世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

米中、台湾への武器売却で突然険悪化 Serious Consequence

2010-01-31 | グローバル政治
2010年1月31日(日)

昨日中国の国営新華社通信は、ワシントン特派員発の記事として、「中国の度重なる重大な意思表明(repeated solemn representations)を無視して、米国政府は、6400億円相当の武器を台湾に売却することを議会に通告した。」とトップで報じている。

「この武器売却は誤った意思決定である。中国の国防上の権益と中国統一の大義を損なうのみならず、わが国民感情を逆撫でするものである。そして中米間の協力関係全般に重大な破壊をもたらすものでもある」

「米国による台湾への武器売却は両国関係にとって長年にわたる悪性疾患となってしまっている。」

「1982年8月17日の中米コミュニケでは、米国は台湾に対する武器売却を質量ともに徐々に減少させ、最終的には完全に終結させることが謳われているにも拘わらず、今回また執拗に(stubbornly)に売却を決めたことは両国間の取り決めへの背反行為である」

そして、厳かにもあたかも戦争前夜のごとき宣告が続く。「米国が中国の立場を無視し続けるならば、そのために生ずる重大な結果に対する責任をすべて取るべきである」(all the responsibilities for any serious consequence caused by such a decision)

また、Financial Timesは続報として、中国政府は今回の武器売却に関与するメーカーBoeing、 United Technologies、Lockheed Martin、Raytheonの各社に報復措置を取ることを発表したことを伝えている。

Black Hawkヘリ、Patriotミサイル、Osprey型掃海艇を、6500億円分を売却するとそれに数倍する将来の中国の民間市場から締め出されることインパクトは大きい。しかしこれらのメーカーは国防省の注文をなげうって、自主的に中国への売却交渉から離脱できる自由はない。

台湾は、2001年にブッシュ大統領が台湾に供与を約束した上記の武器のほかにも、F-16戦闘機や新型の潜水艦の供与も要請しており、この問題はもっと大きい問題に発展する可能性が高い。

かつての中国は国力に比して大きい金切り声型の非難をすることが多かったが、いまや経済・軍事大国として、まさにすごみのある威圧的な攻勢に出てきたのである。ここ1年ばかり米国から突きつけられてきた、国内人権問題、食品安全問題、サイバーテロ問題、グーグル問題に代表されるメディア検閲問題など守勢を一気に跳ね返す挙に出てきた。

台湾は、友好ムードの熱を一気に冷まされ、台湾海峡に1000発のミサイルが台湾に向けてセットされているという現実に引き戻された。


ブレア元首相、イラク開戦で証人席に No Lie, No Conspiracy

2010-01-30 | グローバル政治
2010年1月30日(土)

英国が2003年3月にイラク戦争に参戦した経緯などを調べる議会の独立調査委員会による証人喚問が、昨年11月から行われており、年明け後次々と重要人物が呼ばれている。

そんな中ついにブレア元首相にとっての、『最後の審判』の日(his Judgment Day)がやってきた。

昨日会場周辺には、イラク戦争を国際法違反としイラクからの撤退を求める人々のデモが行われ、Tony Blairをもじって、Bliar(うそつきブレア)と書いたプラカードが多数掲げられていた。席に座ったブレア氏は、落ち着かない様子で、明らかに手が震えるのが見えたのだが、さすが最後まで喚問の緊張に耐え切った。

出兵の重要な理由となった『大量破壊兵器』は実際には存在しなかったのであるが、同首相は、「サダム・フセインのイラクに対する開戦は正しかったし、今もう一度やれといわれれば、同じ決定を下すことになる」と言い切った。

そして米国に協力してイラク侵攻を決定した際には、911事件が大きな役割を果たしたと証言した。「911までは、フセインのみがリスクの根源であり、フセイン政権を抑え込めることができればよいと考えていたが、911以降はリスクが何であるかについて劇的な変化が起こった」、そして「米国と行動をともにし、フセインの除去を支援することがまさに911で決まった」と語った。

さらに、開戦の大義として「大量破壊兵器が存在する」と大衆を惑わせたことに関しては、「過去に大量破壊兵器を使用したことがある」ということで、その存在を信じたことは今でも正しかったと主張したが、この点で発言は極めて明確で、謝罪のトーンはまったくなかった。

さらに、質問は開戦1年前の2002年4月に、ブッシュ大統領のテキサスの牧場で二人きりで行われた会談の内容に集中した。「このときにブレア氏は、参戦の言質をすでに与えてしまったのではないか」との問いに対して、「参戦の言質は与えていない。米国がどのような行動を取ろうとも英国は支持する(supportive)といったのみである」、と答えた。

2002年11月の国連決議1441号では、イラクに国連の武器査察を受け入れることを要求していた。一方フセインが拒んだ時点で武力行使に訴えるためには、新たな国連決議を必要としていた。

当時のJack Straw外務大臣などは、「国連決議無しに武力行使をすれば国際世論の反対を受け、国際法違反の危険性がある」と警告していたのであったが、「国連決議に基づく侵攻」の道を探ってもロシアとフランスが反対するのははっきりしていたし、フセインは自ら譲歩をするはずもなかったとの判断から、米英両国は、国連決議を取り付けず侵攻したのだ」と、この点についても明確に語った。

強烈な一言がブレア氏の主張を象徴している。「問題は、ウソをついたとか、陰謀をめぐらしたということではない。虚偽でも、欺瞞でもないない。国家の意思決定の問題なのだ」。非論理的な感情的レトリックに訴えたわけである。



オバマ、「失業対策に全力」を約束 For Middle-Class Families

2010-01-29 | 米国・EU動向
2010年1月29日(金)

オバマ大統領は、一般教書演説で、「庶民」(people)路線への回帰を鮮明にして、国際問題や地球温暖化問題への対応を後退させた。

その方針は的中し、演説後のCNNによる世論調査がたった今放送されたが、オバマ政権の政策を積極的に支持する・支持するをあわせて78%に急回復し、さらに米国は正しい方向に進んでいると回答した人々は53%から71%に反転上昇した。

26日の本欄でも伝えたように、マサチューセッツの上院議員補欠選挙で民主党候補が敗退し、上院における絶対多数である60議席を割ったことの政治的打撃はあまりに大きく、国論を割る議論となっている健保改革法案への拘泥はさらにオバマ政権の政治遂行能力を弱体化するほどの政治的危機にあったものを、この75分に及ぶ演説で逆転させたといえる。

演説のなかでの米国民の最大の苦しみへの対応を示すキーワードは、「雇用創出」(job creation)、 「中産階級家族」(middle-class families)への支援、「中小企業」(small businesses)への減税措置の三つである。

そして「ウォールストリート」という言葉に代表される金融界へ政府支援への反発感情にも配慮した。「私は銀行救済を憎んでいた(hated)。虫歯治療(root canal)のようなもんだと我慢してやった」とまで言い切ったのである。

そして健保改革に関する説明不足を自らの誤りと認めた上で、国民へ送った必死の覚悟とも取れる一節は次のとおりである:

「今改革の道を見捨てないで欲しい。この今、意見の違いがここまで煮詰まってきたのにこの今、見捨てないで欲しい。法案をまとめる道を探そう。そして国民のためのこの仕事をやり遂げよう」(“Do not walk away from reform. Not now. Not when we are so close. Let us find a way to come together and finish the job for the American people.”)

そして健保改革法案が可決されたら、次の言葉も歴史に残る言葉となるであろう。

「しかし忘れないで欲しい。改革が易しいことだといったことはないし、一人でやれるといったこともない。3億人の国民の民主主義がかまびすしく、混乱と複雑化の様相を呈するのも無理からぬことなのだ。大仕事に取り組み、大きな変革をなそうとすれば、人々の心を熱くもするし、反発も生み出すのだ。それがまさに今の状況なのだ」(“ And when you try to do big things and make big changes, it stirs passions and controversy. That’s just how it is.”)




トヨタのリコール・製造停止の波紋 Very efficient, Very risky

2010-01-28 | 世界から見た日本
2010年1月28日(木)

トヨタが主力機種のカムリー、カローラをはじめとする8機種の販売と北米6工場での製造を停止するという、思い切った対応処置をしたことの波紋が広がっている。

米国政府は「この措置は運輸省の指導に従ったものだ」としてトヨタの決定を評価しているが、最初にリコールを発表してから製造中止の発表まで5日間の空白があったこと、アクセル不良による暴走事故の真の原因を議会で追究するとの動きが出てきた。

ミシガン州選出のBart Stupak民主党下院議員は、「トヨタがアクセル不良暴走事故の原因について何を知っているのかを究明したいのだ」("We want to find out what Toyota knows about the sudden acceleration problem with several of their vehicles”)と、下院エネルギー・商業委員会での調査・喚問を行う方針を明らかにした。

同議員は2000年にファイアストーン社のタイヤ事故の究明の急先鋒となったことで知られている。その際、自動車ならびに関連業界が、死亡・傷害事故に関してデータ提出することを義務とする立法措置取られたのであるが、今回トヨタはこの法律によって議会に喚問を受ける公算が高い。

トヨタが先週出したリコールは230万台に及ぶが、昨年末にはアクセル暴走による死亡事故に関して420万台のリコールがかけられている。そして170万台が両方のリコール対象となるという広範なものである。

Ray LaHood told 運輸長官は、「トヨタがリコールと製造停止を決めたのはわれわれの要請に基づくものだ」( "the reason Toyota decided to do the recall and to stop manufacturing was because we asked them to.")とし、トヨタの行動は法にかなったものであるとコメントしている。

一方、The New York Timesは東京発の報道として、『今回のトヨタの品質不良によるリコールを日本の製造業の品質神話の崩壊の象徴』と捉える新聞論調を伝えている。

トヨタの効率とコストダウン追求の経営の結果、世界中で同じデザインと部品が使われているので、いったんこのような車の基本設計にかかわると推定される問題が発生するとその影響は、多くの車種と生産ラインに波及していく。

それは、「効率的ではあるがリスキー」“That’s very efficient, but very risky. ”であり、「今回の問題が一過性でなく、アクセルを中心とする基本設計の変更と部品交換を多車種で行わねばならないとすると今後のトヨタの収益に与える影響ははかり知れない(a “tremendous impact” on Toyota’s bottom line)」 とするアナリストの意見を紹介している。




S&P 日本の格付けを「ネガティブ」に変更 A Soporific Slouch

2010-01-27 | 世界から見た日本
2010年1月27日(水)

格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、日本の国家としての格付けを長期はダブルA、短期はA-1+に据え置くものの、Outlookと称される将来の見通しを「安定的」から「negative」に変更した。理由は『新政権に負債の膨張を圧縮しようとする意思が見えないこと』であると発表している。

この決定は、日銀が基準金利を13ヶ月連続して0.1%に据え置き、2010 年と2011年のデフレが予想より緩和すると発表した直後に行われたが、これにより、S&Pが、財政政策の選択余地を失った新政権の財政再建計画(budget consolidation plans)への失望を改めて世に問うた形になった。

S&Pは、「見通しの変更は、日本政府がますます経済政策を柔軟に進める力を失いつつあることを反映している。財政規律を回復し、デフレ対策を十分打たなければ、格付けの引き下げの可能性がある」と警告し、「それにしてもは鳩山政権の財政政策に関する動きは予想を裏切って遅い」と付け加えた。

白川日銀総裁は、「現在のところ景気に対する上振れ、下振れリスクは、まずまずバランスしている(roughly balanced)」と発言し、菅財務大臣の反応は、「日銀にはもっとやれることがあるはず」と日銀に矛先を向けた。そして菅大臣は、「2-3年もすればデフレ脱却が見えてくるということで政府の見方は一致している」と語った。

日本の経済情勢に関するFinacial Timesの論評欄Lex Columnの評価は興味深い:

「まるで、『S&Pは甘い、格下げすべきだ』といわんばかりに財務省の役人たちの舌打ち(the sucking of teeth)が聞こえてくるようだ。」

「日銀総裁の昼行灯発言(the soporific statement)に対して、デフレ対策に腰が引けている(pulling its punches)との非難がますます強まっているのだ」としたと情勢を描写した上で、「この白川総裁に向けた批判が、公平ではない」と日銀を擁護している。

「白川総裁は、バーナンキのような行動力がないし、でくの坊(a slouch)のように見えるが、日銀がやれることはすべてやりつくしているといえる。国債の日銀による消化も大量にこなし、政策金利は長くzeroレベルに張り付かせている。大量の流動性供給を行っても市中銀行はもてあましているのが実態だ。」

「財政政策が手詰まりになった政府からは、金融政策をもっとやってデフレ対策をやれとの圧力が高まるだろうが、白川総裁よ、今のままがんばれ(But Mr Shirakawa is right to stand firm for now.)」とエールを送っているのだ。

ここで注目すべきは、白川総裁の行動に、soporific(こん睡状態)という形容詞と、slouch(でくの坊)という名詞が使われ、バーナンキFBR議長には、hyperactive(超行動派)という形容詞が使われたことである。

赤字国債の乱発による人気取り政策が将来大きなツケを払うことになることは全員がわかっていても、それをとがめる政治家はおろか経済学者もメディアの声は日本では小さい。



オバマ、人気挽回政策へ舵を切る A More Populist Tone

2010-01-26 | 米国・EU動向
2010年1月26日(火)

オバマ大統領にとって、先週のマサチューセッツ上院補欠選挙で民主党が議席を失ったことが、世論の政権支持が50%近辺まで急落したこととあわせ手ひどい打撃となっている。

その政治的打撃を、米国メディアでは独立戦争の端緒ともなった1770年の『ボストン虐殺事件“Massachusetts massacre”』に誇張気味にたとえている。この1議席の喪失は選挙中の最大の公約の一つであった健保改革法案の成立を危うくしかねず、もしそうなればオバマ政権の今後の政策遂行に重大な影響がでるからである。

こうした中、27日に大統領の『施政方針演説』というべき一般教書を議会で演説(his first State of the Union address)することになっているが、これに先立ちオバマ大統領は、中産階級の生活の不安を払拭するための諸施策を導入することを表明した。

Financial Timesは、「庶民にもっとも影響のある問題に焦点を当てて人気挽回(A More Populist Tone)を図ろうとしている」と論評している。銀行の投機行動に枠をはめ、幹部の法外な報酬への制限を加える政策の発表に続く『庶民感情』に訴える方向への舵きりのダメ押しともいえる。

オバマ大統領はその新政策(the new initiatives)のなかで、失業率に明確な改善の兆しが見えない中、失業中の人々を職につけることを最優先にするとし、中産階級に対する社会保障制度の強化を約束した。とくに子供の養育と両親の介護のために支出を余儀なくされている世代( “sandwiched” between paying their children’s care and educations, and looking after their ageing parents)への支援を行うとしている。

発表された具体策の中には、年収850万円以下の家族への減税枠の増額、扶養児童手当の増額を行うとしている。また育英資金の返済条件の緩和によって、就職直後の低所得者層の返済負担を軽減することも約束した。さらには退職準備のための企業内預金制度(automatic workplace retirement savings accounts)と預金保護制度の新規導入の骨格も示している。

ワシントンで水曜日に発表されるオバマ大統領の『初年度の決算』となる年頭教書の内容は『庶民の味方』オバマのイメージを強く打ち出してくるものと予測されるが、世界にとっても極めて重要なものとなることは言うまでもない。

米国西岸を襲う怪物暴風雨 "Frankenstorm"

2010-01-25 | 環境・エネルギー・食糧
2010年1月25日(月)

今年の米国は豪雪被害が続出しているが、先週のカリフォルニアの天気は大荒れで、ロスアンジェルス地区は豪雨によってさすがの山火事も収まった。

日本から州都サクラメントに出張した人の話によると、サンフランシスコで乗り継ぎ便は大幅な遅れを出し、現地ではハリケーン並みの風雨が連日吹き荒れていたとのことである。

AP通信社は、こうした冬のカリフォルニアの天候異変に関して、the California Institute of Technologyの科学者たちが、 "Frankenstorm" シナリオと称する天候異常モデルの研究に取り組んでいると報じている。

今年と同様な、豪雨と洪水に見舞われたのは、1861年から62年の冬に遡る(The Great Flood of 1861-1862)とされており、当時豪雨のため州都は一時サクラメントからサンフランシスコに移動されたほどであったという。そして州知事の就任式に、知事は手漕ぎボートで出かけたとの記録がある。

今回の「フランケンシュタイン型暴風雨」の研究は昨秋始められたものであるが、その結果作られたのは、太平洋上で形成された暴風雨圏が、ハリケーン並みに成長し米国西岸に順次押し寄せるというモデルである。「約1週間暴風雨が続き、数日間で衰えたら、また次の暴風雨が洋上に発生する」パターンが、最大23日間継続するというシナリオが想定されている。

それによると場所によっては降雨量が2000mmに達するとされているので、先週続いた暴雨風などは、それに比べると「バケツの一滴」に過ぎないのであるが、それでも道路の冠水、トルネードの発生、2000所帯の緊急避難など各地に大きな被害をもたらした。

この研究は、今後土砂災害、海岸線の後退、インフラの破壊などによる経済的な損害の推定作業を経て今夏に最終報告が作成され、来年以降の災害対策と訓練に活用される予定となっている。

北半球の厳冬と南半球の異常高温、米国西岸の豪雨など異常気象が続く。地球温暖化問題とどのように関連するのかはわからない。超長期の気候変動と一過性の気象とを結びつけて考えようとするのは、政治的行動というべきものである。


米政府、『傭兵乱射』公訴棄却に控訴決める Blackwater Trial

2010-01-24 | 米国・EU動向
2010年1月24日(日)

ABC放送が伝えるニュースによると、イラクのバグダッドを訪問中のバイデン副大統領は、2007年に発生したイラク人市民17名の殺傷事件に個人的に哀悼の意を表すと同時に、同事件に公訴却下という判定を示した米国裁判所に対して控訴を行うことを現地で発表した。

米国政府との契約によって戦争のアウトソーシングを請け負ったBlackwater社の『傭兵』が、2007年9月16日に、バクダッド市内で民間人17人に発砲して殺害した上記の事件は、まさに米国の戦争の実態が何であるかを世界に知らしめるところとなったものである。

アメリカの戦争は、正規軍のみによって戦われているのではない。民間軍事サービス会社PMS(Private Military & Security Service Company)と総称される民間会社が、訓練・兵站・警備などの分野で契約に基づいて従事している。公式には武器弾薬輸送、兵舎建設、給食サービスなどの戦闘補助業務を公式の請負業務としているが、『警備』名目での『傭兵』機能を行っているともされている。

問題の事件に関して、イラク政府は、Blackwater『社員』が米国大使館員の車列警護の際、「無差別に民間に発砲して殺戮を行った」と非難したが、一方Blackwater側は、「何ものかの発砲に応射しただけで正当防衛であった」と反論していた。

この事件に関与した『傭兵』5名に対する訴追が、米国内で行われていたが、先月裁判所は、『訴追を技術的理由によって却下する』との判断を下した。これに対して米国法務省は『控訴する』と方針を固めるに至っている。

いわば、バイデン大統領は、ブッシュ大統領の負の遺産の清算に関するオバマ政権の立場をバグダットで明らかにしたものといえる。ちなみにBlackwater社は、社名を『Xe』と変更してイメージ挽回を図ろうとしたがイラクでの米軍との業務から実質的に排除されている。一方、チェイニー元副大統領がCEOを努めたハリバートン社の子会社KBRの米軍関連業務は健在である。





政治経済の混迷、NY株式三日続落 Three-session rout

2010-01-23 | グローバル経済
2010年1月23日(土) 

昨日のThe New York Timesトップ記事は、「新銀行規正法案、市場を押し下げる」(New Bank Rules Sink Stock)である。オバマ政権が、銀行が過剰にリスクをとって収益確保に走ることを抑制しようとしていることに、株式市場が嫌気したのである。

そして同紙の本日の見出しを順番に見ていくと、トップ見出しは、「オバマ、健保改革法案通過のために大幅譲歩」(Obama Retreats on Health)となっており、上院補欠選挙で重要な1議席を失ったために政治的な妥協をせざるを得ないことが大きな話題となっていることを報じている。次には、「中国、バブル抑制策で成長軌道後退の恐れ」(China Seeks to Temper Boom, Stirs Growth Fear)が続く。

さて、金曜日の東京市場でダウ平均株価が、278円の下げで12月30日以来の安値である、10,590円を記録したのであるがこれは、上述のような米国の政治経済の不安要素と、円高への反転が原因となった。

そのあとをうけた金曜日のNY市場も、ダウ工業株平均株価が3日連続で下げ、217ドル安となった。このNY市場の大幅安は、①上院銀行委員会における金融機関への規制強化方針の帰趨への心配、②中国政府がインフレ防止とバブル崩壊防止のために、対銀行貸し出し金利を引き上げるのではないかとの観測、③バーナンキFRB議長の再任が不透明になったことなどが原因である。

一方GEは、10-12月の四半期では、税引き後利益は19%減少し、約3000億円となったが、アナリストの収益予想を上回ったことで、2%株価が上昇した。同社Immelt会長は「わが社が関係する「世界」では景気は回復中である」と述べ、「金融事業の低迷があるものの、来期以降それを上回る産業界からの収益が貢献してくる」との発言を行った。このことが同社の来期の大幅な収益改善を予想させたのである。

政治と経済の混迷、経済のグローバル化による原因と結果の錯綜などますます不透明な状況が続く。米国では厳冬が続き地球温暖化論議が一気に不活発になっているが、原油先物相場はいったん押しあがったあと一気に下げている。予想のつかないことが次々と起こっていくのが常態化している。



民主対検察は、巨大権力闘争の縮図 Old Guard Fights Back

2010-01-22 | 世界から見た日本
2010年1月22日(木)

The New York Timesが、日本の政界の、小沢民主党幹事長の献金や土地購入資金に関する検察庁特捜部の取調べをめぐる激震を報じている。

その見出しは、「日本の守旧派権力が、新政権指導部を揺さぶり、政治は空転」(Japanese Politics Stall as New Leaders Are Jolted by an Old Guard) であり、小見出しは、「(日本の)検察は、警察権と裁判権(の一部)も付与されている」である。

同紙は、民主党と検察当局の対決の構図として、今回の捜査を捉え、それはとりもなおさず日本を支配している巨大な保守勢力と、政治改革による支配構造の変革を進める民主党の戦いの縮図として報道しているのである。

先週末現職議員を含む小沢氏側近3人が逮捕されたことに対して小沢氏は「検察との全面対決」を宣言し、鳩山首相はその立場を支持するという趣旨の異例の発言を行ったが、同紙は、いまや改革を目指して政権の座に着いた小沢民主党幹事長と、戦後日本の強力な権力機構である検察との正面対立の様相を呈しているとしている。

そして世論の批判は、疑惑を払拭できない小沢幹事長に対してのみならず、「巨悪を暴く」として恣意的にその巨大権力(the enormous discretionary power)を行使している検察へも向けられているとの分析を行っている。

すなわち「検察の鳩山・小沢側近逮捕は検察の民主党への復讐(vendetta)である」との見方を紹介している。検察は戦後日本の既成政治勢力による不正には甘く、反対勢力や改革勢力には厳しく接してきた歴史があることや、今回も献金疑惑捜査では、小沢周辺にはバランスを失して厳しいとしているマスコミもあることを伝えている。

さらに、NY Timesは、「日本のマスコミが検察当局の意図的リークによる情報そのまま報道している」との批判を受けていることを伝えている。その典型は、ダークスーツに身を包み決然と強制捜査や逮捕に向かう検察官の姿を報道していることだしている。


オバマ、上院補欠選挙敗北で大打撃 the loss of one seat

2010-01-20 | 米国・EU動向
2010年1月20日(火)

米国の政治情勢に大変化を起こす選挙結果が判明した。47年にわたってマサチューセッツ州選出の民主党上院議員を務めたTed Kennedyの死去に伴う補欠選挙で、選挙までほぼ無名であった共和党候補Scott Brown氏に、民主党候補のMartha Coakley州検事総長が敗退したのである。

マサチューセッツ州は、民主党の金城湯池といわれて久しく、今回も大統領選挙の勢いを駆ってMartha Coakley女史の圧勝が予想されていたのであるが、戦況は最終段階で反転した。この敗戦には、オバマ大統領の政策や大統領自身への支持が、各種世論調査で大きく急落していることと無関係ではない。

民主党側が油断(complacency)をしたこと、Martha Coakley女史が選挙音痴としか思えない発言(missteps)をしたことを政治評論家がTVで半ば冗談として取り上げているが、真実を表す言葉は二つである。それは、「無党派層」(independents)と、彼らの政府の健保改革とそれに伴う政府支出の膨張に対する「怒り」(anger)である。

マサチューセッツ州の無党派は51%を占めていて、民主党員の数をも大きく上回っている。オバマ大統領は終盤に掛けて同女史のために急遽応援演説に出かけたが、時すでに遅し、であった。

上院の単純多数は50名、絶対多数は60名である。この絶対多数はsuper-majorityと呼ばれており、あらゆる採決阻止の動きを封じることができる。この鍵になる最後の1名の席をTed Kennedyの後任者が握ることになっているので、今回の民主党の敗北の政治的な意味は大きく、懸案の健康保険改革法案の成立はきわめて微妙となった。

民主党は、選挙終盤になって敗北を予想して健保法案を通すためにいろいろな作戦をすでに考え始めたことは今週になって報道されたが、いずれにせよオバマ大統領のリーダーシップと断固たる意思がすべての方向を決めることとなる。

その意味で、来週の27日に予定されている大統領の一般教書演説に何が書かれるかですべてが決まるといって過言ではない。



ハイチ大地震、混乱の極み The Dead Go Uncounted

2010-01-19 | 貧困・疾病・格差
2010年1月19日(火)

本日もUSA Todayはトップで、米国によるハイチ大地震の被害救援の強化を報じている。オバマ大統領は、先週末までに派遣した7,500人の軍に加えて、本日5,000人の追加派遣を行うこととした。

すでに報道されている通り、食料、水、医薬の不足は眼を覆うべきものがあるが、ハイチ政府は機能を喪失しており、空港・港湾の設備のマヒによってさらに事態が悪化しているとの現地からの報道である。

そのような混乱と焦燥の支配する現地では、死者の数は10万人を超えるのではないかと推定されている。The New York Timesは、あまりの死者の数の大きさのため、死者の葬儀と埋葬が追いつかず首都ポルトープランスの郊外の各所に掘られた穴に、死者への儀礼もなくただ次々と投げ入れられている現状を報告している。

そのひとつ,首都から数マイル離れたところのチタニイェンで行われている凄惨な埋葬「作業」を描写している。4mの深さで、20mの長さの直方体の穴がいくつも掘られたものを大量埋葬墓地(a mass grave)とし、そこに政府が用意したダンプカーに乗せられた死体が先週金曜日から次々と投げ込まれている。

この埋葬に当たっては、個人の尊厳を示す儀式は一切行われない。一枚の写真も取られないし、名前も確認されない。死者の数を数えることさえ行われていないのである。ただただ穴を掘って死体を投げ込むだけの作業が行われている。

ハイチ人は土着宗教であるブードゥ教の教えにしたがって死者との関係を死後も大切にするのが習俗である。したがって葬式は念入りにお金を掛けるのが習慣であるが今回はそのような余裕をまったく国民全体が失っている。

このチタニイェンという場所は、ハイチを50年代から89年代まで支配した圧制者Duvaliersが、言論や反対派を弾圧、多くの国民を逮捕・拷問・殺害したのであるが、その大量殺戮の犠牲者を葬った場所である。普段、ハイチ人はこの場所を忌み嫌って近づかないが、今回は埋葬場所が不足したため使わざるを得ないということである。

数さえ数えられずただ穴に投げ込まれるというのは最大の侮辱である。人々は「最後の礼も尽くされず死に逝く」“the lack of a dignified goodbye”とNY Timesは記事を締めくくっている。



小沢幹事長、全面対決を宣言 All-out Showdown

2010-01-18 | 世界から見た日本
2010年1月18日(月)

The Wall Street JournalやFinancial Timesは、ハイチの地震被害救援活動に大きく紙面を割いているが、小沢民主党幹事長が検察庁と『全面対決』(all-out showdown)することを党大会など公式の席で宣言したことも本朝の報道で取り上げている。

The Wall Street Journalネット版の見出しは、『民主党小沢幹事長、対決を公言』(DPJ's Ozawa Promises 'Showdown' )である。Financial Timeは、『小沢幹事長、側近逮捕で民主党が打撃を受ける中、対決姿勢を露にする』(Ozawa defiant as arrests risk undermine DPJ)と見出しを付けている。

両紙とも、鳩山首相と小沢幹事長がともに、選挙資金に関連して秘書が逮捕されているいきさつを説明した上で、両氏の問題が、『単に政治資金規正法上の報告内容に関する形式上の誤り("perfunctory errors" in recording its activities)に過ぎない』というのが両氏の立場であるとしているt。

そして、FTは民主党が強気に出ている理由を、民主党への世論の支持率の高さと、対する自民党への支持率の低さを上げている。FTが引用しているのは読売新聞の最新の調査で、民主党の支持率が39%、自民党19%となっている。

一方WSJは、内閣への支持率が、9月の組閣時点で71%あったものが、12月時点で48%に急落したという朝日新聞の世論調査を引用して民主党と鳩山首相の立場が苦しくなっていること(another blow to Mr. Hatoyama's waning popular support)を報じている。

ところで、FTは『首相は土地購入に関する捜査の進展を見守り、平静を保つよう呼びかけた』とその発言を小見出しで紹介しているが、その前半部分の表現は、”While a probe into a land purchase runs its course”となっている。

”run its course”とは、物事が自然の経過をたどっていくというときに使う表現である。常に政治・経済・社会に距離を置いて、その動きをあたかも水の流れかなにかの『自然現象』のごとく表現する鳩山流の英訳としてはこれ以上のものは無い。


オバマ、第一年度決算は不振、赤字の怖れ It could be worse.

2010-01-17 | 米国・EU動向
2010年1月17日(日)

オバマ大統領の政策に対しては米国民の見る眼が急速の厳しくなっているが、いまなお同大統領の個人的な人気はまだまだ高いというのが、ABC放送がWashington Postと共同で行った最新の世論調査の結果である。

ABC放送は、この世論調査結果について、「大統領はいわば、負けてはいないものの傷ついている」(Bruised if unbroken)と総評し、「まだまだ、支持を失う可能性あり」(It could be worse.)と先行きは予断を許さないとしている。

世論調査の各項目を見ると、63%の人が、『米国は間違った道を歩んでいる』と答えている。また53%が『オバマは国の将来に正しい決定しているとは思わない』と答えてその割合が始めて5割を超えた。

大統領が選挙戦の際行った約束を果たしているとした人は、41%に過ぎない。選挙時に76%が、『オバマは変化をもたらしてくれる』と期待していたが、現在『期待通り』とする人は50%に落ちている。

政策全般にわたって、大統領は期待通りの成果をもたらしたかという問いには、52%が『NO』と答えたが、この数字は就任後3か月時点では29%に過ぎなかった。経済施策に限れば、大統領の対応を支持するとした人は、就任後1ヶ月時点で60%であったものが、47%に落ち込んでいる。

喫緊の課題である健康保険改革に大統領の取り組み成果への不承認は52%に上昇している。そして財政赤字に関しては、56%が不支持という『きつい一発』を食らった形となった。

しかし救いは残っている。オバマ大統領就任時に比べて15ポイント下がったものの、まだ53%ものの人が、大統領の仕事ぶりを支持するとしている。これは、大統領選における得票率とまったく同じ数字となっている。

そして58%が、人間としてのオバマ大統領個人には好意的な評価を下している。この個人的な人気が高いことは、政権に対する民意の表れでもっとも重要なことであり、21%も急落したとはいえ、50%ラインには踏みとどまっていることこそ現時点の唯一の救いである。




中国とインド、インフレの足音が高まる Inflation is emerging 

2010-01-16 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2010年1月16日(土)

マニラに本拠を置くアジア開発銀行( the Asian Development Bank: ADB)が、経済危機のあとの景気回復過程にあり9%に近い成長を続ける中国と、8%近い成長へと急速に回復しているインドで、「インフレ懸念が発生しつつある」と警鐘を鳴らし始めている。

同銀行はさらに「アジア各国は将来経済危機が到来してもそれに耐えられるように、経済・財政システムの実効ある構造改革を進めるべきである」と各国に呼びかけた。

同行の黒田総裁は、マニラで開催された経済フォーラムで演説し、「最近中国が取った、銀行の準備率引き上げによる金融引き締め策は、インフレ防止の観点から適切なもの(appropriate)である」と語り、「中国におけるインフレは現在のところ深刻なものではないが、不動産価格の高騰は懸念材料である」と論評した。

この経済フォーラムでは、同時に各種の報告が発表されたが、一様に、「インドと中国はインフレ対策を取るべき」と警告していることが注目される。特に中国については、昨年中国政府が注入した60兆円の景気対策が効果を発揮したと評価しつつも、資産バブルの誘発の危険を指摘している。

そして、「中国政府は、銀行の貸し出しを抑制し、金利を引き上げるべきである」とし、ここ1年半の間対ドルで固定状態に固定されている(pegged)人民元を「緩やかな切り上げの軌道に誘導すること」を求めている。

インドについては、インフレ懸念と同時に財政赤字の増大についての懸念を示し、インド政府に景気対策と同時に財政規律の維持を求めている。また経済成長が6%近いレベルまで回復したンドネシアについては、「経済危機からの脱却は順調であるが、『いまだ基盤は脆弱』である」として、インフレ対策が過度になって、景気の腰を折ることのないようにと釘を刺している。