世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

米国議会は「不条理劇場」 US debt drama enters theatre of absurd

2011-07-31 | 世界から見た日本
2011年7月31日

米国政府債務の支払いに関して、米国の議会は上下院の「ねじれ」と、オバマ大統領の政治局面の指導力低下によって混乱状態に陥っている。今、我が国の政治家の不勉強と無能、そして無節操を責める声が巷に溢れているが、日米両国の政治家は等しく無責任なのであろうか。観察すれば米国の混乱には日本とは異質の民主主義制度の問題点が浮かび上がってくる。

Financial Timesは、Jurek Martin氏の署名記事で、米国のドタバタを、かつて演劇界を風靡した「不条理劇」と評して、その混乱ぶりを揶揄している。29日に下院が可決した財政赤字削減法案(the debt ceiling)を、上院は即刻否決したのであるが、これはある意味で、上下院のねじれ状態では、予定された事態であり、大統領は直ちに両党の超党派合意形成を要請したが、来年の大統領選挙をにらんだ両党の計算が働いているので、それは容易ではない。

共和党も民主党も「米国民(the American people)の為」というが、共和党支持の米国民とは、小さな政府と財政支出の縮小、そして国債の大幅減額を求める。一方民主党支持の米国民とは、財政出動をもとに大きな政府による社会保障の充実を求める。

共和党は「米国の建国精神である個人の自立」をテーゼとする強者の論理、民主党は「社会正義は平等と格差是正によって実現される」という弱者救済を常に目標とする。その間には越え難い、信条の対立があることを理解しなければ、米国の現状を理解できない。

しかし、その双方の主張は一貫性があり、議論の結果としての政治的妥協はあっても、日本でしばしばみられる信条の放棄や保身のための意見の変更というご都合主義はない。昨日言ったことを今日変えることを「君子豹変」と強弁することは最も忌み嫌われる。

8月2日に迫った債務残高引き上げ期限を背景に、ワシントンでは現在激しい舞台裏の(off-stage)の駆け引きが行われている。一方現実世界では、先週、経済成長の不振、失業率の高止まりを受けて、株式市場は「失望売り」で大幅下落、一方インフレ期待と資金の逃避先としての金価格は大幅上昇、ドルはドル価値の下落を先取りした投機筋の浴びせ売りの結果、対主要通貨で「大幅安」となっている。しかし米国国債の利回りは急速に低下(価格は上昇)している。

この米国債の、価格上昇に冷静な市場の反応が集約されているのかも知れない。

「ストレステスト」のストレス Banks’ stress test pass rate under fire

2011-07-17 | グローバル経済
7/16/2011

Stress Testという言葉は金融界で、近年銀行の経営の健全性を確認するために欧米で多用されてきた。

もともとはコンピュータ業界で、ハードやソフトに短時間に大量のデータを与えるなどの異常高負荷をかけても、製品が正常に機能できるかを確認するテストのことを指している。もっと元を手繰れば、金属材料では、材料が破断するまで引っ張りや圧縮の圧力をかけて行う破壊検査が行われるが、これが最も過酷な実機や実材料に加えられる試験方法といえる。

こうした破壊試験に対応するような想定条件を与えても、システムや材料が正常に機能するかを確認するいわば、バーチャルな破壊試験のことをStress Testと呼んでいる。金融機関の健全性や、原子力発電所の安全性確認は、現実には「破壊試験」がなじまないのであるから、当然の代替え措置といえる。

さて、日本ではこの言葉は、金融業界内部だけで使われ、マスコミも長くそのまま「ストレステスト」とカタカナ用語として輸入してきた。しかし、ここに来て原子力発電所の安全問題が福島事故以来、工学的のみならず社会問題となって、「ストレステスト」を原子力発電所にも適用しようとする動きが欧州で始まり、EUの原子力規制機関の連合体であるWENRAが導入を宣言したが、その詳細はまだ決定していない。さらに米国では既存の検査との整合性を見極める慎重な動きとなっている。

そうした中わが国政府は、この言葉を「耐性検査」と翻訳して、急いで導入を決定した。昨日の日経新聞の見出しは、「原発再稼働、根拠あいまい」「耐性一次評価、終了時期示さずー保安院原案」「判断は首相次第」となっている。そして、記事内では、「原案をめぐっては安全委でも、一次と二次の違いがわからないとの声が出るほど内容は不明瞭」と解説されている。

ところで、EU周辺諸国であるスペイン・ポルトガル・ギリシャの国家財政破たんに端を発し、脆弱な銀行の経営の破たん懸念が高まる中、EUのthe European Banking Authorityは、その「ストレス・テスト」結果を公表した。

検査対象となった91行のうち、想定される過酷なストレス条件を想定した場合、自己資本準備金に関するBASEL II基準である5%を満たせないだろうと判定されて、不合格となったのは9行となった。

スペイン5行、ギリシャ2行、ドイツとオーストリアが各々1行である。15行程度が不合格になると予測されていること、不合格9行の資本不足合計が、3000億円程度にとどまったことから、「ストレステストの合格基準が甘い」との批判が一斉に出てきたと、Financial Timesが報じている。

金融システムもエネルギー政策はともに国家の長期戦略にかかわる問題故に、金融機関の「ストレステスト」と、原子力発電所の「耐性検査」の議論には、その想定する過酷条件の設定と合否判定基準設定に関する慎重さと、既存の規制との整合性を十分とることが必要である。