世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

オバマ大統領のイノウエ上院議員への弔辞:A Powerful Sense of Hope

2012-12-25 | 米国・EU動向
米上院歳出委員長で、民主党の重鎮、ダニエル・イノウエ上院議員(ハワイ州選出)が17日、88歳で逝去した。1924年、福岡県からハワイに移住した日本人の両親の間に生まれた日系2世で、第2次大戦中、日系人部隊に参加し、その功績は、偏見を受けていた日系人の存在を米国内で高めた。1959年に下院議員に当選以後、上院に転じ50年間議員を続けた。

葬儀には、オバマ大統領、クリントン元大統領が参列し、弔辞を述べたが、オバマ大統領はその11歳の少年時代にイノウエ議員の演説に衝撃的な感動を受けたことが、政治家を志すようになった理由だとの回想を披露した。

大統領のブログからその弔辞の重要な一部を紹介してみよう。

『白人の母親と、黒人の父親の間に生まれ、インドネシアとハワイで育った私は、そのころ、この世の中にどう合わせて行くかは見かけほど簡単ではないと、考え始める年頃だった。そんな時にこの人が現れた。並外れた戦功を引っ提げて、社会の片隅から力強くのし上がってきたこの人は、いわゆる上院議員のイメージからはまったくかけ離れていた。しかしこの人が(日系人というハンディを乗り越えて)全米の人々から尊敬を集める様を見て、私が人生で何ができるかということを教えてもらった気がしたものだ』

(Now, here I was, a young boy with a white mom, a black father, raised in Indonesia and Hawaii. And I was beginning to sense how fitting into the world might not be as simple as it might seem. And so to see this man, this senator, this powerful, accomplished person who wasn't out of central casting when it came to what you'd think a senator might look like at the time, and the way he commanded the respect of an entire nation I think it hinted to me what might be possible in my own life.)

オバマ少年の心を打ったのは、太平洋戦争中敵性国民として、強制収容所に収監されるという国家の裏切りにあった日系人の一人であったにも拘わらず、米国の民主主義の理念を信じて、欧州戦線に従軍し、片腕を失いながら大きな勲功を立てた一人の人間の姿であった。オバマ大統領はその時の感動を、『言葉にはできなかったが、心に希望の光が強く差し込んできたのだ』と心を込めた言葉を贈った。

(A man who believed in America even when its government didn't necessarily believe in him. That meant something to me. It gave me a powerful sense -- one that I couldn’t put into words -- a powerful sense of hope.)

イノウエ議員の、差別と闘いつつ政治的信念を貫徹した人生に、自らを重ね合わせたオバマ大統領の弔辞は素晴らしい。

安倍氏、日銀に「最後通牒」 Japan’s Abe issues ultimatum to BoJ

2012-12-24 | 世界から見た日本

「間もなく6年間で7人目の首相に就任する安倍氏は、日曜朝のフジTVに出演し、長く続くデフレ脱却のために日銀に、これまでにはない積極的な金融政策を取らせる」との決意を公にした、とFinancial Timesが、週末の電子版で伝えている。

曰く、『もし日銀が1月の政策会議でインフレ目標を現在の1%から2%に政策変更することを決議しなければ、日銀法を変えて日銀の在り方を変更する』と。白川日銀総裁は、「国債の日銀買い取りによって財政規律に対する信頼が揺らぎ、国債利回りが上昇し、ますますその償還が困難となる」ことを警告したが、安倍氏は、『同総裁の4月の任期切れで更迭し、政府の意のままに、金融緩和を積極的にすすめる人物を選ぶ』と強い決意で応じたのである。


1998年に施行された日銀法では、日銀は物価安定のための金融政策を政府と緊密に連携して取ることとしているが、その方法・時期は、日銀の専管事項であるとその独立性を担保してきた。ここにきて、『失われた20年』からの脱却を目指す安倍政権は、日銀の金融政策、通貨政策の自由度を奪うことを宣言したものといえる。


「アベノミクス」反対派は、労働人口の減少と、経済活動に関する過剰な規制がデフレと低成長率の原因であって、日銀に通貨膨張策を取らせて、公共工事投資に資金供給しても成長を回復させることはできない、すでに国民総生産の2倍の負債を抱える日本政府の信用を毀損させることにしかならない、と強い懸念を示している。この懸念を具体的に言えば、ハイパーインフレと、国債の大暴落である。



アベノミクスの前提には、民間銀行が無限に国債を買い続けてくれることが前提になっている。BIS規制でがんじがらめに手足を縛られていることを理由に、国内産業活性化、ベンチャー育成のための金融に工夫も意欲も失った日本のバンカーは、国債を買って収益を上げることに専心してきた。白川総裁は、有効な通貨・金融政策を打ち出せないまま、政府に屈服した中央銀行のバンカーとして歴史に名を残すことになる。

ところで、FTが使ったUltimatumという言葉は、『最後通牒』ということである。外交・軍事用語として、『いうことを聞かねば攻撃する』とのいわば宣戦布告と等価の強いものである。政府と中央銀行の関係は一夜にして変わった。

「善玉ガンマンを学校に配備せよ」全米ライフル協会声明 A 'Good Guy With a Gun' in Every School

2012-12-22 | 米国・EU動向
またまた起こった米国における学校での銃乱射事件。26人ものの人命が無残にも奪われて全米ライフル協会(the National Rifle Association:NRA)の反応が注目されていたが、協会会長と副会長の二人が、金曜日に記者会見に応じた。

その言葉は、われわれを驚かせるに十分であるが、さすがの銃社会の米国民も、多くは反発するか当惑気味であるとNY Timesが報じている。

副会長いわく、「全米各校に武装警備員を配備すべきだ。武装警備員がいたら防げた事故だったのだ。本当に責められるべきは銃ではなく、暴力をあおるTVゲームであり、ニュースメディアであり、弛緩した警察力だ。」

副会長が、「悪玉ガンマンを止められるのは、善玉ガンマンしかいない」といったところで、その言葉は抗議の声にかき消されたという。こうしたNRAの言説は、多数の学校関係者、警察当局者、政治家各層から、「笑止千万、正気の沙汰にあらず」と受け止められていると、NYTは報じている。

副会長は、「あらゆる銃規制の訴えに耳を貸すつもりはない」と言い放ち、二人は、記者団からの「オバマ大統領と、今後話し合っていくのか」という質問を無視して、会場をそそくさと立ち去ったという。

米国では銃を持つことは国民の権利であることが、憲法で保障されていている。そして身分証明書さえあれば、すぐに重火器まで購入することができる社会である。これからもこの状況は変わることはないだろう。



ちなみに、市民の武装による自衛権を認めたものされている米国憲法修正第2条を、次に掲げて置こう:

"A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State, the right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed." (修正第二条 規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保蔵しまた携帯する権利は、これを侵してはならない)

米国憲法は、1788年に独立13州の批准を経て成立したが、英国の権利章典に照らして、国民の権利保護が十分でないとする批判が相次ぎ1791年に10ヶ条の修正が追加された。米国人はこの修正10ヶ条を自分たちの「権利章典」(Bill of Rights)と呼んでいる。しばしば映画やニュースで、耳にする表現に、"Take the Fifth"がある。これは修正第5条に定まれた諸規定のうち「黙秘権」を行使するという意味である。現在米国憲法には27ヶ条にのぼる修正条項が存在する。