世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

経団連と経産省の確執 Corporate governance divides Japan

2009-05-31 | 世界から見た日本
2009年5月31日(日)

アデランスの株主総会で、会社側取締役選任案が否決され、スティール・パートナーズ案が可決された事態を、29日の日経新聞は、「アデランス再建混迷」との大きな見出しで報道している。「株主が総会で、会社案と違う選択をした」という、資本主義の原則に従ったにすぎない事態を「混迷」と報道するのは、日経新聞の「主張」であり、「事実」と「意見」を分離しない日本のメディアの典型的な報道姿勢である。

同じ日の、Financial Timesは、日本の企業統治(corporate governance)のあり方について、同社のMichiyo Nakamoto記者の署名入りで、「企業統治のルールつくりで日本国内が割れる」との「論評記事」を掲載している。企業統治をめぐる、経団連と経産省の路線対立がもとで、日本の戦後経済の成功をさせてきた政界・財界・官僚の鉄壁の三角形(an iron triangle)の伝統にひびが入ったと報じている記事の趣旨は:

そもそも、「日本の上場企業2,634社の中で、“委員会等設置会社方式”を採用しているのは、56社に過ぎず、社外取締役が存在する会社は、1,057社に過ぎない。」

こうした状況下で、「米国商工会議所など、欧米系の株主の利益を代表する団体から、「上場企業の取締役会は、三分の一以上は、社外の独立した取締役(independent outside directors)で構成すべき」との意見具申が行われていて、それを背景に、「日本の株式市場の地位後退を懸念する経産省などが、積極的に、企業統治の変革をしようとしている。」

しかし、「“確固たる信念の人御手洗会長(the indomitable Fujio Mitarai)”に率いられる経団連は、経産省や、金融庁、東京証券取引所が進めようとしている、社外取締役の活用による上場会社の企業統治の“抜本的改善”に反対している。そして海外投資家の心配や、経産省の動きに対して、「そもそも、社外取締役の存在と企業業績は何の関係もない」というのが経団連のとっている立場である。

来月に予定されている経産省の企業統治改革案は、妥協の産物として、「社外取締役の数を過半数とすることを原則として、そうしない場合は、企業統治の方法を明示的に説明せよ」という英国型の”comply or explain”方式が採用されるだろう。

しかし、「いまの経産省の力と世論の無関心という状況では、経団連の反対を突破して、画期的な企業統治を強制することはできないだろう」との意見を紹介して記事を締めくくっている。


オバマ、サイバーテロ対策強化 A Weapon of Mass Disruption

2009-05-30 | 米国・EU動向
2009年5月30日(土)

オバマ大統領は、大統領府内にサイバーテロから国家を守るための専門官(the coordinator)のポジションを創設するために、人選を開始していることを発表した。

そしてその専門官を、「サイバー帝王」(A Cyber Czar)と呼んで、自分の直属の側近として、政府関係諸機関の調整に腕を振るわせると説明したが、指揮命令系統や独自の予算措置を持たない、いわば「令外官」(りょうげのかん)と位置づけることも明らかにした。

4月9日付けの本欄「米国電力、サイバーテロ標的に」でも取り上げたが、米国の軍・政府機関は言うに及ばず、電力・水・航空管制などの社会インフラは、中国やロシアなどの外国政府の情報機関が背後にいると推定されるハッカーの侵入をたびたび受けている。その件数は、国防総省の推定では、2007年だけでも44,000にも及ぶという。

大統領は、国民に、「最近ではアルカイダをはじめとする国際的なテロ集団が、破壊目的で米国を標的にしてネット攻撃活動をすることが現実の脅威となってきた、いわば、米国は、大規模機能停止兵器(a weapon of mass disruption)の攻撃にさらされている」と警告した。A weapon of mass disruptionとは、ブッシュ大統領時代に、フセイン大統領が隠匿しているとしてイラク攻撃をして必死に探した大量破壊兵器a weapon of mass destructionをもじったもの。

大統領自身も、大統領選挙中に自らのサイトへ、ハッカーの侵入を受けて被害を受けた経験を持っていることも明らかにして、情報化時代(The Information Age)のいま、ネットの恩恵も受けているが、それを通していかに攻撃されやすくなっているか(one of your greatest vulnerabilities)を認識してほしいと、国民に語りかけた。

ネット上の国家安全保障(cyber-security)という新語を、新聞によってはcybersecurityと一語で表現し始めたことが示すように、日常的な問題として認識される時代が現実に始まっているのである。

さて、「サイバー帝王」に誰が任命されるか?


オバマの銀行規制一本化、困難な道筋 Single Bank Regulator

2009-05-29 | 米国・EU動向
2009年5月29日(金)

オバマ大統領は、米国の金融機関の規制が、あまりにも機能分散していたために、金融危機に対処できなかったのだとの認識にたち、規制機関の統廃合による一本化(consolidation and simplification)を目指している。

このsingle regulatorを基本とする改正案は、6月中旬までに議会に提出し、公約どおりに年内に新体制を確立したいとしている。

現在米国には、銀行を規制する機関が多数あって、いわば「ごたまぜ」(hodgepodge)状態にあることが、混乱を助長したとの反省から、まず銀行規制を一本化しようというわけである。またあらたに、消費者への金融商品に対する保護と、ノンバンクを含めた金融機関の総合的な監督機能も持たせることが考えられている。

こうした改革につきものの、官僚側の抵抗も当然予測されている。

財務省管下の通貨監査局と金融監督局の統合が当然予想されるが、FBR(連邦準備制度)やFDIC(連邦預金保険公社)の監督機能の剥奪の可能性も高いと伝えられている。そして、その代替にFBRには、経済全体の構造的リスク(systemic risks)の監視権限、FDICにはノンバンクへの監督権限を付与する「妥協」が準備されているようである。

しかし、権限に関する抵抗は議会側からもある。すでに、上院銀行委員会議長から、「FBRにシステミックリスク監督権限を全面的に付与することに反対」との意見が出ている。

また、米国証券取引委員会( the Securities and Exchange Commission)と米商品先物取引委員会(the Commodity Futures Trading Commission)の合併の可能性も高いのであるが、この合併は、議会側の証券会社監視と、商品取引監視の権限の集中がおこるので簡単ではない。

また米国の銀行は、連邦政府が行う規制対象にあるものに加えて、州政府が監督する地方銀行が5,000行にも達する。現在、連邦と州で別々に監督がおこなわれるという二層構造(dual banking system)になっているが、監督機関の一本化には、連邦と州政府間の調整も必要としている。

ちょうど30年間にわたり、「規制撤廃と市場原理主義」を掲げて新自由主義経済運営を行ってきた米国が、「規制強化と政府介入」に舵を切るには、大きな政治社会的な障害をたくさん乗り切らねばならないということである。


オバマの女性最高裁判事候補に逆差別主義者との攻撃

2009-05-28 | 米国・EU動向
2009年5月28日(木)

今週オバマ大統領は、空席となっていた米国最高裁判事の職に、女性でニューヨーク、ブロンクス地区の貧しいプエルトリコ人家庭に育ったソニア・ソトマヨール氏(Sonia Sotomayor)を指名した。上院が承認すると、初のヒスパニック系の判事の誕生となるので大いに注目される。

彼女は、幼いころに父親に死なれ、看護婦の母親の女手ひとつで育てられ、プリンストンを優等生で卒業後、イエール大学で法学を修めた稀代の俊秀である。現在54才で、離婚暦あり、子供はいない。

オバマ大統領は、指名に際しては、「深く考え、慎重な判断」(“deep reflection and careful deliberation”)をもって、「正確無比の知能と、法律体系の習熟」(“a rigorous intellect, a mastery of the law”)を併せ持った人物を選択したと語った。

しかし彼女の、選出に反対する共和党保守派からの声がいっせいに上がり始めた。「彼女は逆人種差別主義者(reverse racist)だ」というものである。そして、その理由としてあげたのが2001年に、カルフォルニア大学バークレー校で行った演説である。

Sandra Day O'Connor元判事の「判決を下すにあたっては、賢明で、老練であれば、男であれ、女であれ同じ結論に達する」という言葉を引用しながら、明らかに自分のことを指している「豊富な経験を持っている賢明なラテン系女性であれば、それに匹敵する人生経験を持たない白人男性よりも、しばしば、もっとよい判決を下せる」と思いたい、と述べたことをさしている。

下院議長を務めた共和党長老議員Gingrich氏は、「白人の判事候補が、『私の経験からすると、ラテン系女性よりも優秀な判事になれる』といったと仮定してほしい。新しい人種差別は、古い人種差別よりましということはできないのだ (new racism is no better than old racism)」とtwitterに書き込みを行った。

オバマ政権は、議会が夏休み休会に入る前に、同氏への承認を取り付けたいとしている。彼女が、「アメリカンドリームの体現者」であり、古い人種差別を克服して社会の頂点に来たことは、オバマ大統領の後を追う経歴であるが、少数民族が要職を占め始めていることに対して、白人側から「逆差別」という反発(backlash)が出始めたことは注目される。

ちなみに米国最高裁判所は、連邦法や州法の合憲・違憲判断を下すところであり、日本の最高裁のように下級裁判所からの上訴を審査するところではないところに大いに違いがある。その意味で、今後の、同氏に対する議会聴聞会は、アメリカ民主主義のあり方を問うものとして、またオバマ大統領の議会に対する手腕をためすものとしてもきわめて重要である。


世界の電力消費戦後初の減少 3.5% Fall in ElectricityDemand

2009-05-27 | 環境・エネルギー・食糧
2009年5月27日(水)

2009年の世界の電力消費が、1945年以来はじめて、前年比で減少することが国際エネルギー機関(International Energy Agency)から発表された。しかも、その幅が3.5%に達するというのも大きな驚きと受け止められている。

経済危機の影響を受けて、経済成長が減退する中でも、電力消費は、ここ2年、2007年には4.7%、2008年には2.5%の伸びを示していたのであるから、2009年の電力消費の減少は、いかに大きな変化が起こっているかを、示すものである。

国別で見ると、中国が2%減、ロシアはほぼ10%減、OECD諸国全体では5%の減少となると予測される。増加しているのは、唯一インドが1%の伸びを予想していることが目立つだけである。ちなみに今年の石油消費は全世界で、3%減少すると予測されている。

一方、化石燃料が枯渇するという事態への、予感がだんだん確かになるにつれ、また二酸化炭素が地球環境を破壊していることが、強く実感されるにつれて、発電のために、風力と太陽光といった再生可能エネルギーの導入の機運が高まっている。

そして石油・石炭・天然ガスという化石燃料の火力発電への使用を削減しなければならないという方向性は、すでに日本の電力会社も「低炭素社会」への転換として政策に盛り込んでいる。

二酸化炭素をほとんど排出しない原子力の重要性はますます強まってきている。そして自動車がガソリンを燃焼させて走ることが、終わりに近くなってきたことは、各メーカーの、技術開発の動向と、ハイブリッドや電気自動車への転換を見れば一目瞭然である。

先進国では、経済成長と電力需要の右肩上がりの成長の時代は、終わった。あたらしいパラダイムは、電気自動車が、先導するであろう。(米国・日本の電力消費の急減については、4月14日付けの本欄記事を参照)

オバマ大統領、北朝鮮核実験を非難 A grave threat

2009-05-26 | グローバル政治
2009年5月26日(火)

オバマ大統領は、北朝鮮の核実験と、短距離ミサイルの発射実験直後に、ホワイトハウスの前庭(Rose Garden)で記者会見を行い、「北朝鮮の実験は、世界の平和と安全に対する重大な脅威(a grave threat)であり、私は、同国の無謀な行為(their reckless action)を強く非難する」と、強い調子で(with strong word)非難した。

一方、北朝鮮は、国営放送で、「祖国の社会主義と国家体制維持のための行為」(for its socialism and nation)であると、強く主張したが、核実験の30分前に、米国に事前通告をしたことが注目される。

また北京の同国大使館員は、NHKの電話取材に対して、「もはや六カ国協議など存在しない」と答えたことは、北朝鮮がもはや外交ルートでの解決に応じないとの意思表明であり、今後の展開に重大な方向性を自ら明らかにしたといえる。

中国政府は、「断固として実験に反対する」("resolutely opposed" to the test)と反応し、ロシアも同様に反応している。本件は、本日、すでに国連の安全保障理事会(The U.N. Security Council)の緊急会議に付されたが、日米欧が進めようとする、対北朝鮮制裁(sanctions)が可決されるかどうかは、中ロの態度いかんであり、予断は許さない。

オバマ政権にとって、中東問題と、朝鮮半島問題を、同時に対応しなければならない事態は、どうしても避けたかったことであり、ここを見透かした北朝鮮が、核実験とミサイル発射実験の絶好のタイミングとして選び、内外に、「北朝鮮は核クラブのメンバーになった」(We are a nuclear state.)とのメッセージを送ったのである。

金正日の健康状態とそれをめぐる権力闘争の状況も、この時点で、「国威発揚」を行う必要を生じさせているのかもしれない。

共和党内、チェイニー対パウエル Listen to Moderates, Too

2009-05-25 | 米国・EU動向
2009年5月25日(月)

先週、グアンタナモ基地閉鎖問題で、民主党上院議員の大半が、オバマ大統領の予算案の反対に回り、党内は揺れている。この機に乗じて、共和党右派は、いっせいにオバマ大統領攻撃を強めている。

チェイニー(Dick Cheney)前副大統領は、オバマ大統領の対テロ戦略に対する批判を公に行っており、特に今回のグアンタナモ収容所の閉鎖については、公然と厳しい攻撃を加えていることを、先週取り上げたが、今度はこれに対して、ブッシュ政権下で、国務長官を務めたパウエル氏(Colin Powell)が、党内穏健派(moderates)として反論に立ち上がった。

日曜日の全米に放送されたTV番組で、同氏は、「共和党は、ヒステリックで、ご都合主義の(shrill and judgmental)な一派の声に支配されて、右に振れすぎている。そのために共和党は、多数党になれる地位を失いかけている」と批判したのである。

これに対して、チェイニー元副大統領は、別のTV番組で、極右として定評のあるコメンテーターRush Limbaugh氏と一緒になって、パウエル氏を言いたい放題で、こき下ろしたのである。いわく、「パウエル氏が、まだ共和党員かどうかわからない。大統領選挙では、オバマを支持したではないか。黒人同志という理由で。パウエルは、ただのアカだ。("just another liberal")」

これらの声に対して、パウエル氏は、はるかに冷静な反論を試みている。「このまま、右に振れた党を放置すれば、支持基盤は狭いものになり、地域的にも限定的な二流に堕してしまう」。

「わたしは、彼らの言う意味での共和党の範疇外なのかもしれない。(I may be out of their version of the Republican Party)、しかし共和党を再生させていく別の形があってもよいのだ(there's another version of the Republican Party waiting to emerge once again)

二大政党間の論争、そして党内の政策論争も活発な、米国型民主主義の典型を、日曜日のTVのトークショーが証明して見せたのである。


ノ・ムヒョン前大統領自殺 “Unlike Japan”

2009-05-24 | グローバル政治
2009年5月24日(日)

韓国のノ・ムヒョン前大統領の自殺は、世界に衝撃を与えたが、The New York Timesの記事の背景説明が、図らずも韓国ないし東洋文化論になっている。

同氏の遺書(his suicide note)の中の一節は、われわれ日本人と同様の、老子的な、東洋的諦観を色濃くにじませている。「生死は、すべて自然の一部。悲しむこと無かれ。責めること無かれ。定めと受け入れよ」(“Life and death are all parts of nature. Don’t be sorry. Don’t blame anyone. Accept it as fate.”)。

一神教徒の欧米人には理解できない心情であろう。

その一方で、政治家が、汚職で追求されて自殺するという伝統は日本ではよくあることだが、韓国には「日本のようには無かった」はずなのにと、日韓の自殺文化論を展開している。([Korea], which, unlike Japan, does not have a strong history of political and other leaders committing suicide to take responsibility )

また、4月30日に、ソウルで、取調べを受けるために検察に出頭したことが、面子を重んじる国(in a country that values saving face)においては、大変な「恥辱」(a staggering humiliation)と同氏が受け止めたに違いないと、論評している。

貧窮の家に育ちながら、あくなき向上心で、独学で弁護士資格を取り、理想論に燃えて政治家となったその一生について、「大統領時代、一日たりとも平穏な日は無かった。前大統領はつねに極論を選択し、一かばちかの勝負に出た。自殺は、そうした火を吐く火山のような人生の最後の爆発(the last explosion in his fiery and volcanic career)であった」という政治学者の言葉を紹介している。

その激しさゆえに、強い批判にもさらされたのであるが、こうした激しい理想に燃える政治家の姿は、わが国で見ることが絶えて久しい。

ロシア・EU関係冷却 There are no problems on our side

2009-05-23 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年5月23日(土)

ロシアとEUのエネルギーサミット会議は、モスクワではなく極東ロシアのハバロフスクで開催されたが、この開催地の選択を以って、ロシアはEUに対する不快感を示したのである。そして、ロシアのメドべージェフ大統領は、バロッソEU大統領との記者会見の場でも、終始その不快感を全身から発する態度に見えた。

両者間の関係は、昨年のロシアによるグルジア侵攻と、今年の冬ウクライナ経由したEUへのガス供給停止によって、史上最悪の状態に陥っており、EUは今回その打開を図ろうとしたのであるが、失敗に終わった。ロシアは、「ガス供給の安定化を望むなら、解決策は簡単だ、EUがウクライナに、ガス代金を払う金を援助してやれば良いのだ」とにべも無い態度に出た。

そして、今回、目的とした2007年に失効したロシアとEU間の「エネルギー憲章」(Energy Charter)の更改も行われなかった。さらに、ロシアはEUに対して天然ガスの安定供給の保証を与える言質も与えず、両者間の冷却化した関係を改めて世界に印象付けることとなった。

メドべージェフ大統領は、ロシアはガス供給を遮断しないという保証をなぜ与えなかったのかと聞かれて、「なぜそんなことを改めてしなければならないのか?われわれには何の問題も無い。すべては順調だ」("What for? There are no problems on our side -- everything is in order here")という人を食った返事をした。

ロシアがもっとも警戒し、不快感を持っているのは、EUが旧ソ連の衛星国家6カ国との間で結んだ「東方パートナーシップ」で、「反ロシアの意図は無い」とのEU側の説明にも拘わらず、メドべージェフ大統領は"We don't want the partnership to be turned into a partnership against Russia" (この同盟が、いつ何時、反ロシア同盟に変身することがいやなのだ)と繰り返した。

どうしてこんな場所をサミットの開催地に選んだのかと問われて、「ロシアは大きい。もっと遠くて酷い場所ならいくらでもある」("Russia is a big country, and there are even more distant and difficult corners" )と笑って見せた。

ロシアは最近、パイプラインを中国へ延伸させることで合意に達しており、極東にEU首脳を連れ出して、「ロシアには中国という顧客もいますよ」と思い知らせるのが、本当の目的であったのである。


オバマ・チェイニー論争白熱 Cheney Continues Obama Rebuke

2009-05-22 | 米国・EU動向
2002年5月22日(金)

米国上院においてグアンタナモ収容所閉鎖のための予算処置が、90対6の大差で否決され、オバマ大統領には、「閉鎖後、容疑者をどこに移送するのか」を明確にすることが求められる事態となっている。

オバマ大統領は、昨日この問題にどう答えるかが注目されたのであるが、ワシントンにおける50分間の演説のほとんどを、オバマ政権の収容所閉鎖の正当性と、前政権の犯した過ちを攻撃することに費やし、収容者移送問題には焦点が当てられていなかった。

大統領は、「There must be "clear, defensible and lawful standards.」(誰にもはっきりわかり、求められればきちんと説明できる、合法的な拘束基準が、絶対にあるはず)と述べたにとどめ、いわば「未決囚」で、第三国への移送の可能性も難しい240 人の処置について、一部を米国内の「Supermax」と称される厳重監視の独房に移送することを考慮中とのみ言及した。。(Supermaxとは、super-maximum security(超厳重監視独房)のことを指しており、いわば「羊たちの沈黙」型の、隔離房のことであり、全米のいくつかの州の刑務所内に設置されている。)

また一部は、サウジアラビアの矯正施設に移送することも考慮中であると伝えられているが、このサウジの施設の「卒業生」は、高率で、テロ活動に戻ってしまったことが明らかになっているので効果は疑問視されている。一方、チェイニー前副大統領は、オバマ大統領の対テロ戦略に対する批判を公に行っており、特に今回のグアンタナモ収容所の閉鎖については、公然と厳しい攻撃を加えている。

昨日も、オバマ大統領の演説直後に、"It was done legally. It was done in accordance with our constitutional practices and principles" (収容所内で行われた厳しい尋問は、合法的なものであり、憲法が命じている行動と原則に合致しているものであった)と、ブッシュ政権の政策を強く擁護した。

共和党の「グアンタナモを廃止すると、テロリストが、あなたの周りをうろつくようなことになりますよ」というデマゴーグ作戦は、短期的な政治的成功を収めているように見えるが、長期的に米国民を納得させることはできるはずが無い。しかしオバマ大統領にとって、廃止を来年1月と決定した中での「テロリスト移送問題」は大きな頭痛の種となった。


オバマ初の大敗、Money to close Guantanamo denied

2009-05-21 | 米国・EU動向
2009年5月21日(木)

テロリスト容疑者を240人収容するキューバ領内のGuantánamo収容所(the detention center at Guantánamo Bay)を、来年1月22日までに閉鎖するために、オバマ大統領が議会に諮っていた80億円の予算措置を、上院が90対6の大差で否決した。オバマ政権にとって初めての議会における大敗北であり、何よりもその大差が示すように、民主党内の支持も得られなかったことの影響は大きい。

法案は、約9兆円の、イラク・アフガニスタンにおける戦費の歳出を求めるものであったが、その中に収容所閉鎖に充当する支出が含まれていたのである。先週、下院では、同様に約10兆円の戦費歳出を圧倒的多数で承認しているが、やはり「収容所閉鎖後の処置計画」がないとして、閉鎖用の歳出を除外したものとなっている。

共和党は、反オバマキャンペーンの焦点を、「収容所を閉鎖したら、テロリストは米国国土内の刑務所に収容し裁判にかけることになる。先に行けば、釈放されたテロリストが、皆さんの周りをうろつくことは、危険です」という宣伝に集中させ、世論を糾合することに成功したのである。民主党議員も地元選挙民の反感を恐れて、ほとんどが反対に回ってしまったのである。 

世論は、“We will never allow terrorists to be released in the United States.”(米国内で、テロリストが釈放される事態を許さない)という感情に支配されたということである。


民主党議員の反対の理由は、“予算法案には「閉鎖」のみが書かれており、閉鎖後の容疑者の扱いの詳細が欠落している”というものであり、閉鎖そのものに反対するものでないというのが大勢である。これを受けて、オバマ大統領は、木曜日に、「閉鎖後の処置」について詳細を発表することとなっている。

米国世論が、いかに簡単に動きうるかを示す好例でもあり、またいかにオバマ大統領が人気があろうとも、是々非々の政治が行われるという好例でもある。今日のオバマ大統領の、本件に関する演説とその後の米国議会の動きは注目に値する。

オバマ、車燃費改善革命へ toward Clean-Energy Economy

2009-05-20 | 米国・EU動向
2009年5月20日(水)

オバマ大統領は、2007年のエネルギー法(Energy Act)で定められた、燃費を、「16年モデルから順次改善し、20年までに1リットル当たり14.9キロとする」という現行規制を強化・前倒しし、「12年モデルから導入し、16年までに1リットルあたり15.1キロ」とする画期的な計画を発表した。

この計画の実施により、乗車車1台の単価は、平均で、1,300ドル上昇するが、燃費の節約で、消費者は、そのコスト上昇分を、3年で取り戻せる計算になるとの見解を発表した。そして、これから5年間に販売される車による、石油消費は180億バーレル抑えることができる計算となると。

ホワイトハウスの前庭(the White House Rose Garden)に、政界、自動車業界、労働組合の各界代表とともに現れて、記者会見したオバマ大統領は、「この計画は、昔であれば不可能としか考えられなかったもの」(the agreement that once would have been considered impossible)であり、 「ワシントンにおける政治改革の先触れをなすもの」(a harbinger of a change in the way business in Washington)と、高らかに宣言した。

連邦ベースの規制と、州ごとの異なる規制を課されることを恐れていた自動車業界は、連邦ベース規制に一本化されることを歓迎しており、自動車工業会の代表は、「ただひとつの国家計画に基いて協力体制を推進することで, 関係者全員が合意に達することになる」(We're all agreeing to work together on a national program)と賛意を表明した。

政府資金と保証で、生き残りのために悪戦苦闘中の自動車業界に、厳しい燃費規制を排除しようとしてきた過去の力は無く、オバマ大統領の、「クリーンエネルギー政策」、「グリーン革命政策」は今後さらに強い力で推進されていくであろう。アメリカは変わりつつある。

オバマ、イスラエル説得工作不調 The Divisions Hard to Ignore

2009-05-19 | グローバル政治
2009年5月19日(火)

オバマ外交の、最も重要な課題のひとつである、パレスチナ問題の打開を目指して、月曜日ホワイトハウスに、イスラエルのナタニエフ首相の訪問を受け、異例の3時間にわたる会談を行った。

しかし、パレスチナ人国家建設の推進を優先課題にするオバマ大統領と、イランの核兵器とミサイル開発を封じること優先課題にするナタニエフ首相の、初めての会談は、完全なすれ違いに終わった。

イスラエル側は、パレスチナ人の自治権(self-government)は認めるが、パレスチナ人国家の建設を認めるという、いわゆる「二国制度案」(the two-state solution)と、イスラエル占領地におけるユダヤ人定住化計画(Jewish settlement)の中止は、頑強に否定したのである。

いっぽう、オバマ大統領は、対イラン政策、特にイランの核開発阻止のために行っている現在の外交交渉を、年末まで粘り強く行うとの方針を改めて明確にしたが、同時に進展が見られぬ場合は、「イランに対し、制裁(sanctions)を含む色々な手段(a range of steps)を講じる可能性を否定しない」との方針を明らかにした。

イスラエル人記者からの、「オバマ大統領の宥和政策(his outreach)は強硬派を勢いつかせるだけで、失敗ではないか」との質問に対して、「手を差し伸べる政策(my outstretched hand)が、弱気(weakness)ととられるかどうかははっきりしない」と応じた。

オバマ大統領にとって、アフガニスタン平定を進めるためには、アラブ穏健派の協力と、イランとの対話復活が最優先課題(top on his agenda)であるが、そのためにもどうしてもこの時期に、イスラエルを、「2003年合意」に立ち戻らせることが必要であった。それが失敗に終わったことは、きわめて大きい外交上の痛手である。

オバマ、ノートルダム大学で野次の洗礼 Anti-abortion

2009-05-18 | 米国・EU動向
2009年5月18日(月)

全米カソリック系大学の総本山とも言うべきノートルダム大学の卒業式で、名誉法学博士号を受けるために出席したオバマ大統領は、堕胎反対(anti-abortion)、ヒト幹細胞研究(embryonic stem-cell research)反対グループの、野次と怒号(hecklers)に見舞われた。

野次(hecklers)と万雷の拍手(standing ovations)のいずれかで演説をたびたび中断せざるを得なかった大統領であるが、この問題に対して、"open hearts, open minds, fair-minded words"(開かれた気持ち、開かれた考え、そして公平な言葉)で、議論をしようと呼びかけ、そして、次のように聴衆に訴えた:

「堕胎問題では、意見の一致を見ることはできないだろうが、この心の痛む意思決定を女性が、気軽に行っているはずも無いことでは同意できるだろう。堕胎問題は、道徳問題であり、心の問題でもあるのだ。だから堕胎をしなければならない女性の数を減らす努力をしよう。心もならず妊娠(unintended pregnancy)してしまう女性の数を減らそう。養子縁組の数を増やそう。出産(to term)までこぎつけられるよう女性を援助しよう」

大統領に対して、反堕胎運動家(anti-abortion activists)が、このように激しい組織的運動を、卒業式で繰り広げたのは、初めてのことであり、いかにカソリック系米国人の中で、オバマ路線に反対している勢力が強いかを示すものであるといえる。

しかし、すべてのカソリック教徒が、オバマ大統領に対して反対の態度を取っているわけでないことにも注意が必要である。カソリック教徒にも、堕胎に賛成(pro-choice)の意見を持つ人も多く、その比率は、非カソリックの比率と変わらないことが、世論調査が示しているのである。

インド与党選挙圧勝、脱宗教(secular)政府の確立を宣言

2009-05-17 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年5月17日(日)

インドの総選挙で、与党The Congress Party(国民会議党)が、選挙前の予想を大きく上回る差をつけて圧勝し、同党が中心となって結集している中道左派のThe United Progressive Alliance(統一進歩連合)が、引き続き政権担当することとなった。

野党のBJP(Bharatiya Janata Party)が率いるthe National Democratic Alliance(国民民主連合)は敗北宣言をした。またケララ州を中心として勢力を張るインド共産党は惨敗したことが明らかになった。

この選挙で注目されるのは、世界的な経済不況でインド経済も大幅な後退を余儀されるなか、経済改革と低所得者層の底上げを同時に進めることを政策としてきたSingh首相の政権担当能力が改めて信任を得たことである。

また、与党内でのSonia Gandhi氏が率いるNehru-Gandhi 派が引き続き政局の中心を占めることが確定したことである。Sonia Gandh氏は、暗殺されたNajiv Gandh元首相の妻であり、次期指導者として呼び声の高いRahul Gandh氏の母である。この選挙期間中に示したRahul氏の手腕は、将来の首相の地位を約束するものであると、論評されている。

最終的には、543議席の過半数272に迫る258議席を、与党連合が獲得する見込みで、選挙後の多数派工作は容易に進むものと観測されている。Singh首相の選挙勝利宣言は、その意味で非常に興味深い:“I urge all the political parties to forget their past disputes and help the formation of a secular government.”.(過去の確執を忘れ、非宗教的(secular)な政府を形成しよう)

インドは、カースト制度がまだ色濃く残り、言語・宗教・習慣の違いが、広大な国土と、11億の大人口の統治の障害となってきた。宗教を政治に持ち込まないという意味を持つ、「secular」という言葉を使わねばならぬところに、インドの悩みが象徴されている。ヒンズー教の影響と、それに根ざすカースト制度からの脱却が、いまだに、飛躍的な発展を遂げるインドの課題であることが良くわかるのである。