世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

日本株式会社の配当 Conservative policies may pay dividend

2008-10-14 | 世界から見た日本
2008-10 No.014

FTが今日、金融危機の真只中で別刷りの「日本特集」版を出し、日本株式会社の経営を何年ぶりかで、褒めたことは大いに注目に値します:

「日本はこれまで、全世界を風靡した金融の自由化に乗っかる形のビジネスに飛びついたりしなかった。また、新しい金融商品の開発やそれを後押しする金融政策に手を染めることもなく、ファンドの攻撃にも屈しなかった企業統治のありかたなどなど、尻馬に乗らなかった日本株式会社の経営は、「頑迷固陋」と笑いものにされるどころか、「賢明さ」を賞賛されるものに突然世界の評価が変わった。」

「それに、中国市場での企業活動も、低付加価値部分だけ生産を移転し、資本集約的な部分はブラックボックス化して中国側には渡してはいない。中国での売り上げも100億ドルを超えており、欧米を抜き去っていることにも注目すべきだ。ほんの数ヶ月前までは、モノ作りに励むのは時代遅れといわれていたが、これからは軽佻浮薄な金融商品にうつつを抜かすことの反省が欧米で強まるだろう。しっかりとしたモノ作りのベースを守ってきた日本の時代というべきかも知れない」

もちろん政治の混乱と政策の不整合については手厳しい意見が続くのですが、FTのDavid Pilling氏の「日本株式会社の用心深い経営の配当が始まる可能性が出てきた」という見出しをつけたこの記事は一読に値します。



G7共同声明は知性への侮辱 “An insult to the intelligence”

2008-10-13 | グローバル経済
2008-10 No.013


G7財務担当閣僚会議が喫緊の金融対策について先週末ワシントンで開催されましたが、その内容のなさを嘆くWolfgang Muenchau氏の論評をFTが掲載しています。

まず「金曜日の夜は気分が悪くなった。G7会合のコミュニケは会議の前に草稿が出来上がっていたと聞いたからだった」と切り出した上で、「議事録が先にできているのはこの種の会議ではよくあることだが、今回は未曾有の事態に遭遇しているのだから具体的な行動計画がほしかった。最終発表はやはりG7流の穏健な表現にとどまっていた。これは読むものの知性に対する侮辱」と手厳しく批判しています。

「しかし昨日のユーロ15カ国緊急首脳会議の結果をきいて少しは気分が晴れた」(a marginally better feeling)。「特別参加した英国ブラウン首相の提唱をもとにした対策に、各国が協調を取ると合意したのは、欧州にとって正しい方向だ」と論評しています。しかし、全面撤退も辞さず(pondering whether to pull the plug)と考えている投資家を納得させることができたかどうかは予断を許さないと補足しています。

さらに、「もし欧州の首脳がブラウン首相と同じように大胆に行動すれば、今回の危機は欧州の統治機構の強化につながるはずだ。英国が提案している銀行への公的資本の注入が行われれば、危機の始まりから14ヶ月を経過して初めて政治が機能したことを意味する」と続け、「ブラウン首相は、他の首脳たちに逃げないでことにあたれという教訓を身をもって示したのだ」と賞賛しています。

具体性に欠けるG7発表 Lack of Specific Proposals

2008-10-12 | グローバル経済
2008-10 No.012

G7財務担当大臣会議はワシントンの金曜日に開催され「行動計画」が発表されましたが、具体性にかけるとの批判が出ており、月曜日朝の各国株式市場が開く前に具体策を発表すべきとの圧力が高まっていると、FTは週末のweb版で報じています。

トリシェット欧州中央銀行総裁は、「市場が政策当局の意図を完全に消化しきるのには少し時間がかかるのは当然」とコメント。IMFのチーフ・エコノミストは、「最悪の場合、具体策に落とし込むには数週間を要する。その間に株価はさらに20%は下がる可能性がある。反転はその後だ」とコメント。

このコメントに欧州各国政府は反応し、緊急の欧州サミットを日曜日にパリで開催を決定しました。フランス・ドイツ・イタリア三国は、銀行へ注入する資本金を準備して、各行がすぐに導入可能とすることを決定するものと観測されています。ドイツは注入規模を45ないし60兆円規模とすることをすでに示唆しています。(しかしEUとしての救済ファンドの創設には、サルコジ大統領もメルケル首相も反対しているとABC放送は伝えています)

また米国も約70兆円の資金の銀行資本の増強に充当する具体的な方法を明らかにすることが求められていますが、「幅広い銀行業種に、議決権の無い優先株の形で政府資金を注入する」方針が内定していると伝えられています。英国は月曜の朝ロンドン市場が開く前までに具体的な政策を発表する予定で、十分な資本を確保するための借入金に対して政府保証を100%付ける方法を取るようです。政府の支援を受ける銀行には、政府から取締役の派遣を要求するとの方針であるとのことです。

IMFと世銀総会も続けて開催されていますが、救済のための具体策と、両組織の権限強化を含めた改革について話し合いが進むかどうかが注目されます。G7やIMF・世銀の構造改革こそが、今ほど必要なときは無いでしょう。

MUFG経営陣は「A kid in the candy store」か?

2008-10-11 | 世界から見た日本
2008-10 No.11

本日のFTの一面に欧米の対日観をうかがう意味で見逃せない記事が出ています。その見出しは「格下げ警告と株式売却再交渉のうわさがモルガン・スタンレーの株価直撃」です。

そして記事本文では、昨日の朝Moody'sが「同社の格付けの見直しに入った」と発表したことに加えて、「モルガンスタンレー株の20%を一株あたり25.25ドル、総計90億ドルで買収するとした三菱UFJ銀行が条件交渉を、やり直すらしい」といううわさが市場に流れ、株価は36%下げて7.95ドルになり、時価総額が一時86億ドルになったことを報じています。

この株価暴落により、三菱UFJは株数の増量を求めるのではないか、他の証券会社が介入するのではないかとの観測が強まると同時に、モーガン・スタンレー側の幹部も、他のグループも動き出していることを示唆したとのことです。

そしてMUFJによるモルガン・スタンレー株の買収は「日本で手厳しい批判の対象となっている」と報じるとともに、「経営陣はキャンディーストアにいる子どものようだ。浮かれまくって景気後退が目前に迫っていることをお忘れのようだ」という行員の一人のコメントを紹介しています。(注:a kid in a candy storeは英語の成句で、お菓子屋に入った子どものように、われを忘れてう浮かれることを指します)

株価の下落と、それに続いて起こる資金調達コストの上昇、それが引き起こす更なる株価の下落、この連鎖こそMoody’s の「格付けの下げは正しいと主張する」根拠を与えてしまうのだと記事は言います。

ちなみにモルガン・スタンレーのレバレッジは相当削減されてきましたが、それでもまだ20:1の高率であり、借入金残高は2000億ドル(20兆円)のレベルにとどまっています。

先般、モルガン・スタンレーは銀行持ち株会社へと会社の形態を変更して、FEDからの緊急融資を受けられるようにしたばかりですが、流動性の確保には市場の信頼感が頼りで、一方その「信頼感」などは一夜にして吹き飛んでしまいかねないと論評しています。

モーガン・スタンレーのジョン・マックCEOが狼狽して「救世主」(white knight)を囚人環視の中で探しまくっていたあの姿では、到底「信頼」を得ることはできないなとの、市場関係者の声を報じています。

アイスランドで凍りついて Frozen in Iceland

2008-10-10 | グローバル経済
2008-10 No.010

今、バイキングの国アイスランドの金融危機が、欧州特に英国とオランダにショック・ウェーブを及ぼすという未曾有のサイド・ショーが展開しています。アイスランドでは15%以上の高金利政策が取られてきたことから、キャリー取引で莫大な預金がアイスランドの銀行の欧州支店の口座に流入し、しかもその残高は9月に入って急増していました。

アイスランド政府が外国人の預金は保護しないと発表したため欧州ではパニック状態に陥り、英国政府が介入しアイスランド銀行の英国子会社を英国政府の管理下におくという強硬措置(placed in administration)に出たのです。しかもその接収の法的根拠を「テロ対策法」に求めたのです。この結果アイスランド側の親銀行も破産とみなされる事態になり、両国政府間の関係は現在極度の緊張状態となっていると報道されています。

アイスランド政府は事態打開のため上位3行を国営化することにより沈静化を図った一方で、IMFとも救済策を求めて協議に入っています。このように欧州から「冷たい」仕打ちを受けたアイスランドに40億ユーロ(約5600億円)の特別融資を申し出た国があります。ロシアからです。アイスランドは東西冷戦時代は、対ソ連の防衛網の一翼を荷っていたのですが、基地が2年前に撤去されてからはいわば戦略上の「空家」となってきたところに、このロシアの秋波が送られてきたというわけです。

一方英国政府は国内の預金者保護のために、個人については全額保証をすることきめました。しかし大口の預金者であるある金融機関や歳入を預金していた地方自治体や警察などに対しては一様に保護が適用されるか否かは予断を許さぬ状況です。FTの本日の論説は、これらの大口預金者はリスクを予見できる能力があったのに泣き言をいっているのは笑止であると叱咤しています。しかしながら、保護対象の線引きはただちに明確にするべきであると主張しています。なぜなら、これからも「外国政府が外国人預金を保護しない」という事態は起こりうるからであるといっています。

IMFのご託宣 Rule out return to Great Depression

2008-10-09 | グローバル経済
2008-10 No.009

今週末から、G7財務担当大臣会議と世銀・IMF会議が開催されますが、現在の世界的規模での金融危機のなかどのような合意と政策が形成されるのかが大いに注目されるところであります。国連・WTO・世銀・IMFのみならず、G7体制までもが機能不全が近年議論の対象となっていますが、今後いかなる「世界の新秩序」形成を行うかという観点からも非常に重要です。

IMFは年次総会を控えて二つの報告書を発表したことを8日・9日両日にわたりFTが報じています。ひとつは「グローバル政策形成の呼びかけ」、いまひとつは、「大恐慌再来は無いとの託宣」であります。

「呼びかけ」のほうでは今回の危機を脱するためには、今後数年にわたり、675億ドル(約70兆円)を世界の大銀行へ資本注入することが必要と算定しています。また米国発のサブプライム関連損失総額を従来の約1兆ドルから、1.4兆ドル(140兆円)と上方修正しました。そして2007年初以来の大手銀行などが償却した損失合計は5,860億ドル(約60兆円)と見積もっています。

一方「ご託宣」のほうでは、世界は2002年以来の景気後退局面に入っており、昨年のGDP成長率5%から、今年は約4%、来年は3%に減速するとの見通しを示しました。しかし’recession’には近いが、「大恐慌時代」(Great Depression)の再来は無いとの宣言を行っています。ただし上記のように各国政府が協調の取れた金融政策を取るという条件をつけています。

またストラス=カーンIMF専務理事は昨日米国のTV局のインタビュー番組に出演しましたが、そこで欧州ではバラバラではないかとの指摘を受けました。これに対して、「欧州は米国のような一国ではない、多国の連合体であるゆえしかたの無い面もある。しかし個々の政府が自主的に政策を決定することになるがこうした危機に際しては協調が不可欠」と応じ、「政策協調」の重要性を力説しました。各国中央銀行が協調して0.5%の利下げを発表したことは、こうした国際世論形成の始まりということでしょうか。

(2008-10 No.005参照)


AIG破綻の理由:Multiple actions by multiple parties

2008-10-08 | グローバル企業
2008-10 No.008

米国議会は破綻銀行・証券・保険会社の元経営陣に対する証人喚問を今週の月曜日から開始していますが、昨日からマスコミをにぎわせているのは、850億ドルの政府資金による救済を受けて生き延びることとなったAIG最高幹部の証言についてです。

議会調査委員会の委員が、救済決定直後にAIG幹部がカリフォルニアの高級リゾートホテルで催した幹部懇親会に約4000万円を費消したことを、写真や領収書を突きつけて厳しくその経営姿勢を非難したのです。これは全米にTV放映されていましたので非常に大きなアンチ=ウオールストリート感情を形成することになったことと推測されます。

前AIG社CEOマーティン・サリバン氏は、破綻の原因を、「多くの関係者による、多くの行動の結果(Multiple actions by multiple parties)が、未曾有の金融界の破綻をもたらした」ことにあると責任を回避した上で、もっとも大きな原因は、「資産の時価評価による期末の洗い替えをしなければならないという会計基準にある」といい「売却の意思も無い資産を時価で売却をすると仮定して再評価させられるのは不当だ」と反論。

さらに「AIGにとって想定外の損失計上をしなければならなくなったのはデリバティブのCDSの評価損のためであった」と説明し、「わが社のような100兆円の資産を有する企業が、資産再評価で突然数兆円の未実現損失を計上することを余儀なくされた。これがドミノ効果を呼んでますます事態を悪化させた」のだと弁明しました。

これに対して、SECの前会計制度責任者は、この批判と言い訳に対して証言席から「高熱が出て苦しんでいるときに、それを体温計のせいにするようなもの」(like blaming the thermometer for a fever)と一笑に付しました。またこの喚問では、このような事態に立ち至って辞任に追い込まれたサリバン氏の高額の退職時報酬に対する非難が極めて厳しいものとなったのはもちろんであります。

今後こうした高額報酬問題が大統領選挙のなかで重要な政治課題となるとともに、経営陣に対する責任追及が、FBIやSECレベルでも話し合われることになるでしょう。また欧州においても同様な議論が進行しており、サルコジ大統領、メルケル首相、ブラウン首相が一様に「破綻企業最高幹部の高額報酬」を問題視する発言を行っています。

(参照記事:2008-10 No.004)

投売りして潰走 Markets routed in global sell-off

2008-10-07 | グローバル経済
2008-10 No.007

週明けの世界の株式市場は、米国の「公的支援による救済策の実効性への疑問」と, 欧州の「及び腰と足並みの乱れ」に対して投売りによる不信任投票で答えました。

FTのトップの見出しは、「世界は大混乱状態(World turmoil)」。投資家は安全な場所に避難するために(head for cover)いっせいに持ち高を投売り(sell-off)したため、株価は垂直落下(plummet)したと報じています。

新興市場の下げ幅(plunge)は大きく、インドネシア(10%)、ロシア(19.2%)、ブラジル(12.2%)、サウジアラビア(9.8%),イスタンブール(8.6%)に達し、各市場はまさに「陰鬱たる雰囲気が立ち上る場所」(emerging gloom)と化しました。特にモスクワやブラジルでは暴落によって取引が自動停止に陥りました。そしてBRICsの雄、上海・ボンベイはともに5%d台の下落となっていて、これまでの下げとあわせてgloomの支配する世界」の中に沈んでいます。

週末に、欧州市場に下されると預言されていた「火による審判」(2008-10 No.5参照)はそのとおり欧州市場に下されました。ロンドン(7.9%), パリ(9.0%)、フランクフルト(7%)とウオール・ストリートや東京と較べて記録的な下げとなっています。

また投機資金も原油市場を離脱し、1バレルあたり90ドルを割り込みました。この状態を活写する言葉がrout(潰走)であり、stampede(先を争っての暴走)でありますが、まさにそのような心理状態になっているのが今の市場ということでありましょう。



フランスの原子力攻勢 Going nuclear

2008-10-06 | 環境・エネルギー・食糧
2008-10 No.006

世界が金融危機で緊急対応のさなか、いまひとつのグローバルな問題であるエネルギー問題の分野でフランスが活発に動いています。先月末に、英国の原子力公社であるBritish Energy社に対してフランス電力公社EDFが行っていた約2.5兆円の買収提案が受け入れられたのです。

フランスでは、58基の原子力発電所が稼動しており、フランスの電力の80%をまかなっている世界に冠たる原子力大国であります。今回の買収により英仏海峡を挟んで原子力の大きなネットワークが形成されることになり、まさに「原子力ルネサッサンス」の旗手としてのフランスの野心満々ということであります。

EDFのピエール・ガドネー総裁は来年任期切れとなるために今年中にどうしても後世に「原子力の中興の祖」としての名を残したいとの思いがあるようで、本日のFTとのインタビューに応じて、「永遠に生きると信じなければ、60年にもわたる原子力プロジェクトには取り組めない」、「しかしわたしもいつかは退任するのだ。わたしが永遠に生きることになっているのを信じない人たちもいるから」と哲学的な心情を吐露しています。

原子力が今後の世界のエネルギー危機に対する重要な処方箋になることは疑いが無いのでしょうが障害も山積しています。そんな中でフランスが期待するのは大型加圧水型新型炉です。自国での建設はもとより、英国、米国、中国、インド、南アフリカへの技術輸出と、フランス企業による発電所建設受注を官民挙げて狙っているのがフランスの国策です。

先月30日に、パリでインドの新首相とサルコジ大統領が、両国間の民生用原子力分野での協力協定に調印しました。核拡散防止協定に加盟しないインドには原子力技術移転は認められないはずでありましたが、米国議会が先週原子力協定を承認したことにより、フランスの協定も発効することになります。国際政治の機微を見抜く力がなければ、こうした大国のご都合主義の動きにのっていくことはできないという典型です。

一方EDFの米国進出の戦略は、電力会社コンスタレーション・エナジー・グループの買収にあったのですが、この目論見はウオーレン・バッフェット氏によって粉砕されました。(2008-9 No.016 参照) しかしEDFはまだあきらめていないようで近々カウンターを繰り出すということです。

はからずもこの攻防の中で明らかになったのは、コンスタレーションの経営陣は株主であるEDFのことが大きらいであったことでした。

金融危機はEUへの「火による審判」(Trial by Fire)

2008-10-05 | グローバル政治
2008-10 No.005

フランスのサルコジ大統領は、ロシアとグルジア間の停戦交渉の調停役を買って出たことに続き、欧州の金融危機対策の主役となろうと、3000億ユーロ(約45兆円)の救済ファンドの創設に東奔西走しました。

しかし、同大統領はドミニーク=ストラスカーンIMF専務理事に「27カ国の規模となったEUは個人プレーで動くほど簡単なものではないのだよ」、「今回の金融危機でEUが受けているのは怖しい“火の審判”ともいうべきものであり、EU全単体で統一の取れた行動こそが最も必要だ」とたしなめられました。ちなみに同専務理事は、フランス社会党の政権下でかつて財務相も務めた経済学の教授であり、サルコジ大統領の政治上のライバルでもあります。

サルコジ大統領は、もともと3000億ユーロの救済ファンドの創設、金融資産の時価評価停止、破綻銀行トップの法外な報酬規制など現在アメリカが進めている公的支援モデルをEU全体に導入しようとしたのですが、救済ファンド導入に対しては、ただちに英国のブラウン首相とドイツのメルケル首相に真っ向からの反対を受けました。

そして英・仏・独・伊四カ国首脳会議開催提案に対しては、バローゾ欧州委員長やスペインはじめ他のEU加盟国から「なぜ4カ国だけでEUの政策を決定しようとするのか」と強い反対を受け苦しい立場に陥りました。

こうした状況のなかで、サルコジ大統領は救済ファンド創設をあきらめました。一方4カ国首脳会議のほうは、予定より遅れて4日の週末にパリでの開催にこぎつけました。その結果はストラス=カーンIMF専務理事の予想のごとく、「救済策は各国の自主的なものに委ね、EU全体としては”united front on crisis”(危機対応共同戦線)を張る」ことを骨子とした各国の個別対応を中心にするにとどまりました。

欧州の金融危機は毎日のように各国で火を噴いていて、それに対して個別の対応がなされているのが実体です。特に週明けには危機に瀕しているドイツのHypo Realへの対応がメルケル首相の最大の懸案です。そして欧州全体に広がる銀行間信用供与の凍結状態がいかに打開されていくかがまさに「火による審判」となるでしょう。





「時価会計」の終焉? Accounting Rules May Change.

2008-10-04 | グローバル経済
2008-10 No.004

ブッシュ大統領が最初議会に公的資金注入による70兆円超の銀行救済案を提示したときは、骨子は行政裁量権のほとんど政府が握るものでありメモはたった3ページのものであったとのことです。それが下院採決に掛けられたときは100ページ超になり、今回上院での可決を経て下院に戻されたものときは450ページを超えたものとなっていました。

昨日下院で可決し大統領の署名を得て立法化した内容はすでに詳報されていますが、公的資金支出に当たっての議会側の監視と介入権が強化されていることもさることながら、当初法案に反対していた両党議員の懐柔のために種々の条件や共和党の支持基盤に配慮した利権条項が追加されたことは、米国の議会制度の特徴を顕著に示しています。

政党支持基盤や地元選挙民への配慮のために議員が「がんばって獲得する」経済的利得は”pork barrel”と呼ばれます。今回も法案のページ数が増えたのもこの”pork”の処理のためであったことに他なりませんが、この「豚肉」の中でも今後極めて重要なインパクトを持つと思われるのが、金融界の強力なロビー活動によって追加された「金融商品の時価評価基準の見直し」条項です。

連結会計・時価会計・減損会計は金融界のみならず一般企業の経営透明性の確保のために米国会計基準や、国際会計基準が唱導してきたものであり、これをもはや金科玉条としないということであればグローバル基準の道のりを大きく変更するものとなります。

またFTは、この立法化にともなう米国財務会計審議会FASBの動きに合わせて国際会計基準審議会IASABがただちにマッチングの対処を開始することを発表したと報じています。今回の危機の大きな原因となった時価主義による金融資産の評価損をこれ以上防止するために、金融資産評価は各銀行の自己評価に委ねる方向ということであるとのことです。ゲームのルール(The Rules of the Game)を試合の途中で変えようということに他なりません。危機対応優先というドサクサに紛れてたいした議論にならなかったのですがこれから先どんなことになるのでしょうか?


ペイリン候補健闘 No Major Gaffes by Hockey Mom

2008-10-03 | 米国・EU動向
2008-10 No.003

注目の副大統領候補同士の一騎打ち対決は、ABC Newsの放送を見る限り、共和党副大統領候補ペイリン女史が大方の予想に反して大健闘でありました。なんと言っても彼女の若さとみずみずしさが遺憾なく発揮され、核戦争に関する質問で多少言いよどみはあったものの、重要問題での立ち往生はなく「すらすらと」脚本とおり,大失言(gaffe)もなくうまくかわしていきました。

特に彼女の言葉使いは口語表現を多用したくだけたものであり例の「サッカー・ママ」“soccer mom”としての自分の庶民性を強く打ち出しました。さらにここぞというところで4-5度にわたってウィンクを聴衆とカメラに向かってしたのは驚きでありました。中産階級の主流(Main Street)と心を通い合わせる(connecting with them)という作戦に出たわけです。

一方バイデン民主党副大統領候補は、事前トレーニングの要諦をきちんと守り、饒舌さ(verbosity)を抑え、ペイリン氏のいい間違えの揚げ足をとるという田舎モノっぽい(boorish)対応をあえてとらず、「女性蔑視と取られかねない、見下した(condescending)」態度は一切取らなかったのは好印象でした。

同氏は議論になると、ペイリン氏を真正面から捕らえず、マケイン大統領候補の考え方と実績に対して攻撃を加える戦法に出たのが非常に強い印象を与えました。そしてマケイン氏が「ブッシュ大統領とは違う」といいながら、未曾有の金融危機下における経済政策や、イラク・アフガニスタン・イランにおける外交政策で具体的にどこがどう違うのかを説明できていないことを執拗に追及しました。マケイン氏はこの点を今後明確にできないと失地回復はできないというところに追い込まれたも同然です。

両者とも大きな失点もなく両党の選挙参謀たちは胸をなでおろしているわけですが、ペイリン氏の「健闘」にもかかわらず、CBSのGeorge Stephanopoulos記者の通信簿は、「バイデン氏の勝ち」と判定しています。同氏の採点票では、戦略(strategy)では上記の理由によってバイデン氏の辛勝、見栄え(style)ではペイリン氏辛勝、議論の正確度では両者とも△印、そして総合点ではバイデン氏の勝ちというものです。いずれにせよペイリン氏の健闘もオバマ氏の優勢の状況は変える役目(Circuit Breaker)は果たせなかったということです。

さらに新しいニュースとして、マケイン陣営は大票田の重要選挙区であるミシガン州での陣営を撤収しました。これは選挙終盤の動きとしては、オバマ優勢を勢いつかせるものになることでしょう。TVコマーシャルや運動員の手当ては莫大な金額になるため、万一の敗戦の時には膨大な借金としてのこるので、ムダ弾は撃てないという判断を優先したのかもしれません。

参考:2008-9 No.04,No11,2008-10 No.01

バッフェットがGE「救済」 Oracle of Omaha, Sage of Omaha

2008-10-02 | グローバル企業
2008-10 No.02

GEが名にしおう投資家ウオーレン・バッフェット氏に頭を下げて、平時ならば屈辱的ともいう条件で出資を仰ぐことにしたとのビッグ・ニュースです。GEは先週今年2度目の減益予想を出すとともに、現金持ち高の温存、借入金の圧縮、GE Capitalへの利益依存体質からの脱却を図ると発表しました。また同時に自社株式の買い戻しを中止し、クレディットカード部門の売却を中止し、2009年通年で配当金を据え置くという32年ぶりの決断を行ったばかりです。

GEは、今回総額150億ドルの増資を行いますが、うち120億ドルは市場からの公募とし、残り30億ドルは利回り10%というプレミアムつきの優先株(preferred stock)をウオーレン・バッフェットの経営するバークシャー・ハザウェーに買い取ってもらうこととしました。さらにバークシャーは5年間有効な30億ドル分の新株引き受け権(warrant)をGEから一株当たり22.25ドルで得ました。(本日の市場価格は24.5ドルですから3.9%のディスカウントとなります)

GEはGE Capitalの収益性を確保するためには、その第一級の格付けAAAを死守する必要があります。しかしGEの短期資金確保手段であるコマーシャル・ペーパーに対する債務保証料(CDS)が昨日7.4%まで急上昇し、すでにその残高が940億ドル(約1兆円)に達していることから、GEは短期資金調達が困難になったのではないかとのうわさが流れ、GEはこの火を消すのに懸命になったということです。

バッフェット氏は、先週ゴールドマン・サックスに50億ドルの増資を引き受けていますが、この直前に同氏がことさら同社のことを褒めちぎったことが市場の不安をかきたてたという経緯があり、今回も同氏が「GEは世界に冠たる米国の会社だ。超一流のブランドと事業が世界に通じることはわたしも良く知っている」と言い出した事が逆に市場を動揺させたということです。一種の「褒め殺し」ということでしょう。

今回の増資のアドバイザーは、当然ゴールドマン・サックスが引き受けており、バッフェット氏のすることには抜け目はありません。バークシャー・ハザウェーの本社はネブラスカ州オマハにあります。というわけでFTは同氏を「オマハの預言者」、「オマハの聖人」と呼び、GEのインメルト会長に聖地オマハも詣でをさせたのだといっています。ウェルチ元会長の歯軋りが聞こえそうです。

ペイリンは無知の多言が、バイデンは無用な失言が心配

2008-10-01 | 米国・EU動向
2008-10 No.01

米国副大統領候補同士の一対一対決討論会はいよいよ明晩、セントポールで行われます。米国民主制度の一つの極致がこの討論に象徴されています。特に未曾有の金融危機に際して、下院が共和党議員の反逆で政府の救済策を却下するという異常事態の中で行われることで、この討論会はいやが上にも注意を集めています。

FTは大きな特集を組んで両候補の現況と討論の見所を評論しています。まずアラスカ州知事ペイリン候補についての記事の見出しは”Abuse plays into Palin’s hands ahead of big test”です。討論会という試練を前に、同女史に対する数々のからかいや中傷が逆にペイリンの強みになったというのです。

一方政界の巧者バイデン候補にたいするものは、”Biden in training to avoid gaffes, verbosity and condescension”となっています。バイデン氏は、失言、無用の饒舌そしてペイリンを見下した態度を取って自滅の危険性があるので、ミシガン州知事(女性)を相手に特訓を行っているということです。

CBSのアンカーKatie Couricによるインタビューが二人に別々に行われたのですが、ペイリンは知識不足が歴然としており無用な言葉の繰り返し(verbiage)に終始してみるに耐えなかったという論評が紹介されています。一方バイデン氏はニューディール政策を引き合いに出した中で、歴史事実を誤って語るなど言わずもがなの饒舌(verbosity)で失点していたとのことです。また同氏は民主党やオバマ氏の政策に関して反対のことを言って何度か注意を受けた経緯があり、これが万一討論会で出ると大変であると民主党幹部は真剣に心配しているらしいのです。

一方、ペイリン候補の「無知」はもはや公認の状態で、多少のいい間違いや的外れは大目に見てもらえるのではないかというところまで人気が出ていることが強みとなっています。いわゆる判官びいき(sympathy factor)という現象です。
そして、最も重要なのはcondescension(見下した態度)で、もしバイデン氏がこうした態度を万一にも取った場合、選挙民は大きくペイリン氏すなわち共和党になびく可能性があります。

ブッシュ大統領も選挙戦中の討論会で言いよどんで無知をさらけだしたときに、相手が見下したため息をついたことで大きく世論を味方につける結果となったのです。ペイリン氏は「彼のほうが一枚上だし、もう勝ったつもりのようですし」と演説で予防線を張って「判官びいき」を引き出そうという作戦を取っています。

関連記事:2008-9 No.11, 10, 6