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世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

定年退職出戻り就職急増中 The Unretired

2017-12-04 | 世界から見た日本
Financial Times12月4日号の職業欄は、「出戻り就職者」(Returners)を取り上げている。そのまたの名を、The Unretired、すなわち「定年巻き戻し組」と、言うと。
最近の英国では、定年退職者の約25%が、何らかの有給の職場への復帰をしており、それも定年退職後5年以内が半数以上であるという。また米国でも同様の傾向がみられると報じている。

あこがれた、「毎日が日曜日」の生活が実現した当初は、天国であっても、元気があって知力に衰えがない「市場性のある」働き手は、犬の散歩ばかりして暮らすことに耐えられなくなるのだ。社会はこうした高齢者再雇用に対応する必要があると説いている。

そして、出戻り理由として、注目すべきは、「EU離脱後の先行き不安」を挙げる人が増えていることだという。

東芝における「チャレンジーChallenge」の誤用、Stretchというべきだった

2015-07-23 | 世界から見た日本
東芝で、歴代3社長が同時辞任という事態に発展した「不適切会計」問題で、マスコミ報道は過熱している。「不適切」という言葉は、最近多用されるようになった、婉曲表現であるが、英語では"inappropriate"という形容詞または、"irregularities"という名詞が相当する。後者は、議会での野次を「不規則発言」ということにどこか共通性がある。そして不倫は「不適切な関係」と総称されて、何か難しいことを行っていることを想起させてくれるので楽しい表現である。一昔前であれば、この東芝の「事案」は、ずばり「粉飾決算」である。そしてこの「事案」というのも最近のはやりである。警官が汚職をすれば署長が、教え子がいじめ自殺をすれば校長が、「本事案」とその大事件を呼びかえるのである。


さて、日経新聞のコラム「春秋」が、「社長月例という会議で、社内カンパニーの長らに「チャレンジ」と称する過大な目標の設定が命ぜられる。意を受けた事業部長、社員らが会計操作に手を染め続ける。内部統制も効かない。誰もが「まずい」と思いつつ、破滅の坂を転がっていく。どれだけの人が苦い酒を飲み、眠れぬ夜を過ごしたかと同情を禁じ得ない。」と悪代官と善良な領民のアナロジーで表現している。

さてここで問題となるのは、「チャレンジ」という英語の日本的誤訳ないし、誤用である。英語のChallengeは、必ず相手が存在して、その相手の命を奪うことを決意した時や、相手の地位・正当性・主張を打倒することを決心した場面が前提となる言葉である。チャレンジは、大体「挑戦」と翻訳されているが、積極的、進取の前向きなものごとへの取り組みという意味で日本語化している。どこか微妙に言葉の中心軸がずれて日本語化してしまったようである。名詞のchallengesは、「自分に向かってくる困難な事態」と理解すべき場合がほとんどである。憲法学者は安倍さんの法案にまさに合憲性で、challengeしたのであり、安倍さんにとって法案が無事通過できるかは、今日現在、立ち向かうべきa big challenge(大問題)なのである。

さて、歴代3社長殿は「チャレンジ」ではなく、なんと表現すべきであったのだろうか?それは"stretch"である。ストレッチの無い計画を出せば米国企業社会では、すぐに失職する危険がある。ストレッチの達成が、個人のボーナスと直結し、雇用契約の更新の前提となる契約社会である。したがって達成不能のストレッチを引き受けることは、破滅が待っているから、日本のような全社員が唯々諾々と実効不能のStretch命令に従うことはまず起こりえない。一方、日本では旧日本軍の伝統が生きていて、「なせば成る」、「やってみなきゃわからないじゃないか」、「本気でやってみろ」、「一億火の玉」と、猪突猛進、最後は玉砕まで進んでしまうのだ。

日本のアジア諸国への「謝罪」に欠けているのは”sincerity”という批判

2014-01-02 | 世界から見た日本


安倍首相が突然12月26日になって靖国神社を参拝して世界を驚かせたが、その後意外な反応が出ている。一つは中国や韓国の反発が予想されたほどには、激しくないこと。我が国民も、「どうしてこの時期に」との戸惑いはあっても世論調査では容認の意見が大勢を占めている。しかしもっとも驚くべき反応は米国から出てきた。米国務省のハーフ副報道官が、30日の記者会見で、「安倍晋三首相の靖国神社参拝に米政府が「失望」を表明したことについて「われわれが選んだ言葉から(日本への)メッセージは非常に明確だ」と述べ、「地域情勢に悪影響を与える行為との認識」を強調したのだ。

米国政府が熟慮の上使った言葉は、”disappointed”である。外交上の慣行として同盟国の行為に対して批判しなければならない場合に使われる言葉は、”regret”(残念)もしくは”concern”(懸念)であって、”disappointment”(失望)はいかにも強い表現であるとGlobalPostが論評している。

一方、元旦のFinancial Timesは、同紙きっての日本・アジア通David Pilling氏が、”Shunning Yasukuni would be one way for Shinzo Abe to say sorry”(安倍首相には、脱靖国が真の謝罪表現となるかもしれない)との見出しの元に、靖国参拝に関するそもそもの問題点を鋭く指摘している。同氏は、歴代首相が日本の戦時中に犯した侵略行為に対する「謝罪」(apologies)を繰り返しているにもかかわらず、韓国・中国をはじめアジア諸国が納得していないのはなぜか、と分析を試みている。

中国のQin Gang外務省報道官が今回、単に言葉だけで謝罪(apologiz)するのではなく心から悔悟(repent)してもらいたいとコメントしたことの背景として、 1995年当時の首相であった村山氏の終戦50周年談話を「日本型謝罪の典型」として取り上げている。

この村山談話とは, 

Japan . . . through its colonial rule and aggression, caused tremendous damage and suffering to the people of many countries, particularly to those of Asian nations. I regard . . .  these irrefutable facts of history, and express here once again my feelings of deep remorse and state my heartfelt apology.”

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます」という、日本人を代表する内閣総理大臣による被害国に対する全面謝罪の表明であった。

さて、これだけのことを一国の首相が発言してそれが、被害を受けた国々の人々にとって、謝罪にならないというのは、重大な認識ギャップが、日本人と非日本人の間にあるということである。Pilling氏は、” What is questioned is the sincerity – or otherwise – of those apologies”.(問題は、このように繰り返されてきたいわゆる謝罪には、真正の贖罪意識がないということだ)としている。     

英語のsincereの原義はラテン語で、clean/pureである。すなわちsincereとは、真正の心情を、一切の虚飾を排した言葉で吐露し、それを実際の行動で直ちに示すことである。言葉で謝罪すれば、その瞬間にすべてを水に流してもらえると期待する日本人と、謝罪とは、「その悔悟を具体的行動で示してこそ真正の謝罪」とする他の国の人々との間にある意識の差は大きい。

Pilling氏は、「もし安倍首相は、その真正なる願いが、日本のために身を捧げた人々を慰霊したいということにあるならば、千鳥ヶ淵戦没者墓苑に参拝することによって、靖国参拝が引き起こす批判を回避することがなぜできないのか」と問いかけている。

「慰安婦問題」橋下発言: "Outrageous and Offensive"

2013-05-27 | 世界から見た日本
「従軍慰安婦」を「当時は必要なものだった(necessary)」とする、大阪市長にして日本維新の会共同代表橋下徹氏の発言は、第二次世界大戦、とりわけ太平洋戦争に対する日本人の現実認識や歴史認識がいかなるものかを、はからずも世界に示すことになった。

BBC放送は、橋下発言の問題個所を、"If you want them [troops fighting a war] to have a rest in such a situation, a comfort women  system is necessary. Anyone can understand that."と翻訳してWebに掲載している。世界をリードすべき経済大国日本の政界寵児の思考方法と、"Anyone can understand that."と締めくくる乱暴な非論理性は、世界から驚きを持ってみられたに違いない。

加えて、橋下氏は沖縄駐留米軍司令官に、兵士の性犯罪抑制のために、「風俗の活用を進言」したと報道されている。橋下発言全体に対して当然中国・韓国は直ちに強い抗議声明を出して反発姿勢を示したが、友邦米国の国務省も、同氏発言を「言語同断の侮辱」(outrageous and offensive)と最大級の形容詞で非難するコメントを出した。

ところで、日本で合法化されている「風俗」という言葉も日本的な、事実を歪曲する婉曲表現であり、英語に翻訳すると"prostitution"「売春」としか翻訳しようがない。橋下氏も犯罪としての「売春」活用を進言したわけではないということなのだろうが、こういうところにも言語上の  gapを意識できない「意識のガラパゴス化現象」が顕著に表れている。

この問題に関しては、世界の中では、1995年のいわゆる「村山談話」が厳然と存在する。その中で、日本が「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与え」たことを「疑うべくもないこの歴史の事実」とし、「痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明」し、さらに慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話(河野談話)によって従軍慰安婦の存在を認めたのである。

日本は、言霊の国と誇ってきたが、なんと政治家諸氏の言葉の軽いことだろうか。


安倍氏、日銀に「最後通牒」 Japan’s Abe issues ultimatum to BoJ

2012-12-24 | 世界から見た日本

「間もなく6年間で7人目の首相に就任する安倍氏は、日曜朝のフジTVに出演し、長く続くデフレ脱却のために日銀に、これまでにはない積極的な金融政策を取らせる」との決意を公にした、とFinancial Timesが、週末の電子版で伝えている。

曰く、『もし日銀が1月の政策会議でインフレ目標を現在の1%から2%に政策変更することを決議しなければ、日銀法を変えて日銀の在り方を変更する』と。白川日銀総裁は、「国債の日銀買い取りによって財政規律に対する信頼が揺らぎ、国債利回りが上昇し、ますますその償還が困難となる」ことを警告したが、安倍氏は、『同総裁の4月の任期切れで更迭し、政府の意のままに、金融緩和を積極的にすすめる人物を選ぶ』と強い決意で応じたのである。


1998年に施行された日銀法では、日銀は物価安定のための金融政策を政府と緊密に連携して取ることとしているが、その方法・時期は、日銀の専管事項であるとその独立性を担保してきた。ここにきて、『失われた20年』からの脱却を目指す安倍政権は、日銀の金融政策、通貨政策の自由度を奪うことを宣言したものといえる。


「アベノミクス」反対派は、労働人口の減少と、経済活動に関する過剰な規制がデフレと低成長率の原因であって、日銀に通貨膨張策を取らせて、公共工事投資に資金供給しても成長を回復させることはできない、すでに国民総生産の2倍の負債を抱える日本政府の信用を毀損させることにしかならない、と強い懸念を示している。この懸念を具体的に言えば、ハイパーインフレと、国債の大暴落である。



アベノミクスの前提には、民間銀行が無限に国債を買い続けてくれることが前提になっている。BIS規制でがんじがらめに手足を縛られていることを理由に、国内産業活性化、ベンチャー育成のための金融に工夫も意欲も失った日本のバンカーは、国債を買って収益を上げることに専心してきた。白川総裁は、有効な通貨・金融政策を打ち出せないまま、政府に屈服した中央銀行のバンカーとして歴史に名を残すことになる。

ところで、FTが使ったUltimatumという言葉は、『最後通牒』ということである。外交・軍事用語として、『いうことを聞かねば攻撃する』とのいわば宣戦布告と等価の強いものである。政府と中央銀行の関係は一夜にして変わった。

「オリンパス英人社長追放が写す」日本的経営の問題点 Anti-social Forces

2011-10-19 | 世界から見た日本
2011-10-19

先週からfinancial Timesや、The Wall Street Journalなどの一流経済紙は、オリンパスの菊川会長(70)が先導して、英人社長社長Michael Woodford氏(51)を就任6か月で解任したことを、好奇の目で報道を続けている。

解任の理由を会社側は、「経営の方向性と手法の違い」(“differences in management direction and methods”)と説明しているが、Woodford氏の主張は大きく異なる。

同社は2008年に英国の会社を約2000億円で買収した時に、アドバイザーを務めた会社に謝礼金として約700億円を支払っているが、「この額が過大であるだけでなく、その会社は謝礼金を受け取ったあと清算されて関係者は行方不明という事態となっていることに関して事実を糺したにもかかわらず、会長や関係役員は説明責任を果たしていない」というのが同氏の主張である。

本日のFinancial Timesの見出しは、「オリンパス、会長の謝礼金(は半額だった)という説明に矛盾露呈」(Olympus contradicts chaiman over fees.)となっている。会長が、「元社長の主張額は間違っており、謝礼金はその半分だった」と反論した翌日に、「やっぱり元社長の額が正しかった」と訂正したのである。そしてFTは通常の謝礼額は、取引額の1%が相場だと説明を加えている。

元社長は、この不明朗支出には、「金銭上の不正行為の疑いを排除しない」(financial misconduct could not be ruled out)との監査法人の意見を取り付けているが、「本件には反社会勢力(anti-social forces)がかかわっているらしいという雑誌報道を読んで震え上がった」と述懐している、とFTは報道している。

さらに「会社側は、ここ数年間で734億円を払って買った有象無象の会社を、買収後ほどなく清算してしまった、との元社長の主張を認めた」とも報じている。

廊下に落ちたチリを気にするほどきめ細かいことまでに神経を使いながら、会社のトップが、怪しげな資金導入に絡んで大きな詐欺事件に巻き込まれて巨額損失を出したり、反社会勢力に絡め取られたりすることが周期的に起こるのが日本の企業文化」の特徴である。


小沢民主党元代表秘書有罪判決 The Voice of Heaven

2011-09-28 | 世界から見た日本
2011-09-28


今週月曜日、小沢一郎元民主党代表の政治資金管理団体、陸山会の政治資金規正法違反事件で、元秘書3人に執行猶予つきの有罪の判決が下された。10月6日に初公判を迎える小沢氏にとって、不利な状況となった。

こうした状況をFinancial Timesは、簡潔に報道しているが、小沢氏の事務所が、公共事業の発注先を決める実質的な決定者であったこと、すなわち『天の声』(the voice of heaven)を発していたとする判決を次のように引用している。“Mr Ozawa’s office was seen as the “voice of heaven” in deciding public works contracts.”

そして、小沢氏を、民主党を選挙での勝利に導き、政略を成功させてきた『闇将軍』(shadow shogun)であったと、次のように評している。(one of Japan’s most effective political dealmakers, a “shadow shogun” who helped make the DPJ an effective electoral force.)

この二つの表現、the voice of heavenとa shadow shogunは、小沢氏の役割と影響力を表現する代名詞として今や、英語世界でも定着した感がある。









新政権の増税シフト、すでに党内反対論に直面 Opposition from within DPJ

2011-09-19 | 世界から見た日本
Financial Timesは東京発の記事で、保守的な財政政策論者(a relative fiscal conservative)である野田首相が、5年間で19兆円と見積もられている東北地方の復興ための財源に充当するため、約11.2兆円の増税案を明らかにしたことを報じている。しかし同時に、野党の激しい反発を受けるのは必定であるが、その前に、党内の反対を切り抜けられるのかと、疑問を呈している。

すでにGDPの200%に達している国家財政の赤字を、これ以上膨張させて将来の世代に負担を強いることはできないとするのが、首相と安住財務相の二人三脚で進める一時的な(temporary)増税と緊縮財政案である。

増税対象は、個人所得税と法人所得税が挙げられている。(消費税は対象から外されている。)個人所得税の4.5%増税は、年収500万円、夫婦子供二人の家計には、年間約4,300円の負担増となるとの読売新聞の試算を紹介し、累進課税を強化すれば、10年間に個人所得税の税収の増分は7兆円に上ると報じている。

法人所得税の増税は、前政権が産業空洞化防止のために昨年打ち出した減税と相打ちになって(in large part offset a planned cut to the levy)、産業の海外逃避を助長することが懸念される。

野田首相にとって党内から反対の火の手がすでに上がっていることは前途に楽観を許さない。実質的に党内権力を掌握している小沢氏とその影響下にある党員から反発が起きていることを"the biggest obstacles to the hikes could come from within the ruling party."と評している。

しかし、野田首相には、この増税案を成立させる以外の政治オプションは手にはない。『埋蔵金発掘論者』として勇名を馳せた藤井氏を党税調の会長とし、財務金融に関して未知数の安住氏を財務相とする、トロイカは、かくも紛糾の末決まった今月末までの国会審議で、中央突破を図れるか否か。今を国難と認識する政治家はほとんどいないようだ。


ユーロは最悪シナリオを驀進中 The worst of the euro crisis is yet come.

2011-09-05 | 世界から見た日本

2011-9-5

今朝のFTの見出しは、『ユーロ危機の最悪事態はまだこれから』となっている。

危機打開シナリオは、程よい景気回復(a moderately strong economic recovery)に支えられていなければならないのに、その景気見通しがお先真っ暗だとの論評である。

ギリシャの対策は、合意から6週間たたずして破たんした。大不況真最中、しかもすべての景気予測指標は全滅状態。財政再建計画は手の施しようがない“out of control”状況にある。

イタリア中央銀行は、緊縮政策(austerity program)景気後退の引き金になるとの懸念を自ら公表している。

ユーロ圏の銀行再建のための資本増強(recapitalization)戦略構想も、景気悪化の重みに自壊しつつある。資本増強必要額に関して先週IMFとユーロ金融政策当局は激論を交わしたとの報道であるが、本当に必要な資本注入必要額は、景気の現状からみて、IMF提示額ですら、現状を過少評価していると、FTはいう。

金融・財政政策を各国の主権にゆだねたまま、単一通貨で、実力のあまりに違う国々を束ねるユーロは、20年でその役目を終えようとしている。そう読めるFTの悲観論である。

米国議会は「不条理劇場」 US debt drama enters theatre of absurd

2011-07-31 | 世界から見た日本
2011年7月31日

米国政府債務の支払いに関して、米国の議会は上下院の「ねじれ」と、オバマ大統領の政治局面の指導力低下によって混乱状態に陥っている。今、我が国の政治家の不勉強と無能、そして無節操を責める声が巷に溢れているが、日米両国の政治家は等しく無責任なのであろうか。観察すれば米国の混乱には日本とは異質の民主主義制度の問題点が浮かび上がってくる。

Financial Timesは、Jurek Martin氏の署名記事で、米国のドタバタを、かつて演劇界を風靡した「不条理劇」と評して、その混乱ぶりを揶揄している。29日に下院が可決した財政赤字削減法案(the debt ceiling)を、上院は即刻否決したのであるが、これはある意味で、上下院のねじれ状態では、予定された事態であり、大統領は直ちに両党の超党派合意形成を要請したが、来年の大統領選挙をにらんだ両党の計算が働いているので、それは容易ではない。

共和党も民主党も「米国民(the American people)の為」というが、共和党支持の米国民とは、小さな政府と財政支出の縮小、そして国債の大幅減額を求める。一方民主党支持の米国民とは、財政出動をもとに大きな政府による社会保障の充実を求める。

共和党は「米国の建国精神である個人の自立」をテーゼとする強者の論理、民主党は「社会正義は平等と格差是正によって実現される」という弱者救済を常に目標とする。その間には越え難い、信条の対立があることを理解しなければ、米国の現状を理解できない。

しかし、その双方の主張は一貫性があり、議論の結果としての政治的妥協はあっても、日本でしばしばみられる信条の放棄や保身のための意見の変更というご都合主義はない。昨日言ったことを今日変えることを「君子豹変」と強弁することは最も忌み嫌われる。

8月2日に迫った債務残高引き上げ期限を背景に、ワシントンでは現在激しい舞台裏の(off-stage)の駆け引きが行われている。一方現実世界では、先週、経済成長の不振、失業率の高止まりを受けて、株式市場は「失望売り」で大幅下落、一方インフレ期待と資金の逃避先としての金価格は大幅上昇、ドルはドル価値の下落を先取りした投機筋の浴びせ売りの結果、対主要通貨で「大幅安」となっている。しかし米国国債の利回りは急速に低下(価格は上昇)している。

この米国債の、価格上昇に冷静な市場の反応が集約されているのかも知れない。

南シナ海で周辺諸国と衝突する中国は、東南アジアの「悪しき隣人」か Big, Bad China

2011-06-13 | 世界から見た日本
2011年6月13日

中国の圧迫(maritime bullying)を受けているベトナムが、たまらずついに米国に助けを求めたことをFinancial Timesが報じている。

石油やガスなどの地下資源が豊富と目され、豊かな漁場でもある南シナ海(the resource-rich South China Sea)において最近、中国は、ベトナムとフィリピンとその領有権をめぐってあからさまな衝突をあえて執拗に行っている。これは昨年わが国海上保安庁の艦船に対して行った、「漁船」の特攻攻撃と同根の問題である。

ベトナムは、本日からベトナム沖合いで同国海軍の実戦訓練(live-fire drills)を行う予定で、双方ともに挑発行動はエスカレートしているが、この演習に先立って米国に仲介を求めたことで、中国政府は対ベトナムへの非難姿勢を強めることは疑いは無い。

中国はこの水域の問題は「あくまで二国間問題である」(the long-running row over the South China Sea must be resolved on a purely bilateral basis)との基本姿勢をとり続けているのだ。昨年の7月にクリントン国務長官がこの問題に踏み込んだ際の中国政府のヒステリックな反応はまだ記憶に新しい。

このように中国が強硬な対立をこの地域に持ち込んでいるが、その対象はベトナムとフィリピンに限らない。マレーシア、ブルネイ、台湾とも摩擦を起こしている。それは領有権の主張という生易しいものから、軍事衝突へと様相が深刻化しつつある(“China’s behavior has gone from assertive to aggressive,”)。

さて2010年12月18日の本欄でも紹介したが、中国の航空母艦が、来年から就役する。この航空母艦が、日本海から、南シナ海、インド洋を遊弋する事態は近いのだ。米国の第七艦隊とは、戦力に大きな差はあるが、補給力は格段に優位となる。

一方、中国は米国とインドをけん制するきわめて象徴的な外交を同時に展開していることに注意しなければならない。中国はパキスタンと共同開発した戦闘機「梟竜」(FC1)をパキスタンへ50機提供する。国際テロ組織アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラーディン容疑者殺害で米国とパキスタンの関係が冷え込む中、インドへの対抗軸としてのパキスタン関係を利用して合従連衡政策をあからさまに取ったのだ。国交樹立60周年を記念し、ギラニ首相やムフタル国防相らが5月17日から中国を訪問、両国間で合意に達した。

Financial TimesのDavid Pilling記者はその署名記事の中で、中国に対して、“Big bad China”という表現を持って、近隣諸国の対中感情を表現している。中国がなぜ敢えてこの時期に「悪役」を演じようとしているかを深く考えておかないと、わが国は飛んでも無い役回りを引き受けることになる。


中国社会、急速な高齢化とともに親孝行文化を消失 Filial Piety

2011-04-30 | 世界から見た日本
2011-04-30

中国にもひたひたと高齢化という波が、大規模に押し寄せている。

Financial Timesは上海での取材記事を「シルバータウン化を見据える中国」(China looks forward to age of the ‘silvertown’)との見出しのもと、高齢化というまぎれもない統計的な事実と、富裕化に伴う親子関係の変質を解説報道を行っている。

注目すべきは、「一人っ子政策」を30年続けた結果、親子関係が希薄化し、親子同居は減少し、独居老人が激増しているという事実である。

中国が発表した人口調査結果によると、10年前と比較すると総人口は5.84%増加して13.4億人となったのに対して、60歳以上の人口が4800万人増加して全体に占める割合も10%から13.3%に上昇した。

一方、中国の儒教的伝統思想である「親孝行」(filial piety)は衰退し、親も子も同じ家に住むことを嫌う傾向が強まっているという。そして不動産業、保険業者、外国人投資家は、養老施設に対する投資に着目しており、そうした大型老人ホームは、「シルバータウン」と命名されて巨額の投資ファンドを集め始めている。

北京政府は、子供が親を放擲する傾向をいさめるため、成人した子供に定期的に親を訪問する義務を課す法律を制定したと同紙は、伝えているが、同時にシルバー産業の会社代表者の” Social change means there is a big profit space in the market for ‘eldercare’ services.” (社会的な変化が起こって、老人介護という宝の山ができたということだ)という言葉を紹介している。

ホリエモン、次は刑務所ビジネス Next Venture is Jail

2011-04-27 | 世界から見た日本
2011/04/27

The Wall Street Journalが、ホリエモンの上告を最高裁が棄却したことを伝えている。

見出しにいわく「堀江貴文氏、次は刑務所ビジネス」、「試合終了、少なくとも当面は」(Time’s up for Takafumi Horie. For now, at least)と何となくエールを送る感じの論調となっている。

そしてWSJは、ホリエモンのTwitter上の短く切れよく書かれた(succinct)一言「棄却された。。。」(I was rejected.)を紹介して、これから彼の新しい活動が始まるのだと紹介している。そして同氏に使われた表現は、“Japan’s controversial cyber guru”(日本の毀誉褒貶かまびすしいサイバー導師)である。

2年半の実刑判決を受けた後の、インターネットの検索は同氏に関するものが大きく占有することになったこと、また彼のTwitterには69万人のフォローワーがついている、と報じ、先週「ホリエモンの宇宙論」(“Horiemon’s Cosmology”)が発刊され、これからのITビジネスの舞台は宇宙とぶち上げていることも紹介している。

判決前に、健康診断も済ませ、レーシック手術まで受けた周到さで覚悟の「入所」であることをうかがわせる。そしてこの入所ほど新刊の売り上げに寄与するものはなかろうと評している。(And there’s nothing like jailbird opprobrium to help lift sales:前科者のレッテルに勝る本のPRは無い)

そして入所後彼がサイバー戦士として戦い続けることができるかは未知数だが、沈黙を守る(radio silence)などと考えない方がよいと記事を結んでいる。

どうも、「一罰百戒」の検察の論理は、ことホリエモンのケースでは逆作用したのかも知れないと思わせるほどのWSJの「温情記事」である。


菅政権の無策、震災・原発を「逆風」化 Frustration over Kan's Handling

2011-04-26 | 世界から見た日本
2011/4/26

The Wall Street Journalは、「日本与党選挙で痛手」(Ruling Party Hurt in Japan Election)との東京発の記事を掲載し、地方首長と議会選挙で民主党が大敗北を喫し、菅首相への退陣圧力はいやがうえにも高まっていると報じている。

特に愛知県の衆院補選において候補者も擁立できず自民に議席を献上することになったことは民主党の退潮の象徴であることは衆目の一致するところであるが、The Wall Street Journalはその部分も詳報している。この間の事情を、地元の中日新聞は、「大震災後、初の国政選挙となった衆院愛知6区補選は自民元職が返り咲いた。政権与党は不戦敗、地域政党にも風は吹かなかった。(中略) 前回衆院選で十五の小選挙区を民主が独占した愛知県で、自民が民主王国の一角に何とかくさびを打ち込んだ。補選は民主前衆院議員が二月の名古屋市長選出馬のため辞職したことで実施された。民主は菅政権への逆風を懸念して候補を擁立できず、不戦敗となった。」と報道しているが、WSJもそれをほぼなぞる形で詳報している。

WSJの本日の選挙結果や政治情勢に関する報道内容は、我々には既知のことがほとんどであるが、「東日本大震災が発生したため、菅首相の伝家の宝刀ともいうべき「衆議院の抜き打ち解散・総選挙」(a snap general election)はという選択肢はもはや無くなった」との政治学者の論評を引用していることは注目される。

しかも、菅首相が災害復旧のための4兆円の第一次補正予算を5月2日に国会を通過させることができても、与野党の「震災協調」はそこまでであって、その後16ないし25兆円と推定される復興財政支出の補正予算化には、野党の協力はもはや得られぬとの予想を米国民に解説している。そして民主党内部からの火の手(factional disputes within his own party)も制御できないところまで来ていると論評していることも注目される。

「震災を奇貨として政権維持をはかろうととした菅首相のもくろみは、不首尾に終わった」というのがWSJの米国民へのメッセージである。



BPメキシコ湾原油流出事故3兆円訴訟へ Counterclaim, Cross-claim

2011-04-23 | 世界から見た日本
2011-04-23

昨年4月21日に、深海油田開発を行っていたメキシコ湾上の掘削リグが爆発、原油が流出した結果、未曾有の環境汚染を引き起こした責任企業であるBPは、提訴期限でもある発生後ちょうど一年目に当たる21日に、下請企業Halliburton, TransoceanおよびCameron の3社に対して損害賠償を求める民事訴訟を起こした。

BPはすでに177億ドルの費用を支出しており、409億ドル(3.2兆円)の損失引当金を計上済みであるが、今回はそれに関して各社に応分の負担を求めるとともに、追加の損害賠償を求めるものである。特にオイルリグの所有者であり操業を請け負っていたTransocean社には、400億ドルの巨額損害賠償を求めていることが注目を引く。

このTransocean社に出資する三井石油開発は、そのHPで、「今回の事故に関する事実関係・背景について多くの調査が現在も進行中であり、現時点で支払い義務を負うことになるか否かは明らかでないため、BPが求める支払いを留保してきました。また、今後もBPより請求書を受領することが予想されますが、これらの状況が続く間は、BPに対する支払いを留保し続けることになろうと予想しております。」とその見解を表明している。

3社のうちの1社であるCameron は「わが社は、提起された訴訟に対して、原告だけでなく他の被告に対しても訴訟で応じることにした。これには契約上の免責条項の適用を求めることも含まれている」と正面から応じる態度を表明している。(“Additionally, in order to protect ourselves, we, too, have filed cross-claims and counterclaims, including our indemnity claims, against other parties to the litigation.”)他2者も同様の構えである。

Financial Timesは、今回のBPの提訴は、損害賠償の応分の負担を下請企業に求めるもので、企業行動としては当然であるが、深追いすればするほどBPの企業イメージを損ねるものである故、早期に和解に進む公算が高いと見る識者の意見を紹介している。

いずれにせよ環境汚染の損害賠償の負担をいかに担保していくかは、資源・エネルギー企業にとって重大課題であることを示したという点でも今後の訴訟の帰趨には重大な関心を寄せていくべきである。