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金融危機はEUへの「火による審判」(Trial by Fire)

2008-10-05 | グローバル政治
2008-10 No.005

フランスのサルコジ大統領は、ロシアとグルジア間の停戦交渉の調停役を買って出たことに続き、欧州の金融危機対策の主役となろうと、3000億ユーロ(約45兆円)の救済ファンドの創設に東奔西走しました。

しかし、同大統領はドミニーク=ストラスカーンIMF専務理事に「27カ国の規模となったEUは個人プレーで動くほど簡単なものではないのだよ」、「今回の金融危機でEUが受けているのは怖しい“火の審判”ともいうべきものであり、EU全単体で統一の取れた行動こそが最も必要だ」とたしなめられました。ちなみに同専務理事は、フランス社会党の政権下でかつて財務相も務めた経済学の教授であり、サルコジ大統領の政治上のライバルでもあります。

サルコジ大統領は、もともと3000億ユーロの救済ファンドの創設、金融資産の時価評価停止、破綻銀行トップの法外な報酬規制など現在アメリカが進めている公的支援モデルをEU全体に導入しようとしたのですが、救済ファンド導入に対しては、ただちに英国のブラウン首相とドイツのメルケル首相に真っ向からの反対を受けました。

そして英・仏・独・伊四カ国首脳会議開催提案に対しては、バローゾ欧州委員長やスペインはじめ他のEU加盟国から「なぜ4カ国だけでEUの政策を決定しようとするのか」と強い反対を受け苦しい立場に陥りました。

こうした状況のなかで、サルコジ大統領は救済ファンド創設をあきらめました。一方4カ国首脳会議のほうは、予定より遅れて4日の週末にパリでの開催にこぎつけました。その結果はストラス=カーンIMF専務理事の予想のごとく、「救済策は各国の自主的なものに委ね、EU全体としては”united front on crisis”(危機対応共同戦線)を張る」ことを骨子とした各国の個別対応を中心にするにとどまりました。

欧州の金融危機は毎日のように各国で火を噴いていて、それに対して個別の対応がなされているのが実体です。特に週明けには危機に瀕しているドイツのHypo Realへの対応がメルケル首相の最大の懸案です。そして欧州全体に広がる銀行間信用供与の凍結状態がいかに打開されていくかがまさに「火による審判」となるでしょう。