世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

WTOドーハ・ラウンド決裂(1) Mr. Lamy's gamble fails

2008-07-30 | グローバル経済
今週の国際関係の最大のニュースは、WTOドーハ・ラウンドの交渉決裂であります。2001年からの7年越しの交渉の期限は本年末に設定されていましたが、先進国とくに米国と新興国インド・中国間の農業市場開放問題に関する溝は埋まりませんでした。

先週末には、ほぼまとまりかけていた交渉は、インドの強行姿勢によって急転直下、ラミー事務局長の「本年末妥結」という賭けを粉砕してしまいました。米国は新大統領にバトンが渡されるという政治日程からすると、「このラウンドは今すぐの破談ではないが、来年に持ち越して再開できるのがやっと」というのが、大方の見方です。

戦後60年間の世界の経済秩序は、IMF・世銀・WTOというブレトン・ウッズ体制下の3機関に大きく支えられてきましたが、グローバリゼーションの進展で、この3機関は、ここ数年特に機能不全が目だって来ています。

また先般のG8サミットに続き、この一件で米国の一国支配が終焉し、今後は多極化した世界における世界新秩序の模索の時代に入っていくことが明確になった、それが2008 年であったと歴史に記録されることでありましょう。





ドイツの太陽光発電超優遇措置 The feed-in tariff

2008-07-29 | 環境・エネルギー・食糧
脱原発政策では欧州をリードしてきたドイツは再生可能エネルギーである風力と太陽光への傾斜をますます強めています。これらのクリーンエネルギーは、温暖化ガス対策としては極めて好ましいものでありますが、化石燃料による発電に比べれば経済性では遠く及びません。

その対策として、普及促進のために取られる助成措置は2つあります。一つは公的な助成金に基づく電力会社による高い買電価格の設定であります。いまひとつは米国などで取られているようなクリーン電力の発電業者に対する減税や免税措置です。

ドイツでは、太陽光発電促進のために、2000年から他国に先行して極めて優遇効果の高い「feed-in tariff」と呼ばれている電力買取料金が適用になっています。この制度によると、太陽光発電を導入して電力会社に売電すれば、20年間の固定収入が保証されるのです。

この助成措置が奏功して、ドイツでは太陽光発電の導入が飛躍的に進み、その総発電能力は世界の太陽光発電能力の50%に達していています。そして現在ドイツ全体の総発電量の1%にしか過ぎない太陽光発電は、将来総需要の30%を占めるまでに拡大すると予測されています。

この気前のいい助成金付きの売電価格体系「feed-in tariff」は、早期の導入を促進するため、年度ごとに助成金の額が逓減していきます。後から導入すると売電価格は、低く設定されるという仕組みです。

今年は、制度見直し時期に当たっており、「この助成措置は過大であり財政を圧迫するのみでなく、太陽光発電装置メーカーのコスト・ダウン意欲を殺いでいるので大幅削減すべき」という議論がありましたが、急速な削減には太陽光発電装置産業の発展を阻害するとの反対意見が強く、結局2011年までに30%削減という案は10%レベルまでに緩和されました。

このままこの助成措置を続けると、助成金の総額が17兆円にも達してしまい、太陽光は他のクリーンエネルギー源に比較して競争力をまったく失ってしまうという計算も出てきています。

「feed in」の気前よさを永遠には続けられないという「feed back」がかかり始めたということでありましょう。





極北の資源 The melting of arctic ice opens opportunity

2008-07-28 | 環境・エネルギー・食糧
北極圏アラスカ、アメラシアン海盆、東グリーンランド断層海盆、東バレンツ海盆、西グリーンランドー東部カナダ海域。これら聞きなれない5つの地名は何を意味しているのでしょうか? 

最近米国地質調査所(US Geological Suuvey:米国内務省管轄下の官庁)が、北極海の資源の埋蔵可能性についての発表を行いましたが、これら5つの海域には、北極海における未発見原油埋蔵量900億バレルのうち70%があると推定される地域なのです。同じように、天然ガスの未発見埋蔵量が集中する地域を3つ特定しました。

昨年ロシアは、北極点の真下に、ロシアの国旗を建てましたが、北極海に隣接する国々は、国境線画定のための論争をすでに二国間ではじめており、国連でも多国間の話し合いがすでに進んでいます。そしてすでに北極海は25の地域に分割されて開発計画が進められています。

こうした動きを加速している理由は二つです。原油の高騰で、厳寒の深海探査と採掘の高コストが、正当化される可能性が現実になったこと。そして地球温暖化の影響で北極海の氷が解けて、水路の確保が突然容易になったことです。

最も重要なことは、「可採埋蔵量」という経済的にも、地政学的にも重要な数字は、確実にこれから調査が進むにつれて急速に増加し、争って開発が進められ、極北の環境も確実に変わるということです。




ウェルチ「タフな気概でやった」not tough but tough-minded

2008-07-27 | グローバル企業
FTの週末版の醍醐味は、“Lunch with FT”というゲストを、その雰囲気に最も合った場所に(必ずしもレストランではない)招いてのインタビュー記事です。その時々の話題の人が選んだメニューと値段までが出ています。

今週のゲストは、引退して7年いまなお「稀代の経営者」として異彩を放つ、元GEのCEO, 72歳になったJack Welch氏でした。就任まもなくに始めた企業改革の斬新さは、70年代に行き詰っていた米国の企業文化に一大革命をもたらしました。

当時まだ東西冷戦の厳しさのなかで開発が論議されていたのは、「中性子爆弾」でしたが、これは、爆発で破壊をもたらすのではなく発生する中性子が中にいる人間だけを殺すおそろしい新型爆弾でした。一方ウェルチは「業界1位か2位でなければ事業売却、成績下位10%は即刻解雇」という激しいものでしたから、ついたあだ名が、「Neutron Jack(中性子爆弾ジャック)」であったのです。そう呼ばれていたことについてどう思うかとの問いに対するウェルチ氏の答えは上記のタイトルの通りでありました。「人に対してタフになったのではなく、タフな気概で仕事に向かっていたのだ」と。

GEのCEOをJeff Immelt氏に譲ったのは、9/11の起こった2001年で、NYで予定していた交代の公式発表の記者会見が急遽中止されたことも、昨日の出来事のようであります。あれから7年、Welch氏は「ただの一度もGEに出社したことは無い」adviserです。

「わたしの経営方針はCSRの世の中になった今でも陳腐化していない」と誇る同氏のあの青い目を見ながら、インタービュアーは、同じく青い目のフランク・シナトラが1971年に世の中に大々的に引退宣言をして1年半でカムバックして出したアルバムのタイトル「Ol’blue eyes is back」を思い出します。(Ol' blue eyesはシナトラの愛称にもなっています)

そして、この記事につけたタイトルは、「Ol’blue eyes is not coming back」です。Welch氏が会社に残って権力をふるうことはせずadviser, husband, baseball commentatorの今のタイトルに満足していることへの賛辞でもあります。記事には、満面の笑みを浮かべた幸せな帝王の写真が使われています。

(参照記事: 7月7日、「GEの業績予実管理」)


米国住宅金融無責任物語 No such thing as a free lunch

2008-07-25 | グローバル企業
“There is no such thing as a free lunch.”とは、米国で親父が社会に巣立つ息子に説教をたれるときの言葉でありますが、経済学でもこの言葉は大いに活用されています。「コストとリスクを負わずして利益がもたらされる虫のいい話は無いのだよ」という原則のことであります。

ノーベル賞を受賞している著名な経済学者、Joseph Stiglitzが、25日のFTの論壇で舌鋒鋭く、この大原則を踏み外したFreddyとFannie双子きょうだいに対する米国政府の甘やかしを強く非難しています。

このような公的な救済措置が講じられるなら、納税者は一体どんなリスクを負わされ、株主や債券購入者はどれだけの金銭的救済を受けるのかを、しっかり透明性を以って説明せよと要求しています。

そして納税者に付けを回す前に、本来両社の経営陣、株主、債券購入者が、まず等しく結果責任を取るべきであると。

最近のこうした政府介入の事態を総括して、この双子とそれに先立つBear Sternsの公的救済は、米国が世界に対して、「絶対にしてはならぬことの範を示した」と嘆き、いかに金融システムの崩壊が風雲急を告げているとはいえ、なりふり構わぬ私企業の公的支援に踏み切ったことは、悪しき先例となると強い警告を発しています。




オバマ候補試練の旅 Jerusalem: the undivided capital

2008-07-24 | 米国・EU動向
オバマ民主党候補の始めての中東・欧州歴訪によって、大統領選の焦点が米国の外交政策、特にイラク・アフガニスタン・イラン・パレスチナというどれをとっても極めて難しい領域に移って来ました。

特に、あえて今ミサイル発射実験に踏み切って挑発するイランに対して、イスラエルが核やミサイル施設の破壊のための攻撃を行う可能性を否定出来ない状況となっています。

オバマ候補が「エルサレムは、不可分のイスラエルの首都(the undivided capital of Israel)である」と失言し撤回したことに対して、ABC放送のアンカーマンCharles Gibbsonに現地インタビューで詰め寄られ「新米(rookie)のヘマとは言われたくない、ベテランだって失敗するのだから」とかわさざるを得ませんでした。

そんな中、オバマ候補は、「核を持ったイランは、イランとの戦争よりも悪い」とタカ派発言を続けるマケイン共和党候補に、イスラエル問題では世論支持の観点で大きく水をあけられています。米国内のユダヤ人支持を失えば選挙の勝利が危うくなりかねません。

そこで、オバマ氏は、今回「イランの核保有に対するイスラエルの懸念を共有する。米国とこのユダヤ人国家の間の長年の緊密な関係を維持したい」と発言し、イスラエル政府から暖かい歓迎を受けました。一方同氏は、パレスチナ政府のAbbas大統領とも会談し、「自分が大統領になったら、イスラエルーパレスチナ和平条約に寸暇を惜しんで取り組む」とも同時に言明しました。

そしてさらにバランスを取るため、ロケット攻撃を受けたイスラエル側の村にまでわざわざ出かけて、「誰かが自分の家にロケットを打ち込んで娘二人の命が危ないとしたら、あらん限りの力を行使してそれを阻止するのは当然」と発言しました。

世論の支援全般ではマケイン候補をしのぐオバマ候補ですが、イラク撤兵問題の扱いを含めて、この歴訪の旅が大統領選挙の行方を決定するといっても過言ではありません。

「アフリカの角」の飢餓 Poor crops, high food prices

2008-07-23 | 貧困・疾病・格差
「アフリカの角」(The Horn of Africa)と称される地域の5カ国における長期の旱魃が深刻な食糧不足を引き起こしています。今年の大きな特徴は、国際的な食糧価格の上昇により、援助資金の援助効果が著しく落ちていることにあります。

「アフリカの角」の5カ国の飢餓人口の推計値が国連の世界食糧計画(the World Food Program)から発表されていますが、それによりますと:
   エチオピア 1,030万人
   ソマリア   260万人
   ジブチ    11.5万人
   ケニヤ    90万人
   ウガンダ   70.7万人
となっており、その合計は1,400万人に達しています。

収穫の激減に加えて、価格高騰により食糧備蓄も底をついており、WFPは今後2ヶ月以内に食糧を配給できなければ、餓死者を出す事態となるであろうと警告を発しています。

先の洞爺湖サミットでは、「食糧価格高騰の深刻な懸念を共有し、あらゆる対策を取ると約束」したことが議長総括となっています。これに基づき政府レベルでの二国間緊急援助と、国連を通した食糧援助が機能することが望まれます。



インド最大・最悪の兄弟喧嘩 Ambani feud

2008-07-22 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
先週金曜日に、インド第二位の携帯電話会社Reliance Communicationsと、アフリカを中心に躍進著しい南アの携帯電話会社の雄MTNの合併交渉が破談になりました。

この背景には、インドの有力財閥Ambani家の、兄弟喧嘩があります。先代が一代で築いた産業コングロマリットは、現在兄Mukeshの化学品を中心とするReliance Industriesを中核とするグループと、弟Anilの、携帯電話会社Reliance Communicationsを中核とするグループとに分割して経営されています。

しかしこの兄弟の確執はすざましいものがあり、2002年に先代が亡くなったときに、等しく400億ドル相当の遺産を受け継いで以来、ほとんど口をきいていないと伝えられています。

今回も、携帯電話事業の拡大の絶好機であったにも拘わらず、この提携が成功すると、兄Mukeshが、2009年時点での収益(ebitdaベース)で、弟Anilに追い抜かれることに嫉妬したための妨害といわれています。

兄のほうは、弟のグループのM&Aに関しては、兄に拒否権(first refusal right)があるとの契約が存在すると主張して介入したものですが、弟はこれを根拠無しと断じて、今回の破談に関して損害賠償を求める手紙を兄に送りつけたとのことです。

この一件は、Relianceグループの問題にとどまらず、インドの企業社会への国際的な信頼が損なわれるものとの危惧が広がっています。Relianceへの信頼問題とは、皮肉です。


オバマ候補イラク訪問 Time table for troop withdrawal

2008-07-21 | 米国・EU動向
オバマ民主党大統領候補は、アフガニスタンに続いて最も注目されるイラクに入ります。この訪問を前にして重大な事態の展開がすでに起こっています。

まずイラクのマリク首相は「今後の米軍のイラクにおける役割を規定する条約を結ぶに当たって、米軍のイラクからの撤退の予定が含まれるべきである」との発言をすでに7月にはいってから行っているのです。

一方、撤兵問題を話すことを頑なに拒否してきたホワイトハウスも、劇的に方針を変換して先週、「ブッシュ大統領とマリク首相は更なる撤兵のための大まかな時刻表を設定することで合意に達した」と公表しています。

オバマ候補は、「大統領に就任したら月に2個旅団づつ撤兵し、16ヶ月で撤兵を完了させる」と公約してきましたが、先般「現地軍司令官と話してから自分の
方針を精緻なものにする(refine my policy)」とやや後退とも取れる発言で物議を醸しました。(7月10日「オバマ右旋回参照」)

大統領選の今後に重大な影響のある、このイラク訪問後のオバマ候補の発言に注目いたしましょう。

SECの強硬手段: 「裸」空売り (naked short-selling) 禁止

2008-07-20 | グローバル経済
先週、Fannie MaeとFreddie Macの経営危機と80%以上の株価暴落という市場の大混乱を前にして、SECが、株式の裸の空売りを禁止するという、ヘッジ・ファンドややり手のトレーダーたちの手足を縛る強硬手段に出ました。

これは、共和党政権も、売り浴びせられた金融機関の株のこれ以上の暴落を阻止するために、「自由市場経済体制」にとうとう規制を加えねばならないと決心したということであり、大統領選挙を前の大きな政策変更です。

「裸」の空売りとは何でしょう。空売りは、相場の重要な取引手段であり、そのものは合法化されたものであります。通常は、値下がりを予想する株を、現物を借りてきて、その株の先物を売ることを指しています。その先物の決済日に約定価格以下で市場から買い戻せれば、差額がトレーダーの利益となります。

トレーダーはこの空売りに際して、現物を借りてくることが原則として定められていますが、実際にはそれを省略して、借用にかかるコストをセーブするトレーダーが多いようです。このように、現物を借りて持っていない状態で、すなわち実質的に量的な制限を受けないで、空売りすることをnaked short-sellingと呼んでいます。

この空売りは危険な賭けでありますが、絶対に儲かるように仕組むことが可能です。みんなで組んで、特定の会社の株価を下げるため、悪いうわさを市場にばら撒くのです。SECはBear Sternsの株暴落などにこの疑い濃厚と見て捜査を開始しました。

ところで、空売り禁止措置の対象が、Fannie MaeやFreddie Macをはじめとする19の銀行・金融会社に限られるという、差別的な措置(selected protectionism)であることが強い批判に曝されています。空売りの全面禁止はありえない選択ですが、この恣意性については、後刻問題とされるでしょう。



オリンピック過剰警備 “Crackdown”, “No-fun games”

2008-07-19 | グローバル文化
北京オリンピックは、あと3週間となりましたが、徹底的な安全対策が行き過ぎて、まったく面白みに欠けた大会に終始するのではないかとの懸念が強まっています。

オリンピック開催となれば、警備強化も目立つのは当然にしても、中国政府の徹底振りは、観客数の激減を招くビザ検査強化、検問所の過剰な設置、テロ対策と警告の過剰、ナイトライフの制限となって現われています。

このためこのままでは、「楽しみゼロのオリンピック」(no-fun games)となるといわれ始めました。

IOCの広報宣伝を20年担当していたMichael Payne氏は、このほど中国政府関係者に、オリンピック成功をもたらすキーワードは、「smile」一語に尽きると忠告しました。

そしてオリンピックをオリンピックたらしめるのは、会場外での「お祭り騒ぎ」の楽しみであり、これを禁ずるのは、「overkill」 以外の無いものでもないと断じています。戸外のパーティーが禁じられたため、企業が企画する宣伝活動も出番を失ってしまいました。

中国政府の安全対策が、「弾圧crackdown」と呼ばれては観客動員は多くを望めないというのが大方の反応です。

米国の三人の魔女 Three Witches:Blowing in the wind

2008-07-18 | 米国・EU動向
米国経済は、上半期の成長は大方の予想に反して堅調でした。しかしながら周知のごとく住宅市場・金融市場・商品市場の混乱は収拾の見通しが立っていません。

こうした状況を目の前にして、FTの解説記事は、これら三つの市場の混乱をシェークスピアの「マクベス」第一幕・第一場に登場する三人の魔女にたとえています。

さて、米国生まれの「三人の魔女」のほうは、昨年忽然と現われたのですが、一年たってもまだ米国内を徘徊しています。第一幕サブプライムの場、第二幕モノラインの場が終わり、第三幕フレディ・ファニーの場が始まりました。

この後の筋書きでは、一時的に回復した経済成長も、年末にはリセッションに引き戻されるであろうというご託宣です。すなわち住宅・金融・商品市場の混乱は、まだまだ続き、嵐の中を「風に吹かれて」(blowing in the wind)さまよう魔女たちのごとくであろうと。

さて魔女たちが別れてマクベスのところへ飛んでいくときの言葉は、「いいは悪いで悪いはいい、濁った霧空飛んでいこう」でありました。何が「いい」で、何が「悪い」のか年末にはっきりするでしょう。(注:小田島雄志氏の翻訳を借用)


中国輪番停電 Forced power rationing

2008-07-17 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
中国では、夏場に向かって、全土の半分の省で電力不足のため輪番停電を行わざるを得ない事態になっています。

4年前の停電は、発電設備の不足が主な原因であったのに対して、今回の原因は、石炭価格の急上昇による電力料金の逆ザヤ化にあることが、大きな違いです。

中国では発電所の燃料の80%を石炭が占めており、電力用に使用される石炭の38%は零細炭鉱から産出されるもので占められていました。しかし事故多発のために昨年来、その中の多くのものが政府の指示で閉山されています。

こうした需給関係を反映して石炭価格は、年初に比較して倍に上昇しています。これに対し、物価抑制のために、石炭価格は先月から政府統制を受けるようになりましたが、スポットで売買される石炭価格は自由なため上昇の一途をたどっています。

一方、電力価格も物価抑制のため統制を受けています。石炭価格を電力料金に反映するには30%程度の値上げが必要ですが、5%程度しか認められていません。このため国営電力会社は、発電すればするほど赤字となるため、中小の石炭火力発電所を停止してしまいました。これが電力不足の直接原因です。

価格統制を、市場経済とグローバル経済の中で使うと結果はうまく行かないことのほうが多いというべきでしょう。

いっぽう中国のような「統制市場経済」の下でいろいろな物価統制令が次々と出されたら、原因と結果が複合して混乱状態となることも容易に想像がつきます。

2000-2001年に起こったカリフォルニアの停電から電力会社の倒産へと連鎖した歴史がよみがえります。

GM1922年以来の無配転落 'Self-help program'

2008-07-17 | グローバル企業
世界に君臨してきたGeneral Motorsが苦境に陥っています。一人勝ちを続けてきたトヨタですら大幅な売り上げの減少に見舞われた北米市場のみならず、欧州市場もまったくの不振(decidely soft)に見舞われており、GMの年間売り上げ台数も昨年の1600万台から、6月は1360万台ペースまで落ち込んでいます。

こうした状況を前にして、ワゴナー会長は対策を発表しましたが、巨人としてのプライドから、その対策をあくまで「自助努力」(self-help)と呼んでいます。倒産を懸念する一部の市場のうわさをきっぱり否定することも必要となっているようです。しかし何と言っても象徴的なのは1922年以来初めての無配とすることを決めたことです。

一方、流動性不足は歴然としており、資産売却で2,500億円、レイオフなどの経費節減で1.5兆円を捻出する計画であることを明らかにしています。さらに2,000から3,000億円の資金調達を計画しており、必要であれば担保に入っていない2兆円の資産を担保に出して資金調達可能であるとも発表しています。

こうした発表にも関わらず、株価は3%値下がりし、半世紀ぶりの最安値となったことが市場の評価ということなのでしょう。

EU加盟がトルコを救うか Talking Turkey

2008-07-16 | 米国・EU動向
トルコで、国家転覆を謀ったとして、極右のジャーナリスト・実業家・退役軍人のグループ86人が、逮捕・起訴されました。

このグループは故意に騒擾状態を作り出して、軍部の現イスラム政党AKP政権に対する軍事クーデータによる介入を誘発させようとしたというのが訴因です。

トルコの歴史は、建国の父アタチュルクの政教分離主義(secularism)を軸としたトルコ憲法の守護人を持って任じる軍部が、トルコの経済・政治混乱の収拾にクーデータを以って「世直し」をしてきたことの繰り返しでもあります。

現在憲法裁判所が、婦人のスカーフ着用を推進するAKPの「非合法化」の訴えを審理中です。こうした中でトルコ国内は、AKPに敵対する勢力が、暴力に走り始めて国内の政情は危機状況にあります。

EUがトルコの加盟を、従来のタイムテーブルを無視して事実上棚上げにしてからはトルコ国内には対EU失望感が蔓延していることも、国内問題に集中させている大きな理由であるとされています。

FTの論説は、「トルコの民主的制度の護持と両派の自制」を求めるとともに、「トルコのEU加盟」承認こそが、トルコにその道を歩ませる最善の選択であると主張しています。

その見出しは”Talk Turkey"であり、これは米語の”表現”Talk turkey"のturkey(七面鳥)をTurkey(トルコ)と大文字で始めて使った言葉遊びにもなっています。

"Talk turkey"とは「まじめに話す、インチキ無しに話す」という慣用句です。白人がアメリカ原住民を愚弄してだましたエピソードが下敷きにあります。見出しの意図するところは、「トルコを愚弄しないで、まじめにEU加盟を論じよ」ということです。