世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

悲憤する共和党議員 A Huge Cow Patty for Angry Republicans

2008-09-30 | 米国・EU動向
2008-9 No.025

70兆円超の米国政府の金融界救済パッケージが下院で否決された大事件は、日本の朝刊や欧州の新聞の締め切り後に起こりました。週末以来政府案と各党幹部議員の調整は難航を極めていることはうかがい知ることはできましたが、最も強い反対は、共和党の中の自由経済を信奉する議員からのものであったのです。(No.024参照)

投票は議員自身の判断に任されています。ですからオバマ候補がマケイン候補の「ブッシュ一辺倒の履歴」を攻撃する際に「政府提案の議案の80%に賛成してきたこと」を上げるというのはそういう背景があります。ここでは「100%」 ではなく「80%」も賛成したことが問われているわけです。

評決の結果は、民主党の賛成140反対96、共和党の賛成65反対133という予想をまったく覆す大差であり共和党議員の「怒り」は幹部同士の合意を圧倒的大差で粉砕するものでありました。特にブッシュ大統領のお膝元であるテキサス州選出の共和党議員19名のうち15名が反対票を投じたことは注目に値します。地元選挙民からの激しい電話による抗議が相次いだことも報道されており、今回賛成に回ることは、次回の選挙での落選してしまうのではとの恐怖に議員が捕らえられたのも間違いがありません。一方ギャラップ世論調査では、政府案賛成28%、反対68%となっており投票結果を説明するに十分な「民意」が背後にあったといわねばなりません。

投票前のジョージア州選出の共和党下院議員のコメントをFTが報道しています:
「この法案は、ポールソン財務長官が、お友達のために作成した法案だよ」。すなわちポールソン長官はゴールドマンサックスの元CEOだから、所詮ウォールストリートの仲間を助けるものでしかないとの強烈な皮肉です。そして「この救済策は巨大な牛糞(cow patty)だ。真ん中にマシュマロを一個くっつけてあるけど」と付け加えました。所詮「噴飯もの」だと「悲憤」していたわけです。


アメリカ精神の終焉 The End of America’s Big Idea

2008-09-29 | 米国・EU動向
2008-9 No.024

先週金曜日ミシシッピ州で行われた、両大統領候補による討論会(debate)はABC放送のweb siteでも見られました。全選挙民を聴衆としてliveで行うこの討論会は米国型民主主義の一つの形として価値をもっています。オバマ候補が論理的な話し方で、終始マケイン候補をリードしていたのですが、内容的には二人とも明日の米国像を語るという視点はまったく欠落していて結局引き分けといったところで終りました。

未曾有の金融危機に対して、政府の救済パッケージを両党幹部が週末の裏舞台で取引中という状況で、両候補とも論点がはっきりしない物言いに終始したのは、自分の影響力を誇示しても、距離を置いてもいずれにしても、選挙への影響が読みきれなかったからでしょう。

その70兆円超パッケージは週末に両党の合意が成立し、東京市場の開く前にプレス発表が行われました。共和党右派からの『大きい政府』に対する攻撃をかわし、選挙民特に大多数を占める中産階級(Main Street)からの反発を避けるために当初案から妥協が随所に行われましたが、それは次の4点に集約されます。
1) 使途の監督(Oversight)
2) 住宅ローン借り手の保護(Help for Homeowners)
3) 救済を受ける金融機関幹部の報酬制限(Executive Pay)
4) 投入資金回収の方策(Taxpayer Protection)

マケイン候補が最も気にしたのは共和党内部の“「大きい政府」の介入は社会主義同然だ”という非難で、この対処のために討論会の延期を言い出してワシントンに戻ったというあわてぶりは支持率を下げた一つの理由かもしれません。FTのコメンテーターChrystia Freelandの本日のコラムの見出しは、「神の啓示は、苦悩に満ちてアメリカ精神の終末を告げる」(Painful epiphany signals end of America's big idea)であります。そして今回の米国政府の救済策はまさに、「最も純粋な形で長く続いてきた神の手に導かれた自由主義の資本制度の終焉」を告げており、「強い政府の介入と、規制への回帰の時代」を先導するものであると結論つけています。

この「アメリカ精神の終焉」の影響は米国内だけにとどまりません。ちょうどNYでは国連総会が開催されていますが、各国首脳の演説の中でもベネズエラ・ボリビア・イランなどの国々はいっせいに反米コールを繰り広げています。そしてその議場には、80年代から90年代にかけてネオリベラリズムとワシントン・コンセンサスの権化と化したIMF.、世銀、米国財務省の連合軍に「財務政策の規律による収支均衡や、市場原理による経済運営」を強制された国々の代表も座っているのは皮肉なことであります。






反米ベネズエラ ‘Maoist Chavez’ imports cold-war tensions

2008-09-28 | グローバル政治
2008-9 No.023

米国の「裏庭」が騒がしくなっています。

チャべス・ベネズエラ大統領は自ら「毛沢東主義者」を名乗り、昨年の国連総会でブッシュ大統領を「さっきまでいた悪魔」と罵倒しましたが、今年に入って原油値上がりによる外貨を手にしてますます意気軒昂のようです。そして今月に入って左傾化を強める南米の旗手として、公然と米国の神経を逆撫でする挑発行動が非常に目だってきました。

まず、今月に入って、ロシアの最新鋭爆撃機(TU-160)2機を無着陸で来訪させ合同演習を行いました。さらにロシアはカリブ海における軍事合同演習を11月に行うために、すでに原子力巡洋艦をベネズエラに向けて出港させています。

そして、チャべス大統領自身が、訪露し25日にプーチン首相、26日にメドベージェフ大統領と会談、石油・ガスに関する協力関係や、両国間の軍事協力とりわけ2005年以来の累積で数千億円を超える武器買い付けの継続交渉を行いました。この間14日にはべネズエラは米大使を国外追放処分にしており、米国のイライラは相当のレベルに達しているものと思われます。

この後、同大統領は中国を訪問して、中国へのベネズエラ産原油の供給や、南米における製油所建設について協議がなされたという報道であります。またチャべス大統領は、中国からの軍用機24機の買い付け、11月のベネズエラ最初の衛星打ち上げを中国に委託することを発表しました。

ロシアはグルジア問題での欧米との対決姿勢の一環としてベネズエラとの連携を強化して「冷戦の亡霊を呼び寄せる」意図が明白ですが、それは「米国との直接対決を避けたいとする中国」と際立った対照を示しています。その証拠に公表されている首脳陣同志の交流の場を取った写真に、モスクワからのものには満面の笑みが、北京からのものには陰鬱な顔がそれぞれ際立っていることが象徴的です。

毒饅頭の凍結 Freeze the rot in the $700bn Freezer

2008-09-27 | グローバル経済
2008-09 No.022

日本の10年前のバブル時、政府の対策を日本人銀行家が揶揄した言葉を,現在の米国政府の対応をたとえるためにFTがコラムで紹介しています。それは「腐った肉を冷凍庫に入れても、腐敗からもどるわけは無い。ただしばらくは臭いがしないだけだ」というものです。

ポールソン財務長官の70兆円超の救済パッケージがまさに、「毒饅頭を冷凍庫にしまいこむ」ものであり、“長期保有をすれば値上がりが期待できるので納税者に還元できる可能性が高い”というバーナンキFRB議長の発言(2008-09 No.020)には、「しばらくは臭いをかがなくても済むという程度の気休め」に過ぎないと厳しい論評を加えています。つまり毒饅頭はいつまでたっても毒饅頭であり、誰かがいつか処理をしなければならないということです。事実日本の場合もそうであったわけです。

毒饅頭の正体は、金融機関の間で取引された「CDO of ABS」という略称される金融商品です。(8月7日の「CDOリスク分散手法」参照)満期までこの証券を保有した場合の償還額と現在の市場価格の差から推定される損失の規模は数十億ドルに達しているということであり、これがもっと拡大しないという保証もありません。

さらに「やっぱりそうだったか」との思いをさせる重要な事実が明らかになってきました。「CDO of ABS」の組成の際に重大な不正があったのではないかとの疑惑です。2007年にメリルリンチが発行した30の「CDO of ABS」約3.5兆円の内容を調べたところ、27件において、その信用格付けがAAAからジャンク債に格下げになっていたということで、まさに「腐った毒饅頭」を美しく包装して売買していたというわけです。

毒饅頭への”Overpay ”とCEOへの”Overpay ”

2008-09-26 | グローバル企業
2008-9 No.021

70兆円以上に達する公的資金注入は、米国議会での審議で厳しい審判に曝されていますが、二つの’overpay’に焦点が当たっています。一つは問題を起こした投資銀行幹部へこれまでの過当報酬という’overpay’に対する批判と、いまひとつは今後政府が問題の焦げ付き債権(toxic assets:毒入り饅頭)を不当な高値で買い取る危険性’overpay’への懸念であります。

前者については、共和党・民主党を問わず委員会での質問に立った幹部議員から舌鋒鋭く批判が飛び出していますので、今後まとめられる救済パッケージの中に何らかの制裁と今後の規制が盛り込まれる可能性があります。しかし、報酬の決定は自由経済の核心に触れることでもあり、どのような形になるか非常に興味のあるところです。FBIがすでに詐欺事件として主要4社の捜査を始めているので、エンロン事件のときのように刑事事件としての制裁に収める可能性も高くなっています。

後者については、買取機構の設計と、買取価格決定のメカニズムという技術論が最も重要になりますが、議会の特別監視委員会が買取機構を監視する方式が取られる公算が高いと思われます。いずれにせよ複雑に「仕組まれた」証券化商品の適正価格を決定することは困難な作業であることは間違いありません。

これに関して、バーナンキFRB議長が、苦しい言い訳を迫られる局面がありました。今週の火曜日に同氏が、「政府の買い取り価格は、現在の市場における叩き売り価格(fire-sale prices)よりは高いものとなる」という趣旨の発言をしたのですが、これが「高値摑み」の容認と取られたのです。同氏はこの批判に対し、「誤解だ」として次のような説明を委員会において行いました:

「何も意図的に不良債権を高値で買い取るといったのではない。政府が突然買い出動すれば、一般の買い手も増えて市場機能が回復して価格は上昇する。こうして実現する価格上昇は、無理に救済資金を投入するという買い支えによるものではない」。さらに「政府の買い取り価格は、これらの債権を長期的保有して得られる収益によって計算される価値を下回るであろうから、結局納税者は、利益を得ることになる公算が高い(taxpayers could well make a profit.)」という論理展開を披瀝したのであります。ここで使われた助動詞could wellは将来バーナンキ議長の名誉を守ることになるかもしれません。推測の確度は、mayやcouldであれば50%程度なのに対して、could wellはそれを80%くらいに高めた言い方です。しかし決してそうなると断言したわけではないのですから。

金融社会主義 Capital Socialism and Regulated Capitalism

2008-09-24 | グローバル経済
2008-9 No.020


国連総会における各国首脳の演説が始まりましたが、ブッシュ大統領は30回もテロリズムとの戦いに言及してその執念のほどを示しながら、総会における8回目にして最後となるお別れ演説を行いました。

また注目のフランスのサルコジ大統領が演説の中で新しい言葉を発表しました。『regulated capitalism』(規制下の資本主義)です。自由市場主義の放埓に任せたことが今回の世界的な混乱の原因であり、もはやこのような状況を放置できないとする同氏の明確な意思表示であります。

ブラジルのルーラ大統領は、国連で『世界の金融界には透明性を担保する防止策と制御機構が必要である。グローバルな問題はグローバルに解決すべきである。現在の国際機関には投機の無政府状態を抑止する手段も権限も無い』と批判しました。そしてサルコジ大統領も同趣旨からの『国際機関の改革』を訴えました。

一方、英国のブラウン首相はマンチェスターの労働党大会で支持者を前に、『市場を崩壊させる空売りの規制、シティーの金融界トップの莫大な報酬への規制、破綻銀行へのイングランド銀行の経営介入権の立法化』を軸にした金融界改革の政策意思を明確にしています。またEUレベルでは、クロスボーダーの銀行監視と規制の枠組みをつくることや、証券化商品の発行会社に10%の保証金を積みたてることを義務化することなどの規制強化に乗り出すことが決まっています。

そして、来月初めのIMF総会を前にした、ストラス-カーン専務理事が23日のFTに『システミックな危機にはシステミックな解決案が必要』との論文を寄稿しています。『今回の危機は構造的な問題である。金融界が取り込んだ過剰なリスクに対する規制機関の無能力が露呈されたのだ。特に米国において。再発を防止する方策をとるべきである』として、新しい枠組みの導入を、IMFの総会テーマにしようと意欲満々なところを宣言しています。

世界は、自由市場経済のどこかに間違いがあったことに気付き、一気に規制強化を声高に言い始めました。もちろんおのおのの真の意図は異なっているのでしょう。米国政府の70兆円金融界救済プランに対する議会証言が始まりましたが、今日各局で放送されたやり取りは近来に無い面白いものでありました。ブッシュ大統領のお膝元の共和党からでた救済のための政府介入に対する怒りの言葉は『financial socialism』でありました。


野村のリーマン買収合意 “Lehmura”

2008-09-23 | 世界から見た日本
2008-9 No.019

三菱UFJによるモルガン・スタンレーへの最大20%出資による筆頭株主化に続き、野村證券によるリーマン・ブラザーズのアジア部門の買収が決定したと報じられています。さらに野村は同社の欧州部門の買収するものと見られています。

自民党総裁選挙で麻生氏が勝利した翌日である今日のFTトップ記事は『米銀、日本に救済要請』となっていて、総裁選のニュースを押しのけてしまいました。さて日本の銀行・証券界へのこの秋波を世界はどう見ているのでしょうか。

同紙のThe Lex Columnのトップ記事は“Lehmura”すなわちLehmanとNomuraの合成語の見出しがつけられています。そしてLehmanの倒産の報に、長年海外業務拡大を渇望してきた野村は、千載一遇の好機とばかりに一番乗りで管財人に電話をした会社のなかの一社に違いないと断じています。

この買収は野村側には見るべきものが何も無い同社海外業務への進出政策として大きなプラスになるはずであり株主にとっても良いことであると論評しています。野村は海外業務買収資金として60億ドルを調達済みであったので、リーマンのアジア事業のネット価値は250億円であるので、いわばほんの小銭で買える大きさの取引でしかないともその規模を評価しています。

しかし、どんなに有利な買い物であっても日本人の経営陣にとってこの買収を成功させるのは容易な仕事ではありません。まず日本の会社は三菱UFJが悪例を示しているように、合併後3年たってもITの統合ができない体質を持っていることが挙げられます。それに男性ホルモン過剰の攻撃性に満ちた米国銀行マンと、大人しい日本人が協調を取れるのかが問題です。リーマン社員の給料は高くローテーション人事など受け入れませんが、一方の野村の社員は一年前には社内報を書いていたかもしれませんし、自動車会社向けの貸付担当を黙々とやっていたかもしれません、そういう集団の間の文化の衝突が問題となろうといっています。

80年代に海外にいっせいに出て行って支店や子会社を設立し大型買収を行った日本の銀行・証券会社はさまざまな問題に遭遇して撤退し、さらに国内で金融機関への公的資金による救済を受けた時期にはほとんど日本に引き上げてきました。まさにこんどの再進出においては、グローバリゼーションが問題を増幅した環境のもとで、グローバルに事業拡大をするために『企業のグローバル度』が試されるということでしょう。




「紙の上だけなら簡単なこと」 Simple on Paper

2008-09-22 | 米国・EU動向
2008-9 No.018

米国財務長官Hank Paulson氏の「70兆円緊急パッケージ」に対して「日本の失敗の教訓を生かして極めて迅速に思い切った対策を行ったのはさすが」と賞賛する論調が日本では主流ですが、欧米は「これからが問題」という論調が主流です。FTの「Simple on paper」という見出しがこれらの意見を凝縮しています。ポールソン長官は今週議会の承認を得られると、不良債権のみならず、必要とあらば他の債権も買い取ることができるという絶大な権限が与えられることになります。

しかし、どの不良債権を、どんな価格で買い取るか、買い取った債権をどう処分するのかなどの細目はまったく白紙であり今後その作業は困難を極めることが予想されます。総額1200兆円と目される住宅ローンから製造された多岐にして巨額の「証券化商品」の値踏みと買い取りを、透明性をもって進めるのは容易ではありません。しかし、とりあえず金融市場の「心理的な正常化・安定化」を図るこの強力なカンフル剤に対して, FTのコラムは“Hanks a lot”とポールソン長官の名前をもじって、市場の「感謝」(Thanks)を駄洒落で揶揄して見せています。

いずれにしても、持続的な経済成長のもとで規制緩和と低利調達の環境を最大限満喫して大きく利益をあげた時代は終わり、「大きな政府」が乗り出し規制の網を張り巡らし監視の目を光らせるサイクルに向かって舞台は大きく暗転しました。英国のブラウン首相は「だからあれほど言ったじゃないか。わたしの言ったとおりにしないからこんなことになったんだ」と言い始めました。ドイツのメルケル首相も「国際的な金融秩序・規制論者」です。今週の国連総会や、来月初めの世銀・IMF総会の場での各国首脳の演説は極めて注目に値しますし、国際的な規制枠組みが初めてまじめに論じられることでしょう。



米国金融危機用伝家の宝刀 Mr. Paulson’s Bazooka 

2008-09-21 | 米国・EU動向
2008-9 No.017


米国ポールソン財務長官がどのような信念で、リーマンは救済せず、AIGは救済し、さらには数千億ドル規模の不良債権買取機構の設立を決定するに至ったのかの裏話が、Newsweekの取材記事に現われました。(17日の2008-9 No.14参照)

まずポールソン氏とはどんな人でしょうか? 同氏は、ゴールドマン・サックスのCEOから、2006年にブッシュ政権の財務長官に就任したのですが、当然のことながら政府の規制には反対する「自由主義市場経済の信奉者」(free-market thinker)です。現在62歳。TVや写真から分かりますが、大学時代はフットボールのスタープレーヤーであったと聞けばうなずける偉丈夫です。普段は物静かなクリスチャンですが、話せば力強いなかにもその朴訥さがにじみ出ます。ハーバードのMBAを卒業していて、シカゴのゴールドマンに就職したのが1974年、1982年には同社のパートナーに選ばれています。

とくにアジア市場開拓に専従した時期の中国出張の回数は75回を数えます。1994年の経営危機に際して、コスト削減策の推進で業績回復を果たしたことから頭角を現し、1998年から2006年までCEOの地位にありました。2002年には、エンロンなどのスキャンダル続発に対して、「企業倫理」を財界に呼びかける先鋒にたっています。ちなみにゴールドマン退職の際までに累積していた同氏の持分を現金化した結果5億ドルになったそうです。

さらに、同氏が長官に就任してから、FRBとSECとの協調をとることによって金融政策に関する主導権をウォール・ストリートから完全にワシントンに取り戻したといわれています。これまでずっと規制撤廃や投資減税などではウォール・ストリートが常に先手を取ってきたのですから大変な様変わりです。そうした状況下、先週の展開に関して同氏は、「わたしにとって大変不愉快な選択であった。しかしそうしなかったときのことを考えるとずっとよい選択であったはず」、そして「一体こんなことにしたのは誰かなどという議論は延々とできるけれど、どんなことがあっても夜明けまでに答えを出さなければならない状況に追い込まれていた」とNewsweekに語っています。

就任間もないとき、ブッシュ大統領に、「2009年までになんらかの大きな問題が起こらなければそれこそ驚きだ。大きな問題は6年、8年、10年おきに起こるものです」とご進講したそうですが、そのときはそれがなにかについての見当はついていなかったそうです。その予言とおりに2007年中半からサブプライム・ローンの債務不履行が多発しはじめ、その結果ドミノ効果で政府系の住宅金融関係2社Fannie MaeとFreddie Macの危機が始まりました。

そうした中、2008年3月には、ベア・スターンズ証券の危機が起こり、同氏の主導で、JPモルガン・チェイスへの売却で落着しましたが、この救済は破綻の際の悪影響の大きさを理由にした「例外」とされました。ポールソン氏はこの措置への積極的関与により、一刻も早く脱出しなければならない「危機モード」という袋小路に入ってしまいました。

議会はこうした緊迫した状況のなか、さる7月にはFannie MaeとFreddie Macの救済に関する権限を同長官に付与したのです。ポールソン氏は「バズーカ砲をくれたよ。これでみんなわたしがバズーカを持っていることが分かっただろうから、脅しの効果で取り出して使う必要はたぶん無いだろう」とこの権限を「使う必要の無い伝家の宝刀」にたとえたのでした。しかし、外国政府に発行・売却した両社の巨額の債券が問題となるに及んで、破綻の影響が全世界に及ぶことをおそれ、9月7日に、両社の「国有化」という『バズーカ』を使わざるを得なくなったのです。

さらに、9月第2週になって、リーマンが危機に瀕した際、ポールソン氏は、同社CEOのファルド氏に対して「第三者の救済を受けるよう」に助言しましたが受け入れられませんでした。安易な救済は金融界にモラルハザードを起すという懸念とリーマン破綻の悪影響はベア・スターンズほどの規模の問題とならないという理由からポールソン氏は救済に乗り出さず、ついにリーマンは見捨てられ破産申請をしました。

政府のこの固い意思表示は、メリル・リンチにバンカメへの身売りを決心させる効果を持ちました。一方続くAIGの危機には、金融界全体を揺るがすものとの判断から、議会に救済へ乗り出すと通告してから、『バズーカ』を取り出して発射して実質「国有化」したのです。

しかしこのあとも金融界の動揺はおさまらず、銀行間の疑心暗鬼から相互の貸借は停止状態に陥り、またMMFに対する国民の不安も大きくなりました。ポールソン氏は、7000億ドル(70兆円超)の巨大不良債権買取機構の設立とMMFに対する支払い保証をするという、『超特大のバズーカ』を取り出し、これによって株式市場の信認は木曜日にいたって回復しました。

バッフェット氏信条:Greedy when others are ferarful

2008-09-19 | グローバル企業
2008-9 No.16

米国政府によるAIG救済決定と、その後の各国政府による市場への36兆円もの巨額資金供給にもかかわらずなお、金融・株式市場の動揺は収まりませんでした。そして銀行間相互の疑心暗鬼が、翌日物のドル貸借金利(overnight dollar libor)の急上昇となって現われ、一層金融機関の手元流動性を圧迫する状況となりました。この事態に対して、18日木曜日に各国中央銀行は、協調行動のもと、米国、日本、英国、スイス、カナダの中央銀行と欧州中央銀行がそれぞれの市場に合計1800億ドルを直接注入するという異例の決定をしました。

それにもかかわらず、木曜のNY株式市場は低調に始まったのですが、「米国政府が公的資金を使って、金融機関の不良債権を一括買い取る方針である」というニュースが流れ一挙に株価は反発し、本日の東京市場もこれを受けて反転上昇しました。米国金曜日の朝の市場が開く前に、米国政府の政策が発表されると予測されその市場鎮静効果がどのくらい発揮されるかが注目されます。

こんな最悪の混乱のさなかに冷静に行動を起した慧眼の投資家がいました。それはいわずと知れた、ウオーレン・バッフェット氏です。株価暴落に動揺している電力会社コンステレ-ション・エナジー・グループを約5000億円で買収提案を行い合意に達したのであります。この価格は一株当たりに換算すると26.5ドルで、一週間前に比較するとまさに半分です。

コンステレーション社の株価暴落の原因は、同社が行っていた商品取引への市場の不信と憂慮にあります。2001年の「エンロン崩壊」が引き金となって電力自由取引や、ガス・石油取引での巨額損失を背負い込みこの分野からほとんどの電力会社が撤退したのにコンスタレーション社がいまだにそれを継続していたのは驚きです。

バッフェット氏はその支配する保険・投資コングロマリットであるバークシャー・ハサウェーの傘下に電力会社ミッドアメリカン・エナジーを所有しており、他にもNRGや有力電力会社への出資や融資を行ってきています。この経験を生かし、投資を絶妙のタイミングで行うバッフェット氏の投資判断はますます冴え渡っています。コンステレーション社にはフランスの電力会社EDFも食指を動かしたのですが、同氏のスピードには追いつけず、「同氏であれば是非買収してもらいたい」とするコンステレーション社経営陣の「バッフェット崇拝」にも負けました。

今回の買収合意に持ち込んだバッフェットの信条:「他人が市場でおそれおののくときに、わたしは、貪欲になる。」
  



悪は「テコ作用」と「空売り」か?Leverage and Short-selling

2008-09-18 | グローバル経済
2008-9 No.15

今回のサブプライム問題の核心は、金融技術によって複雑に債権を束ねて作り出された『証券化商品』(securitization)にあります。そしてそれを流通させるに当たって投資家の判断を誤らせた『格付け』(credit ratings)にありました。さらに、問題を大きくし広く拡散させたのは、異常に高い水準になっていた、住宅購入者や証券化商品投資家の借入金比率(leverage)です。すなわち「借金」と「手金」の比率です。

本日のFTの論評(Roger Altman氏)は、この過大レバレッジを放置したことは、規制機関の大きな過ちであったと指摘しています。これらの投資家が、いわゆるノンバンクとして金融規制の枠外にいたことも放置された理由です。証券会社の平均でみると、2007年中半にはレバレッジは27:1にも達しており、さらにこうした危険度の高い投資をオフバランスに置くことによって開示義務からも故意に逃れていたのです。

一方、昨日米国政府は『空売り』(short-selling)規制の範囲をすべての上場株式に拡大することを発表しました。先週、死に体となったリーマン株に対する空売りは激しく行われ、木曜日段階で発行株式の18.5%がショート・セラーの手に渡っていたのです。同じく倒産の可能性があったメリル・リンチ、ワシントン・ミューチュアル、それにバンカメまでが大量空売りの対象となっていました。

週末のリーマン破産・メリル・リンチ身売りといった破綻劇の直後16日に、この『空売り屋』たちが、「勝者(The winners)」としてFTから皮肉のこもった勝ち名乗をもらいました。そして米国政府が上のように反応したのは17日でした。

三幕劇「ウォールストリートの危機」“Wall Street in crisis”

2008-09-17 | グローバル企業
2008-9 No.14

米国金融界の破綻とその顛末を描いたドキュメンタリー劇の第一幕は政府に抱きとめられた「ベア・スターンズと住宅金融公社二社の救出」。そして第二幕は政府に突き放された「リーマン破産への道」。そして三幕目は政府の救済介入の肝試しとなる「AIG放浪の場」でありましたが、つい先ほど米国政府が850億ドルの融資を行い、同社を政府管理下におくということで幕が下りました。

週末の第二幕から第三幕への暗転のなか、「もうこれ以上米国政府は公的資金注入を絶対しない」とのポールソン財務長官の宣言を、AIGについても貫徹できるか第三幕の見所でありました。その間AIGの信用格付けは切り下げられ、株価は暴落し、市場は退場を激しく迫りました。民間による資本注入(capital infusion)を促すための政府の仲介は依然不調が伝えられ、さらに必要な資本注入額は、一夜にして400億ドルから700億ドルまで膨張していたのです。

さて、この第三幕の主役である保険会社AIGのいわば突然の登場についてFTの女性人気コラムニスト、ジラン・テットは、「保険と堅実な金融商品業務を中心にした巨大金融コングロマリットながらも、『問題が起こるはずが無い』と注目されてこなかった『退屈な脇役の激演』(The boring is biting with a vengeance)」と評しています。そして「大人しいウスノロとおもっていても狂犬にもなりうる」というのが今回の教訓だと言い切っています。

いずれにしてもあれほど「自由市場に任せよ」と主張してきたFTの論調もこの3幕劇の劇評として、「グローバル時代の国際金融・国内金融に対する監視と規制と、規制機関の間の協調が不適切であった」という論調に大変化を遂げました。さらには米国政府の金融機関救済政策について、判官ポールソン長官の日替わりとも言うべき『変心』の説明に注目いたしましょう。

ニュー・ブラックマンデー Banking’s Black Monday

2008-09-16 | グローバル経済
2008-9 No.13

昨日の本欄を「もうすぐ米国は月曜日の朝を迎えます」で結んだ後すぐに、リーマンの破産申請、バンカメによるメリルリンチ救済買収、AIGへの救済措置への着手など立て続けに大きなニュースがCNNを通して入ってきました。金曜日の午後から始まった米国政府(FRB, 財務省、SEC)機関と、金融界の緊急対策会議の詳細も報道されると、リーマンの命運は土曜日の昼食時には決していたことが判明しました。それと同時にリーマン救済に回っているのはおろかなこと、政府から見捨てられ同じ運命をたどるのは自分と判断したメリルリンチが土曜の朝には急遽バンカメに救済を依頼し急転直下身売りが決定したとのことであります。

月曜日のウォールストリートは504ドル安で前日比としては2001年9月17日の684ドルの下げ以来の大きな下げであり、曜日の連想からすると1987年10月19日のいわゆる「ブラックマンデー」の下げ(508ドル)を思い出させます。グローバル化と金融資本主義の行き着いたところにサブプライムローン問題があり、IT化と金融技術化の進展に追いつけない各国金融規制当局が、その監視・規制能力の限界を思い知らされたのが今回の混乱の特徴です。

そして、FTのコラムニスト、ジョン・オーサーズは、今回の金融システムの崩壊ないしは崩壊寸前の状況の遠因を、約10年前の1997年の有名なLTCMの破綻とそれに対する米国政府の救済介入に求めています。当時ウォールストリートの金融界は救済に回りFRBは低利融資で支援したのです。この民間のデリバティブ投機失敗への政府救済が、その後「大きな問題に持ち込めば、“つぶすには大きすぎる”として救済される」との期待を潜在意識の中に植えつけたというわけです。これが「行け行けどんどん」の気風を金融界にもちこみ、個人的な報酬を求めるマネージメントがそれを助長してきたのであります。いわゆるモラル・ハザードの発生です。

ポールソン財務長官は、「リーマンブラザーズの救済は一切考えなかった」と演説し、マケイン共和党大統領候補はこれを賞賛し、「納税者の金を使わない正しい判断」としています。しかしこれでは、3月のベア・スターン救済、先月の政府系住宅金融公社2社の救済との整合性のなさは説明できません。あす発表されるであろうAIGへの処置が政策整合性と、大統領選挙への配慮からくる政策性に対する疑問の答えとなるでしょう。





リーマン傲慢 “Hubris, thy name is ……”

2008-09-15 | グローバル企業
2008-9 No.12

本日のFTのリーマン・ブラザーズの崩壊に関する2つの論評記事には、期せずして同社に長年君臨してきたCEOであるリチャ-ド・ファルド氏の「傲慢」(hubris)が今回の破局をもたらしたのだと断じ、今年3月に崩壊して連邦政府の救済を受けたベア・スターン証券のCEOであったジミー・ケイン氏の「傲慢」経営の系譜につながるものであったと糾弾しています。

そして、一つの記事の見出しには、ハムレットが母親の不義を嘆く有名な第一独白「心弱きもの、おまえの名は女!」(小田島雄志訳)になぞらえて、「驕れるもの、おまえの名はリチャード・ファルド」” Hubris, thy name is Richard Fuld”としています。これはベア・スターンが上場廃止となる前日、本社前に並んだ社員が、「驕れるもの、おまえの名はジミー・ケイン」と同氏の肖像に題名を付けたものを掲げたことに倣ったものです。

もう一つの見出しは、”A tragedy of hubris and nemesis”となっています。tragedyは、ギリシャ演劇に発する「悲劇」のことですが、hubrisはギリシャ神話では「神々に対する傲慢」、そしてNemesis「ネメシス」は人間の思い上がりを罰する女神のことを指しています。リーマンもベア・スターンも両CEOの思い上がった経営に関する天誅が下ったのだというわけです。

それでは、リーマンのファルド氏の傲慢経営といわれる所以はどこにあったのでしょうか?それは、ファルド氏が徹底して自分の経歴と誇りに傷がつくと思った対策には抵抗したために、過去にあった資本増強などのチャンスを逸し、それを糾弾されると長年労苦をともにした幹部社員の降格や更迭でしのごうとしたところにあります。

9月12日の株価は3.83ドルで、一年前の9月1日に較べると実に93%下落しており、実体的には紙くずと化しているのです。特に今年の4月には、「最悪の危機は脱した」と公言するなど、事実認識に錯誤が見られ以来一貫して的外れな判断に終始してきたと厳しく責任が問われています。

米政府の合併・売却などの仲介は週末も使って行われていますが、政府の直接救済が行われぬ方針の下では難航が伝えられています。もうすぐ米国は月曜日の朝を迎えます。

米国副大統領候補口頭試問 The Bush Doctrine?

2008-09-13 | 米国・EU動向
2008-9 No.11


サラ・ペイリン米国共和党副大統領候補の最初の試練となる、ABCテレビの有名キャスター、チャールズ・ギブソン氏との対談は、911の当日アラスカ州フェアバンクスで行われました。共和党はこの対談の重要性に鑑みて、彼女の外交・軍事政策に関する未経験を不用意にメディアに露出させぬように直前まで、メディアの同氏への接触を巧妙に遮断してきました。

対談の二人の席は、対向して置かれておりしかも脚が接触するくらいに二人の距離は接近させてありました。こうした心理的圧力を感じさせながら、チャールズ・ギブソンの質問も予想通り、彼女の国家安全保障に関する経験と能力が副大統領職に耐えるものであるかどうかについて、鋭く集中していきました。彼女は全体的には堂々たる受け答えをしていましたが、共和党の選挙対策戦略家たちが事前に吹き込んだ「模範解答」を必死で言っているという感は免れないのは当然でありました。

国家安全保障問題の経験に関しては、「国家安全保障の基礎はエネルギー政策。自分はアラスカ州知事として同州の石油・ガス資源政策に関わったことで準備十分」であるとし、「アラスカはロシアと隣接している州だから対露外交への準備も十分」との趣旨で対抗しました。

しかしブッシュ政権のイラク侵攻の原点でもあり米国の軍事・外交政策の基軸的思想であるBush Doctrine(米国の安全が脅かされたと米国が判断した場合、それを阻止するために予防戦争として先制攻撃をすることは許される)について聞かれて、同氏は明らかにそれを知らないことを露呈しました。ギブソンが内容を説明したことにあわせて回答を続けましたが動揺の跡がみられ、事前の脚本を繰り返す感が否めませんでした。

特に、「イランの核攻撃にイスラエルが先制攻撃を加えること」は肯定すべきなのかという議論では、”US cannot second-guess what Israel must do to defend itself”’(イスラエルの自衛行動に米国は余計なくちばしを入れられない)と、second-guessという言葉を3回も繰り返しました。second-guessとは、「審判でもない人間があやふやな判断でプレヤーにあれこれという」という意味の米語です。すなわちイスラエルの行動の無条件承認をすると言い切ったのです。

また同氏は、今回のロシアの一方的軍事介入から始まったグルジア侵攻を、根拠の無い一方的なもの(unprovoked)と表現し、ギブソンに”unprovoked?”と無知を鋭く指摘されました。また「アルカイダ追討のためパキスタンに無許可で越境攻撃をすること」に関する是非を問われて、「米国側の諜報が十分であれば、脅威の除去の権利がある」という極めて重要な回答を引き出しました。外交経験知識レベルでは、ご近所のおばさん”Hockey Mom”並であること、しかしそのタカ派思想は”Barracuda Sarah”ということがはっきりしたわけです。(2008-9 No.4,No6))

民主党内では、世論調査の結果、ペイリン効果によって軒並みオバマ候補がマケイン候補に圧倒的な差がつけられたことに危機感がみなぎっているとのことで、一部の当選一期目の議員には浮き足立つものがいると報道されています。こうした状況下、このTV討論でペイリン氏の弱点がはっきりとし、同氏の政治疑惑(Troopergate)と出張費の過剰請求問題などもメディアが取り上げ始めている状況を最大限捉えた反撃を行い、10月上旬のペイリン-バイデン副大統領候補討論につないでいくことということになるでしょう。