世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

グーグル、オンライン出版で革命的和解 Google books

2008-10-30 | グローバル企業
2008-10 No029

今週、グーグルは出版社や著者と歴史的和解に達し、著作権がまだ有効な本をウェッブ上で閲覧するサービスを提供することが可能となったと発表しました。これでpurveyors of dead trees and ink(出版業:紙とインクの販売業と戯れて表現)とインターネット時代の寵児たるグーグルが仲直りしたことになるとFTが論評しています。

グーグルは、今回の和解が裁判所の認可を得られると、すべての本のデジタル化とネット上での提供が可能となり、デジタル本が売れるごとに出版社と著者に版権料が支払わられる仕組みができることになります。

この処置によって、著作権はまだ生きているが絶版になった(out-of-print but copyright-protected)多数の本への読者によるアクセスが可能になることの社会的なメリットも極めて大きいものがあります。

おなじ日に、部数は少ないながらもクォリティー・ペーパーとして有名な”Christian Science Monitor”紙が日刊を廃止し週刊に転じること、また日々のニュースはオンラインで提供することにしたことを発表しました。伝統的な紙の印刷からピクセル化(from print to pixels)という変化は出版業界のみならず新聞業界でも同じように、不可避の現実となりつつあります。

予測ではデジタル出版の規模は2012年で出版の5%, 金額にして約6,800億円といわれていますが、現在ではまだ1.2%を占めるに過ぎません。紙の本もやはり重宝され、愛され続けていくことでしょうとFTは締めくくっています。

(日本でもやがてグーグルは同じようなアレンジを著者と出版界と締結して、莫大なデジタル図書館が利用可能となるでしょう)



中国温暖化ガス削減交渉に新条件 The Price of Cooperation

2008-10-29 | 環境・エネルギー・食糧
2008-10 No.028


温暖化ガス削減のための国際条約である、いわゆる「京都議定書」は2012年に期限が到来するため、来年11月末のコペンハーゲンで開催されるCOP15における新条約合意を目指して交渉が継続されています。

しかし昨年末のインドネシア・バリ島におけるCOP13においても議論百出の状態で特に先進国と発展途上国との間における利害相反は大きく簡単には解決できない状況でありました。続く今年7月の洞爺湖サミットでは「2050年までに排出を半減するとの長期目標」は「共有」しましたが、足元の「数値」は国連交渉に委ねるという曖昧な終り方をしています。

また先進国、特に米国が「条約に復帰」していかなる立場をとるのかは、新大統領の政策如何ということになります。現今の厳しい経済情勢のもと産業活動を制限し、産業界に負担を強いることになる断固たる政策を実行できるかどうかは予断を許しません。

こうしたなか本日のFTは、新興国の中でも、先進国の削減案や、途上国援助に不満を明確に表明してきた中国が、新たな条件を提示してきたことを報じています。その中国の新提案とは、「先進国はそのGDPの1%を途上国の温暖化ガス削減努力を支援するための技術援助に拠出すべし」というものです。

米国と並んで世界の二大温暖化ガス排出国である中国の加盟なくしては新条約は実効性を持ちえませんが、中国が今年12月のポーランドにおけるCOP14の交渉に先立って、大きな重石となる条件で先手を打ってきたのです。FTの表現を借りると、それは"Price of Cooperation"(協力の代償)ということになります。

そして削減目標の合意ができたとして、その実行を各国でどのように政策化していくかというもっと大きな問題が待っています。


IMF資金不足危機 “Could soon run short”

2008-10-28 | グローバル組織
2008-10 No.27

来月のワシントンで開催される予定のW20首脳会議では、今回の金融危機対策の重要な議題として、IMFの改革・強化、とくに国際金融活動の有効な規制の機能の担い手としてのIMFの強化が取り上げられるのは確実です。

そして、いわば足元の火事場では、IMFは新興諸国の金融破綻の救済に毎日のように出動しています。ベラルーシュ・パキスタン・アイスランド・ウクライナ・ハンガリーへの緊急融資が近々にも正式に決定されます。

現今の緊急事態に鑑みて、各国に対する融資枠の割り当て(quota)の3倍までという通常の上限を撤廃するという方針にしたがい、たとえばアイスランドには、quotaの11倍、ウクライナには8倍までの貸出が決定しています。

こうした巨額の融資を続けるには、IMFの融資能力は、現在の仕組みでは、約2,500億ドルしかないことが問題となります。当然のことながら、IMFの資金力がヘッジファンドの2兆ドル、中国の外貨準備2兆ドルなどに較べると、国際金融の総崩れ状態の状況で出動するには小さすぎるという指摘が起こってきました。FTの、”IMF firepower could soon run short”ともうすぐ「弾が尽きますよ」との記事はそうした状況を反映しています。

一方、IMFの資金増強には、日本やインドが増資に外貨準備を転用して提供したいとの意思表明を行っていますが、すんなりとは受け入れられていません。IMFや世銀の創出の主導者であったはずの米国を始め、先進国の間ではIMFが余りに強大な力を持つこと(single-handedly save the world)を警戒しているからに他なりません。


ペーリン候補の独り立ち Playing for her own future

2008-10-27 | 米国・EU動向
2008-10 No.026

米国大統領選挙戦も終盤に入り、オバマ候補が世論調査では圧倒的にマケイン候補を引き離していて、このままの勢いが維持できれば勝利が間違いないところまで来ているというのが現状です。

TVのニュース報道で、選挙演説を聴いていても、マケイン候補は「負けないぞ」、「あきらめないぞ」というニュアンスが強く出ていて明らかに守勢ですし、未曾有の金融危機が実体経済を崩壊の方向におし出している事態に対して、米国民を納得させ、引っ張ることのできる政策を提示できていません。

さらに、敗色の見えた軍隊の中によく見られる、内部抗争が表面化してきています。ペーリン候補は当初のメディアへの露出規制を打ち破って好きなことを好きなところでいうという、共和党内部の反ペーリン派に言わせると「放言」に近いものとなっています。FTは、「ペーリンは党内も国論も二分(Palin splits nation and party)、緊張高まる」との見出しで報じています。

そして彼女が選挙費用を使って、デザイナーブランドのドレスを買った額がすでに、1,500万円を超えておりあまりの贅沢は目に余るとの非難ごうごうという状況になっています。マケイン氏はこれに対して、「彼女は貧しい家の出の人でつましい生活をしてきたのだ。このことは選挙戦での必要に迫られた結果に過ぎない(thrust into this)」とかばっています。彼女との意見の相違を質された同氏は、「わたしも彼女もはぐれ馬(maverick: 政党内の一匹狼的行動を取る人を指す)だから。しかしワシントンを変えようという根っこは同じ」と釈明しています。

共和党選挙参謀の作り上げた「人形の家」を飛び出したノラならぬペーリン女史は、ソックリさんと一緒にパロディーに出て「おバカ」を演じて大活躍中です。そして、若さとバカさだけで「おもちゃ」扱いをされることを断固拒否して、いまや「次期選挙で大統領を狙う」ペーリンとなった彼女に歯軋りをしている人が共和党に増えつつあります。

渡辺夫人の豪ドルは下がり円高は亢進 The yen resurgent

2008-10-26 | 世界から見た日本
2008-10 No.025

先週の市場はいっせいに円買いに向かう動きが支配しました。東京からNYまでパニック的な動きで引け、大幅な円高に輸出企業の悲鳴が上がりました。FTはこの状況を世界的に、「借入金比率を下げようとする投資家がキャリー取引のギアを急速にバックに切り替えた」のが原因であると伝えています。その結果終値で円は対ドルで93円、対ユーロで119円まで高騰しました。

一方韓国ウォンは対ドルで1/3以上減価しました。この対照的な動きが、市場の動向を見事に現しています。投資家はより安全な投資先と通貨を求めて急速に資産を移動しているのです。韓国に較べれば日本の経常収支は黒字ですし、巨額の債務もほとんどが円建てです。

投資家も含めてまだ、日本経済がいつリセッション入りするのか、メガ・バンクが株式の巨額の評価損や企業倒産の償却をいつ計上するのかは、把握できていない状況です。このように日本経済に対する評価はまだよく分からない状況で、投資家にとって確かなことは、円が過小評価されているということのみです。

このため外人投資家は、円資金調達によるキャリー取引の巻き戻し(unwind)にいっせいに動いています。日本の一般投資家(retail investors)も外貨建て投資残高は約60兆円に達していましたが、今回のやけど(burnt fingers)で急速に円を買い戻しています。

去年あれほど有名になった架空の「渡辺夫人」の好きだった豪ドルは、ここ一ヶ月で約1/3も値下がりをしました。手数料稼ぎのプロ投資家は、自動的に「損切り」が発動されて外貨ポジションを清算して円転をどんどん進めているのが現状です。

一方、円高に悩まされてきた人たちに新しい動きが出てきました。先週にはいって日本人投資家のポジションは円の売り越しに転じており、売買も活発となっているとのことです。強くなった円を手にした「渡辺夫人」が、外貨ディーラーに電話を掛ける日が来るのもそう遠くないのでは、とFTのコラムは結んでいます。

(注)「渡辺夫人」は欧米金融界が昨年はやらせた造語。架空の日本人専業主婦で、「超低金利の円を借りて、円キャリー取引で豪ドルなどを買い進める」投資家がモデル化されている。


EU内騒然 Sarkozy angered Euopean counterparts

2008-10-25 | 米国・EU動向
2008-10 No.024

北京で開催中のASEM首脳会議において、ドイツのメルケル首相同席の公式の場で、サルコジ大統領は金融危機を乗り越えるための連帯を呼びかける演説を行いましたが、その途中で、ドイツとの「意見の不一致」があることを認めました。

FTは、フランス国内で、サルコジ大統領は自分に似せて作ったブードゥー人形の発売禁止を求める訴えを起したと報じている中で、「その人形にわたしが最初にピンを打ってやりたい」と思っている欧州首脳はさぞ多いことだろうからきっとよく売れるだろうに、と揶揄しています。

このところサルコジ大統領は精力的に活動し、発言していますが(2008-10 No.22参照)それらはいちいち欧州の首脳の気分を害し、怒らせ、警戒心を募らせさせてきました。こうしたサルコジ大統領の動きには欧州の秩序を破壊した上で、フランスに都合のよいように改変してやろうとの野心が見え隠れします。

今週、「欧州財務省」構想を突然ブチ挙げましたが、これはいわばEU経済政府(economic government for the EU)のような不可思議なしかも一方的提案であります。そしてサルコジ大統領が永続的にその議長を続けるということまでもが想定されていて、喜んでいるのはフランス国民以外にはないという代物であります。

このように同大統領は、先般ユーロ通貨15カ国の会議を招集・主導して公的資金の注入をきめるなどの成果を挙げた余勢を駆って、ユーロ諸国をないがしろにする発言が多く大きい反発を受け始めています。

特にドイツの反発はEU経済政府をフランスが仕切るというのは、フランクフルトにある欧州中央銀行の存在に関わる問題であるのでなおさらであります。しかも今回事前相談を受けなかったことでメルケル首相の怒りは相当のものがあるようで、それが冒頭のサルコジ発言の伏線となっています。。

さらにサルコジ大統領は、EUの国富ファンド(sovereign wealth fund)を創設して、域外の国富ファンドによる産業資本への「侵略」を防止しようという提案を行っていますが、これは国家資本主義(state-run capitalism)や保護主義(protectionism)への回帰として強い反発を受けています。

しかしサルコジ大統領の意気は軒昂です。「わたしに、拙速に過ぎる(You moved too fast)という人がいる。そうでしょうとも。行動したくない人にとっては」と反論しています。

グリーンスパン判断ミス認める Wise after the event

2008-10-24 | グローバル経済
2008-10 No.023

米国の下院の公聴会で前FRB議長グリーンスパン氏が証言を行い、そこで”Were you wrong"と問われて、"Partially"と答えました。

先般、金融界の責任者たちが公聴会でみずからの責任を認めなかったのですが、(2008-10 No.015参照)、昨日米国のみならず世界の金融政策の大御所・マエストロとして18年間にわたり君臨したグリーンスパン氏は自らの考え方に欠陥(a flaw in his thinking)があったことを認めたのです。

同氏は「金融界の経営者が、自らの組織の利益を守るためには、当然株主の利益も守ることもできるはずとの前提に立ってしまったこと」が判断ミスの根底にあるとしました。

そして「金融界はこの20年間誤った陶酔状態にあって、証券価格形成に過ちがあった。」と総括した上で「銀行などが貸し出しの相手先の審査を十分行うものだと思い込んだのは間違いであった」と認めました。

さらに「この認識は自分の40年の経験からすれば正しいはずだった。しかしわたし自身の知的巨大構造物(the whole intellectual edifice)は昨年の夏に瓦解した」と述懐しました。しかしグリーンスパン氏は、「問題のデリバティブCDSの規制を自分があえて行わなかったのは、議会側の意向を受けてのものだった」と釈明をしました。

二日間にわたる厳しいやり取りの続いた公聴会の議長を務めた下院のワックスマン委員長は、「ワシントンに充満している市場至上主義(the market knows always the best)がすべての元凶だ」と指弾し、前後して証言したSECのコックス議長に対して、「あなたの言っているのは後知恵の賢しらだ」(being wise after the event)と非難しました。

この言葉は、ふたりの最高責任者のみならずすべてのひとに向けられるべき言葉だと響きますがいかがでしょうか

サルコジ:「G20はわたしが」 “I proposed it a month ago”

2008-10-23 | 米国・EU動向
2008-10 No.022

米国は、金融危機対策のための首脳会議を11月15日にワシントンで開催することを発表しました。この会議には、G8諸国のみならず、中国、ブラジル、インドなど新興国や、アルゼンチン・インドネシア・韓国・メキシコ・南アフリカ・トルコ・サウジアラビアなど20の国と地域の首脳が招待されることになります。

こうした会議に関しては「わが国の経験を生かしてもらいたい」として開催の意欲を示した日本の挙手には一顧だにせず、先週サルコジ大統領とブッシュ大統領がキャンプデービッドで開催を決めたのです。そしてサルコジ大統領は「この開催についてわたしは一ヶ月も前から提案していたのだ」と自己顕示を堂々としています。

米国政府の発表した会議目的は極めて重要なので詳しく書きましょう:

①現在の危機的状況の分析(to address the crisis)
②原因に関する共通理解の深化(to advance a common understanding)
③問題の再発防止のために、世界の金融界の規制機関と制度改革を行うための基本原則の確認(to agree on a common set of principles)

洞爺湖サミットの首脳宣言を読み返せばほぼこんなことが書いてあります。あの時に危惧された金融システムの崩壊が現実化し、その救済や後遺症対策に忙しいいま、20もの参加国の立場は前回以上にバラエティーに富んでいます。そのように多数にして多様な国々の間で一体どんな合意ができるのかが興味深深です。

そして米国大統領選の11日後であるというタイミングで、当選者はブッシュ大統領と一緒に出てくるとしたらどんな立場から発言が可能なのでしょう? また日本の総理はどんな日本国内の政治状況下で出席されるのでしょうか?

「エタノール燃料」は投資家の「希望の星」から「カス」に急転

2008-10-22 | 環境・エネルギー・食糧
2008-10 No.21

本日のFTの第一面には「エタノール・ブームは蒸発」という記事が目を引き、別の紙面を割いて大きな特集記事が組まれています。その見出しは”From hope to husk”(希望の星がいまやとうもろこしの皮のようなカスと化した)です。

一時は米国の農家の窮迫、大気汚染、輸入石油依存といった問題に対する切り札としてもてはやされた「とうもろこし」を原料とするエタノール産業の2005年からの株価ブームは完全に破裂したといえます。(boom and bust)

上場エタノール製造会社のうち大手6社の株価総額は、06年のピークに較べると850億ドル(8.5兆円)が失なわれたものとFTは算定しています。06年からのブームは石油精製業に対してバイオ燃料をガソリンに混合を義務付けた05年の立法によって始まったのです。

この時価総額の喪失はピークに較べると90%にも達しており、破裂の巨大さが際立っています。ビル・ゲーツ氏のエタノール燃料会社への投資を行うPacific Ethanolも巨額の損失を記録しているようです。

エタノールを混合する精製会社にはすでに、112億ドル(1.12兆円)の税制上の恩典が与えられており、エタノール製造産業には連邦・州ベースで800億ドル(8兆円)の助成金が支払われています。

こうした措置を取るにあたってその理由とされてきたのがエネルギーの自給率向上であったのですが、今となっては幻滅のタネでしかなく、さらに悪いことにバイオ燃料は世界の食糧価格急騰の元凶として非難の対象となってしまったことです。

地面に置かれたとうもろこしの写真につけられたキャプション:「地に帰る(Back to earth)」・・・・エタノール生産のために米国の1/4のとうもろこしが消費され、そのコストは納税者に。


中国の成長率鈍化 Below most pessimistic forecasts

2008-10-21 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2008-10 No.020

中国の第3四半期の経済成長率は9%に急減速しこれまで5年間続けてきた二桁成長が予想を超える低い水準へと鈍化しました。「この9%の経済成長率は中国にとっては問題だが世界から見ればまだうらやむべきレベルである、一方昨年の12%からの急降下と見るならば、それは世界全体の大問題だ」と、FTが論評しています。

数ヶ月前までは、中国経済の好調の「余波」は世界中に及んでいました。商品相場の急上昇は言うに及ばず、上海の高級ブティークの繁盛振りまでもがその効果(the ripple effect)であったわけです。

いまやその勢いに変調が見られます。中国国内の建設需要の減退によって鋼材価格はつるべ落としに下落しています。2007年には年率25%で延びた自動車の売り上げも、来年は横ばいとなる予想です。昨年同月比でみても輸出は各品目押しなべて減少しています。ただでさえ貯蓄率の高い国民(nervous householders)はますます貯蓄にお金を回しています。

しかし中国は先進諸国が景気刺激策に有効打を撃てないなか、いくつもの政策の選択肢を保持しています。金利の引き下げを最近二回にわたって行いましたが、さらに減税や公共投資の増額といった流動性増大策も打つことができるのです。そして銀行の預金準備率も引き下げることができますし、不動産売買規制も緩和することとなるでしょう。

また繊維製品の輸出税の引き下げを行えば、繊維工業は輸出産業として復活して雇用創出になります。ただこれは低付加価値産業からの脱却を図ろうとしてきた国策の修正となりますが。一方鉄やニッケルなど鉱物資源の輸入代替を図るための鉱山開発に注力をしてきているので、こうした国内経済刺激策を実行しても原料輸入需要のレベルが維持されるという状況は考えにくいところです。

経済専門家の間でもこの減速が一時的なものか(a breather)、長期的な下降の始まりか(a long slide)についての見方は大きく分かれています。FTの見出し”China’s growth returns to earth”(成長率は現実的なレベルへと落ち着いた)がそのあたりの雰囲気を伝えていますし、「景気浮揚策は総論にとどまっているところを見ると中国政府当局はまだ真剣に心配していないようだ」というところでしょう。

いよいよ実体経済が US’s worst recession in 26 years

2008-10-20 | グローバル経済
2008-10 No.019

FTは大胆に「米国は26年ぶりの最悪のリセッション入り」と報じています。米国政府高官は「景気後退は厳しいものとなるが、大恐慌の再来は無い」といまだに自信を持っているようですが、「1982年以来最悪のリセッションは避けられないと覚悟している」との報道です。しかし「どの程度の後退でおさまるのか、何時まで続くのかについてはまったく予想もつかないのが正直なところ」ともコメントしています。

しかしその程度については、2001年(ITバブル崩壊後)や、1990-1991年(S&L危機)の際の後退をはるかにしのぐものになるのは確実との見方は一致しているようです。そして失業率は1992年の7.5%くらいではないかとも観測されています。いまや景気の悪化が1982年ほどのものにならぬことを祈るばかりだとのセンチメントが立ちこめているようです。

また元地方連邦銀行の総裁の一人は、今回の景気後退について「いつか振り返って、あれは戦後最悪のリセッションだったなと語り合う可能性がある」と言っています。確かに政府は、70兆円に上る公的資金の注入による対策を打っていますが、その効果はこれからの話です。公的資金の注入が財政圧迫要因となって、消費者心理をさらに冷やす危険もあります。それに現在の貯蓄率は0.2%に過ぎないのです。デフレが終わりインフレの危険もあります。

一方、さらに金利の引き下げを行っても、すでに1.5%まで下がっているので、金融政策の効果は限定的です。万一70兆円の救済資金が十分な効果を生み出さなかったら、民主党からの失業対策としての追加の財政支出への圧力が高まることでしょう。

金融界救済から実体経済へと問題の焦点が移動してきました。

シリコンバレーの暗雲と墓銘碑 “RIP good times”

2008-10-20 | IT・科学技術
2008-10 No.018

金融危機の影響がシリコンバレーに急速に広がっており、設立間もない会社でも解雇が広がっています。まさに2001年のドットコム・バブル崩壊を彷彿とさせる暗雲がバレーに立ち込めているさなか、前の失敗は繰り返さないぞとばかりに、起業家たちは楽観主義をかなぐり捨てて、首切りをどれくらい多くまた迅速に行っているかを競い合っているとのことです。

「とにかく採算分岐点を越すよりこの難局をしのぐ道は無い」といいながら、100名の従業員のうち40人の首切りを断行した経営者の談話をFTが報じています。また最近カリフォルニアのベンチャー・キャピタリストが、出資先のトップを招いてセミナーを実施しましたが、そのセミナーの冒頭では「よき時代よ安らかに眠れ」”RIP(Rest In Peace)good times”という墓名碑が刻まれた墓石のスライドで始まるプレゼンテーションを聞かされ, 「今日この日から使う1ドル札は、最後の一枚と覚悟せよ」と説教されたということです。またある経営者は、同業の中では約半分が、ここ半年から一年持たないだろう」といっています。

来るべき大不況を乗り切るには、切るだけ人を切って身丈を低くして、暴風をしのぐより他ないとの決意が伝わってきます。

ヘッジファンドは金融界のガラパゴス“the Galapagos islands”

2008-10-19 | グローバル企業
2008-10 No.017

最近の調査によると今年の7月-9月期にヘッジファンから約3.1兆円流出し、その残高は約1.7兆ドルに収縮したとのことです。このことに関連して、18日のFTのコラムではヘッジファンドがそもそも特殊な「生態系」(eco-system)のなかでの隔絶された条件下で進化したこと、そしてその生態系が壊れていることを解説しています。

ヘッジファンドは、金融界のほかのファンド部門たとえば株式ファンドなどと異なって3つの利点をもっていたのです。それらの第一は「空売り」(short-selling)ができること、第二に「借り入れ」ができること、そして第三に「投資家の資金引き上げの制限」ができることです。ですから、2000年のインターネットバッブルがはじけたときも、ヘッジファンドは生き延びることができました。

しかし、今回の金融危機が始まった昨年の7月以来堅調に業績を推移させていたヘッジファンドも、政府系住宅金融会社ファニー・メーやフレッディー・マックの国有化による救済が始まったころから変調が始まりました。

ヘッジファンドは、投資戦略を銀行株を空売りし、エネルギー関連株を買持ちする(the 'long oil short banks'trade)ことへ大きく傾斜させていたところに、原油価格をはじめとしたエネルギーバブルの破裂が起こりました。このように戦略が完全に裏目にでたところに、投資の満期が来ていっせいに資金を引き上げられたために上記の3.1兆円の流出となったというわけです。

さらに追い討ちをかけたのが、レバレッジ資金に対する融資環境の激変でした。ヘッジファンドへの主要な貸し手であった「今はなき投資銀行」からの貸し出しはさらにタイトになって来ていたのは当然のことであり、レバレッジ資金の金利上昇は大きな痛手でした。

そして息の根を止めたのが米国をはじめとする主要国で行われた金融株への空売り禁止令です。これによってもはやヘッジファンドの「ガラパゴス環境は消失した」のであり、「適者生存の法則」で進化することはできなくなったということです。

ヘッジファンドの手仕舞いは最近の株式下落に拍車をかける状態となっています。東京の利付変動国債価格の急落も、ヘッジファンドのポジション調整の犠牲者ともいえます。これをFTの別の記事では「ヘッジファンドのパニック」(hedge funds’ panic)と表現しています。

利付変動国債はほとんどが銀行によって消化されていますから、日本の銀行にとっては「災危」というべき事態で、声高に「時価会計(mark-to-the market)の凍結」の声が高まってくる背景となっています。

ヘッジファンドは、ガラパゴス環境から放り出されて、また力強く再生してくるのでしょうか・

新ニュー・ディールの導入 The new New Deal

2008-10-16 | 米国・EU動向
2008-10 No.016

本日のFTは一面を割いて、米国における大きなパラダイム変化を分析しています。

共和党政権による金融危機に対する緊急対策は、市場経済を宗とするAmerican capitalismの終焉であり、「大きな政府」(the return of big government)の時代への回帰、すなわち大恐慌のときにルーズベルト大統領が導入したニュー・ディールの再来ではないか? 

金融機関に対する公的資金の注入決定に際してのポールソン財務長官の言葉―objectionable but necessary(いやだけれどやらなければいけない)が、「小さな政府」を標榜してきた共和党の苦渋をみごとに表しています。
 
大統領選の中でも、マケイン共和党候補ですら「ウオール・ストリートの貪欲」を攻撃することにかけてはオバマ候補に引けを取らないのが現実です。また世論の動向を見ると、「規制撤廃」(deregulation)はもはや金融危機の原因として非難の対象でしかなくなり、何らかの規制強化による金融界の規律回復はもはや常識と化した感があります。

オバマ政権が誕生すれば、政府の財政出動による公共工事などの推進を行い、需要創出による所得の再分配を行うニュー・ディール政策が導入されるかどうかを別にしても、健康保険を国民皆保険とする改革が行われことはまず間違いないと予測されます。

アメリカ人をアメリカ人たらしめている「自由と自己責任」、「市場原理主義」から決別し、「新しい社会契約」の時代に入るのかの分岐点にあるのが現在の米国の状況だということです。

銀行家の辞書にはない言葉、それは「Sorry」

2008-10-15 | グローバル企業
2008-10 No.015

FTは昨今破綻した金融機関のトップから謝罪の言葉が一度たりとも発せられないことを話題にしています。銀行家が語るのを聞いていると、エルトン・ジョンが「Sorryは一番難しい言葉:Sorry seems to be the hardest word」と歌っているのはずばり正しいのだとつくづく思うといっています。

リーマンのファルド氏は先週議会に召喚されたとき、「銀行が破綻したのはメディアから規制当局者までみんなに責任のあることだ」といいながら、ついに自らの非は認めず、「やれることはすべてやった」というのみでした。そして謝罪めいたことを言ったのは、『ひどいことが起こったとは思いますが』のひとことだけであったと伝えています。

ドイツのコメルツバンクのトップも、errorは認めましたが、ついに謝罪はありませんでした。間違いは認めても自分の職業人としての資格を無にするようなことは口が裂けても言わないということです。

北海道拓殖銀行の旧経営陣がテレビ記者会見で頭を下げて謝ったのとは好対照を成していると論評していますが、やはりあやまらないのは、後でそれがもとで訴えられたり、訴訟に不利になったりすることをおそれているのだと分析しています。規制当局の責任者も訴えられることをおそれているので、まったく同じ行動パターンを取ルのは当然です。

見出しをそのまま写すと:
"Sorry not a word in Bankers' vocabulary"です。