世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

日本国債格下げは菅政権に朗報 Silver Lining for Kan

2011-01-28 | 世界から見た日本
2010年1月28日(金)

民間債権格付会社のS&Pが日本の国債を、一段階引き下げてAA-とし、その信用度を中国と同一レベルにおいた。

だが誰も驚かない。そしてFinancial Timesは、菅政権にとっては、この格下げこそ、空を覆う借金漬け地獄の日本国の「黒雲」にも、裏側に太陽に照らしだされた「銀色の裏地」(silver lining)が必ずあるがごとく、「力強い後押しだ」と論評している。

理由は、国内の政争が続き、5年間に5人の首相が入れ替わる日本で、GNPの2倍の借金を抱える財政問題が、結局は二の次にされ財政再建が進捗しない現況を打開するための「格好の外圧」だというわけだ。

外貨準備も世界第2位、国債を保有するのはほとんどが貸し手を失い国債を買うしかない国内金融機関という日本が、ギリシャ型の財政破たんから金融危機に進むシナリオはすぐには想定されていない。S&Pは、「そこまで行くにはあと5年」あると担当者に語らせている。

ねじれ国会で予算案を通過させることが極めて微妙なときに、日本の財政問題を海外の格付け会社にその意味を教えてもらって、それをてこに政策運営を行うのはいつものデジャヴューである。

その政争の渦中にいる与謝野財務大臣が、FTのインタビューに答えて「このような財政改革の実現にはリーダーの強い意志が不可欠だ」("To realise such a reform, the strong will of the leader is indispensable,")と語っている。そうだ。日本にないのは金ではなく意志の力(will power)だ。



オバマ大統領、教育と技術への傾斜 “No room for Second Place”

2011-01-27 | 米国・EU動向
2011年1月27日(木)

火曜日に行われたオバマ大統領の一般教書(the State of the Union)演説はその大半を内政問題に重点を置き、財政支出の凍結を公約することによって共和党との和解を図り、教育と技術開発への重点投資を軸に米国の産業を再生させて雇用の創成を図ることを高らかに宣言した。

その対立軸には軍事ではなく、教育と技術力によって米国を追い上げる中国・インド・韓国といった新興国を挙げた。そこに日本の名前は言及されていない。

演説直後のCNNによる世論調査では、82%という高率で米国民はこの一般教書演説を支持している。昨秋の中間選挙で大敗を喫したオバマ大統領にとってまさに起死回生の賭けは大成功となった。「核なき世界」でも、「アフガン勝利による米国の大義」でもなく、「技術革新」(innovation)がキーワードとなった。

さて米国庶民の反応を見るには、”US Today”を読むのが手っ取り早いが、本日の同紙の一面は、オバマ大統領が早速ウィスコンシン州にある、太陽光発電設備会社や、風力発電設備会社を訪れて、米国民の「技術革新」への取り組みを鼓舞する演説を行ったことを報じている。

大統領いわく、「これらのハイテク会社こそ米国に雇用機会を提供し、未来に勝利(win the furure)をもたらすものだ」「この技術革新ゲームへの賭け金をぐっと上げよう」("We've got to up our game,").

そしてレンボー氏にはぜひ聞かせたい言葉がオバマ大統領から出た。アメリカンフットボールの有名コーチの言葉を引用しながら、「二位なんてものはない。わがゲームの居場所はただ一つ。それは一位だ」("there is no room for second place -- there is only one place in my game, and that's first place.")

大統領は続けて、「この決意こそがまさに我々が必要としているものだ」と、「さあ今こそ世界にこれを示そう」と格調の高い言葉が続く。そして、50年前に米国がソ連の技術の前に屈した屈辱のスプートニクショック( "Sputnik moment" )を乗り越えたようにというわけである。

工場見学を終えた大統領が発した言葉は、"the plant is just very cool."(工場はとてもかっこいいね)。


オバマ・胡会談は米中摩擦を「再確認」した Fractious Bilateral Ties

2011-01-20 | グローバル政治
2011年1月20日(木)

訪米中の胡錦濤は、現地水曜日、今から数時間前に、オバマ大統領との首脳会談に臨んだ。

しかしその直後の共同記者会見では、会談が両国間に存在する多くの問題、すなわち人民元の切り上げ問題、チベットをはじめとする人権・宗教・人種問題、ノーベル平和賞をめぐって衆目を集めることとなった表現の自由問題について、その解決より、その存在を再確認するという皮肉な結果に終わった。

特に人民元の相場に関して、オバマ大統領は人民元価値の適正評価に関する「中国政府の対応を不十分」と不満を表明し、一方胡主席は、「相場を人為的に操作しているとの非難は事実無根」と反論した。人権問題については、「普遍的価値」に則る対応を求める米国に対して、中国は「国内問題」への干渉と反論した。

一方、対中国貿易不均衡にいら立つ産業界や、失業に悩む国民に会談成果を強調したいオバマ大統領は、ボーイングの航空機を中心とした総額4兆円に上る大型商談がまとまったことを発表し、米国雇用の拡大につながっていることをアピールしたが、さしたるメディアの反応を得られていない。

オバマ大統領は、中国の目覚ましい経済発展を、「中国国民の努力の成果」とし、それを支えたのは、「東アジアの軍事的安定をもたらした米国の軍事力の展開」であったと、米国の論理をむき出しにした称賛となった。

ホワイトハウスのこうした対応に比べて、とりわけ厳しい反応を示したのは米国議会の4人の幹部議員である。彼らは胡主席を、人権「弾圧」を行う「独裁者」(dictator)と非難して、公式の歓迎夕食会をボイコットしたのである。

Financial Timesが使った両国関係を示す表現は、”Fractious bilateral ties”である。「一筋縄ではいかない米中関係」と訳すべきか

FT景気予測:今年の世界景気はさえない「蟹の横這い」 The Crab

2011-01-03 | グローバル経済
2011年1月3日(月)

Financial Timesの市場論評欄LEXの景気予測が面白い。同紙は年末に今年の予測シナリオ3種を各々の確率を付けて発表したのだが、いわく、断定的な予測が横行したリーマンショック前を反省すると、確率付きのシナリオ提示が良いのだと。

まず蟹の横這い(the crab)シナリオ。これは「経済ニュースの動向に敏感に反応しながら今年の延長上の展開になる」というシナリオ。各国政府は景気刺激策を優先し、中国経済は高成長基調を続けて、その結果世界景気は2008年の危機からよたよたながらも回復(a continued slow and messy recovery)していくだろうというもの。足を引っ張るのは、企業・家計部門の借入による投資意欲の減退(deleveraging)、米国住宅投資の後退と金融引き締めであるとする。そのシナリオの生起確率は70%。

次の崩壊(Disaster)シナリオは、米国政府の赤字財政政策に失望した国債市場が見放すというもの。そして、国債格付けが米国や欧州の銀行の信用維持の役割を果たさなくなり、資産価格は、2008-2009年のレベルより下をうかがうところまで急落する。この確率は20%。

さいごの上昇(Lift-off)シナリオは、「米国消費が上昇に転じ、中国への投資が上向く」場合。株式市場へお金が流入し、株価が上昇する。国債投資家を除いて投資家は喜びに沸く。こんなことが起こる確率は10%だろうと予測する。

いずれにせよ、鍵を握るのは国債市場と中国経済であり、この両方が健全であれば世界経済は大きな問題から解放される。米国市場の取引高が高水準で推移し、住宅価格が値崩れしないことが成長シナリオのカギとなる。さもなければ情報に一喜一憂して資産を漁って右往左往する蟹の横這い状態が続くことになるというのが、LEXの託宣である。

市場間の相関性は健全であり、市場センチメントの動きに合わせて行動する投資家のためのカネには事欠かない、よって大やけどをする人もいないと予測する。今年はさえないが可も不可もなしということである。