極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

環境品質展開とは何か

2014年05月27日 | 環境工学システム論

 

 



【欧州連合に突きつけられた失業と移民の2つの課題】

22~25日に実施された欧州各国で実施された欧州議会選挙は、ギリシャでは反緊縮派野党の急進左
派連合(SYRIZA)が最多票を集めた。アレクシス・ツィプラス党首は、緊縮財政策に対する
勝利を宣言。急進左派が国政選挙で勝利を収めるのは近代のギリシャで初めて。ただ、与党との票
差は同国の連立政権を揺さぶるのに必要とされる5%ポイントには届かなかったというから、いか
に混迷乱立状態にあるのかうかがい知ることができる。反ユーロや反移民を掲げるEU懐疑派が躍
進した。全体では中道右派が最大勢力を維持したものの、主要会派は軒並み議席を減らした。7月
までに決めるバローゾ欧州委員長の後任には中道右派を率いたルクセンブルクのユンケル前首相が
有力だが中道左派などEU統合推進派の連携が鍵となると見られている。極右政党でフランスで移
民の受け入れや欧州統合に反対する国民戦線(FN)が同国で首位に躍進。オランド大統領出身の
中道左派、社会党は3位に沈む。FNのルペン党首(上写真の高い笑い女性)は選挙後、EUと対
峙していく姿勢を鮮明にしている。また、英国では反EUを掲げる英国独立党(UKIP)がキャ
メロン首相の英保守党などを抑えて首位となった。デンマークでも移民受け入れに反対するデンマ
ーク国民党が首位となった。さらに、最大の人口、経済規模を持つドイツでは、メルケル首相のキ
リスト教民主同盟(CDU)が首位を守ったが、反ユーロを掲げる新党「ドイツのための選択肢(
AfD)」が7%の得票率を確保した。もっとも、レンツィ首相の民主党が、他党に大差をつけて
躍進し、レンツィ首相の経済・構造改革が有権者のお墨付きを得る結果となったイタリアは、メル
ケル首相に対し成長、雇用を重視すべきとの自身の主張をより展開しやくなる可能性があると報じ
られている。



失業問題と移民問題は、直接的には、英米流金融資本主義により引き起こされた欧州経済危機によ
るもので、その政策解答は、日本(実施中)とイタリア両政府により提案されている。また、"開か
れた国家連合"を政策理念に依拠するものであるが、リビア・チュニジア・エジプトなどのアラブの
の春
、中東の春をあ
る意味で、新しい形の"三角貿易"を想起させるかのように扇動し、歪め(近く
では、ウクライ
ナ)、次々と軍事圧政を補完していることを露わさせたが、武器輸出の禁止或いは
軍事的関与禁止と移民受
政策を熟慮し、同期させれば問題解決できるはずだとわたし(たち)は考
えている。失敗すれば、
それは、カオス(混沌)を引き寄せるだけだ(下図は古いデータだが勉強になりま
した。参考までに下図をクリック!)。

それにしても、南沙諸島沖の石油採掘よる”ベ中開戦前夜”、あるいはフィリピンと中国とが南シ
ナ海での軍
事衝突の新聞が舞い込んだり"チャイナ・リスク"のバラマキ状態様相を見せている。プ
ーチンのロシアもマッチョ外交を止めないし、これでは、ジワジワと神経衰弱に陥ってしまうので
は?と心配になる。そして、そのうちに、国内外の"心ない連中"に煽られてしまいかねないかと。
しかし、それも老婆心かもしれない。関係国の勤労国民のの連帯パワーは関係国の為政者の思惑を
超える行動に期待している。

 

【環境品質展開:ソーラーシェアリング】

「茶畑ソーラーで二兎を追え ソーラーシェアリングで農業と発電を両立」(2014.05.01 日経ビ
ジネス
)の記事が目を惹く。『ソーラーシェアリング』とは太陽光発電と農業耕作地あるいは放棄
地の利用価値を高め促進新規事業で、3つの実例が紹介されている。

●日本の農業が、従事者の高齢化と後継者不足で危機に瀕していることはよく知られている。中で
も、茶農家の状況は他の分野以上に深刻そうだ。菊川市のソーラーシェアリング周辺でも茶畑の耕
作放棄地を利用し-茶樹は他の多くの農産物よりも光飽和点が低い。つまり、日蔭に強い植物。玉
露や抹茶用の茶葉の栽培には、ある時期、遮光する必要があが、農家では、遮光用の棚を作ったり、
黒のシートで畑を覆ったりしていることを利用し、茶畑の上に太陽光パネルを設置し過剰な日射を
減らし、支柱を使ってシートの展開もし易くする。その上、売電収入も得られ、耕作放棄地の再生
と発電の二兎を追うプロジェクトへの期待は大きい。発電は2月から始まっており、茶摘みも間も
なく始まることになっている(上写真)。

●2つめは群馬県沼田市の農地。トウモロコシと茗荷(みょうが)を生産するが、トウモウロコシ
はの光飽和点が高く、ソーラーシェアリングをやろうとすればパネルの間隔を開け遮光率を低く抑
える必要があるが、その分だけ発電量は少なくなる。発電量の減少をできるだけ抑えるために、日
陰に強い作物に茗荷を選ぶことで目的を達成。発電は2013年末に始まり、農業の方は、地元の農家
の協力を得て、梅雨入り前に茗荷の植え付けを農電併業を開始する(下写真)。

  

●3つめは、ソーラーカルチャー(ソーラーシェアリングの開発、設計、コンサルティングなどを
行っている)。茨城県つくば市の地目山林の土地で、ソーラーシェアリングのモデル的な実用試験
施設を設置した。
土地面積は約2反(二千平方メートル)で、発電容量は57.9キロワットである。
支柱の高さは、3.5メートルで、パネル下での農作業に影響はない。これを、手作りで行い、10カ
月かけて完成したという。営業開始は、2013年10月15日。
ここでは、標準より小型のパネルを使用。
パネル間隔を大きくし遮光率(パネル面積÷設置面積)を25.5%と低く設定。また、パネルの上下
取り付け角度は0度(水平)から90度(垂直)までの可変式。現在、下の畑では様々な作物の栽培
を行い、この遮光率ならほとんどどんな作物にも対応できるという。

耕作放棄地だけで発電量の10%

ところで、ソーラーシェアリングの全国展開には、農業の生産性に影響が出るとの不安があるが、
その前にやることがある。それは、全国に40万haもあると言われる耕作放棄地の開放。
現在の太陽
光パネルの変換効率と標準的な設置方法によれば土地面積1.5ヘクタール当り1メガワット程度を
設置できる。全国の耕作放棄地40万ヘクタール全部使うと、発電能力は2.7億キロワット。年間発電
量は2700億キロワットアワー、総需要の27%となる。農地を農業以外の目的に使うには、農業関係
者の間で反発が強いが、TPP交渉も激しさを増し、農業においても関税の撤廃や大幅削減がさけら
れない情勢だ農業における収入源を補完するのは農業である必要はなく、ソーラーシェアリングを
行い、売電収入で所得を確保した上で、効率的な農業をやればよい。また、永久転用が可能な場合に
は、ソーラーシェアリングに限定せず太陽光発電を中心とした再エネ発電に参入するべきだと提案
している。

 

最近、AGC(旭硝子株式会社)から相次いで2つの新製品が公表された。その1つが上図の薄型
強化ガラスで、5月から従来型のソーラーパネルに比べて重量を約半分にした超軽量ソーラーパネ
ル「ライトジュールTM」の販売を開始するという。薄くて強い化学強化特殊ガラス“Leoflex○R ”
をカバーガラスとして使用することで、軽量化を実現。荷重制限のため従来型のソーラーパネルの
設置が難しい屋根の場合、設置するパネル数を減らす、もしくは設置するために補強工事を施す必
要があり、「ライトジュール」は、パネル自体が軽量のため、そうした箇所にも補強工事をすると
なくパネルを設置することができ、従来型と比べてコストをかけずにパネルの設置面積を拡大する
ことができるとのこと。これに先行して、フジプレアムの超軽量太陽電池モジュール「希」と同じ
構造原理。フジプレアムはこれを、阪神電鉄大石駅に導入している。


2つめは、フロート法で生産するガラスとして世界最薄となる0.05ミリ厚の超薄板ガラス“SPOOL○R”
を、幅1,150ミリ、 長さ100メートルのロール状に巻き取ることに成功したと公表(上写真)。

薄板ガラス“SPOOL”は、透明性、耐熱性、耐薬品性、ガスバリア性、電気絶縁性など ガラスの優
れた特長に加え、非常に薄く、軽量でフレキシブルであることを活かし、 フレキシブルディスプレ
イや有機EL照明、タッチパネルなど最先端のアプリケーションへの採用が期待されているとし、
“SPOOL”をロールに巻くことで、ロール・トゥ・ ロール方式の生産プロセスに対応することが可
能になり、また、生産 ラインを変更することなく超薄板ガラスの利用を実現する積層基板技術の
展開も進めているという。

●環境品質展開とはなにか

ところで、旭硝子のシリコン結晶(無機)薄膜を利用しよりソーラーパネルの軽量化或いは強靱化
を図るか、「発電・発光する農ポリフィルム」(『アリスタとフェンネルシード』)のような有機
系機能性薄膜で図るかということも有力な選択肢だが、前者とのハイブリッド化もまた有力な選択
肢でもあるだろう。手前味噌でいうのだが、農産物の生産の高度化あるいは高次化には、植物工場
を標榜した
 、「発電・発光・遮光する農ポリフィルム」の方が「ソーラーシュアリング」よりも有利に思えるの
だが、今夜は品質機能展開(Quality Function Deployment)、つまり、新製品開発の際,十分品
質の高い製品を製造するためには,設計段階から品質に配慮しておくべきと考えるのは自然なこと
だが、品質を高めるために,具体的に設計段階で何をすべきかは必ずしも自明ではない。品質機能
展開は表の行に目的とする品質(要求品質)を,列に直接管理可能な要素(品質要素)を記入した
二元表(品質要求展開表)を用い,互いの関係付けから重要性の高い品質要素は何か(=設計段階
で何をコントロールすべきか)を明らかにする手法で、これを環境推進(対策)に応用できないか
謂わば、『環境品質展開』として再設計できないかと、「ソーラーシュアリング」の提案記事に接
して、ふとそう思ったわけだ。

 

  

 

   渡会にとって、同時に二人か三人の「ガールフレンド」を持つのは当たり前のことだった。
 彼女たちはそれぞれに夫や恋人がいるので、そちらのスケジュールが優先されたし、当然のこ
 とながら彼の時間の取り分は少なくなる。だから何人かの恋人を同時にキープしておくのは、
 彼にとってはあくまで自然なことであり、とくに不誠実な行為には思えなかった。しかしもち
 ろんそんなことは相手の女性たちには黙っておく。できるだけ嘘はつかないようにするが、開
 示する必要のない情報は開示しないでおくというのが、彼の基本的な姿勢だった。

  渡会の経営するクリニックには、長年彼のために働いている優秀な男性秘書がいて、渡会の
 そういう込み入ったスケジュールを、熟練した空港の管制官のようにうまく調整してくれた。
 仕事上の段取りに加え、アフターアワーズの女性たちとの私的なスケジュールの調整も、いつ
 の間にか彼の職務に含まれるようになっていた。彼は渡会のカラフルな私生活の細部をすべて
 把握しており、余計なことはいっさい口にせず、その多忙ぶりにいちいちあきれた顔もせず、
 飽くまで事務的に職務をこなした。女性たちとの約束が重なったりしないように、うまく交通
 整理をしてくれた。渡会が現在つきあっている女性たち一人一人の月経周期まで――にわかに
 は信じがたいことだが――彼はおおよそ頭に入れていた。渡会が女性と旅行に行くときには、
 列車の切符を手配し、旅館やホテルの予約までとってくれた。もしその有能な秘書がいなかっ
 たら、まず間違いなく、渡会の華麗な私生活はこれほどまで華麗には運営されていなかったは
 ずだ。彼は感謝の意味を込めて、機会あるごとにそのハンサムな秘書(もちろんゲイだった)
 に贈り物をした。
 
  ガールフレンドたちと彼との関係が、その夫や恋人に露見して、重大な問題に発展したり、
 渡会が具合の悪い立場に立たされたりしたことは、幸いにしてまだ一度もなかった。彼はもと
 もとが慎重な性格だったし、女性にもできるだけ用心深くなるように忠告していた。急いで無
 理をしないこと、同じパターンを続けないこと、嘘をつかなくてはならないときはなるべく単
 純な嘘をつくこと、その三つが彼のアドバイスの要点だった(それはおおむねかもめに空の飛
 び方を教えるようなものだったが、いちおう念には念を入れて)。

  とはいえ、まったくトラブルと無縁であったわけではない。それだけの数の女性を相手に、
 長年にわたってかくも技巧的な関係を続けてきて、トラブルが皆無ということはいくらなんで
 もあり得ない。猿にだって技を掴み損ねる日はやってくる。中にはいささか注意力の不足した
 女性もいて、その疑り深い恋人が彼のオフィスに電話をかけてきて、医師の私生活について、
 またその倫理性について疑問を呈したこともあった(彼の有能な秘書が言葉巧みに処理した)。
 あるいは彼との関係に深くのめり込み過ぎて、判断能力にいささかの混乱をきたした人妻もい
 た。その夫はたまたまかなり高名な格闘技の選手だった。しかしそれもなんとか大事には至ら
 なかった。医師が肩の骨を析られるような不幸な事態はもたらされなかった。

 「それはただ運がよかったというだけじゃないんですか」と僕は言った。
 「たぶん」と彼は言って笑った。「たぶん私はついていたんでしょう,でもただそれだけじゃ
 ありません。私は頭の切れる人間だとはとても言えませんが、こういうことになると意外に機 
 転が利くんです」

 「機転が利く」と僕は言った。

 「なんと言えばいいのか、危うくなりそうなところで、はっと智恵が働くというか……」、渡
 会は口ごもった。その実例が急に思い浮かばないようだった。あるいはそれは、目にするのが
 はばかられるようなことだったのかもしれない。
  僕は言った。「機転といえば、フランソワ・トリュフォーの古い映画にこんなシーンがあり
 ました。女が男に言うんです。『世の中には礼儀正しい人間がいて、機転の利く人間がいる。
 もちろんどちらも良き資質だけど、多くの場合、礼儀正しさより機転の方が勝っている』って。
 その映画をごらんになったことはあります?」

 「いいえ、ないと思います」と渡会は言った。

 「彼女は具体例をあげて説明します。たとえばある男がドアを開けると、中では女性が着替え
 をしているところで、裸になっています。『失礼しました、マダム』と言ってすぐさまドアを
 閉めるのが礼儀正しい人間です。それに対して、『失礼しました、ムッシュー』と誤ってドア
 をすぐさま閉めるのが機転の利く人間です」
 「なるほど」と渡会は感心したように言った。「とても面白い定義だ。言わんとするところは
 よくわかります。私自身そんな状況に遭遇したことは何度かあります」
 「そしてそのたびに機転を利かせて、うまく切り抜けることができた?」
  渡会はむずかしい顔をした。「でも私はあまり自分を買いかぶりたくはありません。やはり
 基本的にッキに恵まれていたのでしょう。私は飽くまでッキに恵まれていた礼儀正しい男です,
 そう思っていた方が無難かもしれません」

  いずれにせよ、渡会氏のそういうツキに恵まれた生活はおおよそ三十年にわたって続いた。
 長い歳月だ。そしてある日、彼は思いもよらず深い恋に落ちてしまった。まるで賢いキッネが
 うっかり落とし穴に落ちるみたいに。  
  彼が恋に落ちた相手は十六歳年下で、結婚していた。二歳年上の夫は外資系IT企業に勤め
 ており、子供も一人いた。五歳の女の子だ。彼女と渡会がつきあうようになって一年半になる。

 「谷村さんは、誰かのことを好きになりすぎまいと決心して、そのための努力をしたことはあ
 りますか?」と渡会があるとき僕に尋ねた。たしか夏の初めの頃だったと思う。渡会と知り合
 って一年以上が経っていた。

  そんな経験はなかったと思うと僕は答えた。

 「私もそんな経験はありませんでした。でも今ではあります」と渡会は言った。
 「誰かを好きになりすぎないように努力している?」
 「そのとおりです。ちょうど今、そういう努力をしているところです」
 「どんな理由で?」
 「きわめて単純な理由です。好きになりすぎると気持ちが切なくなるからです。つらくてたま
 りません。その負担に心が耐えられそうにないので、できるだけ彼女を好きになるまいと努め
 ています」
  彼は真剣にそう言っているようだった。その表情には日頃のユーモアの気配はうかがえなか
 った。
 「具体的にはどんな風に努力するんでしょう?」と僕は尋ねた。「つまり、好きになりすぎな
 いように」
 「いろいろです。いろんなことを試してみます。でも基本的には、できるだけネガティブなこ
 とを考えるようにします。彼女の欠点を、というかあまり良くない点を思いつく限り抜き出し
 て、それをリストにします。そして頭の中でマントラを唱えるみたいにそれを何度も何度も反
 復し、こんな女を必要以上に好きにはなるまいと自分に言い聞かせます」
 「うまくいきました?」
 「いや、あまりうまくはいきません」と渡会は首を振って言った。「彼女のネガティブなとこ
 ろがそれほどたくさん思いつけないということがひとつあります。またそういうネガティブな
 部分にさえ自分が強く心を惹かれているという事実があります。もうひとつには、自分の心に
 とって何か必要以上であり何かそうではないのか、それすら見分けられなくなっているという
 ことがあります。そういう仕切りの線がよく見えないんです。そんなとりとめない、見境のな  
 い気持ちを抱くのは生まれて初めてのことです」

  これまでたくさんの女性とつきあってきて、そんな風に深く心が乱されたことは一度もなか
 ったのかと僕は尋ねた。

 「初めてです」と医師はあっさりと言った。それから古い記憶を奥の方から引っ張り出してき
 た。「そういえば高校生のとき、短いあいだですが、それに似た気持ちを昧わったことはあり
 ます。誰かのことを考えると胸がしくしく痛んで、他にほとんど何も考えられなくなるような
 ……。でもそれはあてもない片想いのようなものでした。でも今はそれとはまったく違います。
 私はもう立派な大人ですし、現実的に彼女と肉体関係を持っています。それなのに私はこうし
 て混乱をきたしています。彼女のことを考え続けていると、なんだか内臓の機能までおかしく
 なってしまいそうです。主に消化器系と呼吸器系ですが」
 
  渡会は消化器系と呼吸器系の具合を確かめるように、しばし沈黙を守った。

 「話をうかがっていると、あなたは彼女を好きになりすぎまいと努力しつつ、同時に彼女を失
 いたくないと一貫して望んでもいるみたいですね」と僕は言った。
 「ええ、そのとおりなんです。それはもちろん自己矛盾です。自己分裂です。私は正反対のこ
 とを同時に望んでいるんです。どれだけ努力してもうまくいきっこありません。でもどうしよ
 うもない。何にせよ彼女を失うわけにはいかないのです。もしそんなことになったら、私自身
 までどこかに失われてしまうことでしょう」
 「でも相手は結婚していて、子供も一人いる」
 「そのとおりです」
 「それで、彼女は渡会さんとの関係についてどう考えているのですか?」
  渡会は少し首を傾げ、言葉を選んでいた。「彼女が私との関係をどのように考えているか、
 それは推測するしかないし、推測は私の心を更に混乱させるだけです。ただ彼女は今の夫と離
 婚するつもりはないと明言しています。子供もいることだし、家庭を壊したくはないと」
 「でもあなたとの関係は続けている」
 「今のところ、私たちは機会を見つけて会っています。でも先のことはわかりません。彼女は
 夫に私との関係を知られることを恐れ、いつか私と会うことをやめてしまうかもしれません。
 あるいは実際に夫にそれを知られ、私たちは現実的に会えなくなってしまうかもしれない。そ
 れとも彼女はただ単純に、私との関係に飽きてしまうかもしれません。明日何か起こるか、ま
 るでわからないんです」
 「そしてそのことが渡会さんを何より怯えさせる」
 「ええ、そんないくつかの可能性について思いを巡らせていると、他のどんなことも考えられ
 なくなってしまいます。食べ物もろくに喉を通りません」までどこかに失われてしまうことで
 しょう」
 「でも相手は結婚していて、子供も一人いる」
 「そのとおりです」
 「それで、彼女は渡会さんとの関係についてどう考えているのですか?」
 
  渡会は少し首を傾げ、言葉を選んでいた。「彼女が私との関係をどのように考えているか、
 それは推測するしかないし、推測は私の心を更に混乱させるだけです。ただ彼女は今の夫と離
 婚するつもりはないと明言しています。子供もいることだし、家庭を壊したくはないと」

 「でもあなたとの関係は続けている」
 「今のところ、私たちは機会を見つけて会っています。でも先のことはわかりません。彼女は
 夫に私との関係を知られることを恐れ、いつか私と会うことをやめてしまうかもしれません。
 あるいは実際に夫にそれを知られ、私たちは現実的に会えなくなってしまうかもしれない。そ
 れとも彼女はただ単純に、私との関係に飽きてしまうかもしれません。明日何か起こるか、ま
 るでわからないんです」
 「そしてそのことが渡会さんを何より怯えさせる」
 「ええ、そんないくつかの可能性について思いを巡らせていると、他のどんなことも考えられ
 なくなってしまいます。食べ物もろくに喉を通りません」


                   村上春樹 著『独立器官』(文藝春秋 2014年 3月号)

                                   この項つづく


 

 

 

 

 

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