世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

オバマ大統領の8日間訪欧日程 If it’s Tuesday,

2009-03-31 | 米国・EU動向
2009年3月31日(火)

オバマ大統領は、火曜日に最初の重要な8日間の外遊に出発する。(正確には、最初の海外訪問は就任直後のカナダ日帰り訪問であったが)

その日程を見ることで、米国外交政策の重要案件(agenda)が浮かび上がってくる。

火曜日:夜にロンドン着
水曜日:ブラウン首相と官邸で朝食会、その後メドベージェフ・ロシア大統領との会合、胡錦涛主席との会と続く。そしてエリザベス女王との会見が予定されている。

木曜日:G20会議

金曜日:ストラスブール(仏)へ移動して、サルコジ仏大統領と会合。その後直ちにヘリコプターでバーデン・バーデン(独)へ移動して、メルケル独首相と会合。

土曜日:NATO首脳会議。

日曜日:プラハにて、米国―EUサミット。

月曜日:イスタンブールとアンカラで2日間のトルコ訪問。

今回の訪問国として注目されるのが、チェコとトルコである。両国ともに、今後の米国の、軍事戦略に大きな意味を持っている事実が、見事に浮上しているのである。チェコは対イランミサイル防衛網の設置予定国のひとつであり、トルコは、オバマ政権のアフガニスタン「平定」作戦の展開のための軍事拠点としてきわめて重要となるからである。(3月8日の本欄、「トルコの戦略価値上昇」参照)

なお、Financial Timesが、見出しに使ったIf it's Tuesday,は、昔のヒット映画(1969)の題名’If it's Tuesday, This must be Belgium’のもじりである。

オバマ大統領、G20訪欧の途へ Call for G20 'Unity'

2009-03-31 | 米国・EU動向
2009年3月31日(火)

Financial Timesの力にはすごいものがある。ロンドンで2日(木)に開催されるG20サミット会議に、本日出発するオバマ大統領と、ホワイトハウスで単独会見を許されたのである。

そして、『この危機に際して、われわれのもっとも重要な責務は、G20諸国が団結しているという強いメッセージ(deliver a strong message of unity)を世界に送ることだ』というオバマ大統領の発言を世界に伝える役割を担ったのである。

オバマ大統領は、超大型の緊急経済対策を打ち出し、それに呼応した対策をEU側に求めているが、EUとくに独仏両国は懐疑的な態度をとっている。『対立』とまでは表立った関係悪化までは進んでいないが、意見の『相違』は確かに存在する。

一方同紙は、先週には、ドイツのメルケル首相との単独会見にも成功しており、”3週間前にあれほど激しく、危機対応策に関して論争していた米国とEUはいまや、その痕跡を見出すのは難しいくらいである”と論評したうえで、『米国とEUは、互いに争うのではなく、共通の意思決定をしようと会議に臨むのだ』との同首相の言葉を冒頭に紹介している。

また同紙は、G20のコミュニケの草案をすでに入手しており、その中には、「EU側が抵抗している、大型経済刺激策(stimulus package)に関する各国の財政出動の詳細」は含まれていない、とも報じている。

米国側にくすぶる、米国の景気刺激支出に、EUはただ乗りしている(free-riding)という不満が、今回解消することは多分ないのであろう。

いずれにせよ、Financial Timesが、アングロサクソン型資本主義の唱導者であることが、今回のオバマ大統領が、単独会見を許した大きな理由であることは間違いが無い。

オバマ、GMトップの首を要求 First victim of the auto industry

2009-03-30 | グローバル経済
2009年3月30日(月)

8年間にわたりGMのトップとして君臨し、まさに帝王の地位を維持してきた、Rick Wagoner氏が、ホワイトハウスからの要求により辞任することが確定したとの報道である。

オバマ大統領は、米国時間の月曜日にも、自動車産業に対する追加支援の発表を前にして、同氏の辞任を要求し、同氏は、それを受け入れたという。

救済策の対象となるのは、GMとChryslerの両社が中心となるが、両社にはすでに1.7兆円以上の公的支援が行われており、さらにGMは1.6兆円、Chryslerは5,000億円の追加支援を要請中である。

Wagoner氏の後任は、内部より昇格させることを、GMは希望しているが、AIG救済で犯した政治的な混乱を繰り返せないオバマ政権としては、慎重となっており、外部からの任命を要求しているとも言われている。

オバマ大統領は、GMをここまで経営悪化させた責任範囲を、経営者・株主・労働組合・債権者・納入業者・ディーラーに広げ、「おのおのには関係者として、応分に泣いてもらわねばならない」と訴えているのである。( a set of sacrifices)

しかし、ここまで、政府が民間会社の経営に介入すると反発も高まっている。GM内部に近い筋は、救済と裏腹の経営介入を嫌って「破産の道を選ぶのではないか」ともらしていると、Financial Timesが報じている。

民主党政権による介入が強くなると、金融界も含めて、公的支援を回避しようとする行動が強まる可能性があり、オバマ大統領の緊急対策全体が、困難に直面することが危惧されている。

二人のノーベル賞学者のオバマ経済政策批判 Cash for Trash

2009-03-29 | グローバル経済
2009年3月28日(日)

「カネをドブに捨てる」を英語でなんと言うか、という問いの答えを、昨年のノーベル経済賞、ポール・クルーグマン(Paul Krugman: プリンストン大学教授)が教えてくれた。「オバマ政権が行っている銀行の不良資産(toxic assets)の買取は、”cash for trash”(カネを払ってゴミを買う)に他ならないと批判したのである。

同氏の経済・政治政策の主張は、「格差は作られた」(早川書房)などの論評集を読めばすぐにわかるが、米国における左派(Liberal)であると、自らを定義している経済学者で、昨年のノーベル賞受賞者でもある。

同氏は昨年ノーベル賞受賞直後の記者会見で、今回の危機対応について、「銀行への資本注入と保証の組み合わせを、公的資金で行うべき」であるとの見解を示している。(2008年10月14日 日経新聞)

そして、昨日も取り上げた、ジョゼフ・スティグリッツ(Joseph Stiglitz)コロンビア大学教授は、「この計画は、まさにアメリカ国民から金を強奪するに等しい」
(This plan amounts to robbery of the American people)と評している。

同氏の主張は、「スティグリッツ教授の経済教室」(ダイアモンド社)を読めば平易に理解できるが、ブッシュ政権が代表する米国のネオリベラリズム政策と金融資本主義、市場原理主義を批判し、グローバリゼーションが生み出した地球上の「格差」是正を強く主張している。

オバマ政権が、ブッシュ政権の「銀行不良資産買取」(TARP)政策を、そのまま引き継いで、しかもその規模を拡大したために、結果として、同大統領が目指す社会的正義の実現から外れて、「Wall Streetの救済を税金で行う」としか評価されない方向に向かっているようだ。そして1兆ドル単位の救済政策は、「インフレ懸念」をすでに引き起こしつつある。

ドル時代の終焉 End of Dollar as Global Reserve Currency

2009-03-28 | グローバル経済
2009年3月28日(土)

3月25日の本欄承前。

ノーベル経済賞受賞者である経済学者ジョセフ・スティグリッツ(Joseph Stiglitz, コロンビア大学教授)が、議長を務める国連金融危機対策パネルが、来週からのロンドンG20を前にして、昨年10月以来の検討結果を、国連総会で発表した。

驚くべきことに、その内容は中国中央銀行総裁の主張とまったく同じで、『IMFの特別引き出し権(Special Drawing Rights)の拡充を図り、それをドルに代わる国際的な共通の外貨準備用の人工通貨とすべし。』という内容である。

国連のこの報告書の内容は、ある意味で、同教授をパネル議長に選任したときから決まっていたともいえるのである。同教授は、弱体化しつつある『ドル』が、世界経済システムの不安定化の原因であるとし、まさにSDRによる新しい外貨準備制度を提唱してきたからである。(日経新聞 2008年10月20日「外貨準備制度改革見直し必要」)

今回の報告書の中でも、米国の連邦準備制度(FRB)のバランスシートの肥大化と、巨額の米国の財政赤字が、ドルの基軸通貨としての信認が失われた原因であるとしている。

この動きに対して、オバマ大統領は、「投資家の米国経済に対する信認(confidence)は絶大であり、ドルはきわめて強い(extraordinarrily strong)準備通貨である」と強く反論している。一方ガイトナー財務長官が水曜日に、「SDRの活用には柔軟対応する(open)」と発言したため、ドルが売られる局面があった。

ドルの現在の状況は、4世紀ごろのローマ帝国の状況にあるのかもしれない。当時の「世界」において、まだローマ帝国は最高権力構造ではあったが、周囲からの侵食と、内部崩壊が同時に進行していたのである。


株価上昇は本物か? Talk of Green Shoots

2009-03-27 | グローバル経済
2009年3月27日(金)

先週来、株価は全世界で戻していて、昨年半ば以来の下げ一色の動向から、反転上昇している。そして、株価の長期的な時系列カーブは、下向きから、上向きへの変曲点(inflection point)に差し掛かった証拠だと論じるアナリストも出始めた。

強気な(bullish)な政治家は、時にはその景気・株価の個人的な景気判断とその発言が早すぎて、物議をかもす傾向にある。そして、そのような時期尚早の、「早とちり発言」に対して、英国では、『talk of green shoots』 という表現が使われる。

shootsとは、たけのこのように、若い草木の春の営みの結果、地上に顔を出した, 茎のことである。そして、green shootsは、景気が回復に向かっているという状況の比ゆとして使われる。Green Shootsをそういうコンテクストで使ったのは、1990年から93年の間、時のメージャー政権の大蔵大臣であったNorman Lamontである。

同氏は、当時英国は最悪の経済情勢にあったのであるが、その状況変化を「早とちり」して、”The green shoots of recovery”と、超楽観的な発言をし、後日それが問題化し、与党の大敗北の原因となったのである。

マスコミは昨今の株価の戻りを見て、この言葉を引っ張り出して、記事の見出しに使うケースが散見される今日この頃である。「早とちり」を諌めつつ、「早とちりではないこと」も願っているわけである。

greenには、「若さゆえの経験不足」という意味もあることを付け加えておこう。


脱ドル、言うは易し、行うは? Super- reserve currency

2009-03-26 | グローバル経済
2009年3月25日(水)

4月2日からのロンドンにおける、G20会議を前に、世界の金融秩序回復のための議論が活発化している。それは二つの大きな流れに整理できる。ひとつは、世界の金融の番人としてのIMFの機能を強化せよとの主張であり、今ひとつは機軸通貨としてのドルの地位の剥奪をとの、主張である。ドルは、各国中央銀行の外貨準備のための通貨としての地位が低下してきたとはいえ、いまだに世界の外貨準備合計の3分の2をしめているのである。

今週に入って、中国の中銀総裁は、この二つの主張を合わせた提案を行った。すなわちIMFの既存の「特別引出権」(SDR: Special Drawing Right)をさらに、強化拡大して、super-reserve currency(超外貨準備通貨)を創出しようと言うのである。これにより、外貨準備をドルに過度に依存しているリスクを回避したいというのが本心である。

ロシアも、国の誇りをかけて、「脱ドル」を言い立てている。同じく、サルコジ・フランス大統領も、「ドル支配の終焉」論者であることに変わりが無い。旧ソ連のカザフスタンのナザルバイエフ大統領は、そのような準備用通貨を”acmetal”(acme capital: 究極の資本)と名づけようと提案している。

中国は、通貨「元」を対ドルで、切り下げた状況に置き、輸出を伸ばすことによって、国内経済の急成長を図ってきたと、米国から強い批判にさらされてきた。しかし実態は、米国の貿易収支の赤字と財政赤字、いわゆる双子の赤字は、中国政府が、米国債を買うことによって救済されてきたというのも真実であろう。

そのようにして貯め込んだ 2兆ドルの外貨準備を抱え込み、それを7000億ドル以上の米国国債で、ドル運用せざるを得ないのが中国である。ドルの価値が急速に下落することから生ずるリスクから、その資産価値を守るのが、今の中国政府のもっとも大きな悩みである。オバマ政権の、超大型の金融界・自動車業界救済プランへの財政支出が、将来のインフレリスクをはらんでいることに、不安が増幅していることも間違いがない。

しかし、「脱ドル化」を実行するのは、各国の希望と裏腹に、即座の実行は難しい。他通貨への切り替えは容易でないことは、現実が示しているし、SDRによる代替には、IMF自体の大改革という、困難が立ちはだかっているからである。「いま少し考えることが必要である」という主張はおそらく正しいのである。




石炭・鉄鉱石価格、連鎖急落 Knock-on Effect

2009-03-24 | グローバル経済
2009年3月24日(火)

鉄鋼業界はヴァリュー・チェーン(value chain)の構成が、大手のプレーヤーの数が限定されており、きわめて単純であるので、関連業界の上流から、下流までの原価構成と収益の、透明度が高い。したがって価格交渉も、常に強気の立場に立ったほうの価格を,上流や下流に押し付けていくというきわめてわかりやすい「玉突き」(knock-on)的な状況になるケースが多い。

2003年から昨年までは、鉄鋼需要が盛んであったため、原料の鉄鉱石と石炭の売り手と、海運会社は、強気でネゴに臨んできた。そのため、この二つの製鉄原料は、毎年の値上がりの結果、なんと500%も値上がりしたのである。海上運賃も、荷動きに合わせて上昇したので、鉄鋼メーカーは製品に原料と運賃の値上がりを転嫁しようとして鋼板価格のユーザー特に大口の自動車業界と造船業界とのネゴも熾烈を極めたのであった。

さて、昨年後半から起こった世界的な鋼材市場の収縮と、中国のバイヤーが行った色々な原料や製品の投機買いの行き詰まりによって、鋼材価格は急激に下がり、当然、今年の年間契約価格ネゴは攻守ところを変えることとなった。

すなわち、製鉄用石炭は、最近新日鉄が豪州の炭鉱大手と交わした契約では、$300から、60%の急落である120ドル台で落着したと報じられている。

鉄鉱石も、鉱山大手が、現在各国の製鉄ミルと、価格ネゴに入っているが、今年分についてはいまだ決着を見ていないものの、決着価格は40%くらいの下落が予想されている。栄華を極めた、ブラジルのValeや、BHP Billitonや、Rio Tintoの収益は、今年来年には多くを期待できない事態の出来(しゅったい)である。

そのネゴの行方を固唾を呑んで待っているのが、下流に位置する自動車業界、造船業界、家電業界などの大手である。最終製品市場の急激な収縮と、市場の低価格化に打たれているこれらの業界からは、強烈な価格引下げ圧力がかかっている。

そして、落ち着き先の価格帯も容易に想像できるのも、このvalue chainの特徴であることは、先に述べたとおりである。

投資家はロシアを信じない Trust Gap

2009-03-24 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年3月24日(火)

ロシア通貨ルーブルが、ロシア政府の買い支えと、原油価格の40ドル台への戻しを反映して、今年に入って反騰している。

昨年夏から、原油価格が147ドルから、つるべ落としのように下落し、世界の投機筋がいっせいに、市場から引き上げ始めたときに、ロシア政府は、「反英感情」をむき出しにして、Royal Dutch ShellやBPといった英系石油資本の合弁会社からの追い出しを図った。その結果、ロシア株式市場からの外国資本の逃避(capital flight)が起こり、石油収入の激減とあわせて、株価と為替の暴落となってロシアにのしかかった。

この事態にあわてたロシア政府は、石油とガス輸出代金の膨張で、約6000億ドルまで、溜め込んだ外貨準備を使っての強力なルーブル買い支えを行ったが、これによって、ルーブルは、ドル・ポンド合成バスケット指標で年初来、30%も上昇しているのである。

一方この為替市場操作のために、約20兆円相当のドルが買い支えに使用され、外貨準備は、4000億ドルまで収縮したのである。

しかし、ここまでしても、ロシア市場に対する投資家の信認は回復せず、株価は低迷している。まさに信認ギャップ(trust gap)が埋まらないのである。理由は二つ。一つ目はプーチン政権を揺さぶり始めているロシアの実体経済の落ち込みの深刻さである。二つ目は、2008年5月21日の記事でも紹介したごとく、プーチンのとる外資に対する「攘夷」政策が、ロンドンの投資家をモスクワ株式市場から遠ざけていることである。

プーチン政権の「対英敵視」の数々のできごとは、まさに東西冷戦時代のJames Bond シリーズ“From Russia with Love”を彷彿とさせるようなエピソードに満ちているが、シティは、銃ではなく、資本引き上げで対抗しているのである。


オバマ大統領は「無知」と非難 Chavez called Obama“ignorant”

2009-03-23 | グローバル政治
2009年3月23日(月)

南米ヴェネズエラの、チャベス大統領は、オバマ大統領を名指しで、無知だと決め付け、「ラテンアメリカのことをもっと勉強すべきだ」と論難した。さらに続けて、「駐米大使を指名しようとしたが、オバマ大統領が、自分のことをテロを輸出し、ラテンアメリカの発展の障害になる存在であると非難したので、延期した」と発言。

「オバマ大統領は、かわいそうにも無知蒙昧である。もっと本を読んで現実を勉強したらよい」といいたい放題を、TV/ラジオ演説したのである。

さらに続けて、「われわれを尊敬しないなら、北米帝国には毅然と、対峙していく」と、宣言したのであるが、毒舌は衰えることはなく、健在である。(同大統領は、医者から声を出さないようにしてのどを守れといわれているのであるが、聞くそぶりも見せない。)

米国の裏庭(backyard)で、反米路線を公然と取り、中国・ロシアと接近して、挑発行動をとるチャベス大統領の意気はますます軒昂であり、石油収入を貧民に配って、その国民的人気はいやがうえにも盛り上がっている。

オバマ、イランを正式呼称で呼ぶ Islamic Republic of Iran

2009-03-23 | グローバル政治
2009年3月23日(日)

オバマ大統領は、イラン暦の正月に向けて、米国大統領としてはじめて、ビデオメッセージを送った。その中で、もっとも注目されるのは、イランをIslamic Republic of Iranと正式名称で呼びかけたことである。今までは、イランの政権(Iranian regime)などのように、正式な政府として認めない立場を、その呼称を以って示してきたのである。

約30年前に、王政がイラン革命によって打倒されたあとに起こった米国大使館占拠、大使館員人質事件は、米国外交史上の最大の汚辱として、イラン敵視政策をとり続ける原因となった。歴代大統領は、イラン敵視政策を継承してきたが、特にブッシュ元大統領は、9/11直後の2002年の年頭教書でイランを「悪の枢軸」(evil axis)と表現して攻撃したことは記憶に新しい。

今回のビデオメッセージが意味するところは、オバマ大統領としては、こうした長年の敵対関係に終止符を打つ準備に入ったと見てよいということである。すでに、今月に入って、アフガニスタン関係国会議にイランの参加を招請している。オバマ大統領としては、イラクを切り上げ、アフガニスタン「平定」を実行するためには、イランの協力は不可欠であるとの認識に立っているのである。

しかし、核開発疑惑と中距離弾道弾開発という、イスラエルが、安易な妥協を米国に許さない問題はまだ解けてはいない。対イラン制裁の解除が、どのような道筋で行われるのか、オバマ大統領の外交政策のスピードと、イスラエル・ロビーストの妨害工作の力比べが始まっている。


オバマの「テレプロンプター」 The Teleprompter President

2009-03-21 | グローバル政治
2009年3月21日(土)

演説の名手と定評の高いオバマ大統領であるが、同時にテレプロンプターと呼ばれる、いわば、電子カンニングペーパーを常に使うことでも有名で、歴代大統領の中でも、その使用頻度はずば抜けて高いと報道されている。そのため、The Teleprompter Presidentとあだ名がつくほどである。

テレプロンプターには、演壇の左右の脇に置かれる透明なガラス板に原稿を映し出し、演説者にだけ読めるようにしたものや、テレビカメラの前面に装着して、あたかもテレビカメラだけをみて話しかけるようにしたものがある。いずれにしても、視界をさえぎられることなく、また視線をそらして原稿を読んでいるという印象を与えることなく、聴衆や、視聴者に語りかけることができる装置である。

Finacial Timesが報道しているのは、アイルランドのCowen首相とホワイトハウスで共同会見を行った際の椿事である。オバマ大統領が無事歓迎の挨拶を、テレプロンプターを使っておこなったあと、コウエン首相が、「自分に対するホワイトハウス来訪歓迎」をしてしまったのである。オバマ大統領の原稿が、画面に消えずに残っていて首相がそれを読んだというわけである。

首相は、「これはあなたの言葉だ。誤操作ゼロ(idiot-proof)なんてうそだ」と叫ばれたそうである。まさに、「踏襲(ふしゅう)してはいけない未曾有(みぞうゆう)の椿事」であった。

さて、Teleprompterという言葉は、テレビ時代となった1950年代のアメリカで発明されたもので、Finacial Timesもそのまま使っているが、英国では、普通autocueと呼ばれている。だからアイルランド首相は、autocueとおっしゃるのかもしれない。米国の俗語では、idiot board(馬鹿板)と言われているので、決してidiot-proofではないことは当然なのである。

TeleprompterをGoogle検索すると、YouTubeにこの種の珍談集がたくさん収録されているし、オバマが、選挙期間中の演説で、キーワードを何度も思い出せずに立ち往生したものも収録されている。(Obama lost without a teleprompter)。このときは体育館であったため、四方八方の聴衆に語りかけねばならず、テレプロンプターが使えなかったのである。



オバマの怒り Obama: your anger, Clinton: your pain

2009-03-20 | 米国・EU動向
2009年3月20日(金)

とにかくスケールの大きい話である。17兆円の政府からの救済資金注入を受けたAIGが、損失を発生させた社員に、合計160億円のボーナスを払う。それが法治社会アメリカの決めごとであり、「この”the best and the brightest”なくして、納税者に報いる道はない」ということだ、と議会で証言する同社のトップの表情は世界に伝えられた。

アメリカンドリームの実態が、会社のトップに昇りつめて、巨額の報酬と、数々の役得と、贅沢な社長室(最高幹部には、top floor、ミドルにはcorner office)を獲得することであることを世界に教えたAIGのCEOは正直である。Hollywood映画が描いてきた世界は、虚妄ではなかったのである。

同氏は、金融資本主義の本質を世界に向かって、議会証言を以って教えてくれたのである。21世紀初頭の、エンロンや、ワールドコムのトップは犯罪的な、私欲充足を責められたのであるが、さすが学習効果は満点の人々が、合法的私物化の手本を示してくれた。

オバマ大統領は、怒りをあらわにして、選挙民に訴えている。「あなたがたが、怒っているように、私も激怒(outraged)している」というのが、同大統領のメッセージである。Financial Timesは、クリントンは、「皆さんの痛み(pain)はわかる」大統領だったが、オバマは、「あなたの怒り(anger)はわかる大統領」だと論評している。

怒っているのは、大統領だけではない。ウォールストリートの盟友、共和党も過去の発言に口をぬぐって、「オバマは、巨額ボーナスを見過ごして、3000億円の追加支援をしたのはけしからん」と怒って見せるのである。政治的な「怒りの標的転換」というべきものである。

東芝新社長佐々木則夫氏 Perseverance will open the way

2009-03-19 | 世界から見た日本
日立に続いて、東芝が社長交代のトップ人事を発表したことを、Finnacial Timesが報じている。

同氏が生粋の原子力畑の出身の技術者であり、米国の原子力発電エンジニアリング会社Westinghouseを当時の、英国の親会社から約5,000億円で買収したときの大立者であったことも伝えている。世界が、地球温暖化対策の切り札として原子力を見直して、いわゆる「原子力ルネサンス」といわれる時代に入ったことを象徴する人事であるとも言える。

さて、FTは、佐々木氏の座右の銘(his personal motto)は、"Perseverance will open the way"であると伝えている。

perseveranceは、動詞persevereの名詞形であり、分解するとper+severeである。per-は、ラテン語系の言葉について、completeすなわち、「完全に」という意味を出す接頭語である。severeは、日本語化している「シビア」の原語である。「どんな困難な状況にあっても、確固たる信念でくじけないこと」が、perseveranceの意味である。

さてこの佐々木氏の座右の銘を、日本語に戻すとどうなるのであろうか?英訳されたものを和訳するという、逆変換を施すと、もとには戻らないのが、翻訳者や通訳の大きな悩みであるが、この場合も、いったい佐々木氏はどんな日本語を使われたのか、興味深々である。

まさか、「我慢すれば道が開ける」などと散文的なことを言ったたはずはなかろうと、Googleを検索したら、たどり着いたのが、同氏のレジュメにあった四文字熟語の座右の銘「不撓不屈」である。この言葉は、高杉良の小説とその映画の題名にも使われている。その小説の主人公の生き様が、まさに「不撓不屈」である。撓はたわむという意味。屈は曲がるという意味であるから、不撓不屈は、困難な状況にあっても、決して屈しない強い精神力を示している。

さて、これがFT報道が取り上げた同氏の座右の銘そのものであったかどうか、おいおいわかるが、翻訳の際によく問題になることなので、取り上げた。


中国、再国有化に強権発動か? Airline CEO Disappeared

2009-03-18 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2008年3月18日(水)

中国政府の改革開放政策に則り、2000年ころ以降に雨後の筍のごとく多数設立された中小の民間企業が、中国の国営企業に吸収されるケースがあちらこちらで目立つようになってきた。

市場経済体制の導入に伴って、推進されてきた国営企業の民営化や、新しい「資本家」」の台頭が、中国の経済成長を支えてきたはずであるが、ここのところにきて、鉄鋼、繊維、石炭、石油の基幹産業分野で、再国有化のような傾向がでてきたとのFinancial Timesの報道である。

一方、弱小の民間企業側にも問題点は多いのも事実である。利益最優先で、保安設備や対策をろくにとらずに操業する炭鉱での人身事故が多発したこと、公害防止設備なしに操業する小規模製鉄所が環境汚染を垂れ流していることなど枚挙に暇がない。そして財務基盤が弱いこうした民間企業が、債務不履行に陥っているケースが激増している。

そんな中、典型的な中国型の問題が発生したのである。東星航空という武漢を根拠とする経営不振の地方航空会社に、中国航空が買収を掛けたところ、東星航空が反発して破談となってしまった。中国航空は武漢を地方ハブ空港にしようとする目論見であったとのことであり、邪魔な東星を吸収しようとしたという図式である。

ここで、起こったことが、すさまじい。同社のCEOが行方不明になってしまったのである。強大な国営企業に刃向かうと、怖いという話である。