世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

米国金融政策に迷い、景気刺激かインフレ抑制か A Just Soft Patch?

2011-06-23 | グローバル経済
2011-06-23

水曜日のNY市場で、ドルは強含みに、株式は軟調に推移しているが、連邦準備制度の政策の方向性にも、ギリシャ新政権が信認を得た(the Greek government’s victory in a confidence vote)とのニュースにも市場は大した反応を示していない。

バーナンキ連邦準備制度議長は、「日本の地震災害やギリシャの債務問題の影響は一時的なもので、連邦準備制度としては、ここ数四半期は景気回復のペースは上向くとみている」と記者会見の席で語り、「量的緩和政策は2-3四半期継続することになる可能性がある(the extended easing might last for at least another two or three meetings.)」と補足した。

ここで同議長が、mightという助動詞付きで先行きを語ったことが注目される。同議長の言っていることは、あくまでも量的緩和政策継続の可能性は50%でしかないということをしっかり理解する必要がある。

連邦準備制度の公式の景気見通しは、通年で成長率を下方修正したうえで、インフレの可能性を強調し、コアインフレが落ち着いた(subdued)との表現を抹消したことに注目する必要がある。これを受けて、10年物国債の利回りは3%台に上昇し、ドル相場は0.4%上昇した。

FTは、現在の連邦準備制度の立場を示す表現として、the “rock and a hard place” position(板挟みの苦しい立場)を使って状況を解説する専門家の言葉を引用している。インフレ期待率を上昇させて金利の上昇を招き景気回復に水を差すことは避けたい一方、第二期量的緩和策(Quantitative easing II: QE2)を終了させると決心するほどには景気先行きに自信が持てないのである。

FTは、「ここで一番の問題は、今の状況が一時的な軟調(a just soft patch)だとする見方が正しいかどうかということだ。正しいというなら、市場はQE3を要求しないだろう。正しくないというなら、インフレ懸念が持ち上がって、景気過熱を招く刺激策はとんでもないということになる」というトレーダーの発言を、市場を代表する意見として紹介している。

資源、食料の価格がじり高を続け、中国の人件費が高騰している状況を、市場が正しく認識し始め、「インフレ懸念」が市場を支配するキーワードになりつつある。


オバマ大統領、アフガン撤退の決意は如何? A Powerful Quartet

2011-06-22 | 米国・EU動向
2011-06-22

オバマ大統領は、選挙戦突入を前に、今週現地水曜日アフガンからの兵員引き上げを公に発表する予定であると、 Financial Timesが伝えている。大統領は、水曜日にその決意会見を行ったあとに、NYの基地に赴き、イラク・アフガン派遣部隊を慰問する予定となっている。

現在、オバマ政権第一年目に増派された3万人を含めて10万人の兵力を展開しているが、撤兵規模については、ホワイトハウスは厳しいかん口令を敷いており、大規模撤兵に反対している軍部と調整が済んでいないことをうかがわせている。

軍部は、あくまで10万の兵力からの多少の削減(pressure from the military to unveil only a modest drawdown of the 100,000 US troops)にとどめるべしと主張している。

政権内部でも、撤兵に反対している強力な4人組( A powerful quartet)と称されているのはゲーツ国防長官、クリントン国務長官、マレン統合参謀会議議長、ペトレアス・アフガン方面軍司令官であり、強く現有勢力の維持を主張している。

しかし、オバマの政治基盤の民主党内部のみならず、共和党の強硬派の一角にも厭戦気分が充満し始めている。数千億円の戦費を浪費しながら、さしたる成果を米国にもたらしていないことにいら立っているのだ。その急先鋒はバイデン副大統領である。上述の3万人増派(the 30,000-strong surge)の際のオバマ大統領の公約によると、撤兵は7月から始めなければならないという事情も背景となっている。

オバマ大統領は、大統領選をにらみ公約通りの撤兵開始をメンツにかけても行わねばならない。しかし現実はタリバン勢力の衰える兆しはない。軍部の絶対反対の主張に抗してとりうる道は、形だけの撤兵、すなわち数千人規模の撤兵にとどまるのではと、FTは読んでいる。

一方、カルザイ大統領は、米国ともども穏健派タリバン勢力と、和平交渉を秘密裏に始めたことを公表した。いまだ不安定なイラク、方向感の出ないアフガン、アラブ社会全体の動揺による北アフリカ、サウジ半島の騒擾に、アラブ世界に多方面展開する米国にとって出口なしの状況に陥りつつある。

一方、国内経済の不振と失業率増加は、オバマの選挙戦の命取りとなりかねない。撤兵を急ぎ内にこもってモンロー主義に走るか、国内打開のために一挙に攻勢に転じて戦時景気刺激の賭けに出るか、オバマの決断は明日わかる。


メドベージェフ露大統領、選挙への思いを語る  Apparent Indecision

2011-06-21 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2011/06/21

来年初頭のロシア大統領選挙を9カ月後に控えてメドベージェフ大統領が、Financial Timesのインタビューに応じて、そのものを決めきれない(apparent indecision) 複雑な心境を語った。(本日の同紙のHPにはそのインタビューの模様がVideoで視聴できる。)

もともとプーチン現首相、前大統領の懐刀として、プーチンに引き上げられる形で政界を驀進して出世街道を駆け抜けてきたメドベージェフ現大統領であるので、この時点で自らの本心を吐露できるわけもない。

いわく、「プーチンは私の同僚であるとともに古くからの盟友。政治的な立場も近い。二人が競うことを想像するのは難しい」。しかし「政治的競争がなければ、市場経済の基礎が消滅する」とこれは全くの意味不明発言。

しかし別のところでは、「2期目には、経済・社会・政治制度の近代化に全力を挙げたい」と再選意欲を見せながらも、いわく「再選決定は本人の希望だけでは決まらない」とこれまた苦しい表現。

唯一明確なメッセージとして出てきたのは、“He and Mr Putin would not run against each other and an answer on candidacy will come before long, ”である。(二人が同時出馬して競うことはない。いずれが立つかは早晩決まる)ということである。隙間風が吹いているともいわれる二人であるが、「袂を分かつということまでは行かない」というのが、世界に宛てて出したシグナルである。

元気な会長が、若い部下を会長に仕立てて置いて、自らはあえて社長に就任して、天下を牛耳っているという構図であり、若い会長が悶々と日々を送っている様子が手に取るように分かるインタビューである。


共和党大統領候補に、「堕胎是非の踏み絵」 Susan B. Anthony List

2011-06-20 | 米国・EU動向
2011/06/20

米国大統領選挙戦は、13日に行われた、現時点での共和党側の候補者を集めた演説会を以って火蓋が切って下された。

この全米TV中継された演説会には7人が参加したが、今これらの参加者には、大統領になった場合、堕胎禁止を政策実行せよと要求する「Susan B. Anthony List」と称されるいわば「踏み絵」への賛否表明が迫られている。

現在賛成を表明してそのリストに署名したのは、Michele Bachmann、Newt Gingrich、Ron Paul、Tim Pawlenty、Rick Santorum の5氏であるが、現時点での最有力候補のMitt Romneyと Herman Cainの両氏は署名の意思表示をしていないと米国ABC Newsが伝えている。

Susan B. Anthony Listは4項目からなるが、それらは ①連邦判事には、米国憲法の初心に立ち返る価値観の持ち主のみを任命すること、②閣僚や行政の要職には堕胎反対派(pro-life)のみを任命すること、③堕胎を実行する医療団体・病院への連邦補助金を禁止すること、④「苦痛を感じるまでに成長した胎児保護法」(a Pain-Capable Unborn Child Protection Act)の立法化を図ることである。

署名反対の二人も、共和党党員として当然のことながら、堕胎禁止(pro-life)を基本姿勢としているが、二人とも「第4項」の立法化は議会の仕事であり、あまりに広い義務を候補者に求めるもの(overly broad)だと異を唱えている。

特にMitt Romney氏については過去に堕胎賛成(pro-choice)に回ったことがあることを指摘されていることは、同氏の今後にどのような影響が出るかが注目される。そして最も注目される候補、Sarah Oalin女史はいつ立候補表明するかによって選挙戦の趨勢は大きく変わる。

今回の大統領選の争点は景気回復や、失業率の改善といった経済問題が前面に押し出されてくることが予想されるが、全米を支配する宗教上の右派勢力の影響力を無視しては勝利を収めることはできない。しかし初戦段階で堕胎禁止を強く打ち出してリベラル層の支持を失いたくないという思惑も働いている。

いまだに聖書記述を絶対なものとして、進化論を認めず、キリストの復活を信じる人々が米国の政治を動かしているということを注目する必要がある。こうした「聖書原理主義者」は過激な行動を取る。堕胎を実施する産科医院が爆破されたり、産科医師が殺害されるというのは、稀ではないのだ。

サウジ女性、車の運転許可を求めて立ち上がる Women2Drive

2011-06-18 | 貧困・疾病・格差
2011/06/18

現代の欧米や日本では、実際はどうあれ法の前の男女平等は当然のこととされているが、それが実現されるまでの闘いは容易なものでなかったことは歴史が証明している。日本でも婦人参政権が確立するためには第二次世界大戦での敗戦を待たねばならなかったのだ。

今、世界にはいまだに、女性を男性の庇護なしには生きてはいけない存在とてみなし、独立した社会生活することを認めない社会が厳然と存在する。それはモスレムの宗教原理によって社会生活の規範が定められているアラブ社会、特にサウジ社会がそれである。

こうしたモスレム社会規範と民主主義の葛藤の実態は、2006年のノーベル文学賞を受賞したトルコ人作家、オルハン・パムクの小説「雪」に活写されている。政教分離が実施されてから80年経つトルコでもこのような状況であるが、祭政一致のアラブ社会において女性は男性の同伴無しに外出は許されないし、車の運転は禁止されている。

本日のCNNは、サウジで5月に禁を犯して運転して逮捕された女性が中心になって組織された"Women2Drive,"というネットを通した呼びかけで、当局の取り締まりを無視して、女性たちが敢えてハンドルを握って道路に繰り出したことを報じ、サウジの実態を次のように解説している:

Though there are no specific traffic laws that make it illegal for women to drive in Saudi Arabia. However, religious edicts are often interpreted as a prohibition of female drivers. Such edicts also prevent women from opening bank accounts, obtaining passports or even going to school without the presence of a male guardian.(女性の運転は道路交通法では禁止されていないが、宗教規律からそれは禁止事項とみなされている。女性は独自に銀行口座も持てないし、パスポートの取得もできない。男性の付き添いなしに学校に行くことも許されていない)

しかし、欧米留学経験のある女性が中心となって、Facebookを通して始めたこの"Women2Drive,"運動であるが、参加者には、「黒のイスラムの服装を着用すること、サウジの旗を振って王家に恭順の意を表すること、国際免許で運転すること、男性のエスコートを伴うこと」を順守するように呼びかけていること自体が、いかに抑圧の力が強いことを示している。


中国、腐敗官僚天国、国外に持ち出されたマネー10兆円 Absconding

2011-06-17 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2011/06/17

Financial Timesが北京発のニュースとして、「過去15年間に国外にもちだされた不法利得(ill-gotten gains)は1240億ドル(現在の為替レートで約10兆円という巨額に上る」との中央銀行の公式発表を伝えている。

そして、これらのマネーを持ち出したのは、共産党幹部、警察官、司法官僚(中国では裁判官、検察官、弁護士は一元的に党管理下にある)、国営企業経営者で、1990年代半ばから2008年の間で17,000にも上ると、その報告書にかかれている。

巨額のマネーを持ち逃げ(absconding)した政府高官の逃亡先の第一は米国であるという。米国ビザが手に入らない人々は東欧、中南米を選ぶ。下級官吏は中国に隣接している国々を選んでいるという。

この67ページに及ぶ2008年作成の報告書は、始め中央銀行のマネーローンダリング局のHPに掲載」されたが、その巻き起こした騒ぎ(a public outcy)に衝撃を受けた当局は掲載を中止した。

こうした官僚の腐敗は共産党一党支配を危うくするとの危惧から、当局者が敢えて発表に踏み切ったものといわれているが、巨額マネーの持ち出し方法には、8つの方法があると、詳細に説明している。

もっとも頻繁に使われるのがカジノの経営者との共謀による持ち出しである。親戚などへの不正送金、クレディットカードでの巨額消費の偽装、架空海外投資などの手口が常套的に使われているとしている。

こうした不正送金や不正持ち出しに手を染める官吏は、金融、建設、交通、徴税、専売公社、投資、通商産業などをつかさどる官庁のものが多いとしているが、これは例示する方が煩瑣で、すべての官庁で行われていると言った方が早い。

傾向としては全人代で政権交代が行われる前年からこうした犯罪は急増するという。権力を失うという予感が、不正資金を持って、国外逃亡をする役人の数を増やすのだと、解説されている。

中国人とお金の関係を象徴する中央銀行発表である。

中国の5月のインフレ5.5%、バブル警戒水域に Committed to Mnetary-policy Tightening

2011-06-15 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2011-6-15

5月のインフレ率は前年比で、5.5%の上昇となった。これは中国政府の公式インフレ目標4%を大きく上回っているのみならず、オリンピックの直前の2008年7月のペースをはるかに超すというバブル状況であるとThe Wall Street Journalが報じている。

不動産関連こそもっともバブルを象徴するが、今年5月までの不動産投資は、前年比34%増、5月単月での不動産の売り上げは前年比33%増を記録している。また多少の減速はあるものの、工業生産の伸びは年率13%台、設備投資の伸びは24%台を推移している。

このため中国人民銀行は、昨日預金準備率を0.5%引き上げたが、これは本年に入って6度目の引き上げであり、過剰流動性の抑制に北京政府が躍起になっているかとの証左でもある。この引き上げで中銀への預金準備の預託率は21.5%に達した。これは約580億ドル(約5兆円)の資金が中銀によって吸収されたことを意味する。

しかし、中国政府は伝家の宝刀とも言うべき、金利引き上げにはまだ踏み切っていない。これは中国政府が、過度の引き締めによる景気後退も恐れているからだ。景気後退による社会不安増大こそ今の中国政府にとって最大の懸念であるので、ブレーキの踏み込み過ぎにもっとも注意を払っているのだ。

今月中に利上げに踏み切るかどうか、そして人民元の為替レートをどの方向に誘導するかなど、計画経済下の資本主義運営の難しさが中国政府の直面する試練といえる。



ギリシャ再び実質債務不履行、ユーロの信認揺らぐ A de facto default

2011-06-14 | グローバル経済
2011-06-14

ギリシャの財政危機が再燃し、ユーロ圏全体の債務不履行リスク懸念が増大している。

このためS&Pがギリシャの格付けを実質破たんと同じレベルとなる、3ノッチも一挙に引き下げた(Greece was downgraded close to default.)ことを受けて、ギリシャの10年もの国債の利回りは17%まで急上昇している。

ちなみにユーロゾーンにおける経済危機の原因をギリシャとともに作っているポルトガルやアイルランドの国債利回りはそれぞれ年率で10.66%と 11.34%であるから、ギリシャの痛み方の厳しさがよく表れている。

ギリシャの格付けは、これでエクアドル、ジャマイカ、パキスタンなどの諸国よりも低くなり世界最低の信用度と位置付けられることとなった。S&Pの見解によれば、「ギリシャは今後国家ベースで信用補完の支援を受けたとしても、一つ、二つの債務不履行が起こりうると見ている」とのことである。

またその試算によれば、対ギリシャ債権の回収見込みは30ないし50%程度しかないとの厳しい見かたが示されている。

現在ユーロゾーン各国の間で1,720億ユーロという巨額のギリシャ救済パッケージが話し合われているが、これを推進するドイツと、反対する欧州中央銀行(ECB)の間で激しい綱引きが行われているとFTは報じている。

ギリシャ政府は、S&Pの格付け引き下げに対して、IMFによる救済ローン供与の話し合いが鋭意おこなわれていることを忘れた議論であると反論している。(the decision overlooked intense deliberations at the European Union and International Monetary Fund to find a viable solution to its debt crisis.)そしてギリシャ国民の危機乗り越えの為の決意を見逃していると非難も付けくわえた。

EU発足からもうすぐ20年が経過する。

発足当時から、アイルランド、ポルトガル、南イタリア、ギリシャは、「経済的弱者」とされ、巨額の経済援助をEUとして行ってきた。しかしいまだにその格差は詰まらず、ユーロという共通通貨をもったがゆえに、為替レートによる均衡点の自動調整機能が失われてしまったことの矛盾が、カントリーリスクの増大と利回りの急上昇として噴出してきている。

これら諸国は、EUにとどまるべきか、ユーロ通貨を維持すべきかを根本的に問い直す時に来ているのかも知れない。


南シナ海で周辺諸国と衝突する中国は、東南アジアの「悪しき隣人」か Big, Bad China

2011-06-13 | 世界から見た日本
2011年6月13日

中国の圧迫(maritime bullying)を受けているベトナムが、たまらずついに米国に助けを求めたことをFinancial Timesが報じている。

石油やガスなどの地下資源が豊富と目され、豊かな漁場でもある南シナ海(the resource-rich South China Sea)において最近、中国は、ベトナムとフィリピンとその領有権をめぐってあからさまな衝突をあえて執拗に行っている。これは昨年わが国海上保安庁の艦船に対して行った、「漁船」の特攻攻撃と同根の問題である。

ベトナムは、本日からベトナム沖合いで同国海軍の実戦訓練(live-fire drills)を行う予定で、双方ともに挑発行動はエスカレートしているが、この演習に先立って米国に仲介を求めたことで、中国政府は対ベトナムへの非難姿勢を強めることは疑いは無い。

中国はこの水域の問題は「あくまで二国間問題である」(the long-running row over the South China Sea must be resolved on a purely bilateral basis)との基本姿勢をとり続けているのだ。昨年の7月にクリントン国務長官がこの問題に踏み込んだ際の中国政府のヒステリックな反応はまだ記憶に新しい。

このように中国が強硬な対立をこの地域に持ち込んでいるが、その対象はベトナムとフィリピンに限らない。マレーシア、ブルネイ、台湾とも摩擦を起こしている。それは領有権の主張という生易しいものから、軍事衝突へと様相が深刻化しつつある(“China’s behavior has gone from assertive to aggressive,”)。

さて2010年12月18日の本欄でも紹介したが、中国の航空母艦が、来年から就役する。この航空母艦が、日本海から、南シナ海、インド洋を遊弋する事態は近いのだ。米国の第七艦隊とは、戦力に大きな差はあるが、補給力は格段に優位となる。

一方、中国は米国とインドをけん制するきわめて象徴的な外交を同時に展開していることに注意しなければならない。中国はパキスタンと共同開発した戦闘機「梟竜」(FC1)をパキスタンへ50機提供する。国際テロ組織アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラーディン容疑者殺害で米国とパキスタンの関係が冷え込む中、インドへの対抗軸としてのパキスタン関係を利用して合従連衡政策をあからさまに取ったのだ。国交樹立60周年を記念し、ギラニ首相やムフタル国防相らが5月17日から中国を訪問、両国間で合意に達した。

Financial TimesのDavid Pilling記者はその署名記事の中で、中国に対して、“Big bad China”という表現を持って、近隣諸国の対中感情を表現している。中国がなぜ敢えてこの時期に「悪役」を演じようとしているかを深く考えておかないと、わが国は飛んでも無い役回りを引き受けることになる。


オバマ大統領、「下がらぬ米国の失業率、即効薬なし」と No Quick Fix

2011-06-12 | 米国・EU動向
2011年6月12日

オバマ大統領は今週末のラジオ演説で、低迷する経済と下がらぬ失業率に関して、「この悪環境に陥ったのは一朝一夕のことではない。したがってそこからの脱却も時間のかかるのは当然」(But the truth is, we didn't get into this mess overnight, and we won't get out of it overnight. It's going to take time)と共和党からの責任追及に反論した。暗に原因は前政権のブッシュ大統領にあると言っているのだ。

オバマ大統領いわく、「この経済問題に即効性のある対策はない(there is no "quick fix to our economic problems,")。そのために今経済界と協力して雇用創出に努力しているところだ」。産業界との協力とは、50万人の職業訓練校生(community college students)に、業界が保証する就業機会を与えることを指している」。同大統領はその演説の最後に、「訓練校の卒業証書は就職に役に立ちますよ」と若者に呼び掛けたことは特に注目に値する(you'll know that your diploma will give you a leg up in the job market.)

最近の失業統計によると、失業率は9.0%から9.1%に上昇してしまったので、オバマ政権の失業対策に対する信認が急落しており、すでにその火蓋が切って落とされた大統領選挙の前哨戦に悪影響が出ないように、民主党としては対策を迫られている状況にある。

共和党は、雇用創出の手段は、連邦政府の借入金を圧縮すること、各国との自由貿易協定野締結を促進すること、国産エネルギー増産によるべきであるとしている。特に国の借金をこれ以上増大させないために、現在設定されている14.3兆ドルの連邦政府の借入上限の増枠は断固として阻止すると息巻いている。そして、中小企業減税や、規制緩和によって、産業の活性化を図るべしというのが、「小さい政府」を常に主張する共和党路線である。
これに対して大統領は、成長と雇用を確保するために、中産階級のライフスタイルの変更を力説した。この為の重要な対策として教育改革をあげ、大学進学率の引き上げと、先にあげたように職業訓練の拡充を目指すとしている。また雇用機会の創出に資する有効な施策として、再生可能エネルギーの開発と、利用拡大を」訴えている。

オバマ大統領は、今後も政権の政策実行による景気回復と失業率改善の可能性が低いと見ているようだ。そのため景気後退の中での大統領選を意識して、中長期対策に論争の中心を移す作戦に出てきた。

さらには「弱いドル」作戦によって産業界の支持を取り付けようとしている。翻って我が国は政治混乱によって、不自然な円高相場に対抗する政治的意思を失ってしまっている。「市場経済原理」を隠れ蓑にした国際金融資本、欧米多国籍企業、為替投機で巨利を得ている投機筋のなすがままになっているのが日本の現状である。

米国投資家は、株式市場を見捨てた A Distrust Discount

2011-06-11 | グローバル経済
2011年6月11日

10日のFinancial Timesは、ここ数週間の株式市場下げが単なる相場の上下動の結果ではなく、いわば投資家の株式市場離れがその裏にあると報じている。

この傾向は、巨額の資金を運用する機関投資家のみならず、小口の資金を投資に回している一般投資家にも一律に見られる。

その底流にあるのは米国経済の先行き不安であり、欧州各国のカントリーリスクの再燃であり、それに連邦準備制度による流動性の注入、いわゆるQE2が今月末で終了することの心理的影響が圧倒的に大きい。

このためNasdaq市場は金曜日に年初来の安値を付けた。それに一般投資家は、例年この時期に持ち出される「5月になったら売って逃げるのだよ」(Sell in May and go away)という格言に従ったことも影響を大きくしたといえる。

一般投資家はここ7週間で、市場から58億ドルを引き揚げたことになり、先週1週間で一般投資家と機関投資家合わせて63億ドルを引き揚げた。この揚げ超は、昨年の8月以来のものである。この結果は、株式相場の連日の下げとなって表れている。

こうした状況について、「投資家にとっては2008年の市場崩壊の記憶もまだ消えておらず、今度はのっぴきならないことになる前に手じまいしようとしている。いわば市場はこうした投資家の市場に対する不信を織り込んでいるのだ(a distrust discount)」と解説されている。

株価オプション取引では、プットがコールを大幅に上回っていることがまさにそれを証明している。

さて、株式市場から離脱したカネはどこへ向かうのか?米国国債か、金か、ゼロ金利の円を買って高金利通貨に投資するか、石油か、原発停止の日本が大量買い付けする天然ガスか。説明のつかない円高に苦しむ日本の輸出産業をさらに苦しめることになる危険がそこにある。