世界の動きを英語で追う

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通貨戦争激化、米提案火に油か Add Petrol to the Fire

2010-10-24 | グローバル経済
2010年10月24日(日)

20カ国サミットが数週間後に迫る中、その露払いともいうべき20カ国蔵相会議が土曜日にソウルで開催された。いわば通貨の米中戦争が全世界規模に拡大している事態をいかに収束させるかが焦眉の急となっている。

Financial Timesは、昨日の一面見出しで、「米国、為替レート提案で非難の的に」、「ガイトナー財務長官、国際収支黒字に上限設定提案」、「日独反対の声」、「中国、いまだ反応せず」と伝えるとともに、その論説欄で、「懐かしきあのブレトンウッズの森の道をたどる」(A Walk in the old Bretton Woods)と戦後IMFが設立された際の会議場を引用しながらしゃれた見出しのもとに、「ガイトナー長官提案こそ、局面打開の良案である」と賛意を表明している。

米国は、主催国韓国の賛意を得て、「通貨切り下げ競争」に陥った局面打開を図るために、経常収支(current account)の赤字幅と黒字幅を、国民総生産(GNP)の一定比率以内にとどめることを提案した。これらの上限値を、Financial Timesは4%であると報道したが、まさに4%であることが判明した。

そして、ソウル財務相会議の結果を報じる本日のFinancial Times電子版の見出しは、「G20通貨で共同歩調合意」。為替レートについては、市場に決定権をゆだねるとして、為替操作政策をとる中国に照準を合わせた合意となった。一方、経常収支の赤字・黒字幅の制限値設定については、日・独・ブラジルの反対によって見送られ、サミットまで先送りされた。そんな中、中国が「4%ルールは中国の基本政策に合致する」と発言していることが注目される。

対中貿易赤字の急速な拡大に悩む米国は、中国に対して昨年来陰に陽に、その通貨人民元の切り上げを迫ってきた。一方中国は、2.5兆ドルに及ぶ外貨準備高を背景にその運用先として米国国債を選ぶことにより、対米発言力を強化してきた。このため米国政府は、議会に対して年2回提出する対外経済政策に関する報告書の中で、「対中非難」を行うことを回避せざるを得ない状態が続いてきた。

米国政府は国内産業界から、これ以上の国際競争力の減退を防止するために人民元の切り上げを迫れとの強い圧力を受けている。また中国政府は、温家宝首相の公式演説の中でも明らかにしているように、「急速な切り上げ」は、利幅の薄い輸出を続けている中国国内産業の壊滅的打撃となるので断固拒否の態度を変えていない。そして、米国を「超低金利政策によるドル資金の垂れ流し」によって途上国通貨の不安定化を招いていると切り返している。

こうした局面打開に米中が、経常収支幅を一定値以内に抑えることで合意の糸口を見出したことの意味は大きい。この案は、現在のIMFが第二次世界大戦後ブレトンウッズで設立合意に達したときに、ケインズが提案し、米国の反対で導入が行われなかったものだと、Financial Timesが皮肉交じりに書いている。ちなみにこの偉大な経済学者ケインズは英国人である。

Financial Timesは、ガイトナー提案が、通貨戦争に「火に油」となる危険性を指摘したが、米中共同歩調が見えたことで目的を果たしたようだ。一方反対した日本の行く手は険しい。



中国、「通貨戦争処方は漢方医に学べ」 Currency battle lines drawn

2010-10-11 | グローバル経済
2010年10月11日(月)

ワシントンで開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議の結果に対して、日本の新聞は「G7中国包囲網形成」と土曜日に報じたが、結果はFinancial Times が本日報じているごとく、何の決議もなく散会となった(broke up with no resolution)。

天下の情勢はその記事の見出しのごとく、通貨戦争の戦の火ぶたが切って下ろされた(Currency battle lines drawn)のである。

まさに、このG7は米中の利害激突の場になった。中国は「米国が超金融緩和策を取ることによって、過剰なドルを新興国の市場に注ぎ込んでその経済を不安定化させていると激しく攻撃し、一方米国は「IMFは中国の為替レートの操作問題に焦点を合わせ、怒涛のごとくドル保有高を膨張させていることを問題とすべき」と主張している。

そして、今回のG7財務相・中央銀行総裁会議が空振りに終わり、IMF改革も手がつかなかったことで、11月に予定されているソウルにおけるG20首脳会議の前の国際為替市場は大荒れの様相を呈すであろうとFinancial Times は予測している。

世界最大の債券取引会社であるPimco社の社長は、「今回何らかの合意をなされると期待されたのに、こういう結果に終わり、各国がバラバラの国内経済政策に走り、国際的な摩擦はますます増大した」とコメントを寄せている。

IMFは、そのコミュニケで、「各国間の協調が見られた」としたが空疎にしか響かない。そして実態はIMFのDominique Strauss-Kahn総裁の言葉が如実に示している。同総裁は「実効ある合意を」と呼びかけたが、ついに「合意内容は実効性がない。これではなにも変えられない。政策を」(“The language is ineffective. The language is not going to change things. Policy has to be adapted.”)と言わざるをえなかった。

一方、戦意に満ちた中国は、今回のG7で特に目立った。これについては中国が普段以上に自己主張を展開する場面を意識的に展開したことだとThe Wall Street Journalが論評している。

記者会見、議場での発言、そして公開セミナーの場で声を大にしてその主張を繰り広げたのである。

いわく、「通貨問題の緩和を求めている。このために人民元の緩やかな上昇(a "gradual" ascent in the yuan)を企画している」と。そして緩やかさがどの程度ものであるかについては、中銀総裁が面白い表現を行った。「漢方医の処方する薬は、一晩では効かないが、1-2カ月たてばじわじわ効いてくる」("It solves the problem not overnight, but in a month or two months,")

米中合い譲らず、IMFは無力化したことを確認するという結果に終わったG7財務相・中銀総裁会議であった。