世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

オバマの住宅ローン地獄防止策 ‘Plain-vanilla Rules”

2009-06-30 | 米国・EU動向
2009年6月30日(火)


今週月曜日、NY連邦地裁では、元Nasdaq会長Bernard L. Madoff(71)が、巨大なねずみ講(Ponzi scheme)を動かして、20年以上にわたり多数の投資家を欺き、6.5兆円の損害を与えた罪で、150年の禁固刑を科すとの判決が下された。また、NYでは、さらに一件の巨大ねずみ講に絡んだStanford事件が立件され、裁判が開始されている。これらは、摘発されても、されても尽きることのないねずみ講の典型である。

一方、オバマ政権は、全世界で、400兆円以上の連鎖損失が発生する原因となったサブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)のように、ローンの条件をよく理解しないままに、実際は返済不能に陥る危険性が高い借り入れ契約をして破綻する悲劇から、一般消費者を保護する政策の導入を模索中である。

新たに新設が計画されているのは、Consumer Financial Protection Agency(消費者金融保護庁)で、貸し手が、複雑な仕組みを十分消費者に説明しないまま、初期の低金利(a lower introductory “teaser” rate)や極端な返済の逓増方式で消費者を釣ることを禁止することなど、住宅ローンに関する監督機能をもたせようというものである。

特に、消費者の理解を意図的に妨げる複雑な、融資契約条件を原則禁止にしようとしている。これをPlain-vanilla Rulesと呼んでいるが、単純明快な条件提示をバニラアイスクリームにたとえたものである。

The Wall Street Journalが、漫画入りで解説する、住宅ローン契約のバニラアイスクリーム方式とは、①銀行は、借り手の年収証明書を確認する、②繰上げ返済を認める、③税や保険料がかかることを明記し、引き当て勘定を設定する、④借り入れ期間、返済日、金利条件、商用費用を全面的に開示するとなっている。常識的には、金銭の貸借では当たり前のことを、ことさらPlain-vanilla Rulesと呼ばなければならないほどに、サブプライムローンは、ある意味できわめて不透明であったことを、公式に認めたということである。

そして、この解説記事の見出しは、”Plain-vanilla rules could melt bank profits” 「プレーンバニラルールは、銀行の収益を圧迫する可能性あり」となっていることがすべてを物語っている。(ここで動詞にmelt「溶かす」を使ったのはアイスクリームに掛けた言葉遊びである)



イラン、「英国を倒せ」をスローガンに Down with England

2009-06-29 | グローバル政治
2009年6月29日

イランと英国の関係は、イランの大統領選挙後の混乱の中、日々険悪化している。まず、BBC放送のテヘラン駐在員を追放、続いて大使館のNo.2とNo.3の書記官を追放し、ついに「騒乱を煽動した」として8人のイラン人現地大使館員を拘束した。これに対して、英国政府はもとより、EUも、嫌がらせ(harassment)と脅迫(intimidation)であるとして、共同で強い対抗措置(a strong and collective response)をとるとの警告を発した。

イラン政府は、ハメネイ最高宗教指導者の支持を得て、選挙結果の「公正さ」を主張し、抗議行動は、「外国勢力による内政干渉(foreign meddling)によるもの」として、海外からの非難を意に介さない態度をとっている。そして、今回は特に英国に照準を合わせた反論と直接行動をとった。英国とイランの確執は、戦後すぐにさかのぼるが、英国が常にイスラエルの擁護者であることから、反イスラエル活動の中心をなすイランは、ことごとく中東政策で対立してきた。

先週金曜日の恒例の礼拝日に、ハメネイ師は、英国をもっとも邪悪な国家”the most evil country”と非難し、「米国を倒せ」のスローガンに、「英国を倒せ」(Down with England)というスローガンを加えるようにと信者に指示したのである。

今回イランが英国の行動に神経を尖らせている理由を探してみると、最初にBBC駐在員の追放に始まったことに鍵がありそうである。直接の原因は、BBCが、連日現地からの報道を全世界に報道し、街頭取材の禁止以降は、YouTube画像を使って、騒乱の様子を克明に放送したことである。そして、この裏には、1月に、BBCが、ペルシャ語によるTV放送を開始したことが、いたくイラン当局を刺激し、対抗措置として、テヘランのBritish Councilの閉鎖を命令した事件が伏線にある。

そして、今回8人の外交特権を持たない大使館員の逮捕に至ったのであるが、逮捕・拘束されたものの中に、イラン政府の内部状況に詳しい非常に高名な専門家が含まれているとの報道である。イラン政府はこの人物から、英国大使館を遮断したかったのである。

1979年に、米国大使館が占拠され、長期にわたって、大使館員が人質になった、米国にとってはいわば国辱となった事件を想起させられる。現在英国大使館員の家族は全員帰国している。テヘランの中心部の英国大使館は、2.5メートルの壁に守られているが、緊張感は消えないことであろう。

オバマ、医療保険改革断固進めよPolicy Wonk & Post-Partisan

2009-06-28 | 米国・EU動向
2009年6月28日(日)

ノーベル経済学賞受賞のポール・クルーグマン(Paul Krugman)教授は、リベラルな主張と、民主党支持で知られた論客である。The New York Timesに定期的なコラムを持つとともに、ABC放送の辛口討論会でも舌鋒鋭い持論を展開している。その同氏が、最新のコラムで、「大統領、やる気が足りませんよ」(Not enough audacity)との見出しのもと医療保険改革での腰砕けは破滅のもとになると、強烈な苦言を呈している。

米国の医療保険は、GMなどの大企業が運営する保険制度を持っているのは例外で、普通の人は、民間の保険会社に個人加入することが基本になっている。公的な制度としては、老齢者向医療保険制度Medicareと、生活保護者向けのMedicadeがあるが、これらの自助保険や公的保険から、保険料が払えずはみ出した「無保険者」が、全人口3億人のうち46百万人もいる。国民皆保険化(universal care)は、民主党政権の悲願とも言うべきものであるが、医者をはじめとする医療機関、製薬会社は既得権の侵害を恐れて、強烈な反対運動を続けており、「皆保険は財政破綻を起こす、’大きな政府’による悪政」と主張する共和党の反対の原動力となっている。

クルーグマン氏は、このところのオバマ大統領の姿勢を見ていると「二人のオバマ大統領」が同居しているように見えると分析する。ひとりは、”Barack the Policy Wonk”。もう一人は、”Barack the Post-Partisan”。前者はいわば、見ていても聞いていても好感の持てる「政策へのこだわり」を見せるオバマ。後者は、対決回避型、足して二で割ってことを収めようとする、「論敵におもねる」オバマである。この「妥協型オバマ」は、先般の金融安定化法案がかろうじて3票の共和党員票で上院を通過したあたりから出現したと、クルーグマン教授は解説する。

「政府管掌の方が、民間の保険に比べて、人員効率もよく、医薬・検査料も安くする交渉力でも勝っていることは、これまでの実績から明らかである」ならば、オバマ大統領は自信を持って、財政面での問題を論ずればよいのだ、とクルーグマン氏は説く。「もし公的保険が、非能率だと非難するなら、民間は、政府管掌保険と競争すれば必ず勝つはずだ。官業による民業圧迫・駆逐というのは論理破綻」といなせば済むことだ、と続ける。

クルーグマン教授は、大統領よ、民主党よ、「医療改革は、成功させねばならぬ。(to be done right) 耳障りのよいことばかりいうのはそろそろやめにして、歯を食いしばってがんばれ(Hang tough!)」と活を入れて、コラムを締めくくっている。


麻生おろしという「内なる敵」 Open rebellion from within

2009-06-27 | 世界から見た日本
2009年6月27日(土)

自民党と麻生首相に対する、世論調査結果によると、支持率が急落して「危険水域(falling toward dangerously lows)」まで落ち込んでいるため、「彼が総選挙をやれば歴史的大敗北を喫する(heading for a historic defeat)のは必至」との恐れが広まり、自民党内部から(from within)「麻生おろし」の動きが急になってきたことをFinancial Timesが報じている。

麻生氏自身の不人気に加えて、政権の足を引っ張るのは、二つの献金疑惑(the recipients of improper political donations.)である。ひとつは、商品先物取引会社の関連政治団体から迂回献金を受けていた疑いをもたれている与謝野経済財政・金融担当相。いまひとつは、代表を務める政治団体のパーティー券を西松建設が購入していた疑いをもたれている二階経済産業相。

また、麻生総理が、役人の天下り(amakudari, or “descent from heaven”, the practice of parachuting retired senior officials into jobs at publicly funded organisations or private companies)禁止するための立法化の動きから身を引いてしまった時点で、棚橋元科学技術担当相は、すでに退陣を要求しているが、「来週何もしなければ、行動を起こす」と宣言している。

こうした「麻生おろし」の急先鋒である棚橋氏などを中心として、「10月の総選挙前に、自民党総裁選を実施すべし。あたらしい総裁の選出以外に自民党のチャンスはない」との党内世論が強くなっている。そして、党内の国会議員はとみに、解散・総選挙の可能性が日に日に高まるのを見て、落ち着きを失っていて(restive)、反麻生勢力は、100人を超えているとの声もきこえてくる。

そして、自民党の命運を決める7月12日の都議選が近い。しかし「反麻生」はあっても、「麻生後」が聞こえてこないのが、自民党の実態である。


トヨタ大政奉還 Toyota chief pledges shake-up

2009-06-26 | 世界から見た日本
2009年6月26日(金)

創業者豊田佐吉の時代以来の最大の危機に直面する、いまや世界最大の自動車メーカーとなったトヨタ自動車で、佐吉の孫に当たる豊田(Toyoda)章男氏が、正式に社長に就任した。トヨタは、2009年度4,370億円、今年度8,500億円以上の二期連続の赤字を計上する。新社長は、来年度の黒字転換のために「できるだけの手を打つ」(promised to do everything possible)と記者会見で語ったとFinancial Timesが東京発で報じている。

そして、新社長は、黒字転換のためにいくつかの改革(shake-up)を断行することを明らかにしたが、まず本社への「中央集権」(its centralized structure)からの脱却を上げた。この経営手法が、トヨタの新興市場での動きを悪くした(held back in emerging countries)のだとの反省の弁とともに、日本・米国・欧州,新興国の4地域に分割して、4副社長にそれぞれを、より大きな権限を与えられて経営させるという「分権化経営」に転換することを宣言した。

これまでのトヨタの「米国大型市場の偏重戦略」は、米国市場の崩壊に直撃され、一方インド・ブラジルではシェアを3%しか取れなかったという事実に現れた「新興市場軽視」は、新興国市場では「果実の逸失」という形で跳ね返った。そして結果として未曾有の巨額赤字をもたらした。

この過ちを正すために、「世界一律の全車種供給」による「規模の利益」追求型の画一経営をやめ、「個々の市場に最適の限定した車種を供給する」方針に転換することも明らかにした。

豊田章男新社長は、「嵐の中での、どん底からの船出」“beginning our voyage in a storm” “starting from the lowest point”と自らの状態を記者会見で表現した。トヨタは、今期ですべての悪材料を出せるだけ出してしまい、「豊田丸」は、船倉の隠れたごみまで完全に清掃がすんだ状態での出発の準備ができたということでもある。

「大政奉還」後の、「五箇条のご誓文」によれば、王政復古後は中央集権ではなく、地域分権の政体となるということである。トヨタのあたらしい「グローバル戦略」の成否が大いに注目される・


ロシアの賄賂体質、イケアを投資中止に追い込む Inspectoral Assaults

2009-06-25 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年6月25日(木)

家具小売とショッピングモール開発で、世界的に事業を展開する、スェーデンのイケア(IKEA: 英語の発音は、アイキア)が、今週、「ロシアでの賄賂の強要は目に余り、ロシアでの新規投資は中止する」と表明したことを、The New York Timesが報じている。83歳のイケアの創始者は、会社発表の直後ラジオのインタビューで、「イケアは、問題を賄賂で解決することをやめると決心したのだ」(Ikea has decided not to solve problems by slipping money under the table.)と語った。

ロシアのメジデーエフ大統領も、官僚の腐敗(bribe-seeking officials)は国家的問題であることを認め、その取締りは任期中の重要な目標であるとしている。最近、大統領として、「消防署・保健所による抜き打ち検査(surprise inspections)を禁じ、官吏に自らとその配偶者の収入と資産を公開することを命ずる」法律に署名したことが象徴的である。

こうした警察、保健、環境、税務署、消防などの官庁の権力の不当行使(inspectoral assault)による、企業への「ゆすり」(shakedown)は、ロシア社会で常態化していて、企業活動を阻害していることは、進出した外国企業ではいわば常識であり、こうしたゆすりたかり的「違反摘発」に対抗するためにたくさんの弁護士を雇っているのである。もし目をつけられたら、要求どおり賄賂を払うか、山のような質問状攻めにあって、事実上企業活動が停止せざるを得ないかの選択しか残されていない。

今回のイケアの措置は、外国企業が甘んじて受け入れてきたロシアの現実に対する公然たる挑戦であり、欧米の対ロシア投資に少なからぬ影響を与えることは確実である。国際的に、国家と社会の腐敗を調査して警鐘を鳴らす、Transparency Internationalの「透明度ランキング」によると、ロシアは180か国中、147位に位置づけられているが、外国企業が、賄賂を払うことでロシア事業を継続しているとすれば、今後さらに、それぞれの経営の透明性と説明責任を問われることになる。

プーチンの支配する権力構造のもと経済発展を遂げているロシアであるが、この「ロシア社会に根ざした伝統的賄賂体質」という、「内なる敵」との戦いに勝利できるかどうかが、大きな課題であり、同時に対ロ投資を行おうとする外国企業の試練でもある。


インテル・ノキア連合軍結成Two Big Beasts Together

2009-06-24 | IT・科学技術
2009年6月24日(水)

世界のPCのマイクロプロセッサーの80%のシェアを誇るIntelと、携帯電話市場に最大メーカーとして君臨するNokiaが、次世代携帯型PCの開発で提携すると発表した。しかし、今回の発表では、「何を共同開発するか」に関して具体的な、製品イメージは示されなかった。

Financial Timesは この「両雄(two big beasts)が手を組むというのは、それぞれの市場における地位維持に対する不安が動機なのか、協力してもっとうまく獲物を刈ろうとする動機なのか」と論評している。Smartphoneに代表されるように、携帯端末と小型PCが機能と大きさで接近し、境界線があいまいになってきた今日、「両雄」としておのおの市場のトップだと安穏としてはおれないという状況が、今回の両社の提携の底流にある。

中でもAppleは次世代製品として、自社で内作する(in-house)チップをベースに、i-Phoneよりは大きいスクリーンを持つ「タブレット」を実験中と伝えられている。そして'Mids'と総称される、大きさでは中間に位置するインターネット端末が、多くのメーカーで開発が進められている。

Intelは、2006年に、競合する英国のArm社の設計する携帯用チップに、チップの大きさや使用電力量ではるかに及ばないことが明らかになった時点で、チップ開発プロジェクトを放棄し、5000億円を償却したという苦い歴史を持っている。(現在携帯用チップでは、Qualcomm社とTexas Instrumentが市場を押さえているが、そのチップの設計はArm社のものである) Intelは、2011年の導入を目指して、現在、Atomと名づけられたSmartphoneのチップを開発中であり、その再挑戦の成否が、注目されている。世界最高級の頭脳が集まり、惜しみない資本投下が続く、mobile+computing+brousing分野の競争はますます激しさを増している。

相場回復息切れ Sustainability of green shoots of recovery

2009-06-23 | グローバル経済
2009年6月23日(火)

相場に毎日一喜一憂することは普通の人々にはあまり意味が無いが、大きな変化に注意することは、はやはり重要なことである。月曜日の欧米の市場の後退は、3月後半からの上げ潮ムードに転機が来たことを示しているのかもしれない。ロンドン株式市場の下げに続いて、NYダウは、200ドル以上続落となり、「”green shoots of recovery”の持続性に大きな疑問符がついた」とFinancial Timesは論評している。

Green shootsとは、景気や相場の回復を、緑の若茎が春になってにょきにょき伸びるさまにたとえる言葉であるが、夏を前に投資家は「若茎」の急速な伸びに警戒感を持ち始め、利食いをしながら、安全性(safe haven)を求めて、円・債券に買いを入れはじめたのである。(本欄3月27日記事参照)

月曜日は、株式だけでなく、原油が70ドルを割り、金・銅などの金属相場も、下げている。さらに、今年に入って復調著しかった新興国市場も、最近では下げ基調に入っていて、特にブラジルとロシアの株式と通貨の下げが顕著である。

今回の下げの引き金となったのは、世界銀行の2009年の、経済成長予測の発表であった。従来世銀は、今年の世界のマイナス成長は、1.9%としていたのを、今回 マイナス2.7%と大きく下方修正したことが、「日独の大企業景況感指数が大幅改善した」というニュースを凌駕してしまった。



中国のインターネット規制に米国抗議 Censorship Protest

2009-06-22 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年6月22日(月)

中国政府は、先週Googleに対し、海外サイト検索サービスの禁止をほのめかしながら、「Google中国がポルノサイトへのアクセスを許している」ことを強く非難し、その遮断を指示した。一方、6月はじめには、中国政府は、7月1日以降に販売されるすべてのPCに、特定サイトをブロックできる「Green Dam-Youth Escort」というソフトを搭載してから販売することを、義務付けると発表している。

その理由も、ポルノサイトの遮断にあり、「若者保護」であるとしているが、本当の意図は、政治的には、インターネット上の言論と情報統制にあることは明白である。こうしたフィルターソフトをすべてのPCが搭載していれば、情報操作は政府の意のままになることが懸念されるからである。

一方米国の、インターネット関連企業は、この一連の規制措置は、ポルノ遮断を隠れ蓑にした、外国企業の締め出し(a back-door way of keeping them out of the Chinese market)にあると、米国政府に訴えている。これを受けて、米国国務省は、中国政府に対して、先週金曜日に、公式に、「インターネット上の自由な情報の流れを阻害する検閲」であると抗議を行った。

見逃せない事実は、最近Googleの中国市場におけるシェアが、中国企業のライバル会社に拮抗するところまで成長したことである。また、Solid Oakという米国企業は、Green Damソフトは同社製品のcopyであるとして、PCメーカーに対して使用差し止め通告(“cease and desist” letters)を送ったことを明らかにした。

米中間の通商問題で、米国政府が個別案件に関して抗議をするのは、近来まれである。米国の絶対優位を守り抜きたいとするソフトウェア・インターネット分野であるからこそ、中国の今回の行動には強い警戒感を隠さないのである。

 

オバマ、ついにイラン政府を非難 Stop Crackdown

2009-06-21 | グローバル政治
2009年6月21日(日)

12日の大統領選挙で、現職のアハマディネジャド氏が改革派のムサビ元首相を大差で抑え再選されたとの発表後、毎日テヘラン市内で、「選挙の無効」を訴える抗議行動が続いている。そして注目された金曜日恒例の最高宗教指導者ハメネイ師の「説教」で、「選挙結果の正当性と、抗議行動の不法」を信者に訴えかけた後の土曜日も、抗議行動が継続したことは、イラン政府の統治能力に重大な問題を突きつける事態となった。

イランとの関係改善を模索し、アフガン平定作戦でのイラン協力を必要としているオバマ大統領は、「内政干渉」( a meddling into Iranian affairs)回避姿勢をとり続けてきたが、この事態展開を受けて、ついにもっとも強い調子で(using the bluntest language)、イラン政府に大して、民衆への「不当にして暴力的な弾圧」(unjust and violent crackdown)の停止を要求した。また米国上下院議会も、「民衆弾圧と、インターネット・携帯制限による権利抑圧」への非難決議を行った。

一方テヘランでは土曜日にも、最高指導者ハメネイ師に反抗して、約3000人と伝えられる民衆は、1979年の「イラン革命」を記念して名づけられた、「革命広場」(Revolution Square)から、「自由広場」(Freedom Square)に結集したが、機動隊と平服の「民兵」(militias in plain cloth)の、警棒と催涙弾の圧迫を受けて、「自由通り」(Freedom Street)に追い詰められた。

民衆の叫んでいるスローガンは、「アラーは偉大なり」(Alahu Akbar/God is great)、「独裁者に死を」(Death to the Dictator)、と「ムサビ万歳」(Viva Mousavi)で、腕に緑の腕章を巻き「緑の波運動」(Green Wave Movement)を目指すと気勢を上げている。

イラン政府は、投票の10%を、数えなおす(recount)ことで事態収拾を図ろうとしている。ムサビ氏は、注意深く「暴動扇動者」に仕立てられることを恐れて、行動を自己規制しているように見えるが、「投票箱が事前にアハマディネジャド氏への票が詰め込まれたまま封印されていた」と、選挙の不正を糾弾し、選挙の無効を強く訴えている。

シャーの圧制を、「アラーは偉大なり」を叫ぶ民衆の力で崩壊させたのは、ちょうど30年前の1979年である。インターネットと携帯の時代に、言論弾圧で民衆を押さえ込むことはできない。イランは、重大な岐路に立っている。

中国政府、国産品優先を指示 Buy China

2009-06-20 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年6月20日(土)

今週中国政府は、60兆円の緊急経済対策費(the economic stimulus package)を用いた公共工事用の資材買い付けに関して、国産品を優先(”Buy Chinese”)するようにと、関係官庁の連名で地方政府に指示を発出した。

この指示(the edict)は、緊急援助資金が、外国製品の買い付けのために優先的に支出されているとの中国の産業界からの強い抗議に答えたもので、政府は、買い付けの実態把握に乗り出すとしている。

中国政府の緊急経済対策の効果は、きわめて顕著で、GDPは急速に回復に向かっている。しかし、今年に入って、貿易収支は依然大幅黒字を保っているものの、輸出は急減後の低水準にとどまったままであり、逆に、経済刺激策に伴う資材の輸入の急増が目立っている。そして失業率の高止まりにも政府は神経を尖らせていることが、今回のあからさまな”Buy Chinese”の指示になって出てきたのである。

もっとも中国政府は、先般米国政府が、緊急経済対策に関する買い付けに関して、米国産品優先(“Buy American”)条項を付けていることに、抗議したばかりである。このような通商政策上の矛盾も無視したなりふり構わぬ行動に、各国との貿易摩擦が激化することが懸念されている。特に、中国に資本進出した企業によって現地で製造されている製品までが、「外国製」とみなされて差別を受けることに、EUなどから強い抗議の声が上がり始めている。

サハラ砂漠から欧州へグリーン電力供給計画始動 Desertec

2009-06-19 | 環境・エネルギー・食糧
2009年6月19日(金)

ドイツの企業連合は、サハラ砂漠で、太陽熱エネルギーを利用して発電し、欧州と結ぶ長距離広域送電線を経由して、欧州のグリーン電力を一挙に強化しようというDesertecと呼ばれる壮大な計画を発表した。

計画を推進するのは、保険会社のMunich Reで、ドイツの電力会社RWEやEon、電機メーカーのSiemensなどに出資と参加を呼びかけている。完成時には欧州の電力需要の15%を供給できるという計算がなされている。

欧州では、すでに全域を大電力網が覆うように設置され、域内の電力の融通が行われている。そして世界最大の太陽光発電を誇るドイツや風力発電の伝統を生かすデンマークを中心とした国々は、太陽光や風力などの、いわゆるグリーンエネルギー(Green Energy)の導入に熱心なことはよく知られている。

そして、北アフリカ諸国と欧州の電力網は、環地中海電力網(The Mediterranean Ring)と呼ばれる、超広域電力網ですでに結合されている。さらには、中央アフリカの水力発電で得られる電力を欧州に送るために、欧州を結ぼうとする計画も構想されている。

今回の計画は、こうした欧州のグリーン志向と、電力の広域融通の考え方がいわば「常識化」していることが背景になっている。太陽光や、風力そして水力の豊富な遠隔地で、かつ人口密度の低い過疎地域で、グリーン電力を大量に発電し、需要地へ長距離を直流高電圧で低損失送電する計画は、世界各地で構想され始めている。

22世紀に向かって、「脱炭素社会」の実現に向かうためには、国境を越えた電力網の建設が不可欠である。アジアにも、同様の構想が、地域の安全保障と平和とともに推進されることが望まれる。





オバマ、金融界の放埓は力で抑え込む A Power Grab

2009-06-18 | 世界から見た日本
2009年6月18日(木)

オバマ大統領は、就任以来矢継ぎ早に、金融界救済と自動車業界救済に具体策を提示し、先週健康保険への政府管掌制度の導入提案を行ったが、今週はその経済立て直しの仕上げとも言うべき、金融制度の抜本的な改革案を明らかにした。この4点の改革案に、共通するのは、惜しみない政府資金の注入であり、基幹金融機関や自動車会社の一時的国有化、政府の監視強化や政策指導という形での国家の経済支配の強化であるといえる。

いみじくも、米国ABC放送が、見出しに使ったA Power Grab(権力の簒奪)が示すように、オバマ政権は、米国を長く支配した「独占金融資本」を無力化し、国家管理・監視体制の下に置こうとしているのである。

そして、その根底にあるのが、1970年後半以来米国が信奉してきた、「新自由主義」からの決別である。ハイエク、ミルトン・フリードマンなどの反ケインジアン経済学者を信奉してきたWall StreetとLondonのCityの「拝金主義経営者」と、新自由主義を政策基盤に置いたマーガレット・サッチャー、ロナルド・レーガン、そして日本の追随者がまさに、「世紀末的大崩壊」を引き起こして、世界の舞台から退場するのをわれわれは見ているのである。

改革は5つの分野で行うと発表されている。しかし、重要な変更点は二つである。まずこれまで多数の金融監視機関が、銀行・証券・保険・デリバティブなどの金融新商品を、相互協力をしない官僚制度の下に「分断統治」をされてきたことを改めようということである。結局これらの規制機関の官僚の頭の程度と権限では、「高給を取る」優秀なWall Streetの人々の知恵には打ち負かされ、先手を取られてきたのである。オバマ大統領案は、少なくとも官庁間の権限争い(turf war)位はなくすようにと、今後、この監督・指導権限はかなりの部分をFRB「連邦準備制度」に集中させるというものである。

二つ目は、サブプライムローンの問題の本質が、「低所得・低教育・無教養」の社会の底辺の人々を、「楽しい我が家があなたにも手に入る」と引き寄せ、破綻確実のローンを組ませ、その住宅ローンを束ねて、「お化粧」を施した「新金融商品」として転売し、それを何重にも「包装」し、丁寧にも「破綻保険」までをかませて儲けまくった金融界に対する規制機関として、「消費者保護庁」を設置することで対処しようというのだ。

すでに、オバマ案には賛否両論の声が上がっているが、オバマ大統領は年内の制度改革の法制化を目指している。オバマ大統領が、これから全力を上げる米国の「社会民主主義化」には、とんでもない大きな反対勢力が鎌首を持ち上げて抵抗してくることが、容易に想像される。


オバマ、イラン選挙後暴動「静観」 When I see violence....

2009-06-17 | グローバル政治
2009年6月16日

イランの大統領選挙投票結果、現職のアハマディネジャド氏が改革派のムサビ元首相を大差で抑え再選されたと週末に発表された以来、この結果に不満を抱く若者を中心に、「静かな抗議」デモが、テヘランを中心に広がりを見せている。しかし政府は明らかに過剰反応の「弾圧」姿勢を前面に押し出し、発砲による死者を7名も出す事態に陥っている。

さらに、イラン政府が、海外メディアが街頭で取材して放送をすることを禁ずる処置をとったことが注目される。インターネットにも検閲処置をとっているが、携帯電話の画像は、TwitterやFacebookを介して世界に情報は流出しているので、web時代に、イスラム宗教者の「精神力」での説得や、恫喝はもはや効かない時代にいることを、見事に世界に示した。

こうした中、アハマディネジャド氏は、急遽、エカテリンブルクに出向き、中ロと中央アジア5カ国で構成する”アメリカ抜き同盟”である上海協力機構(SCO)の首脳会議で、「金融危機克服協力」「アフガニスタン情勢安定化」「北朝鮮との朝鮮半島非核化に向けた交渉再開」の話し合いに参加した。そして中ロ両国から「選挙勝利の祝福」を取り付けることに成功した。

一方、韓国の新大統領を、ホワイトハウスに迎えたオバマ大統領の、主要議題は当然のことながら、「北朝鮮の挑発行動」に対する共同防衛体制の確認にあり、直後の記者会見でも「イラン問題」は二義的な扱いであった。そして「民主主義の旗手」たるオバマ大統領には珍しく、この問題には、「内政不干渉」の基調を崩さなかった。明らかに、アフガン対策優先の中、米国はイラン情勢の情報収集と情報分析の力が弱まってしまっていることを露呈している。

オバマ大統領の、珍しく控えめな、遠まわしの批判は、"When I see violence directed at peaceful protesters, when I see peaceful dissent being suppressed, where ever that takes place, it is of concern to me and of concern to the American people," とあくまで、正面から向き合わず「引いている。特に、このオバマ発言は、「現在時制」であることに注意が必要である。すなわち、彼は、一般論を言っているのであって、決してイランの現状を直接さして懸念を示しているのではないのである。オバマ氏は、内外の問題集積に直面して、当初の打てば響く反応する力を失いつつある。

オバマ、健保改革取り組みへ 46 million uninsured people

2009-06-16 | 米国・EU動向
2009年6月16日(火)

いよいよ、オバマ米大統領が、大統領選挙で公約した国民健康保険改革に、本格的に乗り出す。約1兆ドルと予想される医療保険制度改革コストの財源として、今後10年間に高齢者医療保険(Medicare)、低所得者医療保険(Medicaid)その他のプログラムへの支出を3130億ドル追加削減することを提案した。この新たな支出削減により、2月の予算教書で示した6350億ドルの医療保険準備金への拠出への積みあげを図ろうとする意欲的な計画である。

前回の、Bill Clintonの全面的な医療保険制度改革を粉砕したのは、共和党の後ろで強い反対勢力を結集した、医者の団体(American Medical Association)と製薬業界であった。オバマ大統領は、まず医師を味方につけるために、シカゴで行われたAMAの大会に出席して、改革への意欲を、熱ぽく訴えた。「現在全米で、無保険者が、4600万人もいる状態を解消する」のが目的であると説明した上で、一方、医師団体が強く求める、医療事故補償の上限設定については、反対を表明した。

医師団体からは、「強欲な弁護士(voracious trial lawyers)が、医療過誤を食い物にしていて法外な補償を患者に求めさせてくる。だから、安全をとって不必要な検査を行い、他の診療科にも意見を聞き(referrals)、長く入院をさせてしまうので、医療費がうなぎのぼりになるのは当たり前」という声が上がっている。これに対して、大統領は、「それは大問題だとは思うが、本当の医療過誤(malpractice)の犠牲者の補償にも上限(cap)をはめることは公平性を欠く。患者の安全、医師の治療への専念、事故後の公平な裁定を担保する仕組みを考えよう」と訴えた。

ここで、大統領は、「結果がすべてという医療システムを構築したいと」話しかけ、医者たちが、最後に大拍手を送った名言で締めくくったのである:"You did not enter this profession to be bean-counters and paper-pushers. You entered this profession to be healers -- and that's what our health care system should let you be." (Bean-counterとは、一銭一厘の金を数えながら一生を送る会計担当、paper-pusherとは、書類作成と整理をするばかりの事務員。)

ところで、オバマ大統領の、医療制度改革は、民間保険制度に対して、公的な健康保険制度を導入して、競争させることによって、質を向上させ、政府支出と個人負担を軽減しようとするものであり、いわば「官」「民」競合を起こさせるという、今までの民営化路線の逆を行こうとしている。2008年の新自由主義(neo-liberaism)崩壊後の、米国の新たな挑戦である。前回の民主党Bill Clinton元大統領時代に、健康保険改革は、共和党を押したてた医師会・製薬業界の連合軍に粉砕され、その苦汁を飲まされ最も屈辱感を味わった人こそがHilary Clinton現国務長官である。