世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

英米、アフガン戦争でエール交換 Stand shoulder to shoulder

2009-07-31 | グローバル政治
2009年7月31日(金)

訪米中の英国のミリバンド(David Miliband)外相が、クリントン(Hillary Clinton)国務長官と会談し、「アフガニスタンにおいて、両国はともに協力し、作戦を完遂させたい」と両国の対アフガニスタン政策に変更のないことを確認した。最近両国の戦死者数が急速に増加し、世論も、「アフガニスタン戦争」に懐疑的になっていることを受けてのアピールである。

同時にクリントン長官は、「アフガニスタン政府は、タリバンの穏健派と妥協すべき」であると呼びかけると同時に、「戦闘の継続努力は、英米を中心とする同盟軍のみならず、アフガニスタン政府にも、もっと負担してもらわねばならない」と、今後同国政府が本腰を入れたタリバン対策を取るように促した。裏を返せば肝心のアフガニスタン政府が一生懸命に努力をしていないということである。

アフガニスタンでは、8月20日に総選挙が行われる。米国は、「民意を得た政府が樹立されることを望み、民主的な手続きが守られることを見守る」としている。最近、選挙が公正に行われるかどうかに関する現地調査を行い帰国したホルブルック(Richard Holbrooke)アフガニスタン・パキスタン担当米国代表は、「各方面から問題指摘を受けたが、特に取り立てて問題視すべきであるとは思えなかった(not "unduly upset")」と発言している。この政治的な二重否定表現はきわめて微妙な問題を含んでいる。「問題はない」と言い切れないところに米国政府の苦悩がある。

イラクから来年を期限に撤退し、アフガニスタン平定に政策転換をし始めたら、犠牲者が急増し、7月だけで戦死者は、米国兵士39名、英国兵士22名に達している。Gates国防長官を含め、民主党内部からも、「オバマ大統領は、アフガニスタン問題で、1年以内に進展があることを国民に示さないと、世論の支持は失われる」との意見が、公に語られている。



CO2地下貯蔵施設反対運動 Carbon Capture & Storage

2009-07-30 | 環境・エネルギー・食糧
2009年7月30日(木)

温暖化ガス削減条約(京都議定書)の改訂交渉が、今年12月にコペンハーゲンで行われる予定となっている。そこで2013年以降の各国のあたらしい削減義務の枠組みが話し合われるが、先進国と新興国の間で対立が埋まらず、先のG8サミットでも見るべき進展がなかった。今週、米中間で行われた米中戦略・経済対話(U.S.-China Strategic and Economic Dialogue)でも、この点はぼかした結果となった。

その中で、EUは、積極的な削減計画を進めているが、その推進に重要な役割を果たすことが期待されている新技術が、二酸化炭素を液化して運び、地下深部の岩盤の中に閉じ込めて、永久に封入してしまうというCarbon Capture and Storage(CCS:二酸化炭素地下封入)技術である。

化石燃料を使用する、火力発電所や、製油所などから排出される二酸化炭素を、削減するために、現在世界の電力業界、石油ガス業界、重電機器メーカーが実用化に向けて開発に注力していて、天然ガスを採掘し尽くしたガス田跡や、岩塩層が分布する地域がたくさんある欧州では特に期待されている。

Financial Timesは、欧州で最初の実用化試験を行う予定地に選ばれたオランダのBarendrecht市で住民の反対運動が起きて、Shellが進めている計画に遅れが生じていることを報道している。Shellは、近隣にある製油所から出る廃ガスの中の二酸化炭素を分離し、液化してパイプラインで運び、地下2kmのガス採掘跡に封入する計画であり、オランダ政府も40億円の助成金を拠出することを決定している。  

2007年にこの計画が発表されたのであるが、その直後からShellの行った住民に対する説明が不十分で、また不手際が続き、封入された二酸化炭素の漏洩による危険はないのかとの心配を静めることができなかったのである。住民はあくまでは反対運動を進める構えであり、計画の推進の可否は予断を許さない状況である。

欧州には天然ガスを岩盤の中に地下貯蔵している施設はいくつかあり、安全に操業している。二酸化炭素ガス自体に毒性はない。炭酸ガスを老朽油田の再活性のために注入する技術は普通に行われてきた。こうした説明を、Shellや識者が行っているが、住民の納得は得られていない。そして、同市内の不動産価格が下落するという風評被害が発生している。

この地下に封入された一酸化炭素の安全性について、疑問を連想させる事件が過去に起こっている。カメルーン共和国の、Nyos火口湖で発生した二酸化炭素の大量発生によって1,700名もの住民が窒息死した事件が、「誤った連想を抱かせる原因だ」とShell側は言っているが、同時に「安全だと語るだけではだめで、住民に安全性を具体的に示すことが必要だ。それが難しい」と認めている。



SEC、粉飾決算で社長報酬返還請求 A Clawback Law

2009-07-29 | グローバル経済
2009年7月29日(水)

米国のSEC(証券取引委員会)は、粉飾決算を行って、決算書の訂正(restatement)を行った会社の、CEOの報酬返還の指示命令を求めて、起訴に踏み切った。今回の措置は、粉飾に直接関与したCEOやCFO(chief financial officer: 最高財務担当責任者)に対する請求ではなく、本人は不正に関与していなかったという点で異例である。

2001年ころから、次々と発覚した、EnronやWorldcomといった大企業のCEOやCFOが直接関与した決算や、企業情報の開示に絡んだ不正行為(wrongdoing)が発覚したことがきっかけになって制定されたサーベイン・オクスレー法(the 2002 Sarbanes-Oxley law)の、「第304条」を,SECが、今回はじめて発動したものである。

ただ、この304条は、表現があいまいなため、法曹界でも議論になっていたとのことであり、果たして当人が関与しなかった場合でも、今回の場合のようにCEOやCFOの責任を問うことができるかどうかは、今後裁判所の判断に委ねられる。

4億円の報酬返還を求められたのは、CSK Auto 社の元CEOである、Maynard Jenkins氏であり、成果報酬が、粉飾決算によって膨れた利益に基づいて計算されたものであるとするSECの決定には今後法廷で争うとしている。

SECなどの、企業犯罪を糾す機関は、今後さらにその姿勢を強め、会社幹部の責任を、不当に支払われたボーナスや報酬、株式から得られた利益の返納(clawback)の形で問う方針である。そして、不正に直接関与せずとも経営者の結果責任を問う動きは、報酬そのものの額が、高すぎるという議論とともに、今後ますます強まることは確実である。

シュワルツネッガー知事の苦闘 Hard-hit State Capital

2009-07-28 | 世界から見た日本
2009年7月28日(月)

シュワルツネッガー(Arnold Schwarzeneger)が知事をつとめるカリフォルニア州は、財政破綻に陥り、同知事は、昨年秋よりその建て直しに躍起となってきたが、州だけでは解決できない事態がはっきりして、連邦政府から2年間で、8.5兆円に上る経済支援(economic stimulus package)を受けられると、州都サクラメントの日刊紙The Sacramento Beeが伝えている。

8.5兆円のうち、減税には3兆円、2000億円は社会保障費の増額、4700億円は交通インフラ支出に充当し、エネルギー関連には3000億円が支出されることになっている。

同紙の記事見出しは、’Stimulus gives, budget cuts take’となっていて、「確かに連邦政府の支援金の注入は、プラス(give)であるが、州予算の支出削減は、マイナス(take)である」と評価を下している。つまり、知事はすでに、行政全体にわたって大幅な支出削減を実施しているため、州民が潤うのもそこそこに過ぎなくなってしまうだろう、というわけである。

特に、知事は、新たな公務員の給料カットは、取り下げたものの、すでに実施中の、一時帰休(furlough、実質的には給料が払われないので一時解雇といってよい)は引き続き実施されている。公務員は、カリフォルニアの労働者の10%を占めるので、その影響は甚大である。

また、現在州都近郊の失業率は、11.6%であるが、来年は13%に上昇するであろうとの予測である。「州民の収入が下がるから、税収も下がる。それで州政府支出も下がった。しばらくすべては、ぱっとしない(stay down)との経済専門家の意見を伝えている。

サクラメント(Hard-hit State Capital)の街中も、近くのワインで有名なナパ(Napa)も、人出が極端に少なくなっているのは、すぐにわかる。経済のセフティーネトは、昔に比べればはるかに整備されているので、これだけの不況であっても、街中は平静である。しかし、オバマ大統領の経済改革の効果が行きわたるには、時間がかかるだろうというのが、実感されるカルフォルニアの現在である。

中国労働者、鉄鋼会社社長撲殺 Privatization, Layoffs, Killing

2009-07-27 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年7月27日(月)

香港の人権団体は、「中国東北部吉林省の国営鉄鋼会社(通化鋼鉄:Tonghua)のリストラの実行のために、北京に本拠を置く鉄鋼会社建竜(Jianlong)グループから派遣されていた陳(Chen)社長が、怒った3万人の労働者による抗議運動のさなかに、撲殺(beaten to death)された」と発表した。この通化鋼鉄に対する、民営化と大リストラの計画によると、5万人の労働者が全員解雇されるはずであったが、それは、この騒動で、白紙還元された模様である。

中国では非効率の是正措置として、国営企業全体からは、90年代に5,000万人の労働者がリストラされたにもかかわらず、その多くでは、いまだに水ぶくれしたままになっている。通化鋼鉄の、建隆による吸収合併計画は、2005年に一度成立したが、市況の悪化で断念された経緯があるが、最近の鉄鋼市況の回復で交渉が再開されたものである。

そして陳氏が、最終契約前に暫定社長として送り込まれ、全員解雇という極端な政策を打ち出し、またその態度も不遜かつ一方的であったために、労働者の怨嗟は同社長に集中したとのことである。

殺された陳社長の報酬は、4500万円と伝えられているが、解雇された労働者に支払われる、失業手当は、月3000円足らずであるという。そして建竜(Jianlong)グループの張会長は、2008年の中国長者番付第10位で、その資産は、2,900億円である。

この事件には、中国の市場経済導入後の想像を絶する格差の拡大の実態と、国営企業の「払い下げ」による利権をほしいままにしている民間企業の問題、そしてその労働者の権利無視という問題が典型的に示されている。

オバマ発言、人種偏見に基づく捜査問題を再燃 Racial Profiling

2009-07-25 | 米国・EU動向
2009年7月25日(土)

昨日取り上げた、黒人ハーバード大学教授逮捕事件に関するオバマ大統領のコメントが、米国内で大きな波紋を起こしつつある。金曜日の日刊紙には、この16日に起こった誤認逮捕事件の詳報を、教授が手錠をかけられて家から連行される場面の写真を掲載しながら伝えた。

一方、逮捕したほうの警官は、「一切謝罪しない」と強硬に反発しており、地区の警官の労組も、正当な捜査であったとして抗議行動に出ている。オバマ大統領は、こうした事態の思わぬ方向への展開と拡大に、「自分は、逮捕した警官を、『馬鹿だ』(stupid)と呼んだつもりはない」と、発言内容を後退させた。(オバマ大統領は、馬鹿な行為(stupid conduct)とは言ってはいる。)一方渦中の教授は、容疑を解かれて解放されているが、沈黙を守っている。

この騒ぎ自体は、いつか収束するのであろうが、この騒ぎの焦点にあるのが、Racial Profilingというキーワードである。まだ、日本語には定訳が定まってはいないので、『人種偏見に影響された犯人像の予見』、またはそれに基づく捜査とでも訳すよりほかない。ある種の犯罪や、不法行為を犯しやすい人種の存在をあらかじめ想定して捜査を進めることである。

米国では、多くの黒人が、「白人に比べて、車を運転しているときに、はるかに多くの頻度で、停車を命じられたり、車内の捜索を受けている」と感じているとの統計が存在する。黒人は麻薬密売にかかわる率が高い、などの先入感が支配的なため、誤った捜査が行われたり、誤認逮捕につながったりするのであると、黒人人権団体は、"racial profiling"にこれまでも強く反対してきた。

今度のケースでも、「白人が容疑者が、その場でハーバード大学教授とわかれば、手錠まで掛けて、「錯乱行動」で連行されることは、なかったであろう。教授が黒人がゆえに、「押し入り強盗が鍵を壊している」と即断され、説明も受け入れなかったという差別を受けた、これこそRacial Profilingそのものである」ということになりつつある。

しかし、オバマ大統領は、この問題が拡大して、健保改革法案の審議の遅延することをより心配しているのである。


オバマ、ハーバード大学黒人教授の誤認逮捕にコメント

2009-07-24 | 米国・EU動向
2009年7月24日(金)

オバマ大統領は、今週本欄で取り上げたように、46百万人の無保険者の根絶を目指す健康保険改革法案の今期中成立のための、記者会見やインタビューに加えて精力的な遊説行脚を始めた。水曜日の記者会見もその一環として行い、キーワードは、”This has to get done.”(改革は、成就されねばならない)であった。

その記者会見の最後に、記者から、大統領の友人でもある黒人のハーバード大学教授が、自分の家のドアの鍵が開かず、壊して入ろうとしているのを、近隣の住人に通報され、駆けつけた警官が、同教授を、有無を言わせずに逮捕したことについて意見を求められた。

普段は、人種偏見問題になってもことを大きくすることはまれな大統領も、この事件を、「大統領選挙結果には、差別問題の改善が反映されたけれど、米国にまだ根強く残る人種差別を思い出させてくれた」(a reminder of the persistent racism in the United States)と評したのである。

しかし、大統領は、ユーモアも失わなかった。「所轄署の警官は馬鹿な行動を取った」(acted stupidly)と批判しながらも、「そんな通報を受けたら現場に警官が急行するのは、あたりまえだ。私が、ホワイトハウスの鍵をこじ開けて(jimmy)いるのを見られたら、射殺されるだろうし(I’d get shot.)」と、スマイルとともに締めくくったのである。

この事件を報じているUSA Todayの囲み記事によると、門前で警官と争ったのは、黒人のGates教授、逮捕理由は、「錯乱した行為(disorderly conduct)」、逮捕した警官の名前は、James Crowleyであると報じられている。


ブラジル、石油開発に暗雲 Petrobras’ Biggest Crisis

2009-07-24 | 世界から見た日本
2009年7月23日(木)

ブラジルの経済発展を支えるのは、その大地から生み出される砂糖と大豆、天然資源の鉄鉱石と石油・ガスである。そして、鉄鉱石の民間企業Valeと石油の国営企業Petrobrasは、屈指の世界的企業に急成長を遂げている。しかし、そのうちの一つであるPetrobrasが、未曾有の経営危機に見舞われていると、Financial Timesが伝えている。

先週、同社の活動を調査する特別委員会が、国会の中に設立され、その調査対象となったのは、同社の油田開発・採掘活動に関する詐欺(fraud)、汚職(corruption)、過大請求(over-invoicing)、脱税(tax avoidance)の嫌疑である。

近年、同社はブラジル沖合の巨大な深海海底油田を発見し、これからその開発投資に関する法律の制定を目前にして、このような大きな疑獄事件の告発に、ブラジル国内は騒然としているとのことである。

Petrobrasの社長は、調査委員会に協力を約す一方、従業員に向けて、「同社始まって以来の最大の危機」であるとして注意を喚起した。しかし、他方ではこの事件の告発の中心となり調査委員会の設置を要求した、元ブラジル大統領でもある、Jose Sarney上院議員が、自身に向けられた汚職疑惑から、世間の注意をそらすために仕組んだ謀略であるとの、強い世論の反発も巻き起こっている。

世界の石油産業が注目する超深海油田開発への挑戦は超大型の投資を伴うので、推進母体であるPetrobrasの活動に大きな制約が課せられることは間違いないので、大きな懸念が広がっている。加えて、鉄鉱石も原油も、国際相場は、2008年をピークとして、大きく下げているが、これもPetrobrasの大型投資に大きな影響を与えていることも見過ごせない事実である。

バーナンキFRB議長の「出口探し」 Exit strategy

2009-07-22 | 米国・EU動向
2009年7月22日(水)

バーナンキ連邦準備制度(FRB)議長は、下院の金融関連委員会で、経済状況に関する報告した。その中で、現在FRBがとっている「ゼロ金利」(near-zero interest rates)政策からの出口戦略(“exit strategy”)は、万全であるとしながらも、「すぐに発動するには、経済の状態は、依然あまりにも脆弱(fragile)である」と語った。

同議長は、「経済に改善の兆し(glimmers of improvement in the economy)は見えるものの、当面超低金利政策は長期にわたり持続する」との方針を明らかにし、その理由として、今年の末には経済成長に転じることを予想できるとしながらも、現在9.5%まで悪化している失業率の改善には、2011年いっぱいまでかかることを認めた。

長期国債の相場は、この証言に反応して、利回りを下げている。経済が先行き回復に向かうとの予測と、経済刺激支出と健保改革による財政赤字の拡大が予想されている状況では、インフレ懸念から、長期金利は上昇に転じてしかるべきであるが、逆の動きとなっているのである。そして、市場のカネは、債券市場から株式市場に流れ込み、米国と英国の株式市場は、7日連続の上げとなって、株価も久しぶりの高値に戻している。

グリーンスパン前議長の長期にわたるカリスマ的運営が、金融崩壊に繋がったことで、FRBの信用は失墜したままであるが、バーナンキ議長は、FRBの独立性を守るべきとしている。一方、米国の金融システムの監視・規制制度が、FBR, 財務省、SECなどに分散している状況を改め、銀行と証券業務の垣根を元に戻し、金融新商品の規制を強化せよとの議論も根強い。

日本は、金融危機対処の「入口戦略」にも、「出口戦略」にも失敗して、「失われた10年」を招いてしまった。今回の米国は、もう「出口戦略」を言い始めているが、それはインフレの足音が、あまりにも大きく響き始めているからに他ならない。



オバマ、健保改革法通過に全力 This isn’t about me.

2009-07-21 | 米国・EU動向
2009年7月21日(火)

米国議会の夏休み入りを3週間後に控えて、今会期中に、国民皆保険化のための健康保険改革(Health Care Reform)法案の通過を目指すオバマ大統領は、今週は支持を訴える説得活動に全力を上げる予定を組んでいる。

昨日の演説会では、 Jim DeMint共和党上院議員が、「ここでオバマ大統領の改革法案を阻止できれば,ウォータールーの戦いで、ナポレオンを破ったような勝利となる。」 ("If we're able to stop Obama on this, it will be his Waterloo. It will break him.)といったことに対して、「この問題は、私が勝つかどうかという問題ではない。政争の具でもない。」(This isn't about me. This isn't about politics.)と反論。

そして、「法案に反対して現状維持(status quo)を図ろうとするのは、保険会社や製薬会社の利益を擁護しようとする人々である。しかし、問題を認識していても、改革を一日、一年、十年と少しでも延ばしても大丈夫と思っている人々もいる。今こそ行動を起こすべきときである」と訴えた。

しかし、オバマ改革案の財政支出の膨張に対しては、強硬に反対している共和党議員のみでなく、民主党議員の中にも不安が広がっている。またABC/Washington Postの世論調査では、オバマ大統領の支持率が60%を切ったことに加え、健保改革法案に対する支持率は8ポイント下がり、49%に急降下した。

今会期中の法案成立は、オバマ大統領が自らに課した政策目標であるが、政権発足半年で決着をつけるには、時間が不足しているように見え、前回のクリントン政権の改革の試みが失敗に終わった轍を踏む危険性が増大している。国民皆保険導入による格差是正と社会正義の実現を図ろうとするオバマ大統領の手腕に、成否がかかっている。

インド、「温暖化ガス排出上限」に反対 India’s rebuff

2009-07-20 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年7月20日(日)

クリントン米国務長官は、5日間の予定でインドの公式訪問を始めたが、インドの反応は、冷たいものとなっている。

オバマ政権は、ブッシュ前政権の政策を大幅に変更し、地球温暖化ガスの排出上限設定に向けて、明年の「京都議定書以後」(post-Kyoto protocol)交渉に復帰している。クリントン米国務長官はこの政策に沿った形で、インドに対して、「温暖化ガス排出削減はインドの経済発展を阻害するものではない。両国で低炭素社会の到来に向けて両国間の協力体制を築きたい。米国も技術面で支援したい。」と、温暖化ガスの排出上限設定(emissions caps)を提案した。

しかし、インド側は、この提案をにべもなく拒否した。対応した環境大臣は、クリントン国務長官に対して、「一人当たりの排出量では、きわめて低い水準にあるインドにとって、排出量を削減せよと圧力をかけられる理由は存在しない。そして、米国は、圧力のかけ方が足りないと思えば、次はインドからの輸入に対して、『炭素輸入税』(carbon tariffs)をかけると脅すつもりでしょう」と、反駁したのである。

これに対して、インドとの関係に気を使わねばならない同長官は、「世界最大の民主主義国家インドの経済発展を阻害するつもりはない。インドの経済発展は世界の利益にもかなうことである。二酸化炭素の排出を抑制しながら、経済成長を支えるエネルギーの生産・消費の方法はあるはず」と、やんわりとした反論にとどめた。

インドは、自らの経済発展を阻害するものとして、WTOのドーハラウンド交渉に反対し、地球温暖化ガスの排出上限の設定にも反対し、米国の政策には従うつもりがないことを、今回改めて世界に宣言した。

中国とインドと、あわせて25億人になんなんとする人口を持つ両国が、「世界新秩序」の主導権を目指す世界の構図がはっきり見えてきた。米国の一極支配体制は、ブッシュ政権とともに終焉しているのである。

しかし、インドも米国との関係を無視できるほど、その実力は磐石ではないし、米国が中国との関係強化一辺倒になられるのも、中印関係の緊張状態からも非常に困ったことになる。米・中・印は、こうした微妙なバランス関係に入っている。

長官は、ムンバイでは、昨年爆弾テロで多数の犠牲者を出した、Taji Hotelに宿泊し、入院中の犠牲者を見舞うなど、「民主党政権は、中国にのみ秋波を送り、インドに冷淡なのではないか」とのインド側の懸念を払拭するポーズ(In a symbolic act of solidarity)をとったことが、両国関係を象徴している。。



台湾新幹線の赤字原因:The Exodus of Taiwanese Businessmen

2009-07-19 | グローバル経済
2009年7月19日(金)

2年前に開業してから、発展途上国の「新幹線モデル」となりつつあった台湾高速鉄道は、技術的には快走を続けているが、商業的には、乗客数の伸び悩みから、採算分岐点に達せず、赤字が累積していると、Financial Timesが報じている。

このプロジェクトは、民間セクターが自己資金で、建設(build)し、一定期間操業(operate)して収益を上げたあとに、所有権を、政府に移管(transfer)するというBOT(Build-Operate-Transfer)と呼ばれている官民合同の開発手法がとられている。

台湾新幹線は、総工費約1.5兆円に達する世界最大のBOTプロジェクトである面からも、その操業状況は世界から注視されているが、現在のところ、台湾高速鉄道の債務は、1兆1700億円で、累積損失が2000億円に達している。

台北・高雄間の月間航空機利用者は、新幹線開通によって260万人から35万人程度に激減した。一方、操業初年度の急激な伸びを記録した後、新幹線利用客数は、280万人で頭打ちになっている。その結果、新幹線の月間営業収入は、採算分岐点90億円に対し、現在最高でも75億円にしか達しないという。

FTは、元台湾政府の新幹線担当局長の談話として、「乗客数の見込み違いは、ビジネス客として期待した、実業界の人々が、大陸の方に、大挙して移動してしまった」からだと、理由を説明している。開業とほぼ同時に、サブプライムローンに発する、世界金融危機が始まったことの影響をさしているのであろう。

台湾政府は、救済のため債務の一部に対して低利資金への借り換え融資に踏み切る方針である。このままの経営状況が続けば、プロジェクト自身も、政府が予定よりずっと早く「接収して」直接運営することになるかも知れないとも観測されている。

1980年代より、「ワシントンコンセンサス」と呼ばれる米国の世界戦略に立脚して、米国財務省・IMF・世銀が、発展途上国の外資導入・民営化・貿易自由化を「強力に指導」した時代が終わり、「やはり公共投資は政府中心」へと時計は、逆に回りつつあるのが、世界の潮流である。

GE利益半減、GE Capital's Grandfathering

2009-07-18 | 世界から見た日本
2009年7月18日(土)

米国では、続々と、第2四半期の決算発表が行われている。最悪期を脱して回復基調に戻す企業が多い中、米国のみならず世界経済の動向を占う上で極めて重要なGEの苦闘はまだ続いている。

四半期の、売上高は前年同期比17%減の391億ドル。利益は26億ドル(1株当たり26セント)と、前年同期の51億ドル(同54セント)から減少。利益も半減した。問題はやはり、GE Capiitalという金融部門にあるが、事業部門も総じて、唯一好調なエネルギーシステム部門を除き、産業、医療機器、NBC放送部門すべて不調である。

GE Capitalの利益は、5.9億ドルであるが、前年同期比で80%の減少となった。やはり不良債権から発生する損失の膨張からまだ脱し切れていない。GEは、この金融部門の縮小に懸命になっており、リスクの高い約手の割引からは撤退しているが、もっとも大きい損失を出しているのは空き室を多く抱える事務所不動産部門である。不動産部門だけで約230億円の損失を出しているが、アナリストはこの不動産部門の財務状況の透明性に疑問符をつけている。

いずれにせよかつてGEの利益の60%を稼ぎ出した金融部門には昔日の面影はない。レバレッジは、7.1倍から、5.8倍に収縮している。また部門としての損失引当金の取り方は、’conservative’ と評されている。

一方、オバマ政権は、製造業でとノンバンク金融業を兼業する、コングロマリットから、金融部門を分離させようとする金融改革案を進めようとしているが、GEはこの政策に強く反対しており、議会対策のロビー活動を強化している。

GEの顧問弁護士によると、「オバマ金融政策案に懐疑的な議員も多いし、特にこの金融部門切り離し(divesture)案は疑問視されている」という趣旨の発言をしている。そして、そういう法案が可決されても、GEのような、産業・金融複合体には、既得権が認められる(grandfathering)であろうと付け加えている。

すなわち、万一GEから、GE Capitalが分離させられたら、GEとしては、根本的に事業構造が変わるので、強い反対運動を繰り広げており、もしその法案が通過した場合でも、その日以前に存在していたものには適用免除とすること、(これを英語でgrandfatheringという)を認めさせるという戦略に出ているのである。

ロシア、人権活動家連続暗殺事件 Who is next?

2009-07-17 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年7月17日(金)

チェチェンの著名な人権活動家であるナタリア・エステミロバ氏(Natalia Estemirova)が、7月15日にチェチェンの首都Groznyの家から、誘拐され、射殺死体となって、隣接する共和国内のイングーシで発見された。

同氏は、ロシアの人権団体「メモリアル」に所属、チェチェン共和国政府やロシア軍による住民への人権侵害を、長年にわたり証拠を集め克明に調査していた。

ロシアでは、同じくチェチェンの人権侵害とロシア軍の残虐行為について調査と抗議行動を続けてきた、著名ジャーナリストのPolitkovskaya氏が、2006年10月7日に暗殺されたことに始まり, 今年に入っての弁護士のMarkelov氏の暗殺に続いて、今回人権活動家の彼女がその犠牲になったことで、ロシアという国には「法の正義」はまだ確立していないこと、「暴力の支配」する恐怖政治が今なお行われていることを、改めて全世界に印象つけることとなった。

Groznyで行われた、彼女の葬儀に参加した人々の列は、200メートルにもなったが、警官隊が、強制的に解散させてしまったのである。葬儀に参加した人が、持っていたプラカードには “Who Is next?”(次に誰を殺すつもりなのか?)と書かれていた。

この言葉こそが、雄弁にもロシアの圧制と無法状態の現状を語っている。これら一連のチェチェン問題にかかわる暗殺には、プーチン首相の忠実なる「下僕」であるチェチェンのRamzan Kadyrov大統領が直接関与していることは、同大統領が、人権団体メンバーへの直接脅迫行為を行っていることからも明らかであるとと人権団体側は強く非難している。

ロシアのメドベージェフ大統領は、今週この時期に、たまたまミュンヘンを訪問中で、メルケル首相との会談を行った後の記者会見で、Ramzan Kadyrov大統領の関与には否定的な意見を述べた後に:

「直ちに殺人犯の捜査に着手する。エステミロバさんは、大変有益な仕事をしてきた。彼女は、真実を語り、ロシアの現状について率直な、時には厳しい意見を述べてきた。その活動こそが、時の権力が不快感を持ったり、不都合に感じたりするが、人権活動家の存在価値なのである」( “That is why human rights activists are valuable, even if those in authority find them inconvenient and unpleasant.”)

このメドベージェフ大統領の反応は、2006年にPolitkovskaya氏が暗殺されたときの、プーチン大統領(当時)が、彼女の暗殺事件をしばらく黙殺した後にだした、彼女に対するすげないコメント(dismissive comments)とは大違いである。

ロシアは変われるか?

中国に, ホットマネー殺到 A flood of hot money

2009-07-16 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2009年7月16日(木)

中国の外貨準備高が、2兆ドルの大台に乗せたことを、中国の中央銀行に当たる中国人民銀行(People’s Bank of Chine)が発表した。奔流のごとく今中国に投機資金(hot money)が流入していることが、その巨額の外貨準備の背景にある。

外貨準備高の増加額は、昨年の第4四半期404億ドルであったものが、今年の第一四半期77億ドルに激減したが、直近の第二四半期には、1780億ドルに急増した。この大きな伸びは、貿易収支の黒字や海外からの直接投資の増加額をはるかに上回るものであると、Financial Timesは報じている。

その重要な要素となった第2四半期の、投機資金(hot money)の流入は、700億ドル(7兆円)を超えると推計されている。中国の経済成長が底堅いものであると確認した外国資本や華僑資本が、人民元が低位に、実質的な固定状態にある今のうちに、いっせいに人民元の買い出動を本格化させているのだ。(ちなみに第1四半期は、資本流出は650億ドルと推計されているという。)

外貨準備がこのように、急膨張を再び始めた状況下で、今後ますます人民元の切り下げ圧力が上がることが予想される。その対策で、人民銀行はドル買いによってドル安を食い止めようとするから、ますます外貨準備は増え続けることになる。一方、米国債を、7000億ドル以上を保有する中国に対して、米国がこれ以上の人民元切り下げ圧力を加えることができないことは、先般のGeithner財務長官の北京訪問の際の言動で証明されている。中国政府がドル買いをおおなうことは、米国政府にとっても痛し痒しということである。

中国政府は、60兆円の緊急公共工事支出策をとったが、その即効効果が出ていて、今年の経済成長率は、8%程度を維持するものと予測されている。そしてこの巨額の外国からの投機資金がさらに国内市場に注入されて、国内は、バブル景気の予兆を示している。

中国政府は、経済成長を8%以上に保って経済と民心の安定を図り、人民元を低位に保って輸出を伸ばし、ドル資産の減価を防止するためにドル高に協力し、国内の通貨膨張を抑えてインフレ懸念も回避するという、相矛盾する経済政策を同時に実現させようとしているかに見える。「この道はいつか来た道」(deja-vu)である。