担率』」(『経済 論叢』1996年、158巻、6
号‥61‐78頁)で次のように説明されています。

この言葉は、社会保障研究所調査部長の高木安雄氏がのべているように、「経済学・
財政学など学術的な分析用語ではなく、『増税なき財政再建』と「小さな政府』を目
標とする臨時行政調査会の審議の中で生み出され、経済における政府の財政規模=公
的な負担が大きすぎると経済の活力が抑制されると言う政策的な意図を持つものであ
った」こと、「財政当局が財政再建と社会保障支出の抑制を目的に使い出した言葉で
あり、 一定の政策的な意図のもとに使われていった」ことを確認しておきたい。(62
頁)  

ここで明らかにされているのは、次の3点です。まず、「国民負担率」と いう概念は
「小さな政府」のもとで「財政再建しよう」という、ある特定 の政策方針を前提とし
たものだということ。そしてその際、とくに社会保 障費の抑制を目的としていたこと。
そして、公的な負担が大きすぎると経 済の活力が損なわれる、という認識が基盤にあ
ること。つまり、「国民負担率」というのは、きわめて「イデオロギー的」な言葉・
概念なのです。そして、ここでの「負担」とは、まさに「経済にとっての負担」であ
ることが明確に意識されています。このようにしていわば「担造」された「国民負担
率」という言葉ほど、1980年代以降今日に至るまで、日本の財政と経済を拘束し、
方向づけてきたものはないでしょう。この言葉が使われるときは必ず「租税負担や社
会保障費負担が増えると大変に困ったことになる。何とかして、そうした負担は小さ
くしなければならない」という観点が前提となっているのです。意識的にそれを意図
していなくても、「国民負担率」という言葉を使うだけで、私たちは無意識のうちに
そうした見方に取り込まれてしまうのです。

2-1-3 国民負担率が高いとはたして問題か?  

国民負担率という言葉が財務省(当時は大蔵省)などによって使われ出した頃、スウ
ェーデンなどの北欧諸国の高い国民負担率を示して、「こんなに国民負担率が高くな
ると大変だ」という警告が盛んにメッセージとして出されていました。もっとも、実
際には「どんな風に大変か」という説明は何らありませんでした。ただ、「ええっ、
税金と保険料とで所得から5割以上も持っていかれてしまうのか」という驚きと恐怖
を覚える人が、圧倒的 に多数でした。

その当時の日本には、まだ消費税もありませんでしたし、少子化や高齢化も今ほどに
は深刻ではありませんでした。ただ単に、「スウェーデンのように税金が高くなるの
は困る」という感覚で受け止められただけです。そして、「国民負担率は低い方がい
い」という見方も、この指標を発明した人たちのもくろみ通り広まっていきました。  
でも、はたして国民負担率が高いと、実際に何か問題なのでしょうか。まず、図表2
‐2を見ていただきたいと思います。



この表は、国民負担率と経済成長率とを北欧の4カ国と日本とで比べたものです,誰
でも知っているように、手厚い福祉政策を実施している北欧諸国の国民負担率(目本
の財務省が計算したもの)は、日本よりもはるかに高い数値になっています。最も低
いノルウェーでも55・2パーセント、デンマークでは67・7パーセントにも上ります。
日本は39・8パーセントで、ノルウェーよりも15・4ポイント低くなっています。他
方、経済成長率は、2000年から2012年にかけての12年間の年平均名目成長率
を示しています。この時期、北欧諸国の中で最も成長率が高かったのはノルウェーの
5・9パーセント、低かったのはデンマークの2・9パーセントです。だいたい、少
なくとも3パーセントくらいで推移していると見ていいでしょう。それに対して日本
はどうでしょう。この時期は、2001年に小泉政権が発足し、聖域なき改革をスロ
ーガンにいくつかの規制緩和や歳出削減が行われるとともに、道路公団と郵政の民営
化か決められた時代です。2006年に小泉首相が退陣したあと、自民党の短期政権
が続き、2008年にりーマンショックが襲って日本経済は大きな景気後退に見舞わ
れました。

そのせいもあって、この12年間を平均しての成長率はマイナスO・6パーセントとい
う実に情けない結果を示しています。リーマンショックという外的要因を取り除いて
見るために、ちなみに2000年から2008年までの成長率を見てみます。表には
示していませんが、この問、日本の名目GDPは509・9兆円から501・2兆円
ヘ とやはりマイナス成長で、年平均の率はマイナス0・21パーセントとなってい
ます。つまり、リーマンショックがなくても、日本経済はこの間マイナス成長だった
のです。むろん図表2‐2の数字は、ある限られた期間について限られた諸国とで比
較したものですから、これから一般論として、「国民負担率と経済成長との間の関係」
を導きだすことは慎重でなければなりません。性急に、「国民負担率が高い方が経済
成長も高くなる」という結論を出すわけにはいかないでしょう。しかし、同時に、「
国民負担率が高いと経済成長にマイナスである」という結論も導きだすことはできま
せん。むしろ「国民負担率が高いと経済成長にマイナスである」という主張は、図表
2‐2のデータからは明確に否定される、ということが重要なのです。

ところが、国民負担率という言葉を思いついた官僚たちは「国民負担率 が高くなる
ことは経済にとってマイナスである,それは何とか避けなけれ ばならない」という
見方を盛んに振りまいてきたのです。国民負担率の概念が思いつかれた時期は、ちょ
うどサッチャー政権が発足したりして、世界的に「小さな政府」諭が盛んになってき
た時期でした,おそらく、日本の官僚たちはこの思想的潮流にもヒントをえたものと
思われます。国民負担率の概念は、まさに政府の大きさを計るものになっていますが、
小さな政府が望ましいという新自由主義的な潮流に乗って、国民負担率は低い方がい
いという考え方を広めていったのだといえるでしょう。そして、多くの経済学者や経
済評論家たちも、その片棒をかついできました。たしかに誰しも、自分の所得から税
や保険料が徴収されるのは好みません。消費税だってそうです。個人レベルでは当然、
税も保険料も少ない方がいいに決まっています。「国民負担率一という言葉はそうし
た人々のいわば素朴な実感を表現したものではあります。しかしそのことと、「小さ
な政府が望ましいかどうか」という問題とは、まったく別のことです。小さな政府が
望ましいかどうかは、個人の所得から取り上げられる税金や保険料は少ない方がいい
という感情とは無関係に検討されなければなりません。むろん「望ましいかどうかを
どの点て判断するか」は一義的には決まっていません。それにはさまざまな判断の基
準がありうるでしょう。ただ、「個人から取り上げられる税や保険料は少ない方が望
ましい」というのは一つの基準として多少の意味は持ちますが、ほんの一部であるに
すぎません。



2-2 小さな政府論を支える経済理論
2-2-3 「過小需要財」と「大きな政府」の役割

ここで重要なことは、需要の中身、供給の中身は、原則として何でもいいということ
です。経済活動とは、人びとが何かを生産し、それが購入されて消費されるというこ
とです,このあと述べるように、その「生産され、消費されるもの」の中には、医療
サービス、介護サービス、育児サービス、教育サービスなど、社会保障に関わるもの
もさまざまに含まれています。これらのサービスの生産と消費は、れっきとした経済
活動です。しかも、これもあとで述べますが、こうした社会保障関連のサーピスには
「在的な需要はあるにもかかわらず、なかなかその需要が顕在化しない」と いう性
質があります。晟大の理由は、「民間だけに任せておいたのでは料金が高すぎて、そ
の価格では購入する人が少ない」ということです。こうした商品やサービスを「過少
需要財」と呼びましょう。社会保障関連サービスの多くは、そうした過少需要財にあ
たります。むろん、すべての過少需要財において、「需要されて消費されることが望
ましい」とは限りません。また、「わざわざ政府が支援してまで消費を促すべきもの
」とはいえない過少需要財も数多くあります。たとえば、ベンツのような高級車も過
少需要財でしょうが、その購入を政府が支援する理由はないでしょう。しかしその逆
に、「政府が支援して、需要と供給を顕在化させることが望ましい」と考えられるよ
うな過少需要財も数多くあります。教育はその典型です。小中高のほか、大学数育に
も多額の公費が役人されていますが、もしも教育サービスの受け手である個人や家計
がその費用を支払わなければならないとしたら、それを賄えるのはごく一部の富裕層
だけになり、教育への需要はほとんどなくなってしまうでしょう。そして、多くの社
会保障サービスがそうなのです。ここに、大きな政府が経済にとってプラスになる理
由が存在します。  

今、「本来ならば、需要と供給が顕在化することが望ましいような過少需要財が存在
する」とします。そこで、政府が税金もしくは保険料の形で資金を徴収し、その財源
でもって過少需要財への支援を行うとします。そうすると、そこには政府が投入した
のを上回る需要の拡大が生じます。相対的に個人の負担が低下したので購入しやすく
なるからです。たとえば、今日の日本には、特別養護老人ホームに入所を希望してい
るのに入ることのできない待機高齢者が約52万人もいるといわれます。介護施設には、
ほかに有料老人ホームやケア付き高齢者向け住宅などかおりますが、いずれも利用料
金が非常に高いために、どうしても料金の安い特別養護老人ホームヘの需要だけが、
突出してしまっているのです。有料老人ホームにもさまざまなものがありますが、お
おむね、個人の利用負担額は月額で18万円程度。それに、入居時に200万~500
万円もの入居一時金がかかります。そこで提供される介護サービスの費用には、介護
保険から9割が支給されるのですが、それ以外の部屋代、食事代、光・熱水料などは
自己負担なので、月の自己負担額が18万円にもなってしまうのです。ここで、もしも
こうした部分に対しても公費による支援をするとすれば、特別養護老人ホームではな
く、有料老人ホームに入りたいと思う人はもっと増えて、待機高齢者の数は減少する
はずです。かりに、介護保険部分とは別に、有料老人ホーム入居者への公費支援を月
に8万円支給するとしましょう。そうすると、個人負担は現状の18万から10万円に減
少しますから、「それなら、有料老人ホームに入りたい」と思う高齢者はかなり増大
すると予想されます(むろん、実際の支援は、個人の年金所得などの額に応じて、高
額の個人所得のある人には少なく、所得の低い人には多く支援することが望ましいで
し上うが、平均として8万円程度と考えましょう)。現在、有料老人ホームの定員の
全国計は約35万人ですが、そこに新たに65万人の高齢者が有料老人ホームヘの入所を
希望するようになり、逆に、特別養護老人ホームヘの待機高齢者はいなくなるとしま
す。  

そうすると、政府の新たな公費負担は、一人あたり月8万円ですから年間で96万円。
これがすでに入居している人と新たに入居する人とを合わせて100万人ですと、9
600億円になります。ざっと、1兆円と見ていいでしょう。この1兆円は、当然、
悦ないし保険料の形で新たに徴収しなければなりません。民間から悦や保険料を徴収
すれば、基本的にはその分、民間の消費支出が減少するかもしれません,しかし、そ
の資金が過少需要財である有料老人ホームサービスの購入支援に投下されると、それ
に加えて民間(個々の消費者たち)から追加的に有料老人ホームサービス購入の消費
支出が生まれます。新規に入居する人だけを考えると個人負担は月10万円ですから年
間にして120万円.これが65万人分ですから、追加的に増大する年間のサービス購
入費は7800億円にもなります。政府の負担増が1兆円で、利用者の支出増が78
00億円。合計で、1兆7800億円もの需要が生まれることになります。そしてこ
れらはすべて、サービスの購入への対価になります。具体的には、家賃はホーム建設
費用で、これは建設業に従事する人や企業への支払いになります。光熱水村は、それ
らを供給している業者への支払いですし、食費は、食事の材料費と料理する人の人件
費です。ただし、それまで自宅で生活していたときの光熱水村や食事代がなくなりま
すから、1兆7800億円すべてが新規の需要にはなりませんが、いずれにしても、
こうした公費による支援政策によって、新たな需要が生まれることは確かです。この
ことは、とくに、民間経済のレベルで全体として需要と供給の自立的な拡大の勢いが
弱い今日の日本にとっては、非常に重要なことです。実際、この20年あまりの日本経
済は、民間における需要の低迷を背景とした、民間投資の低迷が続いてきました。こ
のようなときには、かりに1兆円の税ないし保険料の徴収がなかったとしたら、その
分の資金は民間に残りますが、1兆円分すべて消費や投資に回るとは限りません,景
気が良くないときは、単に預金されて、回り回って、国情購入に回るだけに終わる可
能性が大です。  

とりわけ高齢者向けサービスの場合、多くの高齢者はかなりの預金などの資産を保有
しながらも、将来に自分にかかるかもしれない高額の「介護費用」のことを考えて、
せっせと節約に励んでいるのが現実ですから、今よりも低料金で必ず利用できる介護
サービスの制度が確立すれば、消費ヘの余裕が確実に増大します。さて、ここで、先
ほどの1兆円は消費増税で賄うとし、それによって同じ1兆円を有料老人ホームサー
ビスという過少需要財購入支援に支出するという政策が導入されたとします。そうす
ると、民間の預金に回っていたかもしれない資金から1兆円が税に回りますので、国
債金利に若干の上昇圧力が生じますが、今の日本のように超低金利の時代には、ほと
んど影響はないと考えられます。他方、この1兆円によって、経済全体に1兆780
0億円の需要の増加が生まれます。これは、経済全体を1兆7800億円分だけ拡大
させることを意味します。

必ずこうなるとはいえませんが、しかし、大まかに見て、こうしたことが起こると考
えていいと思います。一般的にいえば、χ兆円の増税によって、需要の顕在化が望ま
しい過少需要財の購入への支援政策が打ち出されるとき、そこには、その需要に対応
する個人からの支出がさらに生まれます。その額をかりにα兆円としましょう。そう
すると、その政策によって、新たにχ十α兆円もの需要拡大が生まれることになるの
です。このようにして、過少需要財への財政支援には、徴税した分を超えて経済活動
を活性化する可能性があるのです。つまり、「増税が経済を拡大させる」ということ
です。これは「増税は国民負担の増大であって、経済にとってマイナスである」とい
う「常識」とまったく逆の事態です。すべてとはいいませんが、多くの社会保障への
支出には、こうしたメカニズムが備わっていると思われます。それは、小さな政府論
が考えている「成長メカニズム」とはまったく異なるものです。次章ではそのことを
さらに詳しく見ていくことにしましょう。,

   
      盛山和夫著『社会保障が経済を強くする─少子高齢社会の経済戦略-』
                 第二章 「小さな政府」イデオロギーの誤り

                               この項つづく

 ● 今夜の一曲

 竹内まりや  最終章

薬師丸ひろ子が1988年に発売したアルバム『SINCERELY YOURS』の1曲として提供し、
アルバム先行シングルとして発表された楽曲のセルフカヴァ。元々そのタイトルの通
りアルバムのフィナーレを飾る楽曲として製作された。この楽曲は竹内まりや作品と
しては実に19年の時を経てのセルフカヴァ発表となり、彼女の作品では最もセルフカ
ヴァされるのに時間がかかった作品のひとつ。

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